町山智浩 キリスト教福音派映画『魂のゆくえ』『ある少年の告白』を語る

町山智浩 キリスト教福音派映画『魂のゆくえ』『ある少年の告白』を語る たまむすび

(町山智浩)これ、子供たちがゲイになると親たちが矯正セラピーっていうキャンプみたいなものに入れるんですね。そこで、アルコール中毒を治すのと同じシステムで「ゲイだ」ということを告白させて。「男性が好きだ」とか「女性が好きだ」とか「異性に興味が持てないんだ」ということを告白させて、それをみんなで話し合っていく中で、その罪を治すという恐ろしい洗脳キャンプなんですよ。

(赤江珠緒)うわあ……。

(山里亮太)治療じゃないもんね。洗脳だ。

(町山智浩)別にそれ、なんの罪でもないのに。それはね、2004年に19歳だったガラルド・コンリーという少年が父親と母親が福音派だったので、そこに入れられてしまうんですね。父親はその福音派の牧師になろうとした人なんですよ。で、その矯正キャンプで徹底的に洗脳されるという経験を書いた本の映画化なんですけど。ちなみにこの映画で彼を演じているのはルーカス・ヘッジズくんっていうこの間紹介した映画『ベン・イズ・バック』にも出ていた子なんですけども。

町山智浩『ビューティフル・ボーイ』『ベン・イズ・バック』を語る
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(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)お父さんはラッセル・クロウでお母さんはニコール・キッドマンなんですけどね。で、そのキャンプというのがまあ恐ろしいんですけども。要するに、そのキャンプに参加した人は聖書をみんなで持って、「こいつは男が好きだぞーっ!」って聖書で叩くんですよ。みんなで。袋叩き。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)「神の罰をくらえ!」とかって。

(赤江珠緒)なんでそこまで……?

(町山智浩)なにをやっているんだね、君たちは?っていう感じなんですよ。

(赤江珠緒)どういう心理なんだろう、それは。本当に。

(町山智浩)これはとんでもないことなんですけども。これ、やっていた人たちがいて。これはラブ・イン・アクション(Love in Action)というグループが主催していて、アメリカのほとんどの中西部とか南部全域に渡ってそういったメソッドを広げてやっていたんですよ。それこそ、何万人規模なんですよ。このセラピーを受けていた人たちは。ただ、これはものすごいトラウマを残していると思いますね。だって要するに、否定されるわけですから。「あなたは間違っています。あなたは神の教えから外れていますよ」っていうことなんで、まあ少年期に「あなたは間違っている。地獄に落ちる!」って言われた人間っていうのはどれだけ人格が壊れるのか? もう絶対にね、やっちゃいけないことをやっちゃっているわけですよ。

(赤江珠緒)でもこのね、福音派の人たちの強硬な感じとか頑なな感じっていうのはこちらにも漏れ伝わってくるところはあったんですけど。いまの町山さんのお話を聞くと、アメリカではその信仰の人たちが増えているっていうことですか?

(町山智浩)増えてはいません。段階的に減ってはいます。

(赤江珠緒)ああ、減ってはいるんですね。

(町山智浩)減ってはいるんですけど、でも25%ぐらいいるんですよ。以前はもっといたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)すごいな、そのコンバージョン・セラピーっていうのは。

(町山智浩)コンバージョン・セラピーっていうんですよ。で、これでいちばんすごいのは、このコンバージョン・セラピー(ゲイ矯正セラピー)を20年間やってきた人がいて。ジョン・スミッド(John Smid)っていう人なんですよね。で、その人がこの映画の中に出てくるセラピー師のモデルになっているんですけども。このジョン・スミッドっていう人は「もともと自分がゲイだったんだけども、治った。だからそれと同じ方法で君たちを更生させる」というのを売りにして20年間にも渡って何千人もの人たちを治してきたと言っていた人なんですけど……2008年にこの人、「20年間、ずっとゲイはよくないって言っていたけど、やっぱりダメだ。俺、ゲイだったから戻るわ。ごめんな!」って言ってそこを去っちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)「ゲイって治らないわ。病気じゃないし」って。いままでは「病気だ」とかって言ってさんざんみんなを洗脳してきたのに「ごめんね! 僕、やっぱりゲイとして生きるから!」って言って去っちゃったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ? その顛末もびっくりですね……。

(町山智浩)何千人もの少年、少女がその人によって「お前はダメだ。地獄に落ちるぞ!」ってやられたんですよ。とんでもない話ですよ、これ。という、その実態を内部から描いている。それを体験した少年の目から描いているのが『ある少年の告白』という映画なんですけども。現在、僕が住んでいるカリフォルニアとかではこのゲイ矯正セラピーは違法です。禁じられています。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)こう根本的に少年、少女を傷つけることになるので。ただね、禁止している州というのはカリフォルニアとかニューヨークとかワシントンとか……まあテキサスも禁止しているんですけども。そういうアメリカの東海岸と西海岸だけなんですよ。

(山里亮太)それ以外はじゃあ、禁止されていないんだ。ええっ?

(町山智浩)そう。いま現在、それ以外の州ではいまでもやっています。で、それはどうしてか?っていうと、カリフォルニア州とかは州法で禁止しているんですよ。ところが、いまもやっているところの州っていうのは、州議会が共和党によって支配されているんですよ。多数派で支配されているんですよ。で、共和党の議員っていうのはさっきも言ったように25%もいるキリスト教福音派の人たちを支持基盤にしているから、だから絶対にそれを禁止しないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからさっきの地球環境の問題もそうだし、この問題もそうなんですけども。まあ、取引みたいなものなんですよ。

(山里亮太)取引?

(町山智浩)取引ですよ。だってこの議員たちはどう考えてもおかしいっていうことはわかっているんだけども、これに関して州法で禁止したら……州法っていうのは州議会で禁止するんですけども。それで禁止をしたら票がもらえなくなるから禁止しないんですよ。全部取引なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)だからその、宗教団体の方も自分たちの本当は守るべき平和だったり地球だったりを守らないで、それを破壊するような戦争とか、石油化学工業の方に妥協するという形で、みんな妥協しているんですよ。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)そう。貧困層の救済っていうのはどの宗教でも持っている基本的な目的なのに、もうそれすら捨ててますからね。

(赤江珠緒)ねえ。どの宗教も平和が根本的な信念のはずなのに。

(町山智浩)そう。だからこの中でイーサン・ホークが言うんですよ。「なんでお前たちはそんなに『金持ちになりたい』とか言うんだ? 『愛国心』とか言うんだ? どっちもキリスト教と関係ないぞ!」って。

(赤江珠緒)本当ですよね。

(町山智浩)「聖書には『星条旗を振れ』とか書いてないぞ!」って言うんですよ。でも、みんなそうなっちゃっているんです。

(赤江珠緒)聖書の教え、本当に関係ないですもんね。本当にね。

(町山智浩)関係ないですね。だから政治と宗教の癒着によって宗教の方もねじ曲げられているっていうことなんですよね。自分たちが本来信じるべき目的を失ってしまっているという。要するに政権に参画することができるためだったら、自分たちの宗教的な信条を捨てるということが世界中で現在も行われています。日本でもね。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)ということなんですよ。だからこの映画はアメリカの問題だけじゃなくて、全世界の問題です。宗教を信じる人たちは本当のその宗教の元々の目的に立ち返るべきなんです。そしたらそんな政権参画なんていうエサで釣られている場合じゃねえだろ?って思いますよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)と、思いました。この映画は重いですけど見るべき映画なのでぜひご覧ください。

(赤江珠緒)はい。『魂のゆくえ』は4月12日公開。そして『ある少年の告白』は4月19日の公開です。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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