町山智浩・宮藤官九郎・伊勢志摩 ポン・ジュノ作品を語る

町山智浩・宮藤官九郎・伊勢志摩 ポン・ジュノ作品を語る ACTION

(伊勢志摩)それで2回目を見て……そのとても大好きなソン・ガンホさんに、もう1回目があまりにもきれいに上手に面白く作ってあったので、外枠しか見れてないというか。俯瞰じゃないですけど、ちょっとこうきれいなパッケージを外から見てる感じがして。それで宮藤さんが「いやー、もう『パラサイト』を語りたい、語りたい!」って言うから。「じゃあ私、宮藤さんにお任せしますわ」って思ったんですけど……。

「町山さんの前で伊勢が語りたい」とかって先週、言い出したから。「ちょっと待って!」って。そこまで言われたら、ここで黙ったら女がすたると思って2回目を見に行ったんです。そして2回目を見たらやっと、お父さんであるソン・ガンホさんの役にグーッて感情移入できまして。やっぱりあれですよね。悲しみ無表情みたいなのはもう、何て言うかあれぞソン・ガンホみたいな気持ちになってね、ちょっと。

(宮藤官九郎)あれがすごくいいですね。「俺には計画があるんだ」っていう。

(伊勢志摩)そうそう! そこ、言おうと思ったの。そうそうそう!

(宮藤官九郎)とにかくお父さん、計画好きなんですよ。

(町山智浩)いや、お父さんには計画はないんですよ。息子が「計画をしなきゃ」って言うんですよ。

(伊勢志摩)そうそうそう。それで娘も「どうするの? どうするの?」とか言う時に「大丈夫だ」っていう。あそこで、かっこいいんですよ。「かっこいい」っていうか、「出た、ソン・ガンホ!」って感じなんですよ。

(町山智浩)なにも考えてないっていう(笑)。

(宮藤官九郎)なにも考えてないけど「大丈夫だ」っていう。

「出た、ソン・ガンホ!」

(伊勢志摩)そう。あれがかっこいいっていうか、その起承転結の「転」でもう映画が変わるじゃないですか。ある意味。あんなになんかコミカルというか面白い……また面白のセンスがなんて言うのかな? なんて言えばいいんだろう……?

(宮藤官九郎)どってりしている?

(伊勢志摩)どってりじゃない。スマートなの。

(宮藤官九郎)ああ、そっちはスマート?

(伊勢志摩)だから、スマートになったの。じゃないかと思うんですよ。なんかすごく面白くなかったですか? ヒャッヒャヒャッヒャ笑って。

(宮藤官九郎)どれが?

(伊勢志摩)『パラサイト』の最初の方。

(宮藤官九郎)俺、ポン・ジュノって大概、どの映画も「この画を撮りたい」っていうことがすごく明確にあるんじゃないかな?って思うんですけど。たとえば『殺人の追憶』だったらあの側溝に死体が……っていうあのくだり。「この画を撮りたい」っていう。『スノーピアサー』だったら対岸の向こうにある同じ汽車に乗ってるやつを撃ちたいとか。それで『パラサイト』はやっぱりあの半地下から見た足とか。あの光景をやりたかったんじゃないかなってちょっと思ったんですよ。

(伊勢志摩)私も、あのポン・ジュノ節だなっていうか、私が好きだなと思ったのは、足元っていうかその半地下から見て、水をかけるところがあるじゃないですか。

(宮藤官九郎)そうそうそう!

(伊勢志摩)あそこの水のところが大好きだっていう。

(宮藤官九郎)しかも、それをスマホで撮っているんだよね。

(伊勢志摩)そうそう。すごくいいんですよね。

(宮藤官九郎)大丈夫? ネタバレしていないですか? 大丈夫ですか?(笑)w

(伊勢志摩)ネタバレはしてないですよね?(笑)。そうですよ。ストーリーとか全然言っていないし、大丈夫だと思います。

(町山智浩)でもあれ、もともと舞台劇にしようっていう考えで最初、始めているんですよ。彼らは。

(宮藤官九郎)ええーっ!

(伊勢志摩)彼は舞台、やられるんですか?

(町山智浩)舞台をやろうとしていたんです。舞台セットみたいでしょう? でも、いつかすると思いますよ。できるでしょう、あれ?

(宮藤官九郎)ああー。『殺人の追憶』は舞台になっていましたね。

(町山智浩)なっていますよね。

(伊勢志摩)えっ、本当ですか?

家族を想うとき』との共通点

(宮藤官九郎)しかも日本でやっているんですよ。そうそう。俺ね、全然違うけども、『家族を想うとき』。ケン・ローチの。あれってお兄ちゃんがいて、妹がいて、お父さんとお母さんが貧乏じゃないですか。そこまで『パラサイト』と一緒なんですよね。

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(伊勢志摩)ああ、そうですね。

(宮藤官九郎)それでお父さんが運転手っていうところまでは一緒なんですけど、全然肌触りが違いますよね?(笑)。

(伊勢志摩)フフフ、そりゃあその組み合わせは……(笑)。

(宮藤官九郎)ケン・ローチとポン・ジュノの違い。でもどっちも国の、要するに政治的というか、貧困じゃないですか。どっちも社会の理不尽じゃないですか。

(町山智浩)まあ非正規雇用を許すようになってイギリスも韓国も日本も貧困層がどんどんと拡大していって、固定化したんですよ。それはもう本当に最近のことなんですよ。それまでは非正規雇用ってそんなに多くなかったんで。

(宮藤官九郎)ああ、非正規雇用。そうですね。

(町山智浩)だから韓国なんかは1997年から急激に増えていって、それで格差がグワーッと広がって。それで本当に半地下にしか住めない人たちがものすごい増えていって。

(宮藤官九郎)あれは実際にある光景なんですか?

(町山智浩)実際にすごくあるんですよ。半地下が。

(伊勢志摩)私、なにかで見ました。インターネットのポン・ジュノさんのインタビューで。「私も学生だったかの時に半地下に住んだことがあります」っていう。「すごく多いですよ」って言っていましたね。

(町山智浩)日本人留学生も結構住んでいたりするんですよ。安いから。

(宮藤官九郎)ああ、そうなんですか。

(幸坂理加)お時間があと1分ほどに……なにか言い残したことがあれば。

(伊勢志摩)言い残したというか、聞きたいんですけど。ソン・ガンホさんの息子さんのギウっていう子がお父さんに対してずっと敬語で話していたじゃないですか。字幕が敬語なんですけど……。

(宮藤官九郎)ああ、俺もあれ、気になったんだよな。

(町山智浩)えっ、だって韓国だもん。儒教だから、普通じゃん。

(伊勢志摩)普通にそうなんですか?

(町山智浩)普通じゃん。

(伊勢志摩)へー!

(宮藤官九郎)儒教だからっていうことですか。

儒教社会・韓国

(町山智浩)そうですよ、基本的に。韓国は女言葉とか敬語はしっかりしていて、会社の上司と話す時も先輩と話す時もそうなっていますから。

(宮藤官九郎)でも、なんでだろうね。俺も今まで韓国映画を見てきて気がつかなかったけど。

(伊勢志摩)今まで私も全然思っていなかったし。あと、お母さんとか娘さんとかはあんまり気づかないんだけど、息子だけはやけにお父さんにすごく丁寧にいっていて。でもなんかその感じがすごくかわいいっていうか。弱々しい感じがしてすごくよかったんだけど。あれは当たり前のことなんですね。

(町山智浩)韓国はもう、昔の日本みたいな感じですよね。そういうところでは。会社の上司と部下の間でもそういうきっちりとした上下関係があって。タバコの吸い方とか、お酒の飲み方とか、やっぱりまだありますよね。

(宮藤官九郎)へー! あの便器が高いところにあるのは、あれは?

(町山智浩)あれはね、元々普通に1階しかないアパートの下に、防空壕として。北朝鮮の攻撃に備えるために防空壕を掘ったんですよ。で、その後にそこを後から家として、住居として貸し出したから、下水の位置が上にあるような状態になっちゃっているんですよ。実はあれ、1階の下にある下水なんですよ。

(宮藤官九郎)ああ、なるほど! 元々1階建てだったとこうを無理やり半地下にしたから、便器が上に?

(町山智浩)そうなっちゃっているんですよ。あれ、実在するんですよ。「殿様トイレ」とか言われているんですよ。人より高いところにあるから。

(宮藤官九郎)へー、すごいな!

半地下住居のトイレ

(幸坂理加)2人が解説されていますね(笑)。すごい。

(町山智浩)だからあそこに出てきていることは全部事実で。洪水も事実です。今、ソウルではすごく都市洪水が増えてて。最近、雨がすごいですから。それで半地下が本当に水没するんですよ。それで死者とか出ていますよ。

(宮藤官九郎)それでああやってちゃんと避難所みたいなところに行ったりもするんですか?

(町山智浩)避難所に行けない人もいたでしょうね。だからあの中で出てくる、なんというか誇張されているなと思う部分が全部事実ですよ。韓国は。

(宮藤官九郎)へー! 面白い。ああ、そうなんだ。うわっ、今日は渋滞しなかったな……(笑)。

(幸坂理加)そろそろお時間に……ねえ。町山さんのおかげでスムーズな渋滞しない映画コーナーでした。ありがとうございました。町山さん、伊勢さんでした。

(宮藤官九郎)ありがとうございました。

(町山智浩)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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