宇多丸 R.KELLY逮捕を語る

宇多丸 R.KELLY逮捕を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でR.ケリーが性犯罪容疑で連邦当局に逮捕されたというニュースについて話していました。

(宇多丸)いろいろとカルチャー情報みたいなの、あるんですけど。ちょっと衝撃のと言うか、ついに来たかというやつですかね。そういうニュースが先ほど入ってきまして。ロイター通信の報道なんですけども。性的暴行などの罪で起訴されているアメリカのR&B歌手のR.ケリー被告(52歳)がですね、性犯罪容疑で連邦当局にシカゴで逮捕されたとNBCニュースが法執行機関の当局者の話として報じたという。

で、いろいろと書いてあって。いろいろとこの間のドキュメンタリー『Suriviving R.Kelly』とかをきっかけに、そのR.ケリーの性暴力とか諸々が改めて浮上をして。

『Suriviving R.Kelly』

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この番組でもチラッと言ったかな? 要は僕ら、R.ケリーだけではないんですけど、R&Bの曲のは非常に性的な……それもあけすけな性的な表現含むっていうのをウィークエンド・シャッフル時代に、日本人は歌詞と聞こえを洋楽だと分けて聞いていることが多いじゃないですか。歌詞の意味はそれほど考えずに聞くという視聴習慣が割と歴史的にありますけども。「実際に歌詞の意味を知ってみるとこれ、とんでもないことを歌っているぞ? でも、いい歌だね、ゲラゲラッ!」みたいな感じでやっていたわけ。

で、R.ケリーさんは割とそれの代表格というかね。もうはっきり言ってでもR&B歌手としてのR.ケリーっていうのは、前にこの番組でチラッとそのR.ケリーの性暴力容疑の話に振れた時にもいいましたけども、その影響力が長年かつ広範かつ深くに渡りすぎていて。もうR.ケリーという存在を音楽業界からなかったことにするのはぶっちゃけ不可能というぐらい、ちょっと巨大な存在なんですね。まあ売上から言っても、後世に与えた影響から言っても。アーティストとして凄い人だったのは間違いない。

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それと同時にやっぱりその表現に含まれる性的要素のみならず……もちろんR&Bっていうのは基本的に性的な歌が9割ですから。それはR.ケリーに限った話ではないんだけど。ただ彼が非常に、やっぱり猟色家というかプレイボーイ……プレイボーイというよるは、性的にちょっと行き過ぎたところがある人で。しかもその彼がプロデュースしたアーティスト、亡くなってしまいましたけどアリーヤという女性歌手なんか、その当時はティーンエージャーで。ちょっと「あれっ?」っていうか、その関係が明示されてたわけじゃないんだけど。

「付き合っていた」とは言ってはいないけど、「うん?」っていうね。で、やっぱり僕だけじゃなくて世界中でそういうことを言っている人は多いんだけど。R.ケリーに関して、だから彼がこういう感じの人だっていうことはなんとなくは分かっていたのに……っていう、我々音楽ファンとしての、いまとなってはもう忸怩たる思いというか、自分たちもちょっとダメだったというか、本当のことは分からなかったわけけど。なんとなくわかってはいたのに……っていうところがちょっとよくなったなっていうようなのを残すような話でもあって。

まあ、それがついにドキュメンタリーのあれとかで。で、一応まだ本人はその容疑を否認している状態なのかな? なので、こういうのはまた冤罪とかも全然ありますし。たとえば、マイケル・ジャクソンとかもそうだけど。そういう風に「裁判を起こされました」ということになると我々はその面白おかしい部分に飛びついちゃって。で、マイケル・ジャクソンなんかは長年、そういうイメージだけが先行して語られてきたけど、結局その裁判とか、あとはFBIの長年の捜査とかで明快に明らかになったことって全然なくて。

マイケル・ジャクソンに関してはもう……これは西寺郷太くんの研究とかを僕は元にしているんだけど、マイケル・ジャクソンとかはもう事実上シロになっているのに、黒い印象だけが残っちゃったみたいなのがあって。こういうのはちょっと慎重にならなくちゃいけないなとは思うんだけど。でも、R.ケリーに関しては現状、かなりこういう感じになっているということで。以前、番組で特集もして、それで本を出してやったりして。もちろん、その他にもトレイ・ソングスさんとかいろいろと愉快ないい歌を作っている人もいっぱいいて。

もちろんR.ケリー自身の音楽の価値というのも、さっき言ったように歴史的価値というのは否定できないレベルなので。なんだけど、そういう特集とかをやっていた身としてはね、このお話をお伝えさせていただきました。今後、どういうことになるのかも注視していきたいなというような感じでございます。ただ、このR.ケリーの話に前に触れた時にも言いましたけども、難しいのはどんどんとさかのぼっていくと昔の映画監督だとか画家さんでも音楽家でもなんでもいいけど。まあ、いまの基準に照らしたら……いや、「いまの基準に照らす」っていうか、本当の人権意識とかで言えばもうアウトっていうことをやらかして。

しかもそれが作品のある種の質というか内容にそれなりに反映してるようなタイプの人っていうのはやっぱりいて。で、ここでアートと……アートってやっぱり、これはだから実際にそういう人の人権を蹂躙するようなことをするのはもちろん、絶対許されないし。僕もそういうのは憎みますけども。そのアートというものが「正しさ」のみを描くものではない以上、なんかそこにはすごく明確な線引きをできないし、しちゃいけない一線もあると思っていて。人間の脳内っていうか、考え。人間の危うさとか恐ろしさとかっていうことに関して、線引きをしきってはいけないものだと思っているところが僕、根治的に考えとしてはあって。

ただ、実際にそういう人権を蹂躙されたりしたような人がいる。被害者がいる問題となると……っていうこともあるから。

(山本匠晃)それが作品につながっている……。

(宇多丸)と、思われる人もまあ、いるはいるっていう。被害者っていうか、その人の歪んだ考えが、作品の特定の歪みが……で、その「歪み」ってアートにおいて魅力になったりするし。というか、なんなら人間のそういう醜さとかを描くことすらもアートの役割だったりするじゃないですか。だから、アーティストとしてそういうところをグイグイ、私生活でも追求しまくっちゃっているような人ってやっぱりいて。それこそ、わかりやすいところではドラッグとかね。破滅的な方向に行っていて、それが作品に現れていてっていう人はいるわけじゃないですか。

で、「人間はここまでいけちゃうんだな」っていうことを知る意味でも、アートとかの意味ってあったりするわけじゃない? いい意味でも、悪い意味でも。素晴らしい崇高なものを生み出せるけど、同時に最低の存在もなれる。その人間の可能性の両側を示すというのがさ、やっぱり人間と世界の可能性と言いましょうか。それがアートの役割であって。だから、やっぱりね、一定量そういう危うさは含んでいるものであって。もちろん、なんども言いますけども、現実に人権を蹂躙される現実の被害者っていうのはもう当然未然に、絶対に防がれなきゃいけないものだし。こういうことが明るみになって、本当に事実として認定されたんだったら、それは徹底的に罰されるべきもの。特にこの時代はそうであろうけども……というところで。

ただ、まあ私はもう50なんで。長年、親しんできたいろんな作品とかを考えると「あちゃー……あれ、あちゃー……」とかね。あと、あの時にそれを享受していた自分の感覚にも「あちゃー……」とかっていうものもあるし。で、ただその「あちゃー……」も込みで歴史的な意識をアップデートして。つまり、たとえばスパイク・リーの『ブラック・クランズマン』っていう映画では『風と共に去りぬ』であったり『國民の創生』であったり。あれは人種差別的な描写というのを含む「名作」という。

『ブラック・クランズマン』でスパイク・リーが描いたもの

でも、やっぱり『國民の創生』がその時代の映画というもの、もしくはそれ以降のいまに至る……MCUの『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に至るまでの映画文法に果たした役割っていうのも消すことはできないっていうこともあったり。あとは『風と共に去りぬ』が果たした……あれ、たとえば女性映画としては先進的な面もあるとかさ。そういうのがあったりとかして。みたいなところで、要は「これはいまとなっては人種差別的な描写を含む作品であるけども、歴史的な描写はこうで、こういうところも……」というような、まあ冷静な判断をアップデートしていく。

そのいまの見方が全てオールOKでもないでしょうしっていうね。だから『ブラック・クランズマン』がすごいのは、やっぱりそこも含めて……『國民の創生』が作り出した映画的テクニックを踏まえて『國民の創生』を批判するというようなことをやっているというところにスパイク・リーの映画的教養とクリエイターとしての映画的勇気と言いましょうか。それを感じて。そこはすごく、それ自体にめっちゃトンチがきいているし、かっこいい!っていう風に思ったあたりなんですけどね。

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(山本匠晃)改めて見直したくなってきました。

(宇多丸)あれはもう、素晴らしい映画でしたね。

(山本匠晃)いまのお話、考えさせるテーマでした。

(宇多丸)R.ケリー、動向を今後も注視していきたいなと思っております。

<書き起こしおわり>

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