宇多丸『バービー』&『オッペンハイマー』SNS騒動を語る

町山智浩 映画『バービー』が革命的作品である理由を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2023年8月2日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で映画『バービー』の公式SNSアカウントが映画『オッペンハイマー』の原爆画像をかけ合わせたネットミーム的ファンアートに反応したことについて、話していました。

(宇多丸)あとやっぱりね、ちょっと今、『バービー』はあんまり良くない方向の話題になり方になっていて。

(日比麻音子)そうなんですよね。

(宇多丸)まあ、何があったかといいますと……アメリカでの『バービー』のSNSにおける宣伝活動の一環で、いろんなSNSのファンアートとかをいろいろ拾って「いいね」をしたりしていて。その中にちょうどね、『バービー』と同日公開で、やはり大ヒットしているクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』。原子力爆弾の開発者ですよね。オッペンハイマーの伝記映画が公開されていて。こっちも大ヒットされていて。で、それお互い引っ掛けてというか、ネットミーム的にバービーと原爆がドーン!ってなっているのを重ねて……みたいな。

だから最初はファンアートなわけですよね。まあ、それはもちろんそれ自体、すごく配慮を欠く……なんていうか、僕らからすれば「ああ、アメリカ人の原爆の認識ってな……」みたいな思わざるを得ないような配慮を欠くもので。とはいえ、素人が作ったものだったんだけども。それを今のSNS時代、やっぱりそういうところを、ネットミームを使ってバズりたいからっていうので。その一環で、公式アカウントがそれを「いいね」しちゃって……みたいなところから、ちょっと問題になっていて。

(宇多丸)で、ワーナーブラザーズがはっきり謝罪を出すに至って。日本でも批判が噴出して……みたいな。ただこれ、そのグレタ・ガーウィグ作品としての『バービー』を楽しみにして。あるいは、そのマーゴット・ロビーさんという方も極めて高い意識で作品を選び続け、演じ続け、プロデュースし続けてきたわけで。

(日比麻音子)本当に映画を作る人として、大変に素晴らしい方ですから。

(宇多丸)だからこれが彼女たちの意向であるわけはない。何の関係もないことで。

(日比麻音子)もちろん、全く違うと思います。

(宇多丸)むしろ「これはいかん!」っていうことに、間違いなく真っ先になっていると思います。なので、ちょっとそういう文脈を欠いて、要は「夏休みの『バービー』というヒット間違いなしの題材を当て込んだブロックバスタームービーがチャラチャラとそういうことをやりやがって!」っていうような……もちろん、怒りを買うのは当然のニュースではあるんだけれども。ただ、それによって『バービー』という作品そのものを、まだ見てもいない段階で……というのはちょっと残念というか、かわいそうっていうか。

(日比麻音子)そうですね。もちろん、そのレスポンスを公式のものがやるというのは日本の皆さんにとっては特にですけれども。

(宇多丸)私も含めて、それはそんなの「相変わらず、そんな調子かよ、バカ野郎!」みたいなのは当然ありますけど。

(日比麻音子)認識の違いというか、そういったところが露呈してしまったなと。大変、がっかりではありますけど。

(宇多丸)ただ、まず『バービー』というその作品そのもの……作り手も含めて、作品そのものの責任は今回は全くない話だし。そのSNS班の不手際というか、意識の低さというか、認識不足っていうところだろうし。もっと言えば、その原爆のテーマなのは『オッペンハイマー』の方なわけじゃない? 僕はむしろ危惧してるのは、「えっ、ノーラン、『オッペンハイマー』ってどういう映画なの?」っていう。ちょっと正直、日本人としては……もちろん、オッペンハイマー自身はその原子力爆弾を作ったことを後悔してたりとか。いろんな、そういう発言をしてたりする人だから。

もちろんちょっとトーンとしてはね、「イエーイ!」みたいなことじゃないとは思うんですよ。そんなことじゃないとは思うけど……ただ、その原爆を扱っているのは『オッペンハイマー』の方なんだから。だから要は、そっちがどういう作品か?っていう方がよほど……だって『バービー』には原爆は出てくるわけじゃないから。

(日比麻音子)そうですね。

(宇多丸)だからむしろ、メディアとして注視すべきはそちらな気もしてて。もちろん何度も言いますが、原爆というものを迂闊に面白おかしく扱うようなネットミームそのものがけしからんのは当然として。でもやっぱり、アメリカ映画における原爆の扱いっていうのはやっぱり我々は正直、首をかしげるところが長年多くて。それこそクリストファー・ノーランの、たとえば『ダークナイト ライジング』。もう街のすぐそばで原爆が……「ちょっと離れたところで爆発させたから大丈夫でした」みたいなのとか。

アメリカ映画における原爆描写の残念さ

(宇多丸)あとはまあ、これはよく出てくるやつで。『ミッション:インポッシブル』とかにも出てくるけど。プルトニウムだの何だのを、まあまあむき出しの状態で間近で扱っても全然平気だったりとか。あとベン・アフレックもね、『トータル・フィアーズ』とかでね、ドーン!って爆発が出てきて。で、爆発さえ乗り切ればはいいと思ってるみたいな。でも僕らの原爆の知識からすれば、「こんな爆心地の近くで原爆の爆風も受けて……あなた、何日の命ですかね?」みたいな話なのはわかってるわけで。

あとは『インディ・ジョーンズ』の4作目『クリスタル・スカルの王国』なんかもそうで。だから、我々はそういうのをあまりにも見すぎちゃっていて。で、ちょっと諦めちゃっていたところがあるから。「アメリカ人、しょうがねえな」って。でも、『オッペンハイマー』ともなりますとね……だから僕、あの映画の映画の結論ってどういうところに行くんですかね?っていう。「原爆を作りました」っていうのは事実だからしょうがないとして、どういうトーンでどう描くのかしら?って。

(日比麻音子)作品にする限りは避けては通れない部分ですから。

(宇多丸)もちろんアメリカ人なりの史観というのがあるのはわかりますけど。アメリカっていうか、その連合国軍側の史観というものがあるのはわかるけど。別に日本だってもちろんね、褒められたことをしてたわけじゃないんだけど。でも、原爆を落としてそれがどうなるかはもうちょっと人類史的なスケールの話であって。なんていうかな? イデオロギーで云々っていうことで済ませていいことじゃないんだよね。本当はね。全人類の生命を未だに脅かしてる話なんだから。

だからこの『バービー』の一件というのを、「『バービー』の不手際なんだから『バービー』は見ない」とか、残念ながらイメージでそういう風におっしゃるのも、気持ちとしてはわかりますが。それは非常にもったいないですよ。グレタ・ガーウィグは本当に優れた、そして良心的な作り手ですし。もちろんマーゴット・ロビーもハリウッドスターとして本当に責任を果たしている素晴らしい俳優さんです。だから『バービー』に関してはたぶん、見れば素晴らしい作品だっていう風になると……。

(日比麻音子)ポップに見えるかもしれないけど、作品自体は非常に深く深く、テーマであったりとか、描きたいメッセージというものを掘った上で、そのバービーというポップなキャラクターをなぜ、使ったのか?っていう部分も含めて、作品として本当に素晴らしいので。

(宇多丸)やっぱりバービーというものが象徴するものですよね。

(日比麻音子)そうなんです。

(宇多丸)女の子の人形で、ブロンドで、現実がありえないプロポーションで、キラキラしていて……っていうものが象徴するものというのをちゃんと批評的、相対的に捉えてるっていう。で、今の観客、若い観客とかも含めてどう見るか?っていうのをちゃんと考えて作った作品であろうと思われ。そして、そうなわけですね。だからぜひ皆さん、ちょっとこの騒動というのはありましたけども。『バービー』という作品そのものを見ていただきたい。来週の日比さんのインタビューもぜひ。6時半からのカルチャートークを聞いていただき……まあ、それで判断していただいても結構かもしれませんけども。

(日比麻音子)そうですね。はい。

(宇多丸)プラス、やっぱりちょっと『オッペンハイマー』は注視せざるをえないな……っていう感じですね。

(日比麻音子)どうなっているんだろう?

『エターナルズ』における原爆描写

(宇多丸)近年のハリウッド映画も、たとえば『エターナルズ』とかには広島の原爆投下というものが出てくるわけですね。で、その扱い方とトーンはなかなか、ハリウッド映画としては画期的なものであったと思います。非常に痛ましいものとして、後悔されるべきものとして、人類史の汚点として描いている。これはまあ、よしとしましょうって感じだった。

とはいえね、投下直後の爆心地の描写とかは「いやいやいや、ただの強い爆弾じゃないんですよね……。落とされた後がどうなったかってのはもちろん、『はだしのゲン』をはじめいろいろ描かれているわけで。こんなもんじゃないんですよ」みたいなのは、あるんだけどね。だからちょっとそのあたりは、まあ「注視する」っていうのもメディアの常套句的な着地になっちゃうけど。なんにせよ、まだ見てないんでね。

(日比麻音子)なかなかね、情報が日本には届いてない部分も多くありますから。今後、どうなっていくのかということですよね。

(宇多丸)早急なことは言わないようにしておきますが。

<書き起こしおわり>

日比麻音子 念願のグレタ・ガーウィグインタビューを語る
日比麻音子さんが2023年8月2日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で以前からファンであることを公言してきた映画監督グレタ・ガーウィグさんへのインタビューを行ったことについて、話していました。
町山智浩 映画『バービー』が革命的作品である理由を語る
町山智浩さんが2023年7月25日放送のTBSラジオ『こねくと』で映画『バービー』を紹介。『バービー』が革命的作品であると話していました。

タイトルとURLをコピーしました