松尾潔さんがNHKラジオ第一『かれんスタイル』に電話出演。目前に迫った2018年、第60回グラミー賞の注目ポイントについて桐島かれんさん、松浦弥太郎さんと話していました。
(松浦弥太郎)今夜は間もなく発表、第60回グラミー賞について、音楽プロデューサーの松尾潔さんにお話をうかがいます。松尾さん、こんばんは。
(松尾潔)こんばんは。お久しぶりです。
(松浦弥太郎)お久しぶりです。
(桐島かれん)こんばんは。よろしくお願いします。
(松尾潔)よろしくお願いします。楽しみにしていました。
(松浦弥太郎)松尾潔さんは音楽プロデューサー、ソングライターとして数多くのアーティストを……平井堅さん、JUJUさん、由紀さおりさんなどなど、もうたくさん、紹介しきれないほど楽曲を提供しています。『かれんスタイル』にも2年前かな? ご出演をいただきました。よろしくお願いします。
(松尾潔)よろしくお願いします。
(桐島かれん)お久しぶりです、松尾さん。いま、どちらにいらっしゃるんですか?
(松尾潔)いま、都内の某レコーディング・スタジオにおります。
(桐島かれん)レコーディング・スタジオ。お仕事中ですね。
(松尾潔)静かにしております(笑)。
(桐島かれん)さて、間もなくグラミー賞ですけども、ノミネートの発表をご覧になって今年の傾向ってどんな感じなんでしょうか?
(松尾潔)そうですね。今年はなんといっても主要部門がヒップホップやR&Bでほとんど占められてしまったという。もうそれだけでも、現時点で歴史に残る1年じゃないかなっていう気がしますね。
(桐島かれん)ああ、そうなんですか。
(松浦弥太郎)その中でも、松尾さんが特に注目してらっしゃるアーティストっているんですか?
(松尾潔)僕はね、チャイルディッシュ・ガンビーノっていうアーティストを。
(桐島かれん)チャイルディッシュ?
(松尾潔)ガンビーノ。まだね、そんなに日本で話題になったことがない存在かもしれませんが、この人は大変に多彩な人でして。まあラッパーであり、今回はアルバム賞とレコード賞にもノミネートされていて、そこではラップというよりも歌声を披露しているんですね。
Childish Gambino『Redbone』
(松浦弥太郎)ほう。
(松尾潔)で、これはそれこそ弥太郎さんなんかお好きだと思いますけども。ジョージ・クリントン率いるPファンクの影響下にあるような曲を、ちょっといまのモードでやってみたりするんですが。
(松浦弥太郎)ほう!
(松尾潔)この人はドラマの製作者、監督、そして主演俳優として昨年はエミー賞とかゴールデングローブ賞とかを取っている人で。
(松尾潔)今年は音楽の方でグラミーの方にノミネートされているという。
(桐島かれん)えっ! 随分と多才な人ですね。
(松尾潔)非常に多才な人でしてね。この人はまあこれでグラミーを取ったら、日本でもいろいろと取りざたされるんじゃないかなと思って。そういう期待も込みでね。
(松浦弥太郎)チャイルディッシュ・ガンビーノですね。
(松尾潔)ちなみに役者さんをやっている時は別の名前で。ドナルド・グローヴァーっていう名前でやっているんですけども。まあ、ある種星野源さんみたいな感じかな? 日本で言うところの。
(松浦弥太郎)なるほど。こういう方ってもちろん才能も素晴らしいと思うんですけど、きっとセンスもいいんですよね。
(松尾潔)そうですね。
(松浦弥太郎)で、そのセンスっていうのがこう、グラミー賞的にどういう傾向なんですか? たとえば、過去のノスタルジックなものを見つけるセンスがよかったりとか、あるじゃないですか。いろんなセンスがね。
(松尾潔)まあ、さっきちょっとヒップホップの話をしましたけども、そもそも去年、2017年にアメリカでもっとも消費された音楽ジャンルっていうのはヒップホップ・R&Bなんですよ。
(松浦弥太郎)はい。
(松尾潔)アメリカではもう、音楽の聞き方というのはストリーミングが主流になっているんですけども。ストリーミングが主流になったことで、デジタルでカウントが、ごまかしのきかない数字が出ているんですが。そうなってくると、ヒップホップがいちばん聞かれているジャンルだということが判明してきたんですね。
(松浦弥太郎)ほう! なるほど。
(松尾潔)で、そのヒップホップという音楽自体、成り立ちがそもそも古い音楽のいま聞いてもかっこいい要素を取り入れて、ある種換骨奪胎というか温故知新というか。そういう音楽なんで。もう自動的に過去を取り込みながら未来に向かっていくという傾向がすごく強くなっている気がしますね。
(松浦弥太郎)なるほど。今日の番組のテーマが「私が受け継いで残したいもの」なんですよ(笑)。なのでいま、松尾さんがお話いただいたひとつのセンスの傾向みたいなものが、まさにその大切に受け継いで残していきながら、いまの新しいものとして生まれだしていくということがあるんだなと、ちょっといまこの偶然にびっくりしたんですけども。
(松尾潔)もうひとつ、細かい偶然で言うと僕は福岡、博多出身ですから(笑)。それはともかく、やっぱり本当にいま弥太郎さんがおっしゃった通りで、過去にこそ未来があるということにみんな気づきだしたと思うんですよね。で、過去の中の要素を取り上げて再構築することで、それは未来に対してのツールになるっていうのがもう特別なことじゃなくなってきているというか。
(松浦弥太郎)そうなんですね。
(松尾潔)なんかもう、ヒップホップもいま、すでに成熟してきたのかな? という気がしますね。
(桐島かれん)松尾さん、グラミー賞といえば、授賞式でのパフォーマンスもいつも注目されますけども。今回は誰に期待したらいいんでしょうね?
(松尾潔)今回はね、ブルーノ・マーズ。カーディ・Bという女性ラッパーが共演することになっているんですが、このカーディ・Bという女性ラッパーの名前もぜひ覚えて頂きたいんですが。
Bruno Mars『Finesse Remix Feat. Cardi B』
(桐島かれん)カーディ・Bですね。もう、知らない人がいっぱいで困ります(笑)。
(松浦弥太郎)フフフ(笑)。
(松尾潔)まあね、昨年アメリカで最も成功した女性ラッパーで。わかりやすく言うと、ローリン・ヒル以来の大物女性ヒップホップアーティストと考えていただければいいんですが。その人とブルーノ・マーズという、まあここ数年常にトップの位置にいる。まあ、この春に日本にもやってくることになっていますが。その2人が最近共演したシングルを年明けからヒットさせているんですが。それを生でやるということで。たぶんこれがいちばん視聴率を取るんじゃないかな?っていう風に思いますし、僕も楽しみにしていますね。
(松浦弥太郎)先ほどもおっしゃいましたけども、まあグラミー賞という非常に大きなひとつのイベントですけども。これが本当に主となっているのがヒップホップとR&Bで。もう主役としてパフォーマンスもヒップホップ・R&Bが占めているという。これはもう、いま普通かもしれないんですけども、少し前に戻ったらちょっと考えられないですよね。
(松尾潔)本当におっしゃる通りで。ラッパーがタキシードを着て授賞式場にいるというのがいま、違和感なくなったんだなと思いますね。で、昨年、それこそ弥太郎さんがお好きなビヨンセが多数ノミネートされていましたけども。
(松浦弥太郎)はい。
(松尾潔)今年、ビヨンセの夫であるジェイ・Zが8部門でノミネートされているんですが。
(松浦弥太郎)すごいですね! ノミネートの数が。
(松尾潔)そうなんです。で、この8部門にノミネートされることで、いままでのノミネート数の合計がジェイ・Zは50近くになっちゃったんですが。
(松浦弥太郎)すごい(笑)。
(松尾潔)これはどういう数字かといいますと、いまジェイ・Zはノミネート数の総数でスティービー・ワンダーに並びました。あのスティービーに並んだといえば、そのすごさもお分かりいただけるんじゃないかと思うんですが。
(桐島かれん)いま、若い人はもう完全にこういう音楽しか聞かなくなったっていうことですか?
(松尾潔)うーん。こういう音楽「しか」とは言いきれないですけども。
(桐島かれん)でも、たとえばカントリーとか違うジャンルっていうのはなかなかもう出てきづらいっていうことですか?
(松尾潔)まあ、わかりやすく言うと、アフリカン・アメリカン以外のヒスパニック、白人、そういった人たちもみんなヒップホップの虜になってしまったという。ヒップホップももちろん、表現の幅はたくさん広がっていますから。以前の「YO! YO!」っていうイメージだけではないですからね(笑)。
(桐島かれん)わかります。娘たちが家で聞いているのは、もうほとんどヒップホップです。我が家も(笑)。
(松浦弥太郎)フフフ(笑)。
(松尾潔)中でもね、今年はロジックというアーティストが『1-800-273-8255』というこれはアメリカの自殺予防センターのフリーダイヤルの番号なんですが。この電話番号をタイトルにした曲で「とにかく道に迷っても生きろ!」っていうメッセージを。これが大変なシンパシーを生みましてね。これ、ちょっと台風の目になる楽曲なんですが。
(桐島かれん)最優秀楽曲賞にノミネートですね。
Logic『1-800-273-8255 ft. Alessia Cara, Khalid』
(松尾潔)そうですね。これに日本のヒップホップシーンでもこういうのに反応・感応している子たちがやっぱりいて。SKY-HIっていう日本の優れたラッパーがいるんですけど、彼なんかはこの電話番号を日本の電話番号に変えまして。『0570-064-556』っていう日本の自殺予防センターの番号にしてまたリミックス。日本語バージョンを作ることでこれに応えてみたりとか。
(松浦弥太郎)ほう!
(松尾潔)で、こういったことが全部いま、ネット上で行われているんですよね。だから、ネットで音楽を聞くっていう習慣のない方には「えっ、こんなことになっちゃっていたわけ?」っていうのを1年に1回、気づくっていうのがグラミー賞ですね(笑)。
(松浦弥太郎)そうですか(笑)。あの、今年のグラミー賞はどちらで松尾さん、ご覧になられるんですか?
(松尾潔)はい。この10数年、グラミーはLAでっていう風に決まっていたんですね。まあLAにグラミー・ミュージアムなんかもできていますけども。それが今年は第60回という節目の回ということもありまして……。
(桐島かれん)ニューヨークなんですよね?
(松尾潔)そうなんですよ! 東京よりも寒いと言われているニューヨークに僕、明日行くんですけども(笑)。で、ニューヨークのいわゆるグラミー賞の本戦はマジソン・スクエア・ガーデンですね。スケールの大きな話ですが。
(松浦弥太郎)おおっ! なんかある意味、またちょっといままで経験できなかった盛り上がりがあるんじゃないですかね。ニューヨークだと。
(松尾潔)そうですね。ニューヨークのお客さんたちは概して厳しいと言われていますから。ちょっとそこで西海岸からやってきたアーティストたちは多少なりともビビリながらパフォーマンスするんじゃないかと思っていますけどもね(笑)。
(松浦弥太郎)そういうところも見どころですよね。
(松尾潔)そうですね。
(桐島かれん)松尾さんには翌週、来週の『かれんスタイル』でグラミー賞授賞式の興奮をぜひお伝えください。報告お願いします。
(松尾潔)はい。現地の報告をしたいと思います。
(松浦弥太郎)今夜の『かれんスタイル通信』は音楽プロデューサーの松尾潔さんでした。ありがとうございました。
(桐島かれん)ありがとうございました。
(松尾潔)こちらこそ、ありがとうございました。
<書き起こしおわり>