DJ松永さんがTBSラジオ『ACTION』の中でCreepy Nutsの相方、R-指定さんの歌詞の緻密さと完成度の高さについてトーク。『阿婆擦れ』という曲の歌詞解説をしながら、その奥深さを紹介していました。
(幸坂理加)松永さん、今日のアクションは?
(DJ松永)Creepy Nutsのアルバムを作りました!
(幸坂理加)おおーっ! えっ、完成したんですか?
(DJ松永)うーん……というお話をいまからしようかなと思っておりますんで。コラムコーナーと言っておきながらも見出しがめちゃくちゃ告知みたいで(笑)。本当に、早くも申し訳なくなっているんですけども。私、DJ松永は相方であるラッパーのR-指定という男とCreepy Nutsというヒップホップユニットをやっております。そのCreepy Nutsの新しいアルバムが8月7日にリリースされます。
(幸坂理加)はい。
(DJ松永)そのアルバムは6曲入りのミニアルバムなんですけども。まあ「完成したんですね」ってさっき幸坂さん、おっしゃってくれましたが、現状6曲中2曲ができておりません。
(幸坂理加)えっ、でも8月……? 間に合うんですか?
(DJ松永)1/3ができてない。1/3が現状、影も形もありません。
(幸坂理加)ああ、構想はなんとなく?
(DJ松永)構想は頭の中ではできています。
(幸坂理加)おおっ! あとは形にするだけ!
(DJ松永)フハハハハハハッ! 信用出来ないよ、本当に(笑)。ちなみにどれぐらいヤバいか……8月7日に発売されるアルバムが現状、6月19日にできていないというのがどれぐらいヤバイかっていうと、だいたいアルバムの製作っていうのは楽曲のレコーディングを終えた後、ミックスという作業に入ります。ボーカルのデータ、ピアノやドラム、ギターなど各楽器のデータなど、いろんなデータを合わせて整えて1本のデータにまとめるという作業があるんですよね。その1本になったデータのことを2ミックスなんて言ったりもするんですけども。その2ミックスにする作業がある。で、それを全曲分、ミックスを終えます。その後で最後にマスタリング。1本になったデータに対して音源の調整をかける。
で、ミックスは各楽器ごとに調整してより細かい部分まで調整できるけど、マスタリングは1本のデータに調整をかける。そして完パケ、マスターデータ。製品版にする最後の工程までを含めて大きく「マスタリング」なんて呼んだりするんですけども。要は、お客さんに聞いてもらう最終形のデータにするのがマスタリングっていう作業なんですよ。で、その後にマスターデータをCDのプレス工場に納品する。で、工場でCDにするのに少々時間がかかりますので。だいたいこのマスターデータをCDのプレス工場に納品する時期っていうのは発売日の普通は1ヶ月半前ぐらいにしているんですよ。
(幸坂理加)ということは、だいたいいまの時期ぐらい?
(DJ松永)いま、もうしてないとダメ。で、「遅くても1ヶ月前ぐらいまでにはしておきたい」ってレコード会社の人はよく言ったりするんですよね。ちなみに、やっぱりあのCDのプレス工場って国内に数、そんな多くないんですよ。そんなに数が多くなくて。で、CDっていうのはね、発売日がだいたい水曜日なんですよ。だいたい水曜日。なんでかっていうと、これはオリコンの集計の問題なんですよね。
(幸坂理加)へー!
なぜCDの発売日は水曜日が多いのか?
(DJ松永)オリコンのウィークリーチャートで上位に食い込みたいって……まあ、古い風習みたいなものがまだ残ってるからだっていうのもあると思うんですけども。その1週間の集計をいちばん多く稼げるのが水曜日リリースの作品なんですよね。ウィークリー。でも、デイリーとかマンスリーのチャートっていうのもあるんですけども。たぶん、あれですよね。カウントダウン番組とかがあるからですよね。週一とかの。たぶん、そういう名残もあるんだと思うんですよ。
(幸坂理加)そういう関係で水曜日が多いのか。
(DJ松永)たぶんデイリーチャートで上位を狙うなら、全然何曜日でもいいんですよね。何ならみんな水曜日にリリースするから、別に他の曜日に出したらたぶんデイリーチャートで高い順位、チャートにに入るのはすごく容易なことなんですけども。たぶんウィークリーチャートがすごく重視されるっていう習わしがいまだに残ってるもんですから、やっぱりその習慣としてみんな水曜日にリリースをするっていうのも残ってるんですよね。でも実際に俺らがそのオリコンチャートを重視するタイプのミュージシャンか?っていうと、まったくそんなことないんですけども。まあ、ちょっと業界の習慣としてそうなっているところがあるんですよね。
(幸坂理加)はい。
(DJ松永)そうなってくるとやっぱり工場に集中をするわけですよ。その工場ラインって限られるわけで。そうなった時、それこそ前に出てくれた乃木坂さんとか、えらい枚数のCDがはけるアーティストと発売日が重なった時には、やっぱりちょっと時間を多く持っておきたいなっていうのがあるから、やっぱりちょっと1ヶ月前ぐらいまでには遅くとも入れておきたいっていうのがあるんですよ。だから、もうそろそろ納品していかないといけない時期を過ぎようとしているのに、まだレコーディングするだけとか、ミックスするだけとかいう段階でもない。いま、1から曲を作らないといけないやつが1/3あるという状況。
この短い時間でできてたら、もうとっくにできているんですよ。そんぐらいヤバい状況なの。で、ちなみになんでこの話をするに至ったかというと、レコード会社のソニーのスタッフと相談しまして。「マジで遅れそうだから、何も言わずに事前予告無しに遅れると事故感がエグいから『遅れるかもしれないよ!』ってラジオで言った方がいいかもしれないよね?」っていう(笑)。
(幸坂理加)アハハハハハッ!
(DJ松永)振っておいた方がよくね?っていう。いわゆる本当に個人的な事情が。
(幸坂理加)言い訳戦略ですね。
(DJ松永)そうなんすよ。ちなみに制作が遅れてる理由を話しますと……これはひとえに作詞を担当している私の相方、ラッパーR-指定さんの筆の遅さが原因です! 筆、遅えんす。俺、結構いろんなラッパーと曲を作ってきましたけども、あいつの筆の遅さ、たぶん他のラッパーの頭100個抜けてるね! 遅え、遅え! 半端じゃないよ! ちなみにR-指定さんっていう男はいま、流行っていますよね? 即興でラップする、いわゆるフリースタイルという技術が日本でいちばん上手いとされてる男です。だから無限に言葉が出てくる男。
(幸坂理加)ポンポンと作られてますよね。そういう場面では。
(DJ松永)そう。即興のラップで戦い合うフリースタイルダンジョンというテレビ番組ではラスボスという、最後に構えるいちばん重要な存在として君臨してる男ですよ。若くしてね。俺よりも年下ですよ、あいつは。そんな、誰よりも早く、たくさん歌詞を思い浮かべることができる男が、楽曲制作になるとスピードが群を抜いてめっちゃくちゃ遅い!
(幸坂理加)へー! こだわりが強いからということですか?
(DJ松永)まあ、端的に言うとそういうことなんですけれども。まあ、これは全部俺の想像なんで間違ってるかもしれないんですけども、理由をいくつか話そうと思うんですが。Rさんの歌詞って異常に完成度が高いんですよ。いろんなラッパーの曲、歌詞を俺、聞いてきましたけども、あいつほど実がつまっている歌詞を書くやつはほとんどいない。で、歌詞だけを見て読み物として捉えても、めちゃくちゃ完成度が高い。かつ、音的に、聴覚的に、ラップを「楽器」として捉えた時にもむちゃむちゃ完成度高い。これってめちゃくちゃ両立するのは難しいこと。
なんだろうな。その英語のラップでそれを両立するのが結構簡単だったりするんですよ。なぜかっていうと、英語って文節とかを結構コントロールしやすいんですよ。言葉を崩しやすい。で、日本語って言語としてカクカクしてるんですよ。だから、結構メロディーとかだったり気持ちいいフロウ――ラップで言うメロディーのことを「フロウ」って言うんですけど――フロウとかだったりを気持ちよくコントロールしようと思うと、聞き心地重視で作ろうと思うと、日本語ってめちゃくちゃ足かせになるんですよ。カクカクしてるから。
ちゃんと発音しようと思うとね、喋りに近くなっちゃうんですよ。地味になっちゃっていくくんですよね。だからその分、英語とかあと韓国語もそれがね、しやすいんですよ。英語に近い発音の仕方だから。なので韓国語のラッパーの人ってすっごく上手なんですよ。
めちゃくちゃ英語に近い。だからたぶんUSのヒップホップとも親和性が高い。
(幸坂理加)ああ、言語によってそれぐらい違いがあるんですね。
(DJ松永)ちなみに俺の友人の小説家の朝井リョウという男がR-指定の歌詞をすごく褒めていて。どう褒めているかというと「R-指定の歌詞は取り替え不可能な言葉の連なりでできている」って言うんですよね。言葉か全部、とんでもない必然性でつながれている。ひとつひとつ、とてつもなく厳しい多くの条件をくぐり抜けた言葉たちだけが連なっていくことを許されている。そういった言葉たちでできているっていうんですよね。だから一語たりとも、後で取り替えることができないんですよね。取り替えたら、たぶんガタガタっと崩れていってしまう。そんぐらい完成度が高い。
「R-指定の歌詞は取り替え不可能な言葉の連なり」(朝井リョウ)
なんかもう、無駄なものが全て削ぎ落とされていて、彼曰く「体脂肪4%のアスリートみたいな表現が残っている状態」って言うんですよね。でも、本当にそうだなと思うんですよ。あいつの歌詞はもう単純構造じゃなくて、たぶん赤字で注釈を入れていたら真っ赤になるんですよ。あいつの歌詞カードっていうのは。もう初めて聞いた時にも「ああ、素晴らしい歌詞だな」って思うけども、とてつもない、もう二層、三層、四層にもなっている構造があって。で、「こことここがかかっていて、ここはこういう表現になっていて。こういう言葉が出てくるのにはこういう文脈があって、こういう言葉はこういう昔の曲の引用なんですよ……」みたいな赤字を入れていくと、あいつの歌詞カードってたぶん真っ赤になってしまうぐらい、そんぐらいの完成版なんですよね。
あと、あいつはたぶんね、歌詞を書こうとしたら異常な数、思い浮かぶんですよ。とんでもない言葉がすっごい数、思い浮かんでくるんですよね。でも逆に、浮かびすぎる。浮かびすぎるから、その取捨選択する作業にすっごい時間がかかっているんだと思うんですよ。
(幸坂理加)ああ、もう頭の回転の早すぎて、いっぱい浮かんじゃう?
(DJ松永)浮かびすぎて詰まっちゃうんですよね。ちなみに俺も、まあもの作りをする立場だから分かるんですけども、取捨選択する作業って辛いんですよね。決断。要は歌詞を書き進めて2つの選択肢があるとしますよね? 全然道が違う。こっちに行くとこういう世界が待っているな、みたいな。で、こっちに行くとこういう世界があるなっていうようなAとBの二択があるとしますよね。で、Aの方がいいなって思ってAの方に行くと、もうBへの道筋はない世界に行ってしまうんですよ。自分が。それ、めちゃくちゃ怖いんですよ。Rさんっていうのは特に性格上すごい慎重なタイプで。どんな行動においてもフットワークが軽いタイプではないんですよ。
そうなってくるとやっぱりその決断をする作業ってすごい怖いと思うんですよね。特にあいつの場合は2つ、3つじゃないんですよ。選択肢が。あいつの場合は10個も20個も浮かんでいる可能性があるんですよ。頭の回転が良すぎるから。そうなってくるとね、やっぱり怖いですよ。だってもう……。
(幸坂理加)怖さも倍になるんですもんね。
(DJ松永)倍どころじゃないですよね。10倍、20倍になってくるわけですよ。その中で、あいつは完璧主義者でもあるから、いちばんベストなひとつを選ばないといけないんですよ。一語一語書き進めていく段階で毎回、その選択を迫られるわけですよ。怖いっすね、これはやっぱり。それで歌詞を書き進めるぞってなった時、筆を持った瞬間に「ああ、あの辛い決断が待っているんだ」って思うと、これは疲れますよ。歌詞を書く作業ってしんどいっすよ。だから、「もう即興でやってください」っていう場に立たされたら、そうやって迷っている暇もないから逆に楽だと思うんですけども。
「どれくらい悩んでもいいですよ。即興であれだけできる人が歌詞を考えるんだったら、素晴らしい歌詞ができますよね?」っていうハードルを課せられてる人間だから、たぶんよりしんどいと思うんですよね。で、やっぱりね、特に問題なのが「ラップ」っていう歌唱法は普通の歌と比べて圧倒的に文字数が多いんですよ。
(幸坂理加)ああ、そうですよね。
(DJ松永)そう。歌ってのは「あーーー」って言葉、語尾を伸ばしたりするでしょう? 語尾じゃないところも伸ばしたりする。でも、ラップっていうのはしゃべるように、いまのように言葉をどんどんと吐き出していくから、言葉を伸ばさない分、非常に言葉数が多いんですよ。詰め込まないと埋まらない。
(幸坂理加)ギュッと詰まっているんですね。歌詞カードとか見てもすごい文章の量ですもんね。
(DJ松永)だから歌詞カードを1回、みなさんね、マジで普通の歌とラップとを比べてみてほしいんですけども。歌詞カードの量がえげつないんですよね。で、さらにあらゆるラッパーの中でもR-指定さんっていうのはトップクラスに言葉数が多いタイプなんですよね。言葉数が多いゆえに磨き抜かれた言葉だけを選んでいくから、もう消費量がえぐい。さらに我々クリーピーナッツの曲って分数がめっちゃ長いんですよ。
あいつ、すごい起床転結を重視するんですよね。こういう導入があって、こうなっていって最後にこうオチがつきますよねっていう。パーッと一筆書きで書けるような歌詞は全く書かない。で、あいつは歌詞をノートで書いてるんですけど、あいつのノートってすごい面白くて。すごい一小節の言葉の塊みたいなのがノートに乱れ打ちになっているんですよ。超散らばっている。すごいあいつのノートってめちゃくちゃ散らかっているんですよ。本当にあいつの部屋みたい。
あいつの部屋って超散らかってるんですけども、あいつのノートってあいつの部屋みたいなんですよ。すっげー散らかっているんですよ。だからあいつのノートを見ると、「この言葉になっているから、ページをめくってこの言葉になって。このページをめくってこの言葉になって……」っていう。やっぱりあいつの頭の中には、そんぐらいいろんな選択肢が思い浮かんで。それを取捨選択する作業っていうのがあるんだなっていうのがね、あいつの歌詞を書くノートを見るとわかるんですよね。
(幸坂理加)そうか。散らばっているものをひとつにする作業っていうのも大変ですよね。
(DJ松永)すっごく、だからその取捨選択がね、怖いんですよ。取捨選択って本当に怖い。決断って怖い! だって全部思い浮かんで、本人は全部いいと思ってるんだもん。
(幸坂理加)二択でも怖いのに。
(DJ松永)で、やっぱり書き進めていくと客観的に物事を見れないから、どれがいいのか?って冷静な判断がつかないんですよ。で、ここでね、冒頭でも言いましたけども。告知みたいなコラムコーナーですから。ちょっとその8月7日に出る我々クリーピーナッツのニューアルバム。『よふかしのうた』っていうタイトルなんですね。そこに収録されてる1曲を紹介したいと思うんですけども。その中に『阿婆擦れ』という曲が収録されておりまして。この曲はどういう曲かと言いますと、普通に聞くとそのあばずれ……女性に対して向けている言葉、歌詞、曲なのかなと思うんですけども。
これはヒップホップを女性にたとえて書いた歌詞なんですね。ヒップホップのことを「あばずれ」と言っている歌詞なんですよ。ちなみに、ヒップホップというものを擬人化したり女性にたとえたりする曲っていうのは過去にも何曲かあったりするんですよね。有名なとこだとアメリカのラッパーのコモンが1994年にリリースした『I Used to Love H.E.R.』という曲があるんですけれども。
Common『I Used to Love H.E.R.』
まあたぶんそれを踏まえた上での曲だったりするんですよね。歌詞を読み上げたりすると……「お前が俺としたいのは口喧嘩 ただのディベート相手でしかないってか?」って言っているんですよ。これはつまりたぶん、「俺はバトルMCでしか輝けないのか? フリースタイルでしか輝けないのか?」っていうことを言い合っているんですよね。「大した武勇伝でもない俺じゃ、連れて歩くには頼りないかもな」って。たぶん不良でもない、そういうヒップホップ的なペインを背負っているわけでもない俺がラップをやって大丈夫なのかな?っていう葛藤ですよね。
「洒落た格好もできないような俺じゃ、派手なお前と釣り合わないもんな」っていう。「やっぱなんだかんだ言ってイカちぃのがいいのか? 胸板も財布も厚い方がいいのか?」って。まあ、リッチでもない、マッチョなタイプでもない俺でもいいのか?っていうような葛藤を歌っているんですよね。で、「お前を知りたい一心でお前の過去をほじくり返したり」っていうのは、たぶん過去の名作やヒップホップの歴史を学ぼうとする行為ですよね。
(幸坂理加)ああーっ!
(DJ松永)ヒップホップっていうのは歴史はそんなに長くはないんすけども、文脈を重視する文化でもあるから。で、「お前に近づきたい一心で無理に慣れない英語で話したり……」。これはヒップホップっていうのは、ヒップホップ独自のスラングがあったりするんですよね。英語の。だから、その慣れないスラングを使ってみたるするという。ネットでスラング辞典を検索して使ってみたり……っていうような自分のことが書いてあるわけですね。
で、「お前を振り向かせたい一心でガラにもなくワルぶりだしたり……」。要は不良でもないけど、やっぱり10代の頃、始めたての頃はベースボールキャップをかぶって、ダボダボの服を着て不良ぶってみたよねっていうことを言っているわけなんですよね。
(幸坂理加)へー!
(DJ松永)で、2バース目。いわゆるラップの2番の部分ですね。「リアルかフェイクかの線引き それも時代次第 いや、気分次第」。ヒップホップっていうのはやっぱり前にも話したかもしれないですけども。時代によって正解が変わる。その時代時代の流行の流れがめちゃくちゃ早いんですよ。やっぱりその時代にいちばん売れてる人たちじゃないと食べれない。特に日本語ラップの業界では。
そんぐらい厳しい業界なんですよね。だからそのリアルかフェイクかの線引きもすごく曖昧。ヒップホップの流行の移り変わりの激しさ、早さみたいなのをここで言っているわけですよ。「なのにみんな本物を演じきる 毎年抱かれる男を変える 半年、1月と早くなっていく 去年はあいつ、今年はあいつ で、明日は誰? で、俺はいつ?」っていう。
(幸坂理加)ああー、それが流行の移り変わりを。
(DJ松永)そう。で、俺はいつ、その流行の真ん中に行ける?っていう葛藤を歌っている。「『生まれも育ちも肌の色もあなたのままでいいのよ』って言葉を鵜呑みにしたまんま」。これはヒップホップって「ありのまま」を肯定する音楽だったんですよね。弱者に光を当てるための音楽でもあった。けれども、リアルかフェイクかにすごく厳しい文化でもあるというところのジレンマを歌っているということでもあるんですね。
(幸坂理加)へー! 奥が深い!
(DJ松永)そう。「ありのままでいいよ」って言ったじゃん? なのに、俺が「リアルヒップホップだ」って満場一致で認められるような時代、全然来ないけど……? みたいな。やっぱり不良にすごくスポットが当たっていないか? みたいな。10代の頃に鵜呑みにしたままなんだけど? っていうことを言っているんですよね。
(幸坂理加)へー!
(DJ松永)で、やっぱり最後にあいつ、オチをつけるのがすっげー上手くて。天才的に上手いんですよ。で、最後に「Yes, Yes, y’all and You don’t stop. To the beat y’all and you don’t stop.」っていう歌詞が出てくるんですけども。これが先ほど言った1992年にリリースされたコモンの『I Used to Love H.E.R.』のサビの引用なんですよ。そのサビの引用が出てくるんです。
(幸坂理加)ええーっ!
(DJ松永)で、ちなみにこのコモンのサビも、いわゆるヒップホップでよく使われていたフレーズの引用でもあるんですけども。そのコモンの文脈を踏まえて最後に引用する。で、この歌詞を見て「なるほど!」って思ったんですよ。それで最後に、この後にまたさらに出てくる歌詞に俺は「ああ、こいつすげえな!」って思ったんですけども。最後に「Yes, Yes, y’all and You don’t stop. To the beat y’all and you don’t stop.」って言った後に「I love HIPHOP だがHIPHOP don’t love me. ひっぱたかれてもっとfuck me」って言うんですよ。
(幸坂理加)うん?
(DJ松永)これはなにか?っていうと日本の伝説的なヒップホップグループ、ZEEBRAさん、K DUB SHINEさん、DJ OASISさんのキングギドラが2002年に出した『公開処刑』という曲のZEEBRAさんの歌詞の引用なんですよ。
キングギドラ『公開処刑』からの引用
これはなにか?っていうと、『公開処刑』っていうのは2002年にリリースされたんですけども。当時、キングギドラ……特にZEEBRAさんが思うフェイクな、かっこ悪い、偽物な、ダサい、パチモノなヒップホップに対する公開処刑っていう意味を込めた曲なんですよ。めちゃめちゃセンセーショナルな曲だったんですよね。これは当時、すっごい話題になったんですよね。
これがヒップホップの歴史の岐路になった曲っていう風に言われてて。ターニングポイントになったすごく重要な曲なんですけども。そこでZEEBRAさんがはフェイクヒップホップ、フェイクMCに対して「You love HIPHOP だけども HIPHOP don’t love you ひっぱたかれて速攻 fuck you」っていう風にフェイクMCに対して言っているんですよ。やっぱりリアルヒップホップであるZEEBRAさんがフェイクMCに対して言葉を吐いている。
けど、Rさんはここでこの『阿婆擦れ』という曲でヒップホップに恋い焦がれている。でも自分のものにならないというそのジレンマを歌った、そのヒップホップ自体を「あばずれ」と言った曲で最後に「I love HIPHOP だがHIPHOP don’t love me. ひっぱたかれてもっとfuck me」っていう風に言っているんですよね。「すっげー上手い言い回しするな! ここで『公開処刑』出してくるのか!」って。ここでリアルを追い求める側になって『公開処刑』のZEEBRAさんの歌詞を引用して。「I love HIPHOP だがHIPHOP don’t love me. 」って最後に言ってしまうというところに対して俺はやっぱりこいつ、センスありすぎて困るね!って思って。
(幸坂理加)たしかに、どれが欠けても成立しない感じですね。
(DJ松永)成立しない。最高な締め。こいつ、いい曲作るなって思ったんですよね。でも、間に合うかどうか現状、わかりません! じゃあ、聞いていただきましょうか。Creepy Nutsで『阿婆擦れ』。
Creepy Nuts『阿婆擦れ』
<書き起こしおわり>
ACTION | TBSラジオ | 2019/06/19/水 15:30-17:30 https://t.co/Zr2aT1Dfsu #radiko
DJ松永 R-指定の歌詞を語る— みやーんZZ (@miyearnzz) 2019年6月21日