松尾潔 R&B定番曲解説『You’ve Got A Friend』

松尾潔 R&B定番曲解説『You've Got A Friend』 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、キャロル・キングの『You’ve Got A Friend』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。

(松尾潔)続いては、いまなら間に合うスタンダードのコーナーです。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。さて、R&Bの世界でも、ジャズやロックと同じように、スタンダードと呼びうる、時代を越えて歌い継がれてきた名曲は少なくありません。そこでこのコーナーでは、R&Bがソウル・ミュージックと呼ばれていた時代から現在に至るまでのタイムレスな名曲を厳選して、様々なバージョンを聞き比べながら、スタンダードナンバーが形成された過程を僕がわかりやすくご説明いたします。

第4回目、第4曲目となります今回は、キャロル・キング(Carole King)が1971年に発表した名曲、『You’ve Got A Friend』。邦題『きみの友だち』について探ってみます。キャロル・キングという人は、まあご存知の方には説明の必要もないというか、説明するだけ野暮かもしれませんけども。もう、地球上、ありとあらゆる女性シンガーソングライターの頂点に立つ存在といわれています。そして、一言付け加えるならば、彼女自身はR&Bアーティストでも、ソウルシンガーでもないですね。白人女性シンガーソングライターの代表格として挙げられることが多いんですけども。

ただ、まあ彼女ほどブラックピープルに愛されてきた、そんな白人女性シンガーソングライターもいないんじゃないでしょうか?まあ、それが証拠にってわけじゃないんですけれど。たとえば、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)とか、好んでね、彼女の曲を取り上げるっていうのもありますし。あと、アレサとかメアリー・J.ブライジ(Mary J. Blige)とか、マライア・キャリー(Mariah Carey)とか。このR&Bの世界のビッグネームたちが集うようなイベントの時に、よくキャロルがそこに招かれてますよ。

で、そこにおいては黒い世界も白い世界もない。そこにあるのは、ただひとつの現実世界であるという感じですよね。本当、音楽の世界と言ってもいいですけども。本当に良質な音楽というのは、うん。なんか人種とか音楽を軽く越境できるんだなということを身をもって証明している。そんな存在です。今回、その上で言うと、やっぱりその、肌の色だとか、民族というものの歴史は大切なことだと思いますので。その歴史ゆえに生まれたフォーマットである、たとえばイギリスにおけるパンクミュージックですとか、同じようにアメリカの黒人社会におけるR&Bというそのフォーマット自体に意味があるという風に思ってるんですけど。まあ、キャロル・キングの場合はもう本当に越境人ですよね。うん。

で、そのキャロル・キングの数ある作品の中でも頂点に位置すると言われておりますが、71年にリリースされたアルバム『つづれおり(Tapestry)』でございます。

このアルバムのような作品が作りたいと思ってアルバムづくりをしてきた女性、どれぐらいいるんでしょうね?まあ、本当にアメリカはもちろんのこと、日本でも、70年代の五輪真弓さんから、まあユーミンでもね、デビューの時はキャロル・キングの面影をそこに見出そうとしていたわけだし。で、そのキャロル・キングの名作『Tapestry・つづれおり』の中にはいろんな名曲が収められています。もう本当に、アルバムの最初から最後まで、1秒たりとも目が離せないのですが。

中でも、R&B、ソウル・ミュージックの世界で大変愛されておりますのは、『You’ve Got A Friend』。そして、『Natural Woman』となりますね。今日は『You’ve Got A Friend(きみの友だち)』の方をご紹介したいと思います。じゃあまずは、今日はいろんなバージョン、全部ご紹介しきれません。最初に言っておきますけども。さっきからバックに全米ナンバーワンになったジェームズ・テイラー(James Taylor)のバージョンですとか。

まだ本当、あどけなさが残るマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)のカバーとか。

いろんなものをBGMとして流しています。本当、BGM扱いするのが恐縮しちゃうぐらいのビッグネームによるカバーが続きますけども。まあ、まずはなんと言ってもキャロル・キング本人のバージョンを聞かなきゃ話になりません。アルバム『つづれおり』の中から、キャロル・キングのオリジナルバージョン『You’ve Got a Friend』。


今夜の、いまなら間に合うスタンダード。キャロル・キングの1971年の作品『You’ve Got a Friend』をご紹介しています。まずはキャロルのオリジナルバージョン。そして、グッと時代が飛びまして。四半世紀以上たって、それもアメリカではなく、イギリスでカバーされました。ブラン・ニュー・ヘヴィーズ(The Brand New Heavies)の『You’ve Got a Friend』。これはね、ブラン・ニュー・ヘヴィーズにサイーダ・ギャレット(Siedah Garrett)という、まあかつてはマイケル・ジャクソンとデュエットしたり。『Man In The Mirror』という曲を書いたことでも有名な女性シンガーがボーカルを務めていた時代の作品ですね。

うん。まあ、いきなり、このブラン・ニュー・ヘヴィーズのカバーはどうなのかな?と思ったんですけど。ちょっと振れ幅を聞いてほしくて。まあ、いまバックに流れておりますマイケル・クーパー(Michael Cooper)っていう人の『You’ve Got a Friend』。


※4:40からスタートします

これもね、数あるカバーの中では割りとね、針の振れ幅で言えば端っこの方にあるような。つまりこれは、リズムをいじっちゃうと、メロディーの美しさが損なわれるような感じで、みんなそこに触れようとしないんですが。ブラン・ニュー・ヘヴィーズとかマイケル・クーパーっていうのは元々がファンクを売りにした人たちなんで。そこの再構築こそ自分たちの色の見せ方っていう風に心得ているみたいですね。マイケル・クーパー、ちなみにCon Funk Shunっていうファンクバンドのメンバーでございます。

この曲、メロディーも素晴らしいですが歌詞が素晴らしい。キャロル・キングは全ての曲の歌詞を書く人ではないんですが。これは彼女自身のものですね。歌い出しだけでも、ちょっと訳してみましょうか。『When you’re down in troubles And you need some love and care And nothing, nothing is going right・・・』っていうのは、これはね、『落ち込んで、苦しい時。逆境にある時。愛に満ちた優しさを欲している時。八方ふさがりの時。そんな時は目を閉じて、私のことを思い出してほしい。すぐにそばに行くから。闇の夜でさえ、明るくしてあげる』と、まあこういう歌い出しですね。まあ、女性が歌っているとなれば、こういう訳になるかな?すいません。いまちょっとここでもう、即興でやったんで、細かいところはご勘弁願いたいんですが(笑)。

これをね、みんなが愛する理由っていうのはなんなんだろうな?って思うんですね。まず背景にあるのは、これは71年に発表されたということです。71年。アメリカはベトナム戦争の最中。まあ、最中というか、かなり疲弊してる状況ですね。サイゴン陥落というのをベトナム戦争の終わりと捉えるならば、それは75年。この時71年ですから、4年前ですけど。まあ、終わりが見えないとされていた時の71年ですからね。もう、相当個人レベルでも、国家としても、うん。疲労が蓄積されている時。まさにこの歌で歌われているような、アメリカ型のその、資本主義とか。まあその、政権運営とか、そういったものも、間違っているんじゃないか?っていうね。

実際その、反対の意を唱える若者たちがアメリカ国内、そして国外でも、いろんな運動を起こした時代ですね。で、そんな時に、ちょっと難しい言葉を使わずに、平易な表現で、しかもまあ、間違っても国とかっていうことを歌うのではなくて、あくまで、個人の表現として『You’ve Got a Friend』を歌ったキャロル・キングっていうのは、やっぱり時代に求められて出てきた、そんな楽曲がまあ『You’ve Got a Friend』だったんじゃないかな?と。いまになってみると、そう思いますね。

で、これはあの、僕、いまさっきご紹介した冒頭部分なんていうのは、なんか根拠が無い楽観主義のような印象がいま、あるかもしれませんけれども。僕が言いたいのは、そもそも親しい間柄においてね、そこにロジカルな理由っていうのはいらないことが多いし、いままでの関係性こそがその歌を歌う、なによりも根拠だと。だってそこには愛があるからっていうことだと思うんですよね。Loving Careがあるってことですよね。で、この曲は、残念なことに71年に発表されて以降も、常に求められている曲とも言えるわけですね。
同じようなことが、同じ71年に発表されたマービン・ゲイ(Marvin Gaye)の『What’s Going On』というアルバム、そしてその表題曲にも言えるんじゃないでしょうか。

あれもまた、ベトナム戦争という当時の状況が生み出した、そういう最中にあったからこそ、生まれた奇跡的な美しい作品集として知られてますけども。以前にもこのコーナーでね、ご紹介した通り。本当に残念なことに、いまでも必要とされている曲でもあるんですね。うん。まあ、人の営みっていうのはそういうものかもしれませんけれども。それにしてもね、こういうのが世に出てきた71年っていうのは、社会的に見ればそういう時代でもあったし、ポップミュージックの歴史の中で言うと、ひとつの実りの時代でもあったと。いまだからこそ言えるという、そんな気がいたします。

さあ、数あるカバーバージョンの中で、今日、最後のお届けするのはこちらです。ロバータ・フラック(Roberta Flack)とのデュエットバージョンも有名なのですが、この人に関して言うと、ソロで、しかもライブで歌ったこちらのバージョンが歴史の残るという、そんな風格を与えてますね。聞いてください。ダニー・ハザウェイ(Donny Hathaway)の72年のライブアルバム『LIVE』に収録されていました、『きみの友だち You’ve Got A Friend』。

お届けしたのはダニー・ハザウェイで『You’ve Got A Friend』でした。72年にリリースされた奇跡的なライブアルバムの傑作『LIVE』に収録されていました。

同じアルバムにはマービン・ゲイの『What’s Going On』も収録されています。ここで気をつけたいのは、マービン・ゲイの『What’s Going On』、アルバムがリリースされたのは前年71年の5月。そして、キャロル・キングの『つづれおり(Tapestry)』はその2ヶ月前の3月ということで。つまり、ダニー・ハザウェイは前の年のヒット作というか、話題作をいち早く取り上げてるんですね。そしてそれが、いまから40年前のことですからね。うん。40年以上前のことか。

1年前の曲を取り上げて、それから40年以上愛されるっていう。こうなってくると、オリジナルとかカバーとかっていうものを超えた曲の力を感じますよね。まあ昨今、日本でもカバーブームって言われて久しいわけなんですが。カラオケで長らく人気があるとか、定番曲だからとか、そういった理由で取り上げるっていうのも、まあもちろん歌う理由として大切なことだと思うんですけれども。ダニー・ハザウェイがその1年前の曲をね、1曲のみならず、2曲取り上げているというのは、なにかもっと別の理由を感じますね。

いまこの歌、鮮度が落ちないうちに歌おうとして。で、結果としてそれがクラシックになったという。うん。なんか着眼点が違うのかな?なんてことを、実はこの間のアカデミー賞の授賞式で現代のダニー・ハザウェイ的なポジションだと言われることも多いジョン・レジェンド(John Legend)がね、受賞しましたよね。『セルマ(Selma)』っていうキング牧師を描いた映画の主題歌を歌って受賞しましたけども。その時に、ニーナ・シモン(Nina Simone)の言葉を引用して、『アーティストというのは常に社会に向き合わなければいけない』という趣旨のことを話してましたが。

なにかそういう、なんて言うんでしょうね?ダニー・ハザウェイと同じようにピアノを弾きながら、ソウルフルな歌声を披露するってことでジョン・レジェンドはよく類似点を挙げられることが多いんですけども。それ以上に、精神のリレーっていうんでしょうか?そういったもの、その発火点のひとつになっているのがこの『You’ve Got A Friend』という気がしますね。はい。今夜のいまなら間に合うスタンダード。『You’ve Got A Friend』をご紹介しました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32677

タイトルとURLをコピーしました