町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』について話していました。
(町山智浩)でね、冬休みに楽しむことができるドラマでネットで配信されているものを紹介したいんですね。冬休みに一気に見れますんで。『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうちょっと覚えにくいタイトルなんですけども。これ、アマゾンプライムで見れます。一気にシーズン2まで日本語がついているのが見れますので。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)これがね、ゴールデングローブ賞とか各賞を去年からずっと受賞しまくっている傑作コメディーなんですよ。アメリカのニューヨークの専業主婦がスタンダップコメディアンという漫談ですね。1人しゃべくり芸のコメディアンになろうとするっていう話なんですけども。これがね、もうアメリカでは大変なドラマとして女性の権利の問題からいろんなものを見せていく非常に深いドラマとして楽しまれているんで、それを紹介したいんですが……。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、その前振りで、先週から公開されているディズニーアニメの『シュガー・ラッシュ:オンライン』についてお話をしたいんですよ。
(山里亮太)あっ、聞きたいです!
12/21(金)公開「#シュガーラッシュ オンライン」上映時間のお知らせです!
12/21(金)~12/27(木)までは①9:30~②14:05~③18:25~④20:45~
アーケードゲームのキャラクターである悪役ラルフと少女ヴァネロペの冒険と友情を描いた「シュガー・ラッシュ」の続編。ご来場お待ちしております pic.twitter.com/8AyqyHq9oM— ディノスシネマズ室蘭 (@DCmuroran) 2018年12月18日
(町山智浩)これ、『シュガー・ラッシュ』っていうディズニーアニメの続編なんですけども、舞台はゲームセンターのゲームで。まあ『ドンキーコング』と『レッキングクルー』を足したみたいなゲームがあって、それの悪役のキャラクターをやっているラルフっていう大男が主人公で。その彼ともうひとつ、女の子向けのカーレースゲームで『シュガー・ラッシュ』っていうのがあって、それのゲームのキャラクターであるヴァネロペっていう女の子がいて。その大男ラルフとヴァネロペっていう少女の2人の話だったんですね。一作目は。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、2人が最後に仲良くなって終わるんですけども。今回、いまやっている続編はその仲良くなった後の話なんですけども。まずゲーセンがもう寂れちゃってどうしようもないっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)あーっ! うんうん。
(町山智浩)で、その『シュガー・ラッシュ』っていうゲームマシンも壊れちゃうんですけど、もう作られていないから交換する部品がないんですね。で、ネットのオークションサイトeBayで見たらあるんですけど。だからこれがもし修理をされないと、このゲームマシンは動かなくなっちゃうから彼女たちは生きられないんですよ。ゲームの中にいるキャラクターなんで。だから、実際にはプログラムそのものなんですね。彼女たちは。
(赤江珠緒)そうか。死活問題になっちゃうんだ。
(町山智浩)そうそうそう。電源を切られっぱなしになっているとマシンが破棄されちゃうから。それで、インターネットの中に入ってお金を稼いでその部品をeBayから買おうとするっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)ふーん。うんうん。
(町山智浩)で、インターネットの中に入るといろんな……要するに賞金の出るゲームがあったり、まあYouTuberになるっていう手もありますよね。そういうことをしてお金を稼ごうとするんですよ。このゲーセンから来た2人がね。
(赤江珠緒)はい(笑)。設定が面白いですね。
(町山智浩)で、ここで面白いのはね、インターネットなんでディズニーの公式サイトにヴァネロペちゃんが入っちゃうんですよ。するとそこにはディズニープリンセスがいっぱいいるんですね。白雪姫とかシンデレラとかポカホンタスとかムーランとか。アナ雪のエルサとかもいて、控室でお煎餅を食べていたりするんですけども。あ、お煎餅は食べてませんが(笑)。
(赤江珠緒)うん(笑)。
(町山智浩)で、そこに行ったヴァネロペちゃんが「私もディズニーアニメのヒロインだから、ディズニープリンセスのはずよ」って主張をするんですよ。そうするとこう言われるんですね。「ディズニープリンセスだったら鏡とか湖に顔を映して、映った自分に『私の夢ってなに?』って問いかけると、突然そこでオーケストラの音楽が流れてきて、そこからミュージカルになるはずなのよ」って言われるんですよ。
(山里亮太)アハハハハハッ!
(赤江珠緒)ああ、ディズニープリンセスはそんな条件があるんですね(笑)。
(山里亮太)あるあるを面白く(笑)。
(町山智浩)そう。「私の夢は……」って『リトル・マーメイド』だったら「海から出て他の世界を見たい」とか言うじゃないですか。
(赤江珠緒)みんな、そうなっているか。
ディズニープリンセスの夢
(町山智浩)そうそうそう。アナ雪なんかでも「生まれてはじめて」っていう歌を歌うところとかね。「そういうことがあるはずなのよ」って言われて。ヴァネロペちゃんが鏡や水に映った自分に問いかけるんですよ。「私の夢ってなあに?」って。そうすると、「核戦争の後に文明や社会が破滅して、暴力だけが支配する無法の世界になったところで命がけのカーレースをすることよ!」っていう自分の夢がわかるんですよ(笑)。
(赤江珠緒)ええーっ!
(山里亮太)そういう設定で作られちゃったんだ(笑)。
(町山智浩)そう。まあ要するに『マッドマックス』みたいなゲームがいっぱいゲーム界にはあるわけですね。だから「そこで生きるのが私の夢だったんだ!」っていうことに気がつくんですよ。それで、「私はゲーセンには帰らない。このままインターネットの中で地獄のゲームをやりたいの!」って言うんですけど、そうすると一緒にゲーセンから来た相手のラルフくんは「なんで?」ってなるわけですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)「なんで君だけ先の世界に行っちゃうの? 僕はゲーセンから出られないのに!」って。で、嫉妬をして邪魔をするんですよ。そのヴァネロペちゃんを。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)っていう話なんですよ。
(赤江珠緒)ラルフ、意外と小さい男だな。
(町山智浩)そうなんですけど……でも、これってこの間僕が『たまむすび』で話した『アリー/スター誕生』と同じ話なんですよ。あれも主人公のロックミュージシャンが女の子、レディ・ガガを見つけてスターにしたんだけど、どんどん自分の手を離れてスターになっていって、しかも自分の知らない新しいエレクトロ・ポップみたいなものに進んでいくと、自分のコントロールから離れてどんどん上に行っちゃうから。嫉妬しておかしくなっていくっていう話だったんですよね。
(赤江珠緒)そうですね。女性の方がどんどん出世していって。
(町山智浩)そうそう。っていうか、時代に乗っていっちゃうんですよ。つまり彼、ラルフくんはゲーセンの世界に生きているんだけど。でもこのヴァネロペちゃんはもうゲーセンからは離れて、インターネットの世界でも生きられるんですよ。女性の方が時代に対応することができるんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、男って大抵ノスタルジアで昔のものにこだわったり。『スター誕生』の主人公の男も昔風のブルース・ロックにこだわっていて、新しいその最近の音楽が理解できないって憎んでいるんですよ。それって『ラ・ラ・ランド』もそうだったし、そういう昔のものにこだわってそれを突き詰めていくっていうのは男の得意とするところで。でも、女性たちはそうじゃなくてどんどん先に行こうとすることができる人が多いんですね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)時代に乗っていくことが。だからそういうね、非常に深い男と女の問題を描いているのがいまの『シュガー・ラッシュ:オンライン』なんですけども。
(赤江珠緒)ええーっ! 『シュガー・ラッシュ』、そういうことがテーマに?
(町山智浩)そういうことになっていますよ。で、ただもうひとつ面白いのは、「プリンセスの夢っていうのは何か?」っていう話になるじゃないですか。でも、昔のディズニープリンセスの夢って、いつか素敵な王子様が来て結婚することが夢だったですよね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)でもそこから先も人生は40年、50年続くんですよね。本当は。
(赤江珠緒)たしかに。「めでたし、めでたし」では終わらないっていうね。
(町山智浩)そこは人生の始まりなんだよね。それなのにずっとディズニープリンセスだったりおとぎ話の多くが「王子様が来て結婚すれば『めでたし、めでたし』で終わり」っていう未来、夢しか提示できなかったんですね。だから昔のディズニープリンセスっていうのは現代の世界では全く機能していないんですよ。
(赤江珠緒)たしかに。
(町山智浩)だってそれ、子育てが終わったらその女の人の価値はどうなっちゃうんですか? 生きる意味ってなくなっちゃう。だから、本当の夢っていうのはもう現在、ディズニープリンセスは自分自身が彼氏とかは全く関係なく、やりたいことを見つけるのが夢なんですよ。「やりたいこと」が「夢」なんですよ。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)だってそうじゃなきゃ、旦那がいなければ無価値な人間っていうことじゃないですか。それは。
(赤江珠緒)たしかに! 現実社会とリンクしている。
(町山智浩)というようなことも考えるようになっているんですよ。で、ヴァネロペちゃんは『マッドマックス』みたいなゲームをするのが夢なんですけども(笑)。そういう世界に。で、なぜこれを前振りにしたか?っていうと、今回紹介する『マーベラス・ミセス・メイゼル』っていうのもそういう話なんですよ。
<書き起こしおわり>