町山智浩『メイキング・オブ・モータウン』を語る

町山智浩『メイキング・オブ・モータウン』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年9月15日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でモータウン・レコードを描いたドキュメンタリー『メイキング・オブ・モータウン』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日もですね、大坂なおみさんの話とも結びついてくるんですけども。アメリカのその黒人音楽というものを世界的な音楽にしたレコード会社がありまして。モータウン・レコードと言うんですが。そのモータウン・レコードの成り立ちを描くドキュメンタリー、『メイキング・オブ・モータウン』という映画を紹介します。音楽、スティービー・ワンダーをどうぞ!

(町山智浩)これね、スティービー・ワンダーの『Uptight』という曲なんですが。スティービー・ワンダーはご存知ですよね?

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)これ、彼が15歳の時のナンバーワンヒットです。

(赤江珠緒)15? ええーっ!

(町山智浩)「スティービー・ワンダー」っていうのは本名じゃなくて。「ワンダー」っていうのは「びっくり」って意味なんですよ。彼は目が不自由で。それで10歳ぐらいからこのぐらいの歌を歌ってたんでだから。だからびっくりなんで。「スティービー・びっくり」っていう名前なんですよ。芸名が。

(赤江珠緒)ああ、そういうことなんだ!

(町山智浩)本名じゃないです。あれは芸名です。びっくりさんなんですよ。で、このスティービー・ワンダーとかを始め、このモータウンというレコード会社からはですね、もう1人天才が出ています。マイケル・ジャクソンです。

(赤江珠緒)マイケル・ジャクソン。はい。

(町山智浩)マイケル・ジャクソンは10歳ですよ。ナンバーワンヒットを出したのが。ジャクソン・ファイブで。超天才が集まったのがそのモータウン・レコードっていうレコード会社なんですね。スモーキー・ロビンソンとかですね、シュープリームスとかテンプテーションズとか、いっぱいいたんですけども。このレコード会社はすごいのは、黒人ミュージシャンによるレコード会社だったんですよ。つまり、スポーツでも音楽でもなんでも、他のものっていうのは黒人が一生懸命やっても全部、白人に搾取されていたんですね。経営者が白人だから。

そうじゃなくて、黒人の人たちが自分で始めて運営するというレコード会社で。それで大成功したんで非常に歴史的に画期的なことだったんですね。音楽だけじゃなくて、すべてのアメリカの歴史において黒人が経営した会社でこれだけ成功した会社っていうのは初めてだったんですよ。で、「モータウン」っていうのは聞いたことありますよね? その名前自体は。でも「モータウン」っていうのが一体何か?っていうことはたぶん、あんまり今の人は知らないと思うんで説明しますと……これ、モータウンは「モータータウン」の略なんですね。

(赤江珠緒)ああ、モーター。

(町山智浩)そう。自動車で栄えたデトロイトという街から出てきたから、モータータウンレコードでモータウンなんですよ。で、そこでこのモータウンの社長の人というのがベリー・ゴーディっていう人なんですけども。この人自身もフォードの工場で働いていた人です。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、自動車はフォードによって流れ作業……ベルトコンベヤーによって大量生産することができるようになったんで。それでアメリカ人がみんな車を買って。モータリゼーションっていうのが起こって。しかも、その工場で働く人たちに普通の給料の2倍をあげてたんで、その人たちも豊かになって、中産階級というものが出来上がって。特に、黒人であるとか移民の人とか、そういった貧しい人たちいきなり、そのフォードで中産階級になったんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)フォードで働くことによって。で、それを音楽でやろうとしたのがこのベリー・ゴーディっていう人なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうかそうか。町山さん、前からその中流階級が一気にできたのはそういう車の歴史があったって仰ってましたもんね。

自動車工場の手法を音楽に

(町山智浩)そうなんですよ。だから、黒人音楽ができるわけだから、これを一気に全世界的に売れるものにしてしまえばいいんだってことを考えて。自動車工場で働いていたからですけど。で、そのベリー・ゴーディとか最初に書いた曲がこれです。『Money』です。

(町山智浩)はい。この歌はこのベリー・ゴーディっていう人が最初に出したヒット曲なんですけれども。これ、歌詞はね、「世の中で一番大切なものは自由だっていうけど、そんなものは鳥だの虫だのにくれてやれ。俺がほしいのは金なんだ」っていう歌なんですよ。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ!

(山里亮太)まっすぐな(笑)。

(町山智浩)まっすぐな。で、そこから本当に彼はお金儲けのためにモータウン・レコードを作っちゃったんで。すごい宣言なんですよ。これ。「やってやるぞ!」っていう。

(赤江珠緒)なるほど!

(町山智浩)で、これはビートルズがカバーしてるんですけど。これでもう世界中がモータウンサウンドに魅了されて。ビートルズもローリングストーンズも最初の頃はモータウンのカバーばっかりレコーディングしていたぐらいなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、このモータウンの曲にはもうひとつ、特徴があって。彼は自動車工場で働いていたんですね。ベリー・ゴーディは。自動車工場ってベルトコンベヤーだから、常にいつも「ダンッ! ガシャン、ドン! ガシャン、ドン!」っていうリズムがあるわけですよ。それを音楽に使ったのがモータウンサウンドなんですね。シュープリームスの『恋はあせらず』を流してください。

(赤江・山里)ああっ!

(町山智浩)はい。この「デッデッデーッ、デッデッデデッ♪」っていうリズムが自動車工場のリズムなんですよ。

(赤江珠緒)へー! そうなんだ!

(町山智浩)で、これが全世界にものすごい影響を与えたんで。ちょっと日本で影響を受けた曲を次々と聞いてみたいんですが。松田聖子さんの『ハートをRock』をお願いします。

(町山智浩)はい。これ、そのまんまでしょう? これは甲斐よしひろさんが作曲なんですけども。続けてもう1曲。広末涼子さんの『MajiでKoiする5秒前』です。

(赤江珠緒)ああ、そう言われたら本当だ!

(町山智浩)はい。これは竹内まりやさんが作曲ですね。じゃあ次はね、モーニング娘。の『HEY ! 未来』をお願いします。

(町山智浩)同じですね(笑)。

(赤江珠緒)そうですね!

(町山智浩)これはつんくさんが作曲です。では最後にAKB48の『涙のシーソーゲーム』をお願いします。

(町山智浩)はい。これ、すごいでしょう? 日本のアイドル、全部モータウンなんですよ。

(山里亮太)ねえ。影響を受けているんだ。

(赤江珠緒)うんうん。しかも、ずっと世代を超えてね。

(町山智浩)世代を超えて。もう60年代からずっと日本のアイドルとか歌謡曲はモータウンをベースにして発展してきてるんですよ。最近だとですね、星野源さんがもう自分で「私はモータウンをやるんだ」って言ってやっていますよね。微妙にモータウンと違うんだけどもモータウンな感じのを星野さんとかもやっていて。

(町山智浩)それからaikoさんとかもそうですね。だからね、それだけモータウンっていうのはすごかったんですよ。で、それがまず、音楽的なすごさなんですけども。もうひとつすごいのはね、歌詞の世界なんですよ。これね、ミラクルズの『The Tracks Of My Tears』という曲を聞いてもらえますか?

(町山智浩)はい。この歌はね、スモーキー・ロビンソンさんっていう人が作ったんですよ。これはカールスモーキー石井さんの「スモーキー」っていうのはここから取っているんですけども。だからみんな、影響を受けてるんですね。で、この歌はね、「僕はいつもパーティーに出て楽しくしていて陽気な男だと思われてるけど、もっと近づいて僕の顔を見て。僕のほっぺたに流れた涙の跡が見えないかい?」っていう歌詞なんですよ。

で、この時にですね、モータウンのベリー・ゴーディがスモーキー・ロビンソンとか自分たちのミュージシャンに言ったのは、「歌には起承転結がなければいけないんだ」って言ったんですよ。「君たちは思ったこととか気持ちをただ歌おうと思っているけど、それは歌じゃないんだ。歌には始まりと展開部と結末がなければいけないんだ」っていう。「だから『僕は明るく見えるけれども、そうじゃないんだよ。僕の顔には涙が流れた跡があるでしょう? でも、それは君に捨てられたからなんだよ』っていう風に展開をしていかなきゃいけないだ」って話すんですよ。「物語がなければ歌にはならないんだ」って言ったんですよ。

で、さっきの『Money』っていう歌もそうなんですけども。「非常にリアルで物語のある歌。3分間の中にその物語を収めろ」って言ったんですよ。そこもすごいんですよ。で、曲はノリノリなんだけど、みんな実は悲しいことを歌っていたりするんですよ。そういうところでもうすごいハイブリッドなものを作っていったんですね。

で、さらに「流れ作業」っていう話をしたんですけど。常にミュージシャンがそこに待機していて。最高のミュージシャンたちが。それで作曲家も作詞家もそこにいて、毎日そこで……もうモータウンっていうのはひとつの家なんですよ。ただの一軒家なんです。そこで、朝から晩まで次々とヒット曲を製造していくっていう、ものすごいヒット曲製造工場になってくるんですよ。

(赤江珠緒)なるほど!

ヒット曲製造工場、モータウン

(町山智浩)で、すごいのは全世界のビルボードとかのベストテンがあると、そこに常に5曲とか6曲とか、モータウンの曲が入ってるっていう異常な事態になるんですよ。でもこのモータウンのやり方っていうのはいろんな、日本をはじめ世界中の音楽プロデューサーとかレコード会社がこの形を見て、「これをやるべきなんだ!」ってことを考えて。それでその後、みんな変わっていったんですけどね。もう徹底的に会議をして。それで社員も……ミュージシャンはみんな社員なんですよ。モータウンウンは。

で、全員で会議をして「次はどういう曲をやろう。今、悲しい曲をやったから今度は明るい曲をやろうよ」とか。「今、世の中でこういうことが起こっているから、そういうことを歌おうよ」とか。「こういうビートが流行ってきたから、それをやろう」とかってやっていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、その全体の流れも考えた上で生み出していく?

(町山智浩)そう。これ、すごいのこの『メイキング・オブ・モータウン』ではその会議の音声を記録していて。それまで出てきます。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)すごいんですよ。その頃ね、ライバルでヒットチャートを制覇していたのはビートルズなんですね。で、ビートルズが『Can’t Buy Me Love』っていう歌がヒットして。「愛はお金じゃ買えないよ」っていう歌なんですよ。それに対抗して、テンプテーションズが『My Girl』っていう歌を出したんですね。ちょっと聞いてください。

(町山智浩)はい。この歌は「僕の彼女はお金なんか気にしないよ」っていう歌なんですよ。だからビートルズに対抗してそれを出して、すぐにナンバーワンを取り返すんですよ。

(赤江珠緒)アハハハハハハハハッ! そういう戦いがあったんですね(笑)。

(町山智浩)そう。あとね、21歳とかハタチぐらいの女性を企画会議に入れて。その彼女たちは消費者の気持ちをわかるから。その頃、黒人が経営するっていうことだけでもアメリカでは異常なことだったのに、ハタチかそこらの女性を会議に入れて企画に参加させるってこと自体も画期的だったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからそういう風に経営としてもすごかったんですね。

(赤江珠緒)面白い。突出した才能を完全に分業制みたいに集めて売り出していったんですね。

(町山智浩)それで大量に生み出していくという。で、これ自体がアメリカを変えちゃったんですよ。というのは、これが次々とヒットチャートに入って。要するに聞く音楽が全部ビートルズがモータウンになっちゃうわけですよ。その当時、アメリカでは。そうすると、白人がそれまで「黒人というものは自分たちと違う」と思っていた人まで全員、これを聞いて踊るようになるんですよ。若者たちもみんな。

で、意識が変わってきて。それでその当時、1964、65年というのは黒人の公民権運動の時代で。人種差別がなくなって、黒人が選挙権を持つようになって。そこでアメリカの大激動の中で、この歌がアメリカの黒人解放の応援歌になっていくわけですよ。だから「大坂なおみさんと関係がある」って言ったのは、そういうことなんですけど。

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で、でも南部ではモータウンの人たちがツアーに行くと、それだけで拳銃で撃ち殺しに来るやつがいっぱいいるわけですよ。で、コンサートをやろうとすると、白人の男の子や女の子が集まるから、それを妨害しようとするやつらもいて。警察が入ってそのコンサート会場を白人と黒人に分けたりするんですよ。ところが、モータウンの人たちが一発バーン!って演奏をすると、もう黒人も白人もめちゃくちゃになって入り乱れと踊って。全部差別がなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)すごいな。その音楽の力が。

(町山智浩)ものすごい音楽の力だったんですよ。だから、本当にモータウンというのは歴史を作って、大きくアメリカを変革させたんですけれども。一番大きかったのは南アフリカのアパルトヘイトの中で、ネルソン・マンデラさんが黒人のを解放しようとして、運動をして刑務所に入れられたわけですね。反体制運動ということで。その時に彼を慰めて、彼を励ましたのはモータウンの歌だったっていう風に彼は大統領になった時に言ったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから、本当に世の中を変えたのがモータウンっていう。

(赤江珠緒)本当だ。モータウンが存在しなかったら、世界が違うっていう。本当にそうですね。

(山里亮太)音楽とかも変わっていたわけですね。

(町山智浩)音楽とかも全部変わっていたわけです。もう、松田聖子さんもAKBも違ったものになっていたはずです。モータウンがなければ。本当に、要するに南アフリカも変えたわけだし、全世界を変えたこのモータウンの全てがわかるこの『メイキング・オブ・モータウン』、もうすぐ、今週公開ですので。ぜひご覧ください。

<書き起こしおわり>

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