町山智浩 マイケル・ジャクソン告発映画『ネバーランドにさよならを』を語る

町山智浩 マイケル・ジャクソン告発映画『Leaving Neverland』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でマイケル・ジャクソンの性的虐待を告発したドキュメンタリー映画『ネバーランドにさよならを(原題:Leaving Neverland)』を紹介していました。
※映画紹介時は邦題未定だったため、原題の『Leaving Neverland』でお話されています。

(町山智浩)いま、ハリウッドに取材に来ているんですけども。『ゲット・アウト』というアカデミー脚本賞を取った映画の監督のジョーダン・ピールの新作『Us』という作品の取材に来ているんですね。『Us』というのは「私たち」という意味のタイトルなんですけど……これは今度話します。

(山里亮太)それも楽しそう。『ゲット・アウト』も面白かったですもんね。意外な展開で。

(町山智浩)ものすごい面白いホラー映画でしたけども。

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(町山智浩)これ、ジャンケットといって映画会社の人が世界中から映画ライターの人とかを1ヶ所、ホテルとかに集めてそこでインタビューを一気に行うという取材なんですね。で、僕は日本から来ているという形になるんですけど。それでスウェーデンとかインドとか全世界から映画記者の人たちが来ているんですが。そのインタビューの合間は記者たちだけで雑談をするわけですよ。そしたら今回は、そこで大論争になっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)というのは、マイケル・ジャクソンの子供に対する性的虐待の被害者が告発をしたドキュメンタリー映画が英語圏でテレビでこの間、放送をされまして。先週ですね。『Leaving Neverland』というタイトルのドキュメンタリーなんですね。それを見た人、見ていない人全員含めて、その記者たち全員でこれをどうしたらいいのか? これをどう考えるべきか?っていうことで、ずっと大論争でしたよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)すごいものをテーマにした映画なんだ。

(赤江珠緒)そんなに物議を醸す内容になっていると。うん。

(町山智浩)大変なスキャンダルになっておりまして。いままでも、マイケル・ジャクソンは2回、被害者から訴えられるということがあったんですけども、2回とも……1回目は示談になって、2回目は刑事裁判まで行きまして、証拠不十分で無罪になっているんですけども。今回、なぜこれだけこの『Leaving Neverland』という映画が問題になっているのか?っていうと、その2回、訴えられた時に「マイケル・ジャクソンはやっていない。なぜなら僕も子供としてマイケル・ジャクソンと一緒に寝たけども、なにもされませんでした」という風に証言していた人が、そのいままでの証言を覆したからなんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)で、この人はウェイド・ロブソンという人で、現在36歳です。この人は5歳で『Thriller』のビデオを見てからマイケルのダンスを完璧にコピーした子供マイケルだった人なんですね。オーストラリア人で。で、彼自身が7歳でアメリカに渡って、その後もマイケル・ジャクソンの真似からオリジナルの振付師、コリオグラファー、舞台監督になっていって。この人、19、20歳ぐらいでブリトニー・スピアーズの振り付けとかをやって世界的な振付師になった人なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからマイケル・ジャクソンが師匠で、彼はマイケル・ジャクソンに育てられてダンスのプロフェッショナルになった人なんですね。この人、自分の名前がついた「ロブソンの○○」みたいなテレビ番組も持っていて、ダンス番組なんですけども。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それでエミー賞とかも受賞しているぐらい有名なベテランの振付師なんですよ。

(赤江珠緒)じゃあ、ご自身もすごいキャリアのある方なんですね。

(町山智浩)すごいキャリアのある人なんですよ。その人が今回、「僕は子供の頃、7歳から14歳の頃にマイケル・ジャクソンと一緒に寝ている間にレイプをされた」ということを言っているんで。いままでみたいな形での、誰だかわからない人が出てきて……という形ではなくて、この人自身が業界の中でかなりちゃんとした地位がある人なので。それともうひとつはいままでの無実になったりした裁判でマイケル・ジャクソン側に立って「たしかに彼と一緒にベッドで寝たけども、性的なことはされていない」と証言していた人自身が……つまり、無罪のための有効な証言をしていた証人の人が「それは嘘でした」と言っているので「これは大変なことだ!」と言っている人もいるわけです。

(赤江珠緒)これは衝撃ですよ。

(町山智浩)衝撃になっているんですね。で、これに対してマイケル・ジャクソンの遺産を管理している、資産とか著作権とか全てを管理している側はこの『Leaving Neverland』というドキュメンタリーを放送したHBOというワーナーブラザーズ系の有料テレビチャンネルを損害賠償を請求して訴えているんですね。その損害賠償の金額は1億ドル(約110億円)ということです。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)で、彼らとあとはマイケル・ジャクソンのファンって世界中に1億人以上……もっといるのかもしれませんが。その人たちはいま、協力をしあって「この映画のクレジビリティー(信用)は低いんだ」ということをインターネットとかTwitterなどのSNSを使って、いかにこのロブソンという人は信じられないのかという、その信用度を落とすためのキャンペーンをしている。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、お金を出し合って「マイケル・ジャクソンは無実である」という広告を出したりして、まあ大変な戦争状態になっているんですよ。

(赤江珠緒)はー! でもこれね、それだけ世界にファンがいるじゃないですか。その人たちを相手取ってということは、ロブソンさんがいま、これをお話になるって相当な覚悟ですよね?

ロブソン氏の意図

(町山智浩)相当な覚悟だと思います。まあ、この人は実は2013年にマイケル・ジャクソンの財産管理をしている人たちを訴えているんですよ。損害賠償で。ただ、その時はマイケル・ジャクソンの死後4年がたっていて、被告の死後120日かなんか以内に訴えないと、そういう損害賠償請求は無効になっちゃうんですよ。だから、その時は自動的に無効になってしまったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから今回は完全にお金は関係ないという状態で。このドキュメンタリーに関しては一切金銭は受け取っていない。お金目当てではないという風に言っているんですね。

(赤江珠緒)なぜいま、そういうことを告白しようと思われたんですか?

(町山智浩)それはこの話の最後の方になるんで。で、順番に言っていきますと、このロブソンさんは7歳の時にアメリカに来て、ダンサーになりたいということでお母さんとお姉さんと一緒にアメリカに来るんですね。で、その後もかなり生活の面倒とかをマイケル・ジャクソンにみてもらったりもしているんですね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)ただね、父親を捨ててアメリカに来ているので、お父さんが自殺したりしているんですよ。精神を病んでしまって。で、その7歳のロブソンさんはネバーランドというマイケル・ジャクソンの自宅に行くわけですね。で、そこはまたすごいわけですよ。1000ヘクタール以上もあるのかな? その敷地に遊園地があるんですよね。ピーターパンが住んでいた大人になりたくない子供たちの国っていうのがネバーランドだったんですけども。その名前をつけている通り、本当にそこは子供の国みたいになっているんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)メリーゴーランドとか観覧車とかがあって。動物園もあって。で、そこに彼、7歳のロブソンくんを呼んで。それでマイケル・ジャクソンが「泊まっていきなさい」って言ったんですよ。で、お母さんはやっぱり7歳の息子を32歳の男と一緒に泊まらせるというか、「一緒のベッドに寝たい」と言われたので、それはやっぱりちょっと困るわけですよね。母親としては。なんだろう?って思うわけですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それででも、考えたらしいんですね。「マイケル・ジャクソンという人は子供の頃から働かされていて、友達もいなかった。子供時代がなかったかわいそうな人で、いま子供時代を取り戻そうとしている無邪気な人なんだ」ということで自分を納得させて。なおかつ、ある程度のお金をもらって息子をマイケル・ジャクソンにあずけて、自分たちは他のところに行っちゃったんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その後にロブソンさんはキスをされたりとかいろいろとあって。まあ、口を使われたりとかいろいろとあったということなんですよ。で、実はこの映画はもう1人、告発をしている人が出てくるんですね。その人はジェームズ・セーフチャックという人で、この人はマイケル・ジャクソンとペプシのコマーシャルで共演をしていた男の子なんですよ。当時10歳だったんですけど、この人は世界ツアーでたしか日本にも来ていると思います。マイケル・ジャクソンは彼を気に入って、世界ツアーに連れ回したんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、子供たちのダンサーの1人として連れて行って。しかも家族全員を一緒に連れて世界ツアーをやったんですよ。

(山里亮太)へー! 相当お気に入りだったんですね。

(町山智浩)はい。すごい美少年だったですけど。そのツアー中にホテルに泊まっている時にマイケル・ジャクソンと同じ部屋に彼だけが泊まっていたらしいんですね。で、お父さんとお母さんは別の部屋だったらしいんですけども。その間に性的な行為をされたという風に証言をしているんですよ。で、この2人がその映画に出て……これ、4時間のドキュメンタリーなんですけども。ずっと告白をし続けているんですね。で、彼らの告白を信じられるのか、信じられないのかっていうところで非常に論争になっているんですけども。この映画の中では彼ら、個人的にマイケル・ジャクソンと共有したもの。たとえば一緒に写っている写真とか手紙とかビデオとかFAXとか、そういった彼らの親密さを証明して他の人は絶対に持っていないようなものを次々と出してくるんで。それも映像的には結構、見たことがないレアなものがかなり出てきます。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)はい。で、それは親密さの証拠ではあるんですけども。で、ただね、やっぱり見ていてゾッとするところがあるんですね。それは事実かどうかっていうことじゃなくて、話自体が恐ろしいっていうところがあって。たとえばこのセーフチャックさんが10何歳かの時にネバーランドに泊まって。で、遊園地とかのいろんなアトラクションみたいなものがあるわけじゃないですか。「そのあちこちで性的な行為をした」っていう風に言っているんですよ。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)それはちょっと、画として想像すると……たとえば遊園地、子供の国みたいなところで性的なことをするっていうのはやっぱりちょっとすごくて。諸星大二郎という漫画家の先生が昔、お金持ちたちが「大人になりたくない!」って自分の体を子供に改造して、子供の遊園地みたいなところでお金持ちたちが楽しみながらセックスをするというすごい怖い漫画を描いていたんですけども。ちょっとそれを思い出させるような話で。衝撃的だったですね。その部分は。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ただそのマイケル・ジャクソンの財産管理をしている側は、「このロブソンという人はずっと『マイケル・ジャクソンは何もしていない』という風に証言し続けていて、その時の証言と現在の映画の証言が食い違っているじゃないか。年代的にいろいろと食い違っていておかしいところもあるじゃないか」っていう風に反論をしているんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それともうひとつ、「このロブソンさんが振付師として最近、ちょっとうまくいってなくて。ラスベガスでのマイケル・ジャクソンをテーマにしたショーの振付師も断られたりしているから、経済的に苦しくなってそういう告発をしているんじゃないか?」っていう風にも批判をしているんですよ。

(赤江珠緒)でも金銭的な狙い、目的はないということなんですよね。ロブソンさんは。

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