松尾潔 Kanye West『Jesus Is King』を語る

松尾潔 Kanye West『Jesus Is King』を語る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でカニエ・ウェストの『Jesus Is King』について話していました。

(松尾潔)それではまずはもう今年のR&Bシーン、ヒップホップシーンというよりも音楽業界有数の話題作となっておりますカニエ・ウェストのお話をしたいと思いますね。いま、バックで流れておりますのはティアナ・テイラーの『Never Would Have Made It』。この番組が選びます2018年度のメロウ・トップ20の第2位に選ばれた……というか、僕が選んだ曲ですね。その曲をプロデュースしていたのがカニエでした。

カニエ・ウェスト、ご存知の方も多いと思いますけども。今年に入ってからサンデーサービスというゴスペルイベントをアメリカ各地の教会などで定期的に開催しておりまして。それが話題になっていたんですけども、4月にはコーチェラという音楽フェスがありますが、そこで出張サービスということでサンデーサービスを展開したのが動画サイトで公開されて。ちょっとその画の見せ方がピンホールで覗くような仕掛けを作ったりだとか、そういう映像の演出も込みで大変な話題になりまして。

渡辺志保 カニエ・ウェストのコーチェラ・サンデーサービスを語る
渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でコーチェラ・フェスティバル2019の第二週に行われたカニエ・ウェストによるサンデーサービスのパフォーマンスについて話していました。 View this post on Instag...

で、それから半年ほど経ちましてこのたびそのドキュメンタリー映画の公開がアメリカで始まりました。それと同じタイミングでアルバムの方も発表されました。デジタルリリースです。映画のタイトル、そしてアルバムのタイトルは『Jesus Is King』。まあカニエ・ウェスト、もともとヒップホップの世界でもストリートのハードコアなリアルを叩きつけるとかっていうところに対してのアンチのようなところで活動していた人で、常にその動向がヒップホップの枠からはみ出ることでヒップホップの定義を広げていくようなところがありましたが。

ねえ。一時はというか、いまもそうですけども。ハイファッションに大変に傾倒したりだとか。あとは奥様でありますキム・カーダシアンとSNSでいろんなプライベートのことであったり……なんて言うんでしょう? 音楽の世界を飛び越えるような存在になって久しいのですが。そんな彼がいま、「神の世界に生きる」と言い切って、アルバムを作った。これはね、音楽業界になにかしらのインパクトにはなっております。

で、アルバムの方、僕も聞いてみました。これ、まず驚いたのは30分足らずという大変に短い……そして曲がたくさん入っておりまして。中には1分台の曲なんかもありまして。あっという間に聞けるのですが。オーセンティックなコンテンポラリーゴスペルアルバムとは違った作りなんですけども。

まあ、ここしばらく、ティアナ・テイラーの作品などを通して打ち出してきたカニエの考えるゴスペルっていうのの真打ち的な1枚になっているかとは思います。では、その中から1曲、聞いてみましょう。話題になっている曲はいろいろとあるんですけども。メロ夜的にはこちらかなと思います。僕の大好きなフレッド・ハモンドをフィーチャーした曲。カニエ・ウェストで『Hands On』。

Kanye West『Hands On』

(松尾潔)カニエ・ウェストの新作ゴスペルアルバム『Jesus Is King』の中からフレッド・ハモンドをフィーチャーした『Hands On』をお聞きいただきました。これはもちろんタイトルが示す通りジーザスということに関して歌い尽くしたアルバムであると同時に、カニエ・ウェストはもういわゆるヒップホップの世界で使ってきた品のよろしくない言葉というのは今後、自分の音楽では一切使わないという風に断言しておりますね。この先、どこに向かうのでしょうか? 一説によるとね、大統領になることを本気で狙っているなんていうことも本人、いろんなところで話していますけどね。

少なくともそういうアクションはやる人ですからね。そういったところも込みで楽しむアルバムかと思います。『Jesus Is King』でした。なんかこの続編にあたるような作品も年内にもう1枚出すというような話も聞いていますが。まあ、この『Jesus Is King』自体がリリースを延期、延期でやっと出た作品なので。次も予定通りに出るのか、それとも意外に来週出てもおかしくないという。それがいまの時代かなっていう気もしますが。まあ、面白い人ですよね。こういう人がいるとシーンが活性化して僕は好きですけどね。

さて、その『Hands On』でフィーチャーされていたフレッド・ハモンド。フレッド・ハモンド以外にもケニー・Gとかタイ・ダラー・サインとかいろんな有名人が参加をしているんですが。今日、フレッド・ハモンドをここでご紹介したのはメロ夜をずっとね、お聞きいただいている方には「ああ、だって松尾潔、好きだもんね」って思われるでしょうし。実際にその通りなんですが。一応、ご紹介しますとフレッド・ハモンドという人はコミッションドというゴスペル界のスーパーグループで大活躍した人で。

もちろんコミッションド、いま「スーパーグループ」と言いましたんで、フレッド・ハモンド以外にもスターがいましたね。マーヴィン・サップとかいろんな人がここから巣立ってソロゴスペルアーティストとしても成功を収めていますが。フレッドもその後にいくつかのユニットを作ってみたり、もちろんソロ作品もたくさんリリースしています。カニエ・ウェストからしますと、自分の少年時代からゴスペルも聞いていたでしょうし、親しんでいたでしょうから。カニエの作品を通してはじめてこの名前を知る人も多いでしょうか、カニエは昔から知っている人だということが言えるんじゃないかと思います。

では、そのフレッド・ハモンド、作品はたくさんありますけども、そのコミッションド時代の作品の中でメロウな夜のリスナーに親しみやすいであろうという曲を1曲、選んで見ました。1994年にリリースされましたコミッションドのアルバム『Matters of the Heart』の中からこれは当時、プロデューサーとしてトップと言われる位置にいたチャッキー・ブッカーがフレッド・ハモンドと一緒に作った曲です。チャッキーの声も聞こえます。聞いてください。コミッションドで『Love Is The Way』。

Commissioned『Love Is The Way』

お届けしましたのはチャッキー・ブッカープロデュース、コミッションドで『Love Is The Way』。いまからちょうど四半世紀前。1994年にリリースされたアルバム『Matters of the Heart』の中からご紹介をいたしました。この時期、チャッキー・ブッカーはね、トゥループですとかクール・アンド・ザ・ギャングとかアンジェラ・ウィンブッシュとか。数々の名曲をプロデュースして。また本人もシンガー・ソングライターとしていまバックで流れています『Turned Away』とかですね、『Games』とかいい曲をたくさん残しておりますよ。

この人はね、ライオネル・リッチーに大変にかわいがられて。で、いまライオネルと一緒に仕事することが多いですね。その前はジャネット・ジャクソンのツアーのバンマスもやっていましたし。もともと、バリー・ホワイトが名付け親というそういうコミュニティーにいた人ですから。生涯に渡って音楽陣という形で、マイクに向かおうが鍵盤に向かおうがプロデュースをしようが、ずっとそこにはチャッキー・ブッカーの音楽があるという感じなんですが。

この『Love Is The Way』で一緒に組みましたフレッド・ハモンド。この人も同じようなことが言えますね。すぐれたベーシストであり、癖の強い、でも好きな人にはたまらないタイプのボーカルを持ったシンガーでもあり。そうですね。あと、やっぱり長年の行動、作品で示してきたロールモデルとしての役割があるんじゃないですかね。カニエ・ウェストにとってはね。まあちょっと、これぐらい語りたくなるほどカニエ・ウェストの『Jesus Is King』っていうのはインパクトがあるんですね。いま自分でおしゃべりをしながら、影響力がある人がなにかアクションを起こすというのはさほど期待されずになにかをやるのと全然違うんだなって思いましたね(笑)。

<書き起こしおわり>

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