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町山智浩『フィールズ・グッド・マン』を語る

町山智浩『フィールズ・グッド・マン』を語るたまむすび
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町山智浩さんが2021年2月2日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『フィールズ・グッド・マン』を紹介していました。

(町山智浩)ということで、今日紹介する映画は『フィールズ・グッド・マン』という非常に奇妙なタイトルのドキュメンタリー映画で。日本では3月に公開される予定ですね。これをちょっと今、紹介したいのは、この間の1月6日のトランプ支持者による議会議事堂襲撃事件と関連しているからなんですよ。これね、『フィールズ・グッド・マン』ってドキュメンタリーですけれども。ある漫画の主人公でペペ・ザ・フロッグというカエルのキャラクターがいるんですよ。それが主人公なんですね。

(山里亮太)はい。

(赤江珠緒)なんか味のある絵で。かわいいですね。

(町山智浩)はい。これ、ぺぺくんっていうカエルなんですけれども。それをアメリカのアマチュア漫画っていうのがあるんですね。「アンダーグラウンド・コミック」って言われている出版社を通して出していなくて……まあ、同人誌ですね。同人誌に書かれていた漫画なんですよ、これ。で、これが知らないうちに恐ろしい感じでネットの中で成長させられてしまったというドキュメンタリーなんですよ。

で、これを書いてた人はうちの近くのサンフランシスコにでおもちゃ屋さんの店員さんをやってる若者で。マット・フューリーという人。マットくんっていう人なんですね。で、自分が学生時代に友達と共同生活をしてた頃の思い出を自分自身がこのカエルのキャラクターになって書いた漫画で。で、この『フィールズ・グッド・マン』っていうのはね、「○○マン」っていうような感じのスーパーヒーローとかじゃなくて、英語で「MAN」っていうのは「だよね」っていう意味なんですよ。「○○だよ、メーン!」とか言うじゃないですか。あれで。だから『フィールズ・グッド・マン』っていうのは「気持ちいいね」っていう意味なんですよ。

で、それが口癖みたいな感じの非常に明るいカエルがぺぺくんなんですね。で、それを彼が書いて。同人誌だからそれこそ数百部とか売って。それで自分のサイト、ネットに載せたんですよ。SNSとかにそのファイルを載せたんですよ。そしたら、それが知らない人たちがコピーされて、どんどんネットで使われていっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ほう。

(町山智浩)まず、アメリカには4chanっていうのがあるんですね。これはこれは日本の2ちゃんねるという匿名掲示板の真似から発展して作られたアメリカ独自の匿名掲示板なんですけども。そこでこのぺぺが使われていったんですね。で、元々は「feels good!」っていう、なんというか陽気なキャラだったのに、だんだんと暗い暗いキャラにされていっちゃったんですよ。絵を勝手にいじられて。「人のキャラクターだけど、どうせ同人だから著作権ねえや」っていう感じでどんどん絵をいじっていって。暗いキャラクターにしちゃったんですよ。そこに絵があると思うんですが、悲しそうな顔している絵ですよね。

(赤江珠緒)ああ、本当だ。

(町山智浩)で、勝手に悲しいぺぺにして、それで言葉、セリフを勝手に書いて。「みんな結婚したけど、俺はできないな」みたいな。その、あんまり友達がいなくて、彼女がいるような人たちを恨むというキャラクターにされていっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、普通に結婚している人たちを「ノーミー(normie)」っていうんですけども。「ノーミーのやつら、本当に憎いぜ」とかっていうセリフを勝手につけられちゃうんですよ。で、ただそれだけでは大した問題にはならなかったんですけれども、すごく問題になったのは2014年にカリフォルニア州サンタバーバラでエリオット・ロジャーという学生がですね、「モテない」というただそれだけの理由で銃とナイフと自動車で無差別に7人を殺し、14人を負傷させるという事件があったんですよ。

(赤江珠緒)ひどい……。

(町山智浩)「モテない」という、それだけなんですよ。で、犯行声明は「モテないから全部殺す」って書いてあったんです。無差別です。ところが、それに共感した人たちがSNSに大量に出てきたんですねえ。その4chanとかで。それで「彼のことを尊敬する」とか言って。で、その時に彼らが使ったのがそのぺぺくんだったんですよ。

(山里亮太)その象徴にされちゃったんだ。

(町山智浩)そう。銃とかをぺぺくんに持たせて、人を無差別に殺したりしている絵を勝手に作られて。それをそのネット掲示板に載せられちゃったんですよ。そこからどんどん拡散していくんですね。で、それが過激化していって、ぺぺがテロリストになっていたり、ナチスになって、ヒトラーみたいなちょびヒゲをつけてたり。KKKっていうアメリカの白人至上主義団体の白いとんがり帽子をかぶせられたりして。ぺぺくんが世の中とかに対して恨みを持つ人たちの象徴にさせられていったんですよ。

で、それだけだったらまだよかったって言うとあれなんですけども……それでね、この漫画を書いたマットくんはその時に自分の書いていたぺぺくんがそんなことになっていたと気づいて、パニックを起こすんですね。「大変なことになってしまった!」って。でも、もう止められないんですよ。彼自身もその著作権登録をしていなかったっていうこともあるし。で、匿名掲示板だから誰がやっているのか、わからないんですよ。で、どんどんどんどん拡散してきて、止められないんですね。だから、日本でそういうのって2ちゃんねるで昔、「やる夫」っていうキャラクターがあったじゃないですか。アスキーアートで作る。あれみたいな感じなんですよ。

(山里亮太)はいはいはい。

(町山智浩)誰が作ったのかわからないキャラクターで。ただ、このぺぺくんは誰が作ったかわかっているんですけど。ただ、それはマットくんしか知らない。ほとんどの人は誰が作ったのか、知らないんですよ。で、どんどん拡散していって。ただ、まだまだアンダーグラウンドなものだったんですけど、2015年に大統領選挙にドナルド・トランプが出馬したんですね。そして、「メキシコ人は強姦魔だ」だの、「イスラム教徒はテロリストだから国に入れない」とか、そういうことを演説で言って。で、どんどんどんどん、その差別的な人たちの支持を増やしていったんですけど。その時にですね、ぺぺとトランプが合体しちゃったんですよ。

(山里亮太)コラボ?

(町山智浩)コラボっていうか、そこにあるんですけども。ぺぺの顔をしたトランプが作られちゃったんですよ。

(山里亮太)本当だ!

(赤江珠緒)まあ、ほぼトランプさんだけども、顔とか手とかが緑でカエルで。ぺぺくんの顔になっていて。

(町山智浩)そうなんですよ。で、それだけじゃなくて、そのトランプ・ぺぺをトランプさん自らがツイートしちゃったんですよ。

(山里亮太)わーっ!

ドナルド・トランプがツイート

(町山智浩)だから何百万ものフォロワーを持つトランプさんのアカウントから、ぺぺ・トランプが拡散されちゃったんですよ。で、さすがにマットくんも「ヤバい!」って思ったんですけども。まあ、それでどうなったかというと、ユダヤ人差別と戦う団体があるんですね。それがぺぺを差別のシンボルとして認定しちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ。

(町山智浩)それはぺぺがヒトラーの格好して「ユダヤ人を皆殺しにしろ」っていう漫画が描かれて。それがネットで広がっちゃったからなんですよ。

(赤江珠緒)本当だ。そういう絵がある。ええっ?

(町山智浩)これは大変なことになって。そのあたりからトランプ大統領の支持集会……まあ、僕も行きましたけど。ぺぺのTシャツとかぺぺの旗を持った人たちがたくさん集まるようになったんですよ。

(赤江珠緒)もう勝手にそういうシンボルにされちゃってるわけですね?

(町山智浩)そうなんです。で、もう本当にどうしようもないからこのマットさんはとうとう、そのユダヤ人差別と戦う団体とも交渉して。「これは勝手にやられてるんで、法律的になんとかしなきゃなんないから、協力してやりましょう」っていうことになるんですよ。で、弁護士も雇って、その個々の投稿とかを潰していくんですけど。あと、勝手に作られたTシャツとか絵本とかに対して訴訟を起こして発売中止させたりして。彼は戦うんですよ。で、それはこのマットくんは子供の頃からカエルが大好きで、ずっとカエルを書いてきた人なんですね。で、しかもそのぺぺというキャラクターは自分自身なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、うん。

(町山智浩)子供の頃から大事にしていたキャラクターを差別主義者たちに取られちゃったんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。乗っ取られたみたいな感じですね。

(町山智浩)乗っ取られちゃった。ハイジャックされちゃったんですよ。だからもう、悲しいなんてもんじゃないですよね。これね。彼にとっては自分なんだもん。で、しかもそのユダヤ人差別と戦う団体から「これは差別の象徴だから使うな」っていう認定までされちゃって。で、戦い始めたんですけど、「これはもう耐えられない」ということで、漫画の中でぺぺを殺しちゃったんです。作者自ら。で、お葬式をやったんですよ。それでも、止まらないんです。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)これはかわいそうでどうしようもない。次から次に裁判なんですよ。

(赤江珠緒)それは本当に気の毒な……。

(町山智浩)次から次に湧いてきて。でもね、こういうことはすごく他にもあるんですよ。というのは、前に話したんですけど。テイラー・スウィフトが2018年の中間選挙でトランプ大統領に反対すると表明したっていう映画を……『ミス・アメリカーナ』っていう作品を紹介したんですけども。

(赤江珠緒)はい。見ました。

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(町山智浩)あの時、なぜテイラー・スウィフトがそう表明しなければならなかったのかというと、テイラー・スウィフトもネオナチとか白人至上主義者のアイドルにされちゃったんですよ。彼女がナチの制服を着て腕にナチの腕章をつけて「ハイル・ヒトラー」ってやっている写真とか、コラージュで作られちゃったんですよ。だからもう、はっきりとそれに対して反対せざるを得なかったという状況があるんですよね。これ、怖い世の中だなと思いましたよ。

(赤江珠緒)本当ですね。今、そうやってその絵もそうだし、写真もそうだし。うまい具合にコラージュできちゃいますもんね。

(町山智浩)そう。それで勝手にやられるので。最近、起こった問題はトランプ大統領を支持して暴力を繰り返しているプラウド・ボーイズという極右団体があるんですね。そこは制服としてあのイギリスのテニスウェアのフレッド・ペリーを着ていたんですよ。それはもうフレッド・ペリーにとって大変な損害で。極右団体が暴力を振るう時にそれを着てるから。だから、アメリカに対する販売を中止せざるを得なかったんですよ。これはもう、ものすごい営業妨害ですよね。こういうことがね、次々とあって。大変なことになってるんですけども。

あとね、トランプ大統領がいつも集会でローリング・ストーンズの音楽をかならず流すんですよ。で、「トランプといえばローリング・ストーンズ」って感じになっちゃっているんですよ。で、ローリング・ストーンズは世界一有名なバンドなんで。もうビートルズはないですからね。で、ものすごいなお金をかけてトランプ大統領に対して弁護士を立てて。「俺たちの曲を絶対に使うな!」ってやり続けてるんですよ。

でもトランプは「知ったこっちゃない。自由だよ」って勝手に使ってるんですよ。嫌がらせなのか?って思いますけど。これは怖い世の中だなっていう映画なんですね。ただ、そのマットjくんはボロボロになっちゃうんですけど。もう何をやっても止まらないから。でもね、ちょっといいこともあって。香港で中国の軍事独裁ね対して戦う人たちがいますよね。香港民主化デモをしてる人たち。彼らが今度、ぺぺを使いだしたんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そう。自由の象徴のキャラクターとしてぺぺをポスターとかプラカードとか、そういったものに使いだしたんですよ。

(赤江珠緒)ああ、本当だ。旗を持ってる写真がある。へー!

香港民主化デモで自由の象徴に

(町山智浩)でね、マットくんは「まあ、それはよかったな」って思っていたんですけども。そのあたりでこのドキュメンタリー映画はだいたい終わるんですね。作られたのは去年の夏ぐらいなので。公開されたのは。ところが、その後にまた最悪なことが起こったんですね。この間の1月6日の連邦議会衝撃事件があったんですけども。あそこで襲撃をしていたトランプ支持者のかなりの数がぺぺのTシャツを着ているんですよ。

(赤江珠緒)うわー、そうなのか……。

(町山智浩)特に、トランプ大統領が集会の前に演説して。「議会に行け!」って言った時にテレビの、CNNのカメラに向かって「議会に行けって言ってるよ!」って言った人がぺぺのTシャツを着ていたんですよ。

(赤江珠緒)まあ、キャラクターとしてなんか人を引きつける魅力はあったんでしょうけど。でも、本当になんか巻き込まれてますね、それ。

(町山智浩)そう。巻き込まれ。ものすごい悲惨な巻き込まれなんですよ。というね。で、その本人のマット・フューリーという人はね、本当におとなしい感じの人なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、もう本当に作者の意図と全く関係ない使われ方なんだ。

(町山智浩)全く関係ない。で、ぺぺっていうキャラクターも彼に合わせてるから、すごくおとなしくしゃべる人で。礼儀正しくて。アメリカの若者には珍しく、言葉が汚くないんですよね。「そうなんだ。僕はね……」みたいな、本当におとなしい、優しいキャラクターなのに。まあ、だからこそたぶんやられたんだろうと思うんですよね。これ、ネットは怖いっていう話ですよ。

(山里亮太)今、起きうることですよね。これ。いろんなところで。

(赤江珠緒)まさか、こんなことがね。

(町山智浩)という、非常に現代がよくわかるドキュメンタリーが『フィールズ・グッド・マン』なんで、ぜひご覧ください。

(赤江珠緒)3月12日から渋谷ユーロスペース、新宿シネマカリテほか全国順次公開です。『フィールズ・グッド・マン』、ご紹介いただきました。ねえ。最後はキャラクターを自ら殺さなきゃいけないっていう。

(町山智浩)ねえ。葬式までやったんですけどね。うん。でもね、作者が死なせても、死なせられないという。勝手にみんなが生かし続けてるという恐ろしい話ですね。

『フィールズ・グッド・マン』予告

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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