町山智浩 マイケル・ジャクソン告発映画『ネバーランドにさよならを』を語る

町山智浩 マイケル・ジャクソン告発映画『Leaving Neverland』を語る たまむすび

(町山智浩)まあ、この段階では金銭的になにも要求していないし、取れないからね。で、まあ裁判に関しては損害賠償請求も無効だと言われて、裁判できない状態なんですよね。だから、そのへんでどっちを正しいと考えるかで非常に論争を呼んでいるんですけども。アメリカでオプラ・ウィンフリーさんというテレビ司会者がいるんですね。この人はものすごい人気の黒人の女性の司会者なんですけども。あまりにも人気があるから大統領選に立候補したら大統領に当選するんじゃないか?って言われているぐらいの人なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)国民的な人なんですけども。そのオプラ・ウィンフリーさんは実はマイケル・ジャクソンが訴えられた時にも、彼の立場に立ってインタビューに呼んで、彼の言い分を言わせたりしているマイケル・ジャクソン側の人なんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、その人がこの映画で告発をしたその2人を自分のところに呼んで。それで性的虐待を受けたという人たちを集めて……このオプラ・ウィンフリーさん自身も子供の頃にレイプされているんですよ。で、その被害者たちを会場に集めて、この2人の言っていることが本当かどうかを検証するというイベントを行ったんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)つまり、本当に被害にあっている人たちならわかるわけですよ。嘘か本当か。で、その人たちの前でオプラさんが次々と1時間ぐらい、いろいろと問い詰めていくという証人喚問みたいなことを行ったんですけども……それは最後にオプラさんが「こういう性的被害者というのは非常に孤独で、周りから信じてもらえないんだけども、その辛いのを乗り越えて我々がここまで生きてきたことを感謝します」という風に締めくくって。事実上、「この2人の証人の証言は信用できる」という風にオプラさんが証明した形になったんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからこれ、大変な問題になっているんですよ。で、まあラジオ局とかテレビ局では彼の曲をどうするのか?っていうことにもなってきているんですよ。で、まあオプラさんがとにかくいちばんよく聞いたことで、この映画の中で何度も質問されたことっていうのは「なぜ、いままで『マイケルは何もしなかった』と言っていたのに、いまになって『やった』という風に言ったんですか?」っていうことで。それを聞かれてこの2人とも、こういう風に言っているんです。「それが愛だと思っていたから」っていう。

(山里亮太)ん?

(町山智浩)だから「他の人は虐待されたりしたのか、しなかったのかわからないけど、自分がされたことっていうのは愛だと信じていたから、虐待だとは思っていなかった。レイプだとは思っていなかった。だから自分だけが本当に愛されていると思ったから、マイケルを守ろうと思った」っていう風に言っているんですね。でも、それはよくあるDVとか性的被害者が陥りがちな一種の洗脳でもあると言われているんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。ましてや幼い子度の時にね。

(町山智浩)はい。まあ、幼くもないんですよ。ロブソンさんがいわゆるお尻を犯された時は14歳なんですよ。子供じゃないんですね。だから記憶ははっきりしているんですよ。で、ただ彼の場合には仕事自体がマイケル・ジャクソンによって作られたんで。で、彼にとってマイケル・ジャクソンは仕事上の師匠なんでね。最も尊敬もしているし、彼自身のいまやっている仕事っていうのは全てマイケル・ジャクソンがいなければ存在もしなかったんですよ。だから否定できなかったんです。自分自身の全てを作った人が相手だから。

(赤江珠緒)そうですよね……。

(町山智浩)これも彼が言えなかった理由っていうのは、やはり最近問題になっているカトリックの神父による信者へのレイプというもの。これがずっと大問題になっていますよね。

(赤江珠緒)そうですね。町山さんに以前、紹介していただいて。続々とそういう話が出てきましたよね。

町山智浩 映画『スポットライト 世紀のスクープ』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、カトリック教会の神父による少年たちへの性的虐待事件を報じたボストンの新聞記者たちを描いた映画『スポットライト 世紀のスクープ』を紹介していました。 (町山智浩)今日はですね、もうアカデミー賞に...

(町山智浩)はい。全くそういうことで。神父は神の代理人だし、神を信じているから否定ができなかったっていう。そのことがレイプだっていう風に考えると、神を失ってしまうから。というようなことをよく被害者の信者の方が言いますけども。まあ、それとこのロブソンさんの場合も非常に似たような状況だったという風にロブソンさんを信頼している人たちは言うわけですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからこれはものすごいことになっているんですよ。で、一応マイケル・ジャクソンは当時、家宅捜索も受けています。で、証拠探しも実際にしているんですね。で、具体的な証拠はなかったんですけど、ただベッドのところにはいわゆるポルノ的なものがあったことは確認されているんですけども。ただ、それ以外の証拠は出てこなかったんですよ。ただ、このロブソンさんはお尻をされた時、血がついた下着は処分させられたという風に言っているんですけども。

(赤江珠緒)うーん……。

(町山智浩)だからこれはすごい強烈で。まあ子供を持っている人とか、そういう被害にあった人だととても正視できないようなドキュメンタリーではあります。

(赤江珠緒)そうかー。でもそのマイケルが亡くなって10年ぐらいですか。それでいま、ロブソンさん。そういう状態で……。

(町山智浩)10年目ですね。それでまあこの2人が語ろうと決定的に決心したのは、「自分たちに子供ができて。その子供が自分たちがマイケルに会った頃の年齢に近づくにつれて、自分がされたことと同じことを自分の子供がされたら……っていうことを想像すると、もう耐えられなくて告発することにした」っていう風に言っていますね。

(赤江珠緒)うーん……。

子供ができたことで心境が変化した

(町山智浩)ただ、今回のこのHBOのドキュメンタリーが裁判で訴えられている状態だと、今後これが日本の人の目に触れることはないかもしれないんですよ。裁判の対象になっちゃうとね。「放送を中止しろ」という風に訴えていますんで。だからもしかしたら見れない可能性もありますよね。今後。で、どうなるのかも全くわからないという状況です。ただ、いまアメリカでこういう事件を起こした人たち……ケビン・スペイシーとかR.ケリーとか、次々と問題になっていて。で、過去にそういうことをしたロマン・ポランスキーだとか、疑惑があるウディ・アレンとか。そういった人たちと作品をどう分けるのか?っていう。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)そういう人たちがそういうことをしていたのなら、その作品・芸術はダメなのか?っていう、そういうところまで含めて、もう本当に世界中の人たちがどう考えればいいのか?っていうことで迷って困り果てている状態で。今日の記者会見でもみんなそんな話ばっかりでした。

(赤江珠緒)ねえ。記者の人たちもそれをどう受け止めていいのか、どう捉えていいのかっていうのは本当に……ねえ。

(町山智浩)もう本当に困っている状態ですね。だから今後もたぶんすごくこの問題は続いてくだろうと思います。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)『Leaving Neverland』というのは「ネバーランドを去る」という意味のタイトルです。で、日本公開はもちろん未定です。

(赤江珠緒)今日はね、物議を醸しているというドキュメンタリー映画『Leaving Neverland』を町山さんにご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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