渡辺志保 Freddie Gibbs&Madlib『Bandana』を語る

渡辺志保 Freddie Gibbs&Madlib『Bandana』を語る MUSIC GARAGE:ROOM 101

渡辺志保さんがbayfm『MUSIC GARAGE:ROOM 101』の中でフレディ・ギブスとマッドリブのコラボアルバム『Bandana』について話していました。

Bandana [12 inch Analog]

(渡辺志保)続いては今週の特集コーナーですね。フレディ・ギブスとマッドリブのコラボ新作アルバム『Bandana』についてお届けします。このアルバム、私はすごい待ってたんですよね。で、フレディ・ギブスって私の大好きなラッパーなんですけれども。彼は1983年インディアナ州のゲイリー出身ということで。マイケル・ジャクソンをはじめとするジャクソン一家もこのゲイリー出身ですよね。

去年、ミックステープ『Freddie』というのをリリースしているんですけれども。別名「ギャングスタ・ギブス(Gangsta Gibbs)」って呼ばれているほどの、そちらの筋のラッパーの方で。私は彼のすごい渋くて太い声……こういう表現はちょっと一部よくないと言われるかもしれないけど、めちゃめちゃ男臭いラップをするんですよ。

で、今年初めて私は彼のライブをアメリカで見たんですけれども、まあ観客もね、男性ばかりが揃ってまして。でもすごい、やっぱりタッパもあるラッパーの人なんですよね。ギブスは。で、めちゃめちゃ迫力あるライブを見せてくれて、もうめちゃめちゃ感動したという感じです。で、その一緒にコラボしている相手のマッドリブなんですけど、まあ説明不要かもしれないですね。西海岸出身のベテランビートメイカー、そしてDJ。これまでにMF・ドゥームやね、故J・ディラとのコラボプロジェクトでもおなじみかと思います。

で、このフレディ・ギブスとマッドリブなんですけれども、2014年に『Piñata』というコラボアルバムをリリースしておりまして、それ以来5年ぶりの作品ということになります。ちなみにこの『Bandana』というアルバムなんですけれども、アメリカのDazedっていうカルチャー系のメディアがあるんですが。なんと「2019年最高のラップアルバム」という風にすでに評されておりまして。めちゃめちゃね、骨太な内容よ、本当に!

「2019年最高のラップアルバム」(Dazed)

で、今回のリリースに際してフレディ・ギブスがいろんなインタビューに答えてるんですね。で、私も「ああ、なるほど!」って思ったんだけど、このアルバムがフレディ・ギブスにとって最初のメジャー流通のアルバムだそうなんですよ。なのでまあ、たぶん宣伝費・広告費も前作に比べてドーン!ってお金がかかってると思うのね。でもそうなんだけども、制作の時の自分のバイブスとかね、そういった制作のルーティンに関しては全くいままでと変化なく作りましたという風に答えていました。

で、結構ね、彼も82年生まれでいろいろと辛酸をなめてここに来てますから、インタビューで語っていたことがありまして。「最近のラッパーは曲を出しすぎ。1年に3枚のミックステープとか何の意味も持たない曲をリリースしても何の意味もないだろう? 俺は時間がかかっても意味のある楽曲を届けたい」っていう風にVIBEマガジンのインタビューに答えていたり。LAのラジオ番組では「やっぱりアルバムをじっくり1枚作るっていう、アートとしてのアルバムに重きを置いた」という風にも語っておりました。

で、「俺は『このプロジェクトが終わったからすぐに次に取りかかるか』というタイプのラッパーじゃないんだ」という風にも語っておりまして。私はヒップホップにしろR&Bにしろなんにしろ、「アルバム」というアートフォームが大好きなんですよね。で、いまはもうヒップホップって特にストリーミングに支配されてるから。いい意味でね。どんどんとやっぱりシングル単位、言うてもEP単位で聞くことがすごく増えちゃって。で、フレディ・ギブスの言う通り、リリース量もハンパないしさ。出てくるシングルを本当に「消化する」みたいな感じで聞くことも少なくないんだけど、それでもやっぱり私はアルバムというアートフォームが大好きで。

で、やっぱり気合の入ったアルバム作品、ちゃんとひとつコンセプトが通っていて気合を感じるアルバム作品というのはすごくね、やっぱり聞いた後の充足感というか充実感、そういったものも全然違いますし。で、今回のこのアルバム『Bandana』という作品はまさにそれを感じるような作品に仕上がっておりました。で、「すぐに次っていうわけじゃないんだ」っていう風に語っていたんだけど、既にもうマッドリブとの次作『Montana』っていうアルバムを準備中らしくて。

なんかこれが最後のアルバムになるかもっていう話もねあるんですよね。ちなみにフレディ・ギブスはちょっと冤罪によって投獄されてしまったことがありまして。2016年。下手したら10年間の服役を課せられるところだったんですよね。そこで拘留されている時に、「もしかしたらこれが最後のアルバムになるかもしれない」と思いながら書いたリリックもあるとのことです。そしていろんな豪華ゲスト……プシャ・T・、キラー・マイク、アンダーソン・パーク、その他もろもろ、豪華なゲストも参加しております。ということでここで1曲、聞いてくださいフレディ・ギブス&マッドリブで『Giannis ft. Anderson .Paak』。

Freddie Gibbs & Madlib『Giannis ft. Anderson .Paak』

はい。お聞きいただいておりますのはフレディ・ギブス&マッドリブで『Giannis ft. Anderson .Paak』。いかがでしょうか? めちゃかっこよくないですか?っていうね、震えてしまうようなビートでございます。というわけで引き続き、このフレディ・ギブスとマッドリブのコラボアルバムについて紹介していきたいと思います。

今回はフレディ・ギブスさんがですね、やっぱりマッドリブのビートに惚れに惚れて。で、マッドリブのビートのことを「シネマティック」という風にな表現してたんですね。「シネマティック(Cinematic)」っていうのは「映画みたいな」っていう意味なんですけども。この彼のシネマティックなビートを自分がやってやるという気持ちで挑んだとのことです。

で、マッドリブがカニエ・ウェストに自分のビートのCDを渡していたらしいんですよね。なんだけど、それをわざわざ取り戻して、それで自分でラップを乗せたという風にフレディ・ギブスさんがおっしゃっておりました。あとアルバム全体にその70年代っぽいレトロなバイブスもただよう感じなんですけど。その頃ってまさに黒人映画のジャンルでブラックスプロイテーション映画っていうのが当時、流行っていたんですけれども。そういったバイブスもちょっと意識したそうです。

映画でいうとたとえば『フォクシー・ブラウン』とか『シャフト:とかね、そういった世代の映画ですよね。で、このアルバムから『Crime Pays』っていう楽曲のミュージックビデオが出てるんですけれども。それも同じくそのブラックスプロイテーション映画っぽいテイストを意識して作ったという風におっしゃってました。

で、アルバム全体を通して、いまのアメリカの黒人男性を苦しませているシステム、体制についてラップしたという風にも言ってました。マッドリブがこちらもインタビューに答えていたんだけど、「2019年のいまはパブリック・エネミーやブギーダウン・プロダクションズの時代ではないけれども、いまの時代のラップもそうあるべきだと思う。ラップはいまのトランプ政権に対するアンチテーゼとして、もっと機能してもいいのではないか?」という風にマッドリブ自身が発言しておりまして。「おおーっ!」とちょっと拍手したい気分になりました。

アルバム全体に現在の政権や状況への不満を盛り込む

なのでアルバム全体を通して、いまの政権への不満とか状況への不満ということがすごく盛り込まれていて。中でもいちばんそういった主張にあふれているのが次に紹介する曲『Education』。まあ、「教育」ですよね。『Education』っていう曲があります。この曲、すごいんですよね。ゲストがすごくて。モス・デフことヤシーン・ベイ。そしてザ・ルーツのMCであるブラック・ソートを招いて、いまの教育のシステムもやっぱりちょっと白人の方が優遇されているんじゃないか? 財政のシステムもおかしいんじゃないか?っていうようなことを三者三様にマイクにぶつけておりまして。非常に重厚な曲になってます。

で、いま刑務所の問題なんかもすごく取り沙汰されておりまして、そういったことをヤシーン・ベイもラップをしておりますし。かつ、この問題は私、ぜひ皆さんに見ていただきたい映画があるんだけど。ネットフリックスのシリーズで5月に公開された『ボクらを見る目』という……オリジナルのタイトルは『When They See Us』っていうタイトルなんですけども。

これもいつか、みっちりとこのコーナーで取り上げたいと思うんでけれども。それを見てですね、ぜひぜひちょっといまのアメリカの現状、どうなってるのかっていうのを映画作品でも触れてほしいなという風に思った次第です。というわけでここで重厚な1曲、聞いてください。フレディ・ギブス&マッドリブで『Education ft. Yasiin Bey, Black Thought』。

Freddie Gibbs, Madlib『Education ft. Yasiin Bey, Black Thought』

<書き起こしおわり>

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