松尾潔さんが2020年4月6日放送のNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で志村けんさんを追悼していました。
(松尾潔)さて、『松尾潔のメロウな夜』。今夜から11年目。シーズン11に突入いたします。これまで、どうもありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします。そんなめでたいタイミングの今夜、メロウな風まかせ。レギュラープログラムでお楽しみいただきたいのですが、そんなタイミングで悲しいニュースが飛び込んできました。もう皆さん、ご存知のことでしょう。
「我らが」とどうしても言いたくなる志村けんさんがお亡くなりになりましたね。先月の終わり、3月29日に70歳でお亡くなりになりました。改めて志村けんさんが僕たちに与えてくれた楽しい時間というものに思いを馳せながら、そしてソウルミュージック、R&Bが大好きだった志村さんのことをお話してみたいなと思います。
志村けんさんといえばドリフターズ。この番組でもよく「メロ夜世代」と言っていますけども。メロ夜世代というのは僕はだいたいイメージとして4、50代ぐらいをイメージしているんですが。まさにメロ夜世代はドリフ世代。ドリフ世代がメロ夜世代なんですね。で、志村けんさんの導く彼のソウル趣味によってはじめてブラックミュージックのグルーヴを体感したという人も決して少なくないと思います。僕もその1人かもしれません。
彼がプロデュースした『ヒゲのテーマ』という曲がございますね。たかしまあきひこさんというドリフターズの番組の音楽を担っていた方。その方の名義で出ていますが、『ヒゲのテーマ』というのはご存知の方も多いでしょうがテディ・ペンダーグラスの『Do Me』という曲のベースのリフを延々とループを組んだよな曲でございまして。
Teddy Pendergrass『Do Me』
シングル盤に「志村けんプロデュース」という風に銘打たれていました。つまり、我々はあのフィラデルフィアソウルの巨匠コンビ、ギャンブル&ハフの曲を子供の頃、毎週土曜日に見て、それで身体を動かしていたわけですね。まあ、そんなことを考えますと音楽というものの機能性。そして音楽とお笑いとの相性のよさ。これはまさにね、アフリカン・アメリカンのカルチャーというものに惹かれた志村さんの理想の形でのご自分の好きなものが伝播していくということだったんじゃなかろうかと今になって思うんですよね。
僕、志村さんがソウルミュージック好きっていうことを意識するようになったのはこの仕事を始めてからなんですが。たしか深夜にコント番組をやっていらっしゃる時期がありましたが、そこで番組の中でBGMで結構通好みのR&Bを使ってらっしゃったことを思いますね。フィリス・ハイマンの『Living All Alone』っていう曲が唐突に夜のテレビから流れてきて。しかもコント番組のバックで流れて来た時には「えっ?」って思ったんですけども。まあ、今考えてみると全部、志村けんさんのご趣味だったんでしょうね。
で、さっきお話しました『ヒゲのテーマ』がテディ・ペンダーグラスの『Do Me』というのは彼が有名にした曲としてよくこういう時に挙げられますが。もう1曲、『ドリフの早口ことば』というものがございまして。これまた我々にとっては懐かしいものなのですが。その元ネタになっているのがウィルソン・ピケットの『Don’t Knock My Love Pt 1』という曲でございます。
この曲、ウィルソン・ピケットをここで紹介してもいいのですが、よりメロウな夜に近い。そしてもっと言うなれば、『ドリフの早口ことば』でこの曲を使った時にはテンポとしてはウィルソン・ピケットよりもこっちのバージョンの方に近かったかな?っていう気もして。今日はウィルソン・ピケットじゃない方のバージョンをご用意いたしました。1973年にリリースされましたダイアナ・ロスとマーヴィン・ゲイのデュエットアルバム『Diana & Marvin』に収録されていたウィルソン・ピケットのカバーです。志村けんさんに捧げます。ダイアナ・ロス&マーヴィン・ゲイで『Don’t Knock My Love』
Diana Ross, Marvin Gaye『Don’t Knock My Love』
ダイアナ・ロスとマーヴィン・ゲイのデュエットで『Don’t Knock My Love』。この曲が大好きであったであろう志村けんさんに捧げました。志村けんさん、1950年生まれでございます。そして今年、2020年にお亡くなりになったわけですが、同じ年に生まれて同じ年に亡くなったのがこの番組で先月、ご紹介しました僕がお付き合いがあった小説家の藤田宜永さんですね。藤田さんも新宿のかつてのディスコ事情、70年代のディスコ事情に大変詳しい方でしたが。まあ、世代っていうことなんでしょうかね。
ちなみに1950年生まれと申しますと、綾小路きみまろさんがね、同じ1950年生まれなんですが。僕、きみまろさんが好きで彼のステージというものを何度か研究していますけども。彼、出てくる時にお囃子というのがすごくファンキーなんですよ。で、スラップベースとかもうルイス・ジョンソンばりというかラリー・グラハムばりのベースとかあるんですけどね。あれもやっぱり「ああ、志村さんと同じ世代なのか」ということを痛感させるに十分ですし。
もっと言いますと、テディ・ペンダーグラスも1950年生まれなんですよね。今ね、志村さんとテディ・ペンダーグラスは同窓会みたいな時間を過ごしておられるとよいなと思いますね。まあ、余談ですけどスティービー・ワンダーも1950年生まれですからね。やっぱりその世代が、生まれた時代が作り出す何かというのは音楽の価値観を形成するにあたって大きいのかなという、その時代の横軸みたいなものを感じました。
<書き起こしおわり>