町山智浩 新型コロナ・外出自粛と日本のミニシアターの危機を語る

町山智浩 新型コロナ・外出自粛と日本のミニシアターの危機を語る たまむすび

(町山智浩)これね、僕が公開当時に体験したんですけど。「体験した」っていうよりも全く理解を超えていた映画で。これから、映画の中で起こったことをありのまま、話しますけどね。『発狂する唇』はヒロインが少女連続殺人事件の容疑者になった兄を探す話なんですけど。阿部寛さんはFBIの捜査官として出てきます。

(山里亮太)FBI?

(町山智浩)というのは、この事件の裏には宇宙人の陰謀があるんですね。で、阿部寛さんの上司はお亡くなりになりましたが大杉蓮さんです。で、大杉蓮さんはレオタードをもっこりさせてエアロビを踊ります。で、この『発狂する唇』はミュージカル映画でもあるんです。

(外山惠理)へー! そんな映画があったんだ!

(町山智浩)それで続編がね、『血を吸う宇宙』っていうんですけども。

(山里亮太)続くの!?

(町山智浩)続くんです。『血を吸う宇宙』はヒロインが誘拐された娘を探すために自民党の政治家の選挙運動員に変装するっていう話なんですよ。というのは、その政治家がどうも宇宙人らしいんです。それでやっぱり阿部寛さんがFBIの捜査官として出てくるんですけど、彼が宇宙人を追っているのはですね、彼が童貞を喪失した相手の女性が宇宙人だったからなんですよ。

(山里亮太)阿部さん、そういうのをやっていたんだ! むちゃくちゃ面白そう……。

(町山智浩)むちゃくちゃ面白いですよ。しかも、その宇宙人は美少女として出てくるんですけど、実はその正体はハゲ親父だったんですよ。で、ハゲ親父で童貞を喪失しちゃったんで、それがトラウマになって宇宙人を追いかけているというのが阿部寛さんなんですよ。で、しかもその阿部寛さん、ここから怪優になったんですけど。この『血を吸う宇宙』っていう映画はしかもカンフー映画なんですよ。

(山里亮太)ええっ? 戦う?

(町山智浩)そう。何を言ってるかわからないと思いますけど。僕も何を見ているのか、わかりませんでした(笑)。頭がどうにかなりそうでした。はい。でも、こういう映画ってミニシアターでしか見れないでしょう?

(山里亮太)フフフ、たしかにね、「全国ロードショー!」とは絶対ならなそうですもんね(笑)。

(町山智浩)できないでしょう? だからミニシアターが無くなると、こういう映画が見れなくなっちゃうんですよ。だからね、ヘンテコなものも出てこないんですけど、映画文化自体が層が薄くなっちゃうんですね。しぼんでいってしまうんですよ。あと、こういった形でミニシアターが映画のネット配信を始めている試みがもうひとつあってですね、「仮設の映画館」というのがあるんですね。

(山里亮太)仮設の映画館?

(町山智浩)仮設の映画館……バーチャルムービーシアターっていう意味ですけども。これはね、インターネットで見る映画なんですが、その時にお客さんがその自分がお金を振り込みたい映画館を決められるんですよ。そうすると、そこに分配されるっていうシステムで。普通の映画と同じ1800円で見るんですけど、今から言う映画館に行ったつもりになるっていうシステムで。だからさっき言ったイメージフォーラムとかユーロスペース、ポレポレ東中野、岩波ホール、ケーズシネマとか横浜のシネマ・ジャック&ベティとか川越スカラ座とか。そういった映画館から選んで。それでそこで見たことにするっていうシステムなんですよ。

仮設の映画館

(外山惠理)じゃあ、そのよくその行っているミニシアターを応援できるってことですよね。要するに。

(町山智浩)そうなんです。でね、今上映中なのはね、ドキュメンタリー映画で島田隆一監督の『春を告げる町』というタイトルの映画で。これはね、福島県の双葉郡の広野という街のドキュメンタリーで。震災以来、避難してて、仮設住宅に住んでた人たちが6年ぶりに街に帰ってくるっていう話なんですね。

(外山惠理)へー!

(町山智浩)それでその1年間を記録したドキュメンタリーで。そこで子供を産む夫婦とか、お米作りを再開する人とか、原発作業員の人たちの生活が描かれるんですけど。こういう映画はメジャーでは絶対に公開できないでしょう? それで、まあスターが出てくるような映画とかテレビドラマでは出てこないですよね。その福島の街の話なんて。それでこの映画ね、すごいのは映像がものすごくきれいなんですよ。4Kで撮っていて。この稲穂のね、ひと粒ひと粒までくっきり見えるような映像なんですね。それできれいなだけじゃなくて、これがすごいのはたくさんの街の人が出てくるんですけど、全員の顔がものすごくくっきりと見えるんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だから、全員が主役だっていう感じなんですね。でね、この中でちょっと感動的なのはね、地元の高校の演劇部で。「被災地の復興、復興とよく言うけれども、復興って一体何なの?」っていうことを問いかけるお芝居をその高校生たちが自分たちで作っていくんですね。で、それは答えもないし、結末もないんで、彼らが一生懸命ディスカッションをして話し合って。「復興って何なんだろうね?」っていう話をしていくんですよ。「元の生活に戻ることなのか?」「元の生活に完全に戻るなんて本当にできるの?」みたいな話を高校生同士が話し合いながら、そのお芝居を作っていくんですよ。それがひとつのドラマになっていて、この映画のメッセージにもなっているんですね。

で、それはね、ちょうどその広野という街は東京オリンピックの聖火リレーの始まる地点だったらしいんですよ。だからこの「復興とは何か?」という問いかけ自体が非常に大きなテーマを持ってくるんですね。その「復興五輪、復興オリンピックって言ってるけど、どこが復興なの?」みたいな話ですよね。

(山里亮太)うん。

仮設の映画館『春を告げる町』

(町山智浩)それが今、上映中なんですけど。それで5月2日からはですね、またこのバーチャルシアター、仮設の映画館で上映されるのはやっぱりドキュメンタリーなんですが。想田和弘監督の『精神0』っていう不思議なタイトルの映画なんですけども。これはね、10年前に想田監督か作ったドキュメンタリーの『精神』っていう映画の続編で。実際の精神科医の山本昌知さんという先生のドキュメンタリーなんですよ。それでこの山本さんっていう人は……この人、実は82歳なんでものすごく昔の話をしますけど。昔は精神病院ってもう精神病患者の人たちを閉じ込めていたんですよ。一切外へ出さないで完全に薬だけあげて隔離をしてて。刑務所みたいなところだったんですね。

で、別に彼らは何の罪も犯してないだからということで、その人たちを外へ出していって。普通に生活させようっていうことを始めた人がその山本先生なんですよ。それで一作目はずっと、その人たちの心のケアをするために、その話をずっと聞いていくというのを撮っていたのがその前の一作目の『精神』という映画なんですが。今回はですね、82歳になったんで先生が引退することになります。そうするとね、今までずっと話を聞いてもらっていた患者さんたちはもう、すごいびっくりしちゃうんですよ。「先生がいなくなったら、もうどうやって生きていったらいいか、わからないよ!」っていう。

でね、この山本先生っていう人はね、本当にね、貧しい貧しい生活をしてるんですよ。ぼろぼろの病院で。だってこれ、全然お金にならないんだもん。ただ、面白いのこの先生は「こうした方がいいよ」とか絶対に言わないんですよ。患者さんたちに。「ふーん、ふーん」って話をずっと聞いていくんですよ。すると患者さんたちはいろんな困ってることとかつらいこととかをずっとしゃべっていく。それをずっと聞いてるだけなんですね。先生は。それが治療なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)だから、まあ逆に先生に依存しちゃってる患者さんたちも多いんですけど。それでね、「この『精神0』っていうタイトル、なに?」って思うわけですけど。これはね、先生自身がね、「週に1回、ゼロの日というものを作ろうよ」って言ってるんですよ。「その日は『何かをしよう』とか『何かをしたい』とか、そういう焦りみたいなもの。欲望みたいなものと一切無縁でいる日を作ろうよ」って言うんです。

だからやっぱり患者さんもそうだけど、他の人もみんなそうですけど。「何かしなきゃ!」とか「誰誰のようにしなきゃ!」とか「なんで思った通りにならないだ?」とか、みんな思ってるじゃないですか。ねえ。「何で他の人のようにできないんだ?」とかね。「それを一切やめる日というものを1日、作ろうよ」っていう風に言ってるんですね。それ、すごく大事なことだなと。そんな日って、持っててますか?

(山里亮太)いや、持てていないかな。「何かしなきゃ!」とかね。

(町山智浩)なんか焦っちゃうじゃない?

(山里亮太)焦りますね。「ああ、こんなことをしていていいのかな?」とか。「あの人、こんなことをやっているんだ!」とか。

(町山智浩)そう。特にこういう風にフリーでやっている僕とかもそうなんですけど。1日、何もしなかったりすると、すごく「ああ、1日をムダにしてしまった!」とか思うわけですよ。

(山里亮太)ああ、そうですね!

(外山惠理)だから今、本当にこういう状況だけど。きっとそう思ってる人、多いんじゃないですか? 「もう、どうしよう?」とかね。

(町山智浩)ねえ。「他の人に遅れちゃんじゃないか?」とかね。

(外山惠理)そうそう。本当に精神的に良くないと思います。

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