町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカ・フロリダ州の高校での銃乱射事件をきっかけに全米で起こった、高校生たちによる銃規制を訴えるデモ行進「March For Our Lives」について話していました。
(町山智浩)それで、また冠の番組がありまして。『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』という、他局ですが。BS朝日の番組が、いままでは不定期だったんですけど、4月からレギュラーになります。自分で言うのもなんですが、おめでとうございます。
(山里・海保)おめでとうございます!
(町山智浩)4月7日から、毎週土曜の夜11時に放送されますのでよろしくお願いします。それで、これはアメリカに僕が住んでいるので、あちこちに行って人に会って話を聞くという内容なんですけども、この間の土曜日。3月24日にアメリカで「March For Our Lives」という高校生による大行進が全米各地で行われたんですけども。それをその『町山智浩のアメリカの“いま”を知るTV』で取材してきましたので、今日はその話をさせてください。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)この「March For Our Lives」というのは訳すと、「我々の命のための行進」という意味なんですが。これはフロリダで2月14日のバレンタインデーに高校にライフルを持った19才の卒業生が突入してきて、生徒15人と先生2人の計17人を射殺するという事件が起こりまして。それでその高校生たちが「もうたくさんだ!」と。「これ以上、中学や高校での銃撃はたくさんだ!」ということで、「Never Again」という……「もうたくさんだ、二度とやるな」っていうキャッチフレーズで彼ら高校生が運動を起こしまして。「このままでは政治家や大人たちは何もしてくれない。1999年にコロラド州コロンバイン高校で銃乱射事件があってから、ずーっと銃撃が続いているのに全く銃規制が行われない。こうなったら大人には任せておけない。我々は選挙権はないけど、立ち上がるんだ!」ということで、運動が起こったんですね。
(山里亮太)はい。
「もうたくさんだ!」
(町山智浩)そこからいろんなことが起こったので説明をしていきますと……まず、すぐにテレビ局がそこに行って、高校生の子たちにインタビューをしたわけですけど、いままでだったら「大変。怖いわ……」みたいな話で、「悲しいです」とかだったんですけど、そうじゃなくて彼らははっきりと怒りを表明したんですね。2人の17才の高校生がいまして。1人はデイビッド・ホッグ(David Hogg)くんという男の子。もう1人はエマ・ゴンザレスさん(Emma Gonzalez)という女子高生なんですけども。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)この2人がはっきりと言ったんですけども、「こんなにひどいことが起こっているのは政治家が全米ライフル協会(NRA)から金をもらっていて銃規制ができないからだ! 恥を知れ!」と言ったんですね。はっきりと。で、そこから爆発的な問題になりまして。まあ、いわゆる右翼の人たちが「このデイビッド・ホッグくんは偽物だ。学生のふりをしているリベラルが雇った俳優だ」という嘘ニュースを流したり。
(海保知里)フェイクニュースを……。
(町山智浩)フェイクニュースなんですよ。ものすごい嫌がらせのメールとかを彼らに送ったりして大変な事態になっていたんですけど、彼らは逆にそれではっきりと運動を起こすということで。「3月24日に首都ワシントンDCで行進をする!」と宣言して、それに向かって運動を固めていったんです。で、NRA(全米ライフル協会)について少し説明をしますと、これは全米に500万人いる、銃を所持している人たちの団体で。1人年間35ドルの会費を払います。これは最低会費なんですよ。プレミアム会費みたいなのだと1人1年間に1000ドルみたいなのもあるんですけども。でも、この通常会費だけで合計で2億ドル、行っちゃうんですよ。
(海保知里)すごい収入。
NRAの絶大な資金力と影響力
(町山智浩)それにさらに、銃メーカーであるとかいろんな団体とかからの大口寄付とかがあって、合計の年間の持っているお金は4億ドル(約400億円)と言われているんですよ。で、特に共和党系の人たち、議員たちがこのお金を受け取ってます。もっともこのお金を受け取っている人は、ドナルド・トランプ大統領です。
(山里亮太)なるほど。
(町山智浩)彼は2016年の選挙の時に、直接受け取っただけでも1200万ドル。で、さらにライバルのヒラリーに対するネガティブキャンペーンとしてこのNRAは2000万ドルをつぎ込んでいますので、合計で3200万ドルがトランプのために使われているんですよ。
(山里亮太)はー!
(町山智浩)32億円以上ですね。だからこれはもう絶対に彼らは取り締まれないんですよ。だから、これはもう世の中を動かすしかないんだということで、高校生たちが立ち上がったんですね。で、なにが行われたのか? というと、2月21日にCNNの主催で直接政治家とNRAの広報の人と、事件が起こって友達が殺された高校生たちがディベートという形で直接対決しました。それで、共和党のマルコ・ルビオ上院議員という、この人はトランプと最後まで共和党の予備選で争っていた大統領候補だった若手議員なんですけども。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)その人に対して高校生たちがはっきりと、「一言しか言うことはありません。『NRAから金を二度と受け取らない』と言ってくれますか?」って言ったんですよ。そしたら、そのルビオ上院議員は「いや、僕は自分を支持してくれる人からの献金は受け取るよ」としか言えなくて。それに対してさらに高校生たちは「ここでNOと言ってくれ!」と言ったんですけど、ルビオ上院議員は言えなかったんですね。
(海保知里)はい。
(町山智浩)これでまた、「彼らはあまりにも高校生にしては戦えすぎる。だからCNNがシナリオを書いたんじゃないか?」っていうようなフェイクニュースがまた流れたんですよ。もうそんなのばっかりなんですよ。それと同じ時に、お子さんを殺された遺族、お父さんたちがホワイトハウスに行きまして、ドナルド・トランプ大統領に直接「何らかの規制をできないのか?」と訴えたんですけども、それに対するドナルド・トランプ大統領の答えは「学校の先生たちに銃を持たせます」だったんですよ。
ドナルド・トランプ大統領「学校の先生たちに銃を持たせます」
(山里亮太)うわー……。
(町山智浩)これはNRAのポリシーなんですね。NRAが言っているのは、「いい人たちがたくさん銃を持てば、悪い銃を持った人たちを殺すことができるから銃の犯罪はなくなる」っていうポリシーなんですよ。どう思います? 学校の先生が腰に拳銃をつけて授業をするんですよ。
(山里亮太)恐ろしい考え方ですよ、そんなのは。
(町山智浩)これ、『ビッグマグナム黒岩先生』っていう漫画が昔、あったんですよ。横山やすしさんが映画化した時にやっていましたけど。殺人許可証を持った教師が不良高校に行って、マグナムを撃ちまくるという漫画があったんですけど……それ、漫画ですよ?
(山里亮太)ギャグ漫画でしょう? 言っても。
(町山智浩)そうですよ。それを本当にやろうって大統領が言っているんですよ。だからもうこんな状況なんで高校生たちは「そうじゃないだろ!」っていうことで。まずやったのが、3月14日。普通の日だったんですけど、全米の学校で17分間、授業をボイコットするという運動を始めました。これは17人が殺されたことに対する追悼なんですけども。わざわざ、授業を途中で抜けるということをすることで、「これは問題になるんじゃないか?」と言われたんですよ。アメリカでは。
(海保知里)はい。
(町山智浩)というのは、アメリカの大学受験は内申重視なんですよ。統一テストも一応見るんですけど、内申がかなり重要視されるので、こういったデモに参加するといい大学に入れないんじゃないか?っていう危惧があるんですね。いま、アメリカはもう受験が日本よりも競争率が厳しいんで。だから、参加者が少ないのかな?って思ったんですけど、その時にマサチューセッツ工科大学(MIT)とかアメリカの一流大学が全部、「このデモに参加することは市民としての当然の権利なんだから、これに参加したことでマイナスにはならない」と宣言をしたんですよ。だから「みんな、デモに参加しなさい」っていうことですよ。
(山里・海保)ああーっ!
(町山智浩)「これは市民としての義務なんだから」と。ましてやこれは自分の命を救うためのことですからね。だから、全米でみんな一斉にそれに参加したんですけども。まあ、17分間ですけどね。
全米で高校生たちが17分間、授業をボイコット
(海保知里)それでも違いますからね。
(町山智浩)で、この間の24日の大行進ということになったんですね。で、その時にまたいろいろと言われたのが、「高校生だけでそんなデカいイベントを主催できるわけがないんだ」という風に言われたんですよ。で、実際はお金を出してくれた大人たちがいました。それはたとえば、スティーブン・スピルバーグですね。あと、ジョージ・クルーニー。テイラー・スウィフト。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)テイラー・スウィフトは50万ドル(約5000万円)。ジョージ・クルーニーも5000万円ぐらい出してますね。あとは企業でコンバース。スニーカーのコンバースもお金を出しました。だから彼ら、高校生はお金がないから行進に参加するための交通費であるとか、あとは舞台を作ったりするためにPAを雇ったりしますよね? そういったお金とか、ホテル代とか、そういったものの援助のために企業とか大物たちがお金を出しました。そのワシントンでのステージと、僕はまあロサンゼルスで見たんですけども、スピーチをしたのは全部高校生だけでしたよ。
(海保知里)ああ、そうなんだ。大人じゃなくて。
(町山智浩)はい。大人は歌手が来て歌を歌う。マイリー・サイラスとかアリアナ・グランデとか、超大物がみんな来て、歌だけ歌ってくれたんですけども。だからこれ、日本のたとえば企業がこういった学生デモにお金を出しますか?
(海保知里)聞いたことがないですけどね。
(町山智浩)出さないですよね。政治的な色が付いちゃうから。だからそこが全然違うなというところですね。で、特に今回の行進とかデモでいちばん戦闘に立って、『TIME』という雑誌の表紙にもなっているアイコン的な存在がエマ・ゴンザレスさんという17才の、このスキンヘッドの女の子なんですね。
エマ・ゴンザレス
(海保知里)うん。
(町山智浩)彼女はCNNが放送したスピーチとかですごい印象的なことを言ったので、世間から注目をされているんですよ。まず「私たちの世代はとにかくマスコミからこう言われている。政治とか社会に関心がなくて、スマホや流行ばかりを追いかけている。そんなのは嘘っぱちだ。それはあなたたちが私たちに押し付けているイメージなんだ!」って言ったんですね。その時、「そんなのは嘘っぱちだ!」って言うのに英語で彼女がこう言ったんですよ。「We call BS」って言ったんですね。
(海保知里)うん。
「We call BS」
(町山智浩)「BS」っていうのは「Bull Shit」っていう、「牛の糞」っていう言葉なんですよ。「Bull Shit」っていうのは「嘘っぱち・デタラメ」っていう意味なんですね。ただ、「Bull Shit」っていう言葉はテレビでは放送できないんですよ。夜遅くだったらいいんですけど、昼とか朝のニュースではダメなんですよ。牛のウンコだから。だから彼女は「BS」って略して言ったんで、これがいま、流行語になっているんですよ。
(山里・海保)へー!
(町山智浩)だからまさしくフェイクニュースだとか世間が作るイメージに対して「それはBSだ!」っていうのがいま、すごい流行語になっているんです。で、僕はロサンゼルスの方のデモに行ったんですけど、みんなプラカードを持って高校生たちが集まっているんですけど。「We call BS」とかですね。あと、「Never Again(二度とごめんだ)」っていうのもプラカードでありました。いろんなプラカードがあって。「Shame On You(恥を知れ)」とか。
"We call BS…" People marching in #MarchForOurLives in St. Louis, Missouri. @AMarch4OurLives @AMarch4STLLives #StLouis pic.twitter.com/3MPrT4UAq6
— Becky (@Rebecca_221B) 2018年3月24日
(海保知里)ああ、はい。
(町山智浩)あと「Not One More(もう1人も殺さないでくれ)」とか。あと、すごく悲惨だったのが「Am I Next?」っていうやつなんですよ。「次に殺されるのは私なの?」っていうね。あと、「Enough is Enough(もうたくさんだ)」とか。あと、すごくはっきりとしているのは「Vote Them Out」っていう言葉ですね。つまり、「NRAからお金をもらっているやつらを次の選挙で落選させろ!」っていうことですよ。だからすごくこのデモは雰囲気だけのデモじゃなくて、明確なデモで。まず、銃の規制に関して、フロリダでは18才から銃を持てるんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)アメリカ人って21才まで、タバコも酒の買えないんですよ。タバコも酒も買えないのに、銃は買えちゃうんです。おかしいだろ? と。だからそれだけでも……「銃を購入できる年齢を21才まであげてくれないか?」と。特に、学校銃撃事件は学校でいじめられていたりした人たちが卒業や転校をして、その後に銃を持って仕返しに来るという場合が多いので、21まで年齢を上げるだけでも相当防げるんですよ。
(海保知里)そうなんですね。
タバコも酒も買えないのに、銃は買える
(町山智浩)今回の犯人も19才だったんですね。だから、それだけでもやってくれと言って彼女たちは訴えて。特に、デモになる前にフロリダの方ではずーっとそれを、NRAとかからお金をもらっている議員が州議会の60%以上を占めているんで、なかなかそれを通さなかったんですけども、フロリダでは激しくデモが繰り返されて、とうとう年齢を21才まで引き上げられました。
(山里亮太)へー!
(海保知里)それで動いたんですね。
(町山智浩)そう! 本当に動いたんですよ。あと、「学校を襲う」とか「自殺する」とか言っている人がいた場合、それを警察に通報したら警察がその人から銃を取り上げるということも可能になりました。でも、いままで可能じゃなかったって異常だなと思いましたけども。でも、確実にこれは動かしたんですよ。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)で、24日のスピーチでもすごかったのは、顔面に弾丸を受けて両足を撃たれたサマンサ・フェンテス(Samantha Fuentes)という女性とがスピーチをしたんですけども、その時にハッピーバースデーっていう歌を歌ったんですね。これは、殺された男の子の1人、ニコラス・デュレット(Nicholas Dworet)っていう男の子がその3月24日が誕生日だったんですよ。18才になるはずだったんですよ。で、彼は水泳で東京オリンピックを目指していたんですよ。
(山里亮太)ああー……。
(町山智浩)で、さらにスピーチの非常に強烈なエマ・ゴンザレスさんは逆にステージに立っても何もしゃべらなかったんですよ。6分20秒、沈黙をしたんですよ。その6分20秒っていうのは、銃撃が続いていた時間なんですよ。6分20秒間、17人が殺されたということをみんなに体験してもらうために、それを沈黙に使ったんですね。スピーチをしないで。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)これはやっぱりすごいことで、うちの娘は子供の頃からアメリカにいるんですけど、幼稚園、小学校と「1+1」とか「ABC」を覚えるよりも先に銃撃にあった時の避け方を教えられるんですよ。アメリカは。
(海保知里)ええーっ!
(町山智浩)それがアメリカなんですよ。でも、それはなにがなんでもおかしすぎるだろうということでね。いま、かかっている歌はその高校、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校の生徒たちが銃撃の後に作った歌なんですけども。『Shine』という歌で、彼らが歌っているんですけど、これは「『若い者が何をしたって、世の中は変えられない』、そんなたわ言は聞き飽きたわ!」っていう歌詞なんですよ。
(海保知里)うん。
(町山智浩)でも、実際に変わっていっているわけですね。実際にNRAと提携している企業とかはどんどん関係を切っていってるんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)NRA会員にディスカウント(優待割引)とかをしていたんですね。デルタ航空とか。それをもう止める。レンタカー会社とかも止めるって言っていて、だから世の中が本当に変わってきつつあるんですけども。
(海保知里)うん。
(町山智浩)ただ、すごく印象的だったのは僕がデモに行ったり、ワシントンのデモでスピーチをしている人たちも見たんですけども、圧倒的に女性なんですよ。
(海保知里)やっぱりそうなんですか。
(町山智浩)女生徒ばっかりです。なぜならば、学校銃撃犯はほとんど100%が男なんですよ。こう考えると、ほとんど男しかしない犯罪って……レイプですよね。だからたぶん、非常にいま問題になっている「Metoo」ムーブメントとかと関連をしていて。乱射事件もレイプと同じで、非常に性的なものなんだろうと思うんですよ。これもね、すごくいま現在起こっている「Metoo」ムーブメントとかセクハラ告発とつながっていることなんだろうなと思うんですよね。だから、いろいろと考えさせられるところがありましたけども。
(海保知里)はい。
(町山智浩)やっぱりね、変わるんですよ。「デモで変わらない」とか言っている人たちとは大間違いで、いまはアメリカ、変わってますから。政治家たちが1999年の(コロンバイン高校の)銃撃から20年間、何も変えられなかったものを高校生たちが動き始めたらはじめて変わったんですよ。で、彼らは「投票に行く」っていうことも非常に重要なんですよね。だから、変わるんだっていうことは日本の人もちょっと……諦めないで。変わるから。と、思ってほしいです。はい。
(海保知里)そういえば、この『たまむすび』の前の番組のパーソナリティーのジェーン・スーさんがエマ・ゴンザレスさんのジャケットにキューバのマークがあるっていうのを……。
(町山智浩)だって彼女はキューバ系だもん。
(海保知里)ああ、キューバ系だから。
(町山智浩)フロリダの人は圧倒的にキューバ系が多いんですけど、それを見て右翼の人たちが「彼女はキューバ系だから反米だ!」って言っているんですよ。
(山里亮太)それがフェイクニュースとかで使われちゃうんだ。
(町山智浩)そう。「あいつはキューバ系だから反米だ!」って。日本でもそういうことを言っているやつがいっぱいいるんだけど、クズ野郎ばっかりだよ、お前ら!
(山里亮太)BS。
(海保知里)BSね。
(町山智浩)僕の番組はBS朝日なんですけどね(笑)。取材で行くたびにね、「BS?」って言われてね……(笑)。
(山里・海保)フハハハハハッ!
(町山智浩)取材が非常にしにくかったです、はい。
(山里亮太)BS朝日ですね(笑)。
(海保知里)町山さん、今日で私、最後になるんですけども。1年間、どうもありがとうございました。
(町山智浩)ああ、どうもありがとうございました。本当にやりにくかったと思います。みんな僕の責任です。すいませんでした!
(山里亮太)ええーっ?
(海保知里)いやいや、ありがとうございます(笑)。
<書き起こしおわり>