町山智浩さんが2025年2月18日放送のTBSラジオ『こねくと』でNetflix『アヌジャ』を紹介していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得て町山智浩さんの発言のみを書き起こし、記事化しております。
(町山智浩)もう1本、紹介する映画。これはね、日本でももう既に見れます。Netflixで配信されてる映画で『アヌジャ』っていうタイトルのインド映画なんですけど。これは短編なんですよ。23分しかないかな? 短編部門なんですね。アカデミー短編部門にノミネートされています。このタイトルは女の子の名前です。9歳の女の子でアヌジャちゃんがお姉ちゃんと一緒にインドで暮らしてるんですが。彼女は朝から晩まで縫製工場で服を作ってるんですよ。ずっと、ミシンをいじって。
でね、彼女は孤児なんですね。お父さんもお母さんもいなくて。で、彼女がどれぐらいの利益を上げるのかを工場長が彼女に計算させるっていうシーンがあるんですよ。そうすると「まず1日14時間労働でしょう? それで週に7日間労働だから……」って計算するんですけど、それはあり得ないだろうって。1日14時間労働で週に7日間。休みは1日に食事とトイレで15分だけ。
で、「ひどいと思ったならやめればいいじゃないか。でもお前ら、孤児なんだから行くところなんかないし。元々、子供なんだからどこも雇ってくれないだろう? だから労働基準法とかも完全に無視したこの現場で働くしか、お前たちの生きる道はないんだ」って工場長が言うんですよ。
で、ずっと服を作っているんですけど……でも世界中、こういう工場が山ほどあるんだ。そこでみんな、子供たちが、服を作ったりしているんですよ。世界中にあるんですよ。で、中国とか結構、労働者が頑張って労働条件をどんどん良くしていってるんですけど。そうすると、またインドとかひどいところに作る場所を回しちゃうんで。まあ、ファストファッションの地獄みたいなところが描かれるんですけど。そこにあるおじさんが来るんですね。で、「この子は数学の天才だと思う。勉強させたい」ってアヌジャちゃんに言うんですね。
「ある学校があって。そこに行くと、そこは寄宿学校で暮らせる。寝るところもあるし、食べるものもあるし、学校にも行けるんだ。そのチャンスを与えたい」って言うおじさんが現れるんですけど。ただ、アヌジャちゃんがそこに入っちゃうと、アヌジャちゃんは助かるけど、お姉ちゃんが置いてかれちゃうんですよ。
それでお姉ちゃんは「アヌジャちゃんだけでも行って」って言うんですけど、アヌジャちゃんは悩んで……っていう話なんですね。で、この映画は実はストリートチルドレン、孤児の子たちに勉強をさせてあげて、住むところと食べ物を与えるというNGOがこの映画に参加していて。これに出ている子たちも実際に本当のストリートチルドレンでその団体に救われた子たちなんですよ。そのNGOはね、Salaam Baalak Trustという名前なんですけども。で、これがアカデミー賞を取ると非常に大きなメッセージになると思うんですけども。このSalaam Baalak TrustというNGOを支援しているのはアメリカのUSAID……アメリカ国際開発庁っていうところなんですよ。
USAID(アメリカ国際開発庁)
で、アメリカ国際開発庁は全世界のそういった貧困層の子供たちに教育を与えたり、住むところを与えたり、疫病。病気に対して薬とか医療とか、そういったものを与えたり。そういうことをして世界中で活躍してる組織がUSAIDというところなんですね。これが今、解体されそう、閉鎖されそうなんですよ。
これ、本当にひどいんですけど。イーロン・マスクというテスラを作ったおっさんがね、何の権利もないのにアメリカ政府効率化省というものをでっち上げて。法的にはもうほとんど、全く何の権限もないのにまず最初にUSAIDというところを潰そうとしたんですよ。で、これによって世界中の貧困に苦しんでる子供たちが食料を与えられなくなる可能性があるんです。で、これがまた酷いのは、この海外援助ってアメリカ連邦全ての支出の中のたった1%でしかないんです。これはムダを省くとか、そういうこととは違います。
イーロン・マスクはUSAIDからスターリンクという通信端末をウクライナに提供することで何百万ドルかの資金援助を受けているんですが。その時、同時にイーロン・マスクはプーチンと連絡を取っていて、そこで情報を流していた可能性があるんですよ。それでUSAIDの監査局というところがプーチンとウクライナとの間にいたイーロン・マスクを監査していたんですが……USAIDが閉鎖されたんで、その監査が止まりました。
自分の疑惑をごまかすためにUSAIDそのものを潰そうとしてるんですよ。で、その監査官も解任されました。これ、モロじゃんって思いますけど……これはひどいです。USAID、今ちょこっt説明しますと元々、ソ連が世界中の貧しい人たちに武器支援をして。武器を持たせて共産革命を起こさせようとしてたんですね。1960年代に。それで実際に世界中でそうなりました。アジア、アフリカ、中南米……要するに貧困の人たちがすごく多い地域は「政府を倒せ」と言われて銃を持たされたら、倒しに行きますよね。
だから、それに対して戦争という形で戦ってもダメだってケネディ大統領は思ったんですよ。そうじゃなくて、その貧困層を救った方がいい。そうしたら彼らは共産主義にならないし、ソ連の味方にならないし、アメリカの味方になるだろうと。要するに軍隊というものはハードパワー、固い力なんですけど。それに対してソフトパワー、柔らかい力でアメリカの仲間を増やしていってソ連を追い詰めていこうということで作られたのがUSAIDなんですよ。
ソ連をソフトパワーで封じ込めようとしたUSAID
(町山智浩)で、ソ連がなくなった後もロシアとか中国に対してアジア、アフリカ、中南米が中国・ロシア側に入らないようにということで支援をし続けていたんです。貧しい人たちに。それが今、ストップしたからものすごい中国とロシアが喜んで。大はしゃぎでそういうところに入りこんでいるんですよ。
これ、止められないんすよ。トランプなんかは選挙で落とすこともできますけど、イーロン・マスクは止められないんだよね。これ、大変な事態が今、起こっています。これに関しては日本ではすごく、プーチンのプロパガンダに騙されちゃった人たちがテレビでしゃべったりしてるんで本当に問題なんですが。NHKさんとかはね、必死にそういうデマと戦っていますけど。でもデマの方が強いんだ。今の日本も、あと世界中も。もう大変な世の中で。このアヌジャちゃん、かわいいから見てほしいんですけど。これがUSAIDがやってることなんで。こういう子たちを助けてるんで、変なデマに踊らされないでちゃんとこういうのを見ておいてほしいなと思います。