松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で子煩悩(親バカ)ソング2曲を紹介。DJキャレドとチャンス・ザ・ラッパーの『I Love You So Much』とフランク・シナトラの『Isn’t She Lovely』を選曲していました。
(松尾潔)さて、そんなDJが作るビートについて語ってまいりましたけども。DJもまた、人の子でございまして。人の親でもあるというお話をしたいと思います。日本人のDJ、有名な方がたくさんいらっしゃいますけども。90年代、日本のR&Bシーンの幕開けの頃からずっと現役DJの……かつてはラッパーとしても有名でしたけども。MUROさんというDJがいますね。DJ MURO。で、最近MUROさんのSNSなんかを見ますと、もうほとんどがお嬢ちゃんの写真とお嬢ちゃんの動画ばかりで。だんだんなんかそういうものを楽しむ(笑)、インスタになったりしているというのが面白いんですよね。
そしてなんか彼は英才教育なのかな? まだ幼いお嬢さんにDJをさせているとか、結構面白い、微笑ましいインスタがあるんですけども。これ、僕よく同業者と集うと「MUROくんのあれ、すごいことになっているね!」っていう話になるんですが。これ、みんな微笑ましく思って言っているんですけど。
「同じように」と言っていいかどうかわかリませんけども、アメリカのDJっていうのも……まあ、DJっていうのはもともとユースカルチャー。「若者」っていうイメージですけども。もうみんな、結構いい歳になっているわけだし、文化としての厚みもあるので。当然、人の親になっているDJもたくさんいるわけで。で、いまアメリカでDJと名のつく人で間違いなく今年いちばん活躍したということになるであろうDJキャレドっていう人がいますが。この人も最近子煩悩ぶりが歯止めが聞きませんね。
「ウスイカオル」さんというこの番組の常連リスナーの方からリクエストをいただいております。『Wild Thoughts』というリアーナとブライソン・ティラーをフィーチャーした曲。こちらが収録されている『Grateful』というDJキャレドの最新アルバムが出たばかりですね。
DJ Khaled『Wild Thoughts ft. Rihanna, Bryson Tiller』
というのがあるんですが。たぶんおそらく、今年いちばん売れるDJリードアルバムになるのはまず確実なんですが。そのジャケットを見ますと、あの強面で知られるDJキャレド本人ではなくて、かわいらしい男の子がお風呂につかって「ああ、いい湯だな」っていうジャケットなんですが(笑)。
DJ Khaled『Grateful』
これ、もう説明するまでもないですけども、息子さんなんですよね。で、これ息子さん、まだ1才にも満たない息子さんをジャケットに使う。ここまではよくある話なんですよ。エグゼクティブ・プロデューサーにこの息子の名前が入っていますね。で、またこれをみんな面白がっちゃって。『Wild Thoughts』でリードを取っているリアーナとかは「キャレドはどうでもいい。息子さんがかわいいから私はレコーディングに参加しに来ました」って、そういう洒落っ気の効いたコメントをまたSNSに残したりするというね。
で、とどめのような形でこのアルバムの中にはもう「生まれた息子、大好き!」っていう。「親バカ」っていう言葉が日本でありましたけども。さっき僕は「子煩悩」っていう、ちょっとまだ品のある言い方をしたんですが。これはもう、親バカっていう言葉以外、他の言葉で形容するのも逆にちょっと不自然かなというぐらい親バカソングが1曲、入っているんですね。もうDJキャレドが生まれた息子を見て感じた時の感動……と言えば美しいんですけど。思いつく限りの美しい言葉を並べただけの曲。そこに、いまをときめくチャンス・ザ・ラッパーが参戦して、おじさん2人で「男の子、かわいい!」っていうだけの歌をうたっているんです。
で、ネタにもちょっとジャクソン5ライクなサウンドが入っていたりして、そういう楽しみ方もあるんですが。まあ、聞いていただきましょう。誤解を恐れずに言いますと、US版『こんにちは赤ちゃん』?っていう曲ですね(笑)。DJキャレド feat. チャンス・ザ・ラッパーで『I Love You So Much』。
DJ Khaled『I Love You So Much Ft. Chance The Rapper』
Frank Sinatra『Isn’t She Lovely』
親バカソングを2曲続けてお楽しみいただきました。まずDJキャレド feat. チャンス・ザ・ラッパーでもうこれはピカピカの新譜ですね。『I Love You So Much』。そしてクールにこの人も人の親なんだなという洒脱な感じで歌ってくれたのはフランク・シナトラで『Isn’t She Lovely』。もちろんスティービー・ワンダーのカバーでした。スティービー・ワンダーはアイシャっていうお嬢ちゃんが生まれた時にこの曲をもともと作りましてね。で、邦題ではそこの彼のパーソナルライフの部分を汲み取って『可愛いアイシャ』っていう、原題よりももっとスティービーの人となりに肉薄したようなタイトルが付けられたわけなんですが。フランク・シナトラの場合はこれ、『Isn’t She Lovely』の「She」はやはりお嬢さんのナンシー・シナトラを思い浮かべるのが平均的なアメリカ人ではないでしょうか。
ナンシー・シナトラ、1960年代はもう天下無敵のアメリカン・アイドルでしたね。そのことは事実として残っているのに、いま僕日本でフランク・シナトラの……フランク・シナトラね、この間生誕100年でしたっけ。で、その時にフランク・シナトラの話はいろいろと出て。で、まあシナトラの与えた影響ということでトニー・ベネットだとか、サミー・デイビス・ジュニアとかね、そういう人たちの話にまで言及されていくのに、意外とお嬢さんのナンシー・シナトラの話って出てこないな、なんて僕は思っていたんですよね。ナンシーは1940年生まれですからいま77才ですか。はー。なるほどね。なかなか、時代の流れを感じますが。まあ、それでもお嬢さんであることは間違いないですから。フランク・シナトラが「娘」っていう時はまあナンシーのことを思い浮かべながら聞くのは間違っていないのかななんて思うんですが。
僕にもね、子供いますけども。DJキャレドとフランク・シナトラ、どっちに共感を覚えるか?っていうと、うーん。まあDJキャレドほどああいう手放しで「子供バンザイ!」っていうタイプの人間ではないですし。フランク・シナトラみたいに僕は気取ってどうするっていうのもあるんですが。ええ。答えはこの間にあるのか、それとも別のところにあるのかな、なんてことを考えながら2曲ご紹介いたしました。子煩悩ソング2曲でした。
<書き起こしおわり>