町山智浩『ビューティフル・ボーイ』『ベン・イズ・バック』を語る

町山智浩『ビューティフル・ボーイ』『ベン・イズ・バック』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、薬物中毒になってしまった子供と親を描いた映画『ビューティフル・ボーイ』と『ベン・イズ・バック』を紹介していました。

(町山智浩)今日はですね、もうすぐ……4月12日公開の『ビューティフル・ボーイ』という映画と5月24日公開の『ベン・イズ・バック』という映画の2本を紹介したいんですけど。この2本はものすごく似ている映画なんですよ。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)似てるんですよ。両方とも、ドラッグの中毒となった子供、息子と親の話なんですね。家庭環境とかも似ていて、両方とも実話を元にしているんですよ。これがすごく裏表になっている映画で面白かったんで、まとめて紹介をしますけども。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)まず『ビューティフル・ボーイ』という映画、タイトルはジョン・レノンの歌の『Beautiful Boy』という歌を元にしているので、ちょっと聞いてください。

(町山智浩)はい。この歌はジョン・レノンさんが子育てをしている時に自分の息子さんのショーンくんがかわいくてしょうがないから「かわい子ちゃん、かわい子ちゃん」って歌っている歌なんですね。

(赤江珠緒)浮かれちゃっている感が出ていますもんね(笑)。

(町山智浩)いや、もう本当に子供が3、4歳のころはもう頭の中がそれで支配されますからね。かわいくてかわいくて。で、この映画のビューティフル・ボーイはですね、ティモシー・シャラメくんなんですよ。この写真にある。

(山里亮太)もう美少年な。

(赤江珠緒)本当ですよね。

(町山智浩)本当に、そう。ビューティフル・ボーイっていう感じのね。『君の名前で僕を呼んで』という映画ですごい世界中にファンを掴んだ男の子ですけども。

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(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)まあ、顔がいいだけじゃなくて実際に天才でね。めちゃくちゃいい学校に行っていて、音楽もできて……っていう小憎らしいやつですけども(笑)。

(赤江珠緒)そんな人なんですね。へー!

(町山智浩)そうなんですよ。困ったもんですけど……って別に困らないですけども(笑)。その彼がこの主役のビューティフル・ボーイで。これは実在のジャーナリストのデビッド・シェフという人の息子さんのニックさんの話なんですね。このデビッド・シェフという人はなぜ、この『Beautiful Boy』という歌を使っているかというと、彼はジョン・レノンが生きている時、最後にインタビューしたジャーナリストなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、『ローリングストーン』誌とかでロックミュージシャンのインタビューを主にやっていた人で、お金もあるんですけど。ねえ。まあ昔はジャーナリストってインタビューとかしているだけでお金持ちになれたんですね。いまはもう不可能ですけども。本当に雑誌が売れないんで(笑)。まあ、それはいいんですが。

(赤江珠緒)そうかそうか。

(町山智浩)これ、この男の子が1982年生まれだから2000年代はじめの話なんですけども。で、この子が両親が離婚をして、お父さんの方についていって、そのお父さんが新しく結婚をして、その間に生まれた腹違いの弟とも仲良くなって。すごく学校の成績もよくて、UCバークレーっていう世界でもトップクラスの大学に受かるような勉強のできる子なんですよ。

(赤江珠緒)いろんな意味でよくできた子で。

(町山智浩)そう。ティモシー・シャラメくん自身みたいなね。でもね、11歳の頃からお酒を飲んで、大学に行く頃には完全に覚醒剤中毒になっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)という、本当にあった話なんですね。で、この映画の中ではそれだけ勉強ができて、それで弟とも仲良く遊んで、すごく優しい子がどんどんどんどん覚醒剤で崩壊していく姿をリアルに映画いている、タイトルの『ビューティフル・ボーイ』とは全く逆のものすごい怖い話なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でね、どんどんダメになっていくんですね。それで何度も何度もリハビリ施設に入ったりしてもやっぱりダメで。それで抜け出して……とかやっているうち、最初は親のお金を盗んでシャブを買うみたいなことになっていくんですけど、最後の方はもう8歳の弟のお小遣いを盗むようになりますよ。

(赤江珠緒)はー! うん……。

(町山智浩)もう本当にどん底まで行くんですよ。で、それでも父親は見捨てられないわけです。自分の息子ですから。それで一緒にボロボロになっていくっていう話なんですよね。これはかなりずごいリアルで怖いんですけども。これ、うちの近所で全部撮影をしているので、サンフランシスコの話なんですよ。だから非常にリアルで怖いんですけど。ただ、やっぱり最初の方で子供がそういう状況になったということに親が気がつかないんですよね。意外と。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、もう気がついた時には遅かったっていうところで。自分はすごく息子と近いところにいて、息子のことはなんでも知っていたっていう風に父親は思っているんですけど、実はそんなことは全然なかったんだっていうのが怖いですね。これは。

(赤江珠緒)そうかー。なんで出会っちゃうんだろうね。本当にね。

(町山智浩)怖いんですよね。これはまあ、このニックくんがすごくいい子でいようとして。それで両親が離婚をしていろいろとあったんだけども、その心の揺れを隠していて。それでお酒に逃げていたらしいんですよ。最初は。それから、まあいい子だから、その親の前ではいい子で振る舞うために、つらいことを全部クスリに逃げるという形で。だから真面目ゆえにそうなっていくっていうことなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

真面目ゆえにクスリに逃げた

(町山智浩)だからその、ドラッグとかそういうものは不良がやるものだとかね、もともと反社会的な人がやるものだっていうのと全く逆の現象がここで起こっているんですよ。真面目ゆえにやってしまうというね。で、その後もどんどんひどくなっていって、最後の方は道端で……彼は美少年ですから、おじさんに体を売ったりするようになっていくんですよね。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)だからもうすさまじいものなんですけども。ただね、このニックさんは現在は完全に治っています。それで自分自身でその体験を全部本に書いたりしているんですけども。まあ、それまでの大変な話なんですよ。で、もう1本の方がまたすごくよく似ていて。『ベン・イズ・バック』っていう映画なんですけども。「ベンが帰ってきた」っていうタイトルなんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これ、ジュリア・ロバーツがお母さん役なんですよ。ジュリア・ロバーツ、もうお母さん役ですよ。『プリティ・ウーマン』だったのに。

(赤江珠緒)そうですね(笑)。

(町山智浩)それもハタチぐらいの子供がいるっていう役ですよ。それで、ベンっていうのが息子なんですけど、それが帰ってくるんですね。で、帰ってきて「ああ、ベンがクリスマスだから帰ってきた」って思うんですけど、一緒にいる娘の方が「出ちゃダメ!」みたいなことを言うんですよ。「ベンと話しちゃダメ!」とか言うんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)というのは、ベンは帰ってきてはいけない人なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、なんでだ?

(町山智浩)この人は、ヘロイン中毒なんですよ。ヘロイン中毒の長男で、大変な事件を街で起こしてしまって。それでリハビリ施設にずっと入っていた彼がそこから抜け出してきたっていうことなんですね。クリスマスだから、みんなといたくて。で、それを送り返してもいいんですけど、クリスマスだから一緒にクリスマスを過ごそうっていうことでそのジュリア・ロバーツが彼を家に受け入れるという話が『ベン・イズ・バック』という映画なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)これがね、やっぱり街中の人が彼がクスリをやっていたことを知っているんで。それで大変な迷惑を周りにかけてしまったんで、彼は帰ってきても居場所がないんですよ。で、居場所がないとどうなるか?っていうと、そんな彼に優しくしてくれる人っていうのは1人しかいないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは売人なんですよ。彼がどこにも行けなくなったのを待って、もう1回引きずり込もうとして売人が周りをウロウロするわけですよ。

(赤江珠緒)はー!

居場所がなくなると、売人が近づく

(町山智浩)で、それと接触をさせないように、ジュリア・ロバーツがずっと彼から目を離さないでいようとするっていう話で、サスペンス映画みたいになっているんですけども。この『ベン・イズ・バック』っていうのは。で、ベンを演じるのはこれはルーカス・ヘッジズくんといういま、やはりティモシー・シャラメくんと同時にすごく注目されているイケメン俳優なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)この映画ね、監督がピーター・ヘッジズという人なんですね。で、ルーカス・ヘッジズの実の父親なんですよ。監督が自分の息子をベンの役で使っているんですよ。で、どうしてこのピーター・ヘッジズという人はこの映画を撮ろうとしたかというと、まずひとつは親友だったフィリップ・シーモア・ホフマンという俳優さんがヘロインの過剰摂取で死んじゃったんですよね。

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(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)フィリップ・シーモア・ホフマンさんは名優で、『カポーティ』っていう映画でアカデミー主演男優賞まで取っている人ですけども。で、奥さんもいて、子供もいて。でも密かにヘロインをやっていて、自宅のトイレでヘロインをやっている最中に死亡したんですよ。矢野顕子さんと同じアパートに住んでいたんですよ。

(赤江珠緒)そうですか……。

(町山智浩)矢野顕子さんが「フィリップさんが亡くなった」っていう第一報をTwitterでしたのかな? という、そのアカデミー賞も取ってものすごい地位もあって、奥さんもいて子供いてお金もあって。それでも、ヘロインにハマっていたんですね。で、同じ部屋に子供がいる状態で死んでいるんですよ。

(赤江珠緒)うん……。

(町山智浩)で、そういう事件があったので、このピーター・ヘッジズさんがやっぱりこのドラッグという問題についてやりたいんだと。あと、もうひとつは彼のお母さんがアルコール中毒だったんですよね。で、ピーター・ヘッジズ監督が7歳の時、お母さんが完全にアルコール中毒になって、めちゃくちゃになって育児放棄をされたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、それから、彼が15歳になるまでずーっとリハビリしたり、また中毒に戻ったりを繰り返してものすごい苦闘をしていたらしいんですよね。

(赤江珠緒)いろんなトラウマがあるんですね。この監督にね。

(町山智浩)この監督、そのお母さんのトラウマっていうのがものすごく強くて。この人、もともと映画界に来たのは『ギルバート・グレイプ』という小説を書いたからなんですよ。『ギルバート・グレイプ』という小説はジョニー・デップがまだ若い頃の映画で若者の役を演じているんですが。彼のお母さんがお父さんが亡くなったことのショックで過食症になってしまって。ものすごく太って、部屋から出られなくなって、街中の笑いものになっているというギルバート・グレイプくんの話なんですよ。

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(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これはピーター・ヘッジズ自身の体験が元になっているんですよ。それを書いて映画界に出てきた人なんですよね。だから常にそういった問題と向かい合って映画を作り続けてきた人なんですけども。この映画で――どっちの映画もそうなんですけども――いちばん問題なのはその彼ら、ドラッグとかの中毒になった人たちが居場所がないと、またドラッグの方に行ってしまうということなんですよね。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、常に居場所を用意してあげなければいけないんだと。そうしなければ、彼らに優しくしてくれるのは本当に売人しかいなくなってしまうので。売人の元に戻っていってしまうんだと。だからこれ、家族がどれだけ大変なんだ?っていう話なんですよね。で、このジュリア・ロバーツはずっと目を離さないようにして、ベンくんとずっと一緒にいるんですけど、完全に目を離さないのはやっぱり不可能で、ちょっとした隙に目を離しちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

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