町山智浩『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』を語る

町山智浩『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』を語る こねくと

町山智浩さんが2024年3月12日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』について話していました。

(町山智浩)僕、あのアカデミー賞の授賞式の中継の時に滝田洋二郎監督と一緒にお話をしていたんですよ。もちろん中島健人くんもいましたよ。で、滝田洋二郎監督はアカデミー賞が昔、外国映画賞と言われていた時に『おくりびと』という映画でオスカーを受賞した人なんで呼ばれたんですね。今回は『ゴジラ』の山崎貴監督と宮﨑駿監督が取るかもしれなかったんでね。で、滝田監督と話していたんですが。滝田監督ってピンク映画というものから始まった人なんですけど。だからその話をしたんですよ。昔、ピンク映画というものがあったんですね。70年代……まあ、今もありますが。それは、いわゆるエロ映画、ポルノなんですけれども。独立プロが作った低予算のポルノで。日活というところが作ってた大予算のポルノをロマンポルノと言ったんですね。で、ピンク映画の方はエロ映画に見せかけて、全然違うことをやる映画だったんですよ。

(石山蓮華)へー! そうなんですか。

(町山智浩)ほとんどエロシーンがなかったりするんですよ。

(でか美ちゃん)それはちょっと、客寄せ的な要素みたいな?

(町山智浩)そうなんですよ。それで自分たちのやりたいことをやるっていうのをみんな、やっていて。金子修介監督……あっ、金子修介監督の『ゴールド・ボーイ』、ご覧なってます?

(石山蓮華)私は結局、まだ見てないんです。

(でか美ちゃん)私もまだ見れていなくて。

(町山智浩)『ゴールド・ボーイ』、これ、すごいですよ。

(でか美ちゃん)だって作家さんが「行ってきたよ!」って言っていて。「何も話せないけど、絶対行った方がいいよ!」と言ってたんで。近々、絶対に見に行こうと思います。

(町山智浩)本当に映画評論家殺しでね。『ゴールド・ボーイ』は何を話してもね、映画を殺しちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)じゃあもう、自分の足で行くしかない!

(町山智浩)そうなんです。見た人はみんなね、「これ、面白いけど誰にも言えねえや」っていう映画なんですよ。

(でか美ちゃん)気になる!

(町山智浩)もう、これは見てもらうしかないすけど。劇場公開中ですからね。で、『ゴールド・ボーイ』の監督の金子修介監督もポルノ出身なんですね。で、彼は何をやってたか?っていうと、ポルノに見せかけた少女漫画をやってた人なんです。『エースをねらえ!』とかをポルノでやってた人なんですよね。

(でか美ちゃん)へー!

(町山智浩)そういうやれる……まあ「やれる」っていうか、要するに映画が撮りにくくなってきたから、エロで人を寄せておいて好き勝手なことをやるという。それで滝田洋二郎は『痴漢電車』シリーズというのをずっと撮っていたんですけど。痴漢電車、中身は全然関係ないんすよ。たとえばね、『痴漢電車 極秘本番』っていうタイトルの映画がありまして。これ、アマプラで見れるんですが。これは戦国時代から現代にタイムスリップしてきた忍者・猿飛佐助の話なんですよ。

(石山・でか美)ええっ?

(でか美ちゃん)全然、痴漢も電車も出てこない?

(石山蓮華)猿飛佐助と電車って……。

(町山智浩)もうエロも何も関係ないんですよ。で、そういう映画をやりたくてやっていて。滝田監督はとにかくね、ミステリー物が好きで。密室ミステリーとかですね、そういうのばっかりやっていて。エロ関係ないじゃんっていう映画を撮ってたんですけど。その頃の話を描いた映画がちょっと今週15日から公開される映画で。『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』というタイトルの映画なんですね。

で、『止められるか、俺たちを1』という映画がありまして。それはですね、若松孝二さんという監督がいて。彼がやっていた若松プロの70年代の話なんですね。で、その若松プロというのはとんでもない映画会社、映画プロダクションで。たとえば『テロルの季節』っていう映画があるんですが。もう、はっきり言ってテロの映画なんですよ。これは日米安保条約を結ぶためにアメリカに行こうとする総理大臣を爆殺するために体に爆弾を巻いて羽田空港に特攻するテロリストの映画なんですが。ただ、映画としてはピンク映画として公開されていて。そういうことをやっていた人なんですよ。だから非常に政治的に過激な映画でも、エロ映画として公開すれば気がつかれない。

(でか美ちゃん)伝えたいものがある人ほど、ちょっとそういうオブラートに包むじゃないですけど。

(町山智浩)そう。偽装をするんですよ。そういうことをやってた監督は若松孝二監督で。この人はだから、それこそさっきの話ですけども。イスラエルでパレスチナ人たちが弾圧されてるってことで、パレスチナまで行ってます。で、足立監督という人と一緒に行って。足立さんはそのままパレスチナゲリラに合流するということになっちゃって。すごい、とんでもないことをやってる人なんですけども。ところが、この若松孝二監督も80年代になるとビデオの時代になりましてですね。映画の観客が減っていっちゃうんですね。で、若松孝二監督のスタッフだった秋山道男さんなんてね、チェッカーズをプロデュースして大儲けしたりしているんですよ。その当時に。

(石山蓮華)ガラッと変えたんですね。

(町山智浩)ガラッと変えちゃうんですけども。で、その1980年代のビデオ時代に映画の観客が減っていくから、若松孝二監督は自分の映画を人に見せるために……彼の映画はなかなかビデオ化されないんですね。なので、自分で映画館を経営しようとする話なんですよ。で、名古屋でシネマスコーレという映画館を彼がオープンするんですが。その映画館の館主として雇われるのが東出さんです。

(石山・でか美)おおーっ!

若松孝二監督が映画館をオープン

(町山智浩)東出さんがですね、その映画版を経営することになるんですが、なかなかお客さんが来ないで苦しむという話なんですが。実はこの映画にはもうひとつ、ポイントがあってですね。この映画の監督・脚本をした人は井上淳一さんっていう人なんですね。この井上淳一さんがどうして映画監督になったか?っていう話でもあるんですよ。

(石山蓮華)じゃあ、自伝的な映画なんですか?

(町山智浩)自伝的な映画です。で、井上淳一さんがどういう映画を最近作ったかというと、安倍総理暗殺犯を描いた映画『REVOLUTION+1』の脚本です。

(でか美ちゃん)いろんな意味でね話題になってましたけど。

(町山智浩)で、その次は関東大震災で朝鮮人虐殺があったんですが。朝鮮人だと思われて、虐殺された被差別部落の人たちの物語『福田村事件』の脚本家です。この2本を聞いたら「若松プロ魂!」って映画ファンは思うんですよ。そういうタブーに突っ込んでいく映画作家たちの集まりだったんですね。若松プロというのは。で、その井上淳一さんが予備校に通っていた頃の話なんですね。これは。

(石山蓮華)若い頃の話ってことですね?

若き日の井上淳一監督

(町山智浩)名古屋にね、河合塾っていう予備校がありまして。そこに通ってたのが若き井上さんで。だから18ぐらいですかね? で、何をしたらいいかわからない。そこで、そのシネマスコールで東出さんが客引きをやってるところに行くわけですよ。で、その70年代の非常に過激な映画を見るわけですよ。「なんだ! こんなものを映画として撮っていいのか!」と思うわけですよ。で、若松さんところに弟子入りしてですね、助監督等を始めるという青春物になってるんですよ。

(石山蓮華)へー! 結構若い時代の話じゃないですか。じゃあ『1』は何をやってたんですか? すごい気になるんですけど。

(町山智浩)『1』は井上さんは出てこないんですよ。

(石山蓮華)なるほど。主人公が変わるってことなんですか?

(町山智浩)主人公は女性の若松プロのスタッフだったんですけど。まあ、その人は亡くなってしまうんですよね。実際にその人は。門脇麦さんが主演だったんですね。前回の70年代版は。で、それを知らない井上さんが予備校生としてその若松プロの過激な世界を知って、それに吸い込まれていったという彼自身の物語です。

(でか美ちゃん)連続性というか。もちろん関連はあるけど。『2』だけを見ても楽しめるような感じなんですね?

(町山智浩)そうです。『2』だけ見ても大丈夫です。で、『1』も『2』も共通するのは、その若い人たちが映画というものに触れて。「映画はこんなに勝手放題なことをやっていいのか!」って驚いて、その中に吸い込まれていくっていう物語は共通してるんですけども。で、この若松孝二さんを演じるのは井浦新さんなんですよ。いつもは非常にハンサムで優しい2枚目の役を演じている井浦さんが、ここでは非常に暴力的な、東北弁の荒々しい若松孝二さんを見事に演じてますね。

(石山蓮華)ああ、井浦新さんがこのポスターのメインビジュアルにいらっしゃるの、一瞬気がつかなかったですね。

(でか美ちゃん)ティアドロップ型のサングラスに柄シャツを着てね。全然イメージじゃない感じで。

(町山智浩)これが若松監督なんですよ。若松監督はね、前作も今作も同じことをしてるんですね。で、「映画、何を作ったらいいか、わからない」とか言ってる若者に対して。「何をしたらいいか、わからない」っていう人に対してまず、言うんですよ。「おめさ、誰か殺したくないか?」って言うんですよ。

(でか美ちゃん)すごい言葉だな!

(町山智浩)すごいことを言うんですよ。「もし殺したい奴がいるなら、やれ! 映画の中で。映画の中なら何をしても、絶対に捕まらねえ」って言うんですよ。まあ若松さんはポルノで捕まったり。『愛のコリーダ』で捕まったりしてますけど。

(でか美ちゃん)捕まってはいるんだけれども(笑)。

(町山智浩)ところがですね、それがまたプレッシャーなんですよ。井上くんは80年代の恵まれて育ったええとこのボンボンなんですね。勉強もできるしね。ある程度。何の怒りもないんですよ。「そう言われても、何も怒りがない」っていうことが、彼の苦しみなんですよ。彼が怒りを見つけなきゃなんないんですよ。で、そう言ってるうちに、なんと自分が通ってる予備校・河合塾のために映画を作ることになるという話なんですよ。

(でか美ちゃん)すごい話だな。一番、それがドラマじゃないかって思いますけどね。

(町山智浩)そうなんです。今回、それがドラマだからそれを映画にしているんですけども。でもね、そういう「怒りがどこに向かったらいいか、わからない」っていうのはね、80年代はみんな豊かで。逆に今はみんな、非常に貧しくなっていて。やっぱり怒りはあると思うんですけれども。それをどうしたらいいかということで、現代にも通じる、見るべき映画だと思いますんで。この映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』、もう本当にぜひ見ていただきたいと思います。

(石山蓮華)ということで今日は今週15日、金曜日に公開になる『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』をご紹介いただきました。

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

<書き起こしおわり>

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