松尾潔 1999年アメリカR&Bチャートを振り返る

松尾潔 1999年アメリカR&Bチャートを振り返る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1999年のR&Bチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。

(松尾潔)続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には『そもそもR&Bって何だろう?』という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明します。

第22回目となる今回は、1999年。はい。プリンスのアルバムタイトルじゃないですよ。1999年ののR&Bナンバーワンヒットをご紹介しましょう。1999年。そろそろ世紀末のムードも高まって来た頃。そして、我々の大好物、90’s R&Bのまさに成熟した、ポトリと枝から果実が落ちる寸前ぐらいのね、まあそんな、豊潤な曲が楽しめる、そんな1年となりました。1999年のナンバーワンヒット。合計で12曲ございます。98年からの持ち越し。これはモンスターヒットでしたね。『Nobody’s Supposed to Be Here』。デボラ・コックス(Deborah Cox)。これはもう、年またぎで14週間ナンバーワンだったんですけども。

そんなデボラ・コックスのモンスターヒットの息の根を止めましたのがホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston) with フェイス・エヴァンス(Faith Evans)、ケリー・プライス(Kelly Price)。女傑三つ巴の『Heartbreak Hotel』でございました。

まあそんな感じで始まりました1999年のナンバーワンヒット。いくつかご紹介してみたいと思います。ではまず2曲、お聞きいただきましょう。もう最初に言っておきます。個人的にアップテンポの曲としては99年、僕、いちばん好きな曲はこちらでした。ドネル・ジョーンズ(Donell Jones) feat. レフト・アイ(Left Eye)で『U Know What’s Up』。これは11月から翌年の1月頭まで8週連続のナンバーワンですね。まあ、99年の掉尾を飾る、そんな1曲となりました。

そして、そのレフト・アイが所属しておりますTLC。と、言いますか、ドネル・ジョーンズのレーベルメイトですね。ベイビーフェイスとLA・リードが作ったレーベル、ラフェイスのトッププライオリティアーティストTLCの『No Scrubs』。これもヒットしましたね。4月から5月まで、5週連続ナンバーワン。ドネル・ジョーンズの方が長くヒットしたっていうのがちょっと意外な気もしますけどね。いずれ劣らぬ名曲です。では、2曲続けて聞いていただきましょう。ドネル・ジョーンズ feat. レフト・アイ『U Know What’s Up』。そして、TLC『No Scrubs』。

Donell Jones『U Know What’s Up』

TLC『No Scrubs』

1999年のナンバーワンヒット、2曲続けてお聞きをいただきました。ドネル・ジョーンズ feat. レフト・アイで『U Know What’s Up』。これはあの、曲の頭でレフト・アイがラップします。『What’s Up』と言ってます。これ、日本人の耳には『ワダ』って聞こえますね。僕の友人の和田さんっていうのがこれを聞いてハッとしたそうです。『ワラッ』っていうね。はい。つまんないお話でした(笑)。

そしてTLCの『No Scrubs』。『ノースクラブズ』っていう発音が正しいのかな?これは1999年4月10日から5月8日付けまで、5週連続ナンバーワン。『No Scrubs』っていうのはこれ、もうダメ男を糾弾する歌でございます。はい。『もうこんな男、いらない!』って言ってるんですけども。まあ、初めから挑発するような内容ですから、物議をかもしだしてナンボなんですけども。上手く当たりましたね。仕掛け人はシェイクスピア(She’kspere)っていう新進プロデューサーと当時、彼の恋人でしたキャンディー(Kandi)という女性です。このキャンディーという人は、かつてはTLCのいちばんのライバルと言われたこともありましたエクスケイプ(Xscape)のメンバーでもあると。

これ、ちょっと日本では考えづらいですね。ライバルグループの、しかも女性グループ同士ですよ。そのライバルグループのメンバーがソングライターとして書いたものが、こういうの、なんて言うんですか?敵に塩を送るっていうんでしょうかね?うーん。大げさですね。まあそのころ、もうキャンディーはソロのキャリア構築の方に夢中になっていたということでもあるんですけども。

で、面白いのはこれにとどまらずに、シェイクスピアとキャンディーというのはもう1組、やはり女性グループに似たようなテーマでね、やっぱりダメ男糾弾の歌を提供するんです。それが『Bills, Bills, Bills』という、デスティニーズ・チャイルド(Destiny’s Child)のヒットなんですけども。これはね、なんと99年。この年の最大のヒットとなりました。9週間連続ナンバーワン。もう大フィーバーの1年でしたね。シェイクスピア・キャンディーコンビ。そんなにダメ男が多いのか?と思いましたよ。

その時に。で、『No Scrubs』と『Bills, Bills, Bills』の2曲だけでこの話を終えてもいいんですけども。もういかにもR&Bの世界らしい話ということで付け加えますと、このTLCの『No Scrubs』が世に出た時に、こんなに面白いネタの曲ね、ただ指をくわえて見てるだけだともったいないと思った輩がいましてね。このシーンには、昔からあるんです。で、便乗ソングが出ました。『No Pigeons』というね、曲が出ました。

これね、しかもTLCの『No Scrubs』が5週目のナンバーワンを獲得した5月8日付けにエントリーしてきているという絶妙なタイミングでね。スポーティー・シーブズ(Sporty Thievz)というブルックリンのラップトリオが『No Pigeons』というね、『No Scrubs』っていう女の人に対して、反撃の狼煙を上げるような(笑)。まあ、なんて言うんでしょうね?アンサーソングとは言いませんね。パロディーソングを出したというね。しかもそれが、R&Bチャートで最高位5位まで行ったという、なんとお気楽なやり取りだったんでしょうか。ちょっといまとなっては牧歌的な印象さえございます。

その『No Scrubs』論争というのが盛り上がった99年でしたね。チャートの方に戻りますと、デボラ・コックス、ホイットニー・ヒューストンとつながりまして、4月に入ってバスタ・ライムズ(Busta Rhymes)がジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)をフィーチャーした『What’s It Gonna Be?!』。これがポンと1位をとっちゃいます。

で、さっきご紹介したTLCが5週。『No Scrubs』。そしてね、マクスウェル(Maxwell)の『Fortunate』っていう非常に甘美な曲。これはね、『Life』っていうエディー・マーフィーが主演の映画のサウンドトラックに収められていたんですけども。マクスウェルといいますと、もとから官能的な歌声で知られていますが、いまでもそのイメージは持続していますが。この『Fortunate』っていうのはマクスウェルのいつもの声でマクスウェルが書くバラードとはちょっと違う、よりコマーシャルな香りの強い、そんな1曲でした。

それもそのはず。この『Life』というサウンドトラック、大きく関与しておりましたのがR.ケリー(R.Kelly)だったんですね。マクスウェルがR.ケリーの曲を歌う。マクスウェルはそのことに対して大変な逡巡があったんだけれども、サントラだから・・・ということで歌ったら、これが彼のキャリア最大のヒットとなりました。8週連続ナンバーワン。これからマクスウェルはね、ちょっと悩みに入っちゃうんですよね。ヒットしても悩みは尽きぬという、この繊細なマクスウェルなんですけども。ただ、まあ曲に罪はございませんね。『Fortunate』、いつ聞いても素晴らしい曲。

そして、そのマクスウェル。ヒットすればするほど肥大化していく彼の悩みを止めてくれたのが、デスティニーズ・チャイルドの『Bills, Bills, Bills』という。電話代の請求書がどうしたとか、家の家賃がどうしたとか、そんなの支払える男だけが私と付き合えばいいのよ!っていう、本当にあの、歌詞の中にこれだけ金勘定の話が入っているっていうのもR&Bならではですよね。これ、9週連続。この年いちばんのヒット。

そして、フェイス・エヴァンスの夢見心地のバラード、『Never Gonna Let You Go』が1週。

同じく夢見心地のバラード、タミア(Tamia)をゲストに迎えましたエリック・ベネイ(Eric Benet)のバラード、『Spend My Life with You』。

同じくバラード、続きます。デボラ・コックスがネクスト(Next)というボーカルグループのリードシンガーR.L.をゲストに招きました『We Can’t Be Friends』。

で、これがね、1位をとって。その後、ポンと1位を奪取したのがジェイ・Z(Jay-Z)をフィーチャーしたマライア・キャリー(Mariah Carey)の『Heartbreaker』なんですけどもね。

その後、まあデボラ・コックスが取り返すという。そういう構図が見られました。そして、R.ケリーをフィーチャリングしたパフ・ダディ(Puff Daddy)、『Satisfy You』というね。モテ男2人のスローラップ。

で、11月からはドネル・ジョーンズが8週連続ナンバーワン。独走態勢を敷くわけです。そんな99年でございました。もうお気づきでしょうけども、大変フィーチャリングものが多いっていう。もうその図式、ちょっと前のね、90年代の半ばぐらい。95年ぐらいから。それはつまり、ヒップホップソウルの台頭あたりと考えていいですよ。

まあ、後ろに透けて見えるのはパフ・ダディというね、策士なんですけども。そのパフ・ダディの、彼が1人で仕掛けたわけではないですけども。いわゆるフィーチャリング商法っていうのがまだまだ持続していた99年。パフ・ダディ自らR.ケリーをゲストに迎え入れて、『Satisfy You』をちょっと力ずくでヒットにした、そんな1年でもございました。じゃあ、最後にお聞きいただきますのは、その苦悩に満ちた男、沈黙のきっかけとなった皮肉な大ヒットを聞いてください。マクスウェルで『Fortunate』。

Maxwell『Fortunate』

マクスウェルで『Fortunate』、お聞きいただきました。99年の5月から7月まで、8週連続ナンバーワン。これはエディー・マーフィー主演の『Life』という映画のサウンドトラックに収められておりました。プロデュース、そしてソングライティングを手がけましたのは、もう曲調からすぐにわかりますね。R.ケリーです。ちょっとさっき、言葉足らずでしたけれどもね、マクスウェルはこの曲を出して、すぐにその後沈黙期間に入ったわけではないんです。その後、作品のリリースは一応あるんですけれども。

この『Fortunate』の残像と言いますか、幻影をずっと求められるわけです。これから2年ぐらいですね。2001年ぐらいまで。もうそれがちょっともう、ほとほと嫌気がさしたみたいで。それから、8年ほどお休みに入ります。冬眠に入ります。そして、まあこの『Fortunate』から実に10年後。2009年に入りまして、復活シングル『Pretty Wings』。これでなんと14週ナンバーワンというね。自らの復讐劇じゃないですけども。自作曲で落とし前をつけた。もう本当にかっこいい男でございます。マクスウェル『Fortunate』、お聞きをいただきました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32657

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