渡辺志保 Gang Starr『One Of The Best Yet』を語る

PUNPEE Gang Starr『One Of The Best Yet』を語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

渡辺志保さんがbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中でギャングスターの16年ぶりのアルバム『One Of The Best Yet』について話していました。

(渡辺志保)続いてはギャングスターの最新アルバム『One Of The Best Yet』について特集します。もうかなりこのアルバム、かなり聞き込んでいるという方も少なくないんじゃないでしょうかっていう風に思うんですけれども。ギャングスターと言いますと、DJプレミアとグールーによるヒップホップゴールデンデュオという感じがします。ただ、ラッパーのグールーがですね、2010年にガンを患って逝去したということで。それ以来、来年……2020年4月でグールーの逝去からもう丸10年が経つというタイミングだそうなんですね。

で、このアルバム『One Of The Best Yet』なんですけれども、ギャングスターの名義としては2003年に発表された『The Ownerz』から約16年ぶりのオリジナルアルバムということです。で、作品がリリースされるに至った経緯なんですけども、そもそも2010年に亡くなってからグールーの未発表音源を巡って家族、そしてDJソラーたちが裁判で争っていたという経緯があるそうです。で、このDJソラーという人物なんですけども、本当にグールーが亡くなる直前まで懇意にしていた、親しくしていたDJのパートナーっていう感じだと思うんですけれども。

アルバム制作の経緯

私も一回だけ、グールーさんに簡単なインタビューとあとちょっと来日時のアテンドをさせていただいたことがあって。その時にも一緒にこのDJソラーがバックDJとして来日していたのも覚えております。なのでDJプレミアと仲違いしたわけではないんですが、ちょっと当時から距離があって。代わりにグールーはこのDJソラーと一緒に活動を共にしていたわけなんですけれども。それでグールーの未発表音源を巡って、このDJソラーが保有していたものもかなりの量があったそうなんですね。で、2016年になってDJソラーは自分が保有していたグールーの未発表音源を売却したという。で、その売却したれた音源を買い取ったのがDJプレミアであるということです。

で、プリモ(DJプレミア)はこのアルバム用に新たにビートを用意して、そのグールの未発表バースを使ってこのアルバムを1枚仕上げたという経緯があったということです。で、プレミアとしてはですね、生前のグールーと距離があった時もですね、やっぱりギャングスターとしてのファイナルアルバムっていうのをけじめとしてちゃんと作りたいという意思がずっとあったということで今回、前作から16年の月日を経て、そしてグールの逝去から9年を経てですね、この『One Of The Best Yet』が完成したというストーリーがあります。

で、これ聞いていただければですね、イントラからクソ泣けるっていう感じなんですけども。1曲目は『The Sure Shot』っていう曲ですね。この『The Sure Shot』という曲のタイトルに関しても『DWYCK』っていう彼らの大名曲がありますけども。

その『DWYCK』のフレーズ……しかもライブの時のフレーズをずーっとループして。そのバックでギャングスターの『Full Clip』とか『Work』とか『Mass Appeal』とか歴代のギャングスターアンセムをつないでいくという、そういう構成の曲になっておりまして。めちゃめちゃライブ感あふれる1曲になってますね。これはたぶん、実際にDJプレミアがその自分のライブの時の音源をそのまま使っているのか、自分のDJプレイの時の音源をそのまま使ってるのかわかんないですけど、とにかくライブ音源でこのアルバムがスタートするっていう感じで。

これ、本当にこの1曲だけ私もすごいループして聞いてしまって。DJの方……特に90年代に活動していらしたDJの方とか、いまもそういうクラシック系のセットが得意なDJの方にとってはめちゃめちゃたまらあに、そんな1曲なんじゃないかなと思いますし。この1曲がやっぱりすごい高揚させられますよね。一体いまから何が始まるんだろうみたいな、そういった気持ちにさせてくれるイントロでスタートするという感じです。

Gang Starr『The Sure Shot (Intro)』

で、もともとこの『One Of The Best Yet』はですね、リードシングルとしてJ・コールを招いていたり。後はですね、他にもQティップとかRoyce Da 5’9”とか、あとはM.O.P.とかね、グループホームとか! もうそのへんのレジェンドたちがこぞって参加している作りになっておりまして。いやー、ヤバい。ジェルー・ザ・ダマジャとかもいるしね。本当にね、別にいま、この2019年……もうすぐ2020年になりますけれども。2019年にアルバムとか新曲を発表するレジェンドは沢山いらっしゃいますけども。

やっぱりDJプレミアがこの作品のためにまるまるねアルバム1枚分のビートを用意して。かつ、それにグールーのラップも乗って、歴代のレジェンドたちがここに総集結したってそれだけでなんかね、もうちょっと胸が熱くなるような感じですけども。もう本当に捨て曲なしっていう。ぶっといドラムの鳴りの部分とかですね、さすがプレミアという感じもしますし。もうね、心臓がいくつあっても足りないみたいな、そういう感じで私も非常に曲が変わるたびにすごいエキサイティングな気持ちになりながら聞いたという感じです。

で、DJプレミアもアルバムのリリースに関していろいろとインタビューでも答えてるんですけれども。コンプレックスというメディアのインタビューで答えていたのが、このアルバムにつけられたタイトルの意味なんですね。「『One Of The Best Yet』というタイトルをなんでつけたのか?」っていう質問に対してですね、私もこの答えを聞いてなるほどと思ったんだけど。いままでのギャングスターの曲……『You Know My Steez』とかあとは『Full Clip』にも出てくるギャングスターのお決まりのワード。グールーがよく使っていたお決まりのフレーズがこの『One Of The Best Yet』というフレーズだということです。「いままででいちばん最高だろ?」っていう意味なんですけども。

ライブの時もグールーはこの「One Of The Best Yet」という言葉を使っていたという。で、いまでもDJプレミアもですね、自分でDJする時にはやっぱりこのフレーズを使うということで、自然とこのフレーズがそのままタイトルになったということらしいです。あと、このアルバムがリリースされた時にDJプレミアの言葉もですね、一緒にプレスリリースとして発表されたんですけれども。

どんな風に言っていたかというと、「このアルバムは自分にとってまさに全てを意味するアルバムです。『このアルバムの制作作業を終わらせたくない』と思うほどでした。そして全く違う場所にいる感じもしたし、とてもエモーショナルになることもありました。ハッピーでサッド、そしてエキサイティングな気持ちになりながら、いろんな感情を抱きながら作ったアルバムです。ただ、結局のところこうしてグールーとまた一緒に音楽を作ることができて嬉しい」というプリモ教授のお言葉とともに味わっていただきたいアルバムです。

というわけでまずは1曲、『One Of The Best Yet』からここでお届けしたいと思いますが、『Bad Name』という曲ですね。これは参加のMCはグールーだけなんですけども。もうね、最初のコーラスの部分が「神に聞きたい。もしビギーや2パックがまだ生きていたら、この業界はどうなっていただろうか? こんな変なやつらがのさばるヒップホップシーンにはなってなかったはずだ」というですね。

これはたぶん10年前……もしくはそれ以上前にグールーが書いたらラップだと思うんですけれども、いまのヒップホップシーンの現状を憂う曲になっておりまして。「ビギーやパークが生きてたら……」っていう風に言っていますけども、もう本当にリスナーとしては、逆にこのグールーが生きてたらどんなに世の中になっていたのかなという。どんなヒップホップシーンになっていたのかなという風にも思います。というわけでここでお届けしましょうか。ギャングスターで『Bad Name』。

Gang Starr『Bad Name』

お届けしたのはギャングスターの16年ぶりのオリジナルアルバム『One Of The Best Yet』から『Bad Name』でした。いかがでしたでしょうか。本当にグールー先生のですね、ありがたいお言葉が聞けるというそういう作りにもなっているんですけども。もう1曲、このアルバムから紹介させていただきたいのが『Business Or Art』という曲でして。この曲はタリブ・クウェリが参加してる曲なんですよね。で、『Business Or Art』って本当にもそのままで。「これはビジネスなのか、芸術なのか」という風に葛藤するというか、問題提起するような内容の曲になっております。

で、たとえばヒップホップって本当にもういまや一大産業ですから。その中でビジネスを追求するのか、それともアート性を追求していくのかって本当にいろんなアーティストが立ち向かう壁というか、そういった局面があると思うんですけれども。でも若いいまのラッパーだけではなくて、こういうグールーとかタリブ・クウェリにこういうこと言われてしまうとですね、本当に私もいろいろ考えてしまうなという、そういった1曲になっておりました。

で、最初の1ライン目から「Business or art? Fist or steel? Industry or street? Fake or real?」という。「ビジネスなのか、アートなのか。業界なのか、ストリートなのか? ヒップホップの舞台はどこにあるのか? フェイクなのかリアルなのか、どうなんだ?」っていうようなね、そういったラインで始まる曲です。で、グールーのバースも「Here’s one for SPIN, Billboard, and Rolling Stone Hip Hop is so organic, it’ll grow on its own」というラインで始まるんですけども。「SPIN、Billboard、Rolling Stone」っていうのは全て雑誌であるとか音楽のメディアですよね。それは3つとも、ヒップホップの専門メディアじゃないんですよね。

どっちかっていうとロック・ポップスを多く扱ってきたメディア。特にSPINとかRolling Stoneはそうですよね。なんで、あえてたとえばSourceであるとかVIBEであるとかXXLとか、そういったヒップホップメディアじゃなくてあえて外の畑の音楽ジャンルのメディアに対して言いたいんだけど……っていう前置きをしている。それで「ヒップホップはとてもオーガニック(有機的)なものなんだよ。ヒップホップは自分たち自身の力で成長していくものなんだ」っていうね。もう力強い!っていう。そう言われると何も言えません、みたいな感じですが。そういったラインで始まる。

ビジネスか、アートか?

で、1曲まるまる、そのビジネスを追求するのか、アートを追求するのかっていうことをラップしているんですが。セカンドバースのタリブ・クウェリのところで、最後の最後で「It’s Gang Starr with the Black Star gang」というラインがありまして。ギャングスターはもちろんグールーとDJプレミアのことだけども、ブラックスターというのはタリブ・クウェリとモス・デフ……いまはヤシーン・ベイという風に改名をしていますけども。その2人によるユニット名がブラックスターですよね。ということで、ここでタリブ・クウェリがギャングスターについて触れているのもそうだけども、ブラックスターの名前を出しているのもすごくなんか胸アツ!っていう感じがしまして。

で、このアルバムを経たタリブ・クウェリのインタビューをチェックしますと、なんとこのブラックスターのリユニオンアルバムももうできてるらしいんですね。しかもプロデュースド・バイ・マッドリブっていうことで。なのでちょっとそっちの期待も非常に高まるなと思っています。このタイミングでギャングスターのこういうリユニオン・アルバムが出た。そしてこの後にですね、ブラックスター名義のアルバムを用意されてるとしたら、この1曲ってすごい伏線だなという風に勝手に興奮してしまったので、ちょっとここで聞いていただきたいなと思います。ギャングスター feat. タリブ・クウェリで『Business Or Art』。

Gang Starr『Business Or Art Feat. Talib Kweli』

<書き起こしおわり>

PUNPEE Gang Starr『One Of The Best Yet』を語る
PUNPEEさんがJ-WAVE『SOFA KING FRIDAY』の中でギャングスターのアルバム『One Of The Best Yet』について話していました。 (PUNPEE)お送りしたのはギャングスターのニューアルバムから『The S...
タイトルとURLをコピーしました