町山智浩『ジョン・ウィック:パラベラム』を語る

町山智浩『ジョン・ウィック:パラベラム』を語る たまむすび

(町山智浩)そういう人なんですよ。この人ね、寂しくなった理由っていうのがあるんですよ。この人、1999年に『マトリックス』が世界最大のヒットになって、この人のもとにはそれこそ何十億円って入ったんですね。50億円とか入ったのかな? でも、その大ヒットのわずか5ヶ月後に、お子さんを亡くしちゃったんですよ。

(赤江珠緒)あら……。

(町山智浩)そう。その後、籍は入れていなかったんですけど、奥さんみたいな人がいまして。その女性がお子さんを死産したんですけども。で、その後もなんとか2人でそれを乗り越えてやっていこうとしていたのに、交通事故でその奥さんも死んでしまったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? それは辛い……。

(町山智浩)そう。で、そのぐらいからキアヌ・リーブスはもう笑わなくなってしまったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? そうなんですか、うん。

(町山智浩)昔は結構コメディーに出ていて。『ビルとテッドの地獄旅行』とかで「アハハハハハハッ!」とかやっていた人なんですけども。もうだいぶ違う人になっていって。で、『マトリックス』は2と3っていう続編が作られたんですが、その時には「もうお金なんかいらないよ」ってギャラを完全に放棄したんですよ。ギャラっていうか、売上があるんですね。主演俳優だから興行収入のパーセンテージでもらえるんですよ。それを完全に放棄したんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、スタッフのSFXをやっている人とかそういった人たちに全部そのパーセンテージを配分したんですよ。全て。その額は100億円ぐらいって言われています。「でも、俺いらないから……」って。まあ、だから相当に鬱になっていたんだと思うんですけどね。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)でもね、本当にこの人はいい人で。だからその時、もうひとつ嫌なことが重なって。彼の妹さんが白血病になっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ずっと看病をしていて。それで死の宣告をされていて。で、ただなんとか妹さんは助かって。で、彼はほとんど全財産をそのガンの研究施設とか子供でガンや白血病で苦しんでいる人たちの施設に全部寄付しちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからこの人、一時は家もなかったんですよ。ホテルに住んで、家を一時は持っていなかったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)すごい人なんですよ。「お金なんかいらない」っていう人なんですよ。ただね、いつもバイクでウロウロしていて結構よく見られるんですけど。オクタヴィア・スペンサーっていう女優さんがいるんですね。この人は『ドリーム』とか『シェイプ・オブ・ウォーター』に出ている黒人のおばさんの役をやっている人です。目が大きい。で、アカデミー賞も取っていますけども。

この人、全く売れなくてハリウッドで貧乏をしていて、ボロボロの服とボロボロの車に乗ってオーディションを回っていた頃があるんですよ。で、その時にオーディションに行く途中で車が故障をしちゃったんですね。立ち往生しちゃったんですよ。で、オーディションに行けない。誰か助けて!って思っても、携帯もない時代だったのか、携帯を持っていなかったらしくて、どうしようもなかったんですね。彼女はお金もなくて。タクシー代もなくて。

そしたらそこにいきなりヘルメットをかぶってバイクに乗った人がバーッと来て。「どうしたの?」「困っているんです。オーディションのここに行きたいんです」「いいよ」って言って、助けてくれたんですって。その人、ヘルメットを取ったらキアヌ・リーブスだったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)だからオクタヴィア・スペンサーさんはいまもキアヌ・リーブスの映画は全部初日に行くって言っていますね。「あの人がいなければ私はいなかった。ハリウッド女優にはなれなかった」って言っているんですよ。

オクタヴィア・スペンサー、キアヌ・リーブスを語る

(赤江珠緒)全部のエピソードがなんかすごいですね。キアヌ・リーブス。

(町山智浩)すごい人なんですよ。この人ね、いまもこういう人として、この間は飛行機がなんかトラブルがあって不時着しちゃった時にそこに乗っていたお客さんを全部マイクロバスに乗せて運んであげたりしているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)この人ね、『リトル・ブッダ』っていう映画でお釈迦様の役をやっているんですよ。

(赤江珠緒)なんか達観しちゃってますもんね。

(町山智浩)そう。まあ、すごい殺していますけども。この映画で170人とかね。だけどそれはなんて言うか、いわゆる成仏させてあげているんだと。相手はみんな殺し屋とか悪いやつばっかりだから。そのまま業を重ねるよりもいいんじゃないかっていうことで。で、殺す時にかならずジョン・ウィックはこう言うんですよ。余裕がある時は相手に向かってね、「また会おうね」って言うんですよ。「地獄で会おう」っていうことなのか、それともお釈迦様だからあの世で待っているのかもしれないですけども(笑)。最後にね、「また会おうね」って優しく言うんですよ。

(赤江珠緒)うわっ、怖い! 殺し屋が言うセリフとしては本当に怖い!

(町山智浩)優しく言うんですよ。というね、仏のようなキアヌ・リーブスが170人殺すという『ジョン・ウィック』でした(笑)。

(赤江珠緒)はー! でもそうか。キアヌ・リーブスさんのプライベートを知りませんでした。そうだったんですか。

(町山智浩)そうなんです。本当に辛いことがいっぱいあって。普通だったら耐えられないようなことに耐えてきた人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それを乗り越えての170人殺しですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。はい。今日は『ジョン・ウィック:パラベラム』をご紹介いただきました。日本では10月ぐらいの公開予定となっております。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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