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町山智浩『サスペリア』(リメイク版)を語る

町山智浩『サスペリア』(リメイク版)を語る たまむすび
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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でルカ・グァダニーノ監督の映画『サスペリア』(リメイク版)について話していました。

(町山智浩)今日、お話するのは1977年についての話なんですよ。赤江さんたちは2歳か。

(赤江・外山)そうですね。

(町山智浩)1977年の『サスペリア』という映画のリメイクについて、話したいんですが。いま、後ろでかかっているのがその主題歌ですね。

(赤江珠緒)なんか怖い感じ。

(町山智浩)そうなんです。これ、僕が中学生の時に大ヒットしたんです。ものすごいヒットしたホラー映画で、あまりにもヒットしたんでサスペリアっていう雑誌まで出ましたよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)漫画雑誌ですけども。秋田書店が勝手に出したんですけどね。それぐらいヒットして便乗商品でしたけども(笑)。で、みんな中学生とか見に行って。その頃って中学生が映画観客の結構中心だったんですよ。「あれ見た」「これ見た」みたいな感じで休み時間にみんなで話してゾロゾロと映画館に行くっていう時代があったんですけどね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、これはどういう映画かっていうと、ドイツにあるクラシックバレエの学校にアメリカ人の女の子のスージーちゃんっていう子が入学するんですね。で、この子を演じているのはジェシカ・ハーパーっていう女優さんで。本当に目の大きな、少女漫画に出てきそうなかわい子ちゃんだったんですけども。

(赤江珠緒)ああ、本当だ。

(町山智浩)ところが、そのバレエ学校で次々に生徒たちが無残な死を遂げていくという。その死に方が凄まじい。かつ、非常に美しく撮られている映画だったんですよ。だからね、これはいわゆる猟奇残酷美の世界だったんですね。日本にはよく、昔からそういう伝統があって。美しい女の人が残酷に殺されるのを絵として描く伝統があったんですよね。月岡芳年(つきおかほうねん)とか、知りませんか?

(赤江珠緒)月岡芳年?

(町山智浩)「無残絵」というのを書いていた人ですけども。「つきおかよしとし」とも言いますけども。あとは、江戸川乱歩さんとか。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。はいはい。

(町山智浩)猟奇残酷美の世界なんですよ。

(赤江珠緒)でもそういうジャンルはたしかに昔から、そうですね。絵としてもありますもんね。

(町山智浩)そう。エログロなんだけど美しいっていう。で、エロチックでみたいな。そういう映画で非常に中学生が見てドキドキしたわけです。そういう見世物映画だったんですね。で、それをいま、この時代になぜかリメイクしたのが今度公開される『サスペリア』なんですけども。これが、なんと監督が『君の名前で僕を呼んで』っていう、男性同士の非常に美しい美少年と美青年の恋愛映画がありましたけども。覚えてますか?

(赤江珠緒)うんうん。紹介していただいたやつですね。

町山智浩 『君の名前で僕を呼んで』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『君の名前で僕を呼んで』を紹介していました。

(町山智浩)ギリシャの少年愛の世界を現代に描いたような非常に美しい文芸映画だったんですけども。その映画のルカ・グァダニーノ監督がなぜかこの猟奇美女殺人映画のリメイクをしたというので、「いったいどうなるんだ?」ってみんな言っていたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だって、このグァダニーノ監督は実はゲイなんですけどもね。で、「全然資質が違うじゃないか? できるのか?」ってみんな言っていて。で、出来上がってみたら、元の『サスペリア』を撮ったダリオ・アルジェント監督が「全然違うじゃねえか!」ってめちゃくちゃ怒っているっていう。

(赤江珠緒)えっ、そんな? 全く違う作品になっちゃっている?

(町山智浩)そう。「美しいんだけど、全然関係ねえじゃねえか!」って思っているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、ところがクエンティン・タランティーノ監督というホラー映画とか大好きな監督がいるんですけども。そのクエンティン・タランティーノは「感動した。泣いた!」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)へー、感動する?

(外山惠理)反応が違うんだ。

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泣いたタランティーノ

(町山智浩)そう。オリジナルの監督は怒り狂っていて。ところが、オリジナルのファンであるクエンティン・タランティーノ監督はもう大絶賛しているという。で、非常にアメリカでも「これはいったい何なんだ?」って。特に映画のいちばん最後のところは何がなんだか全くわからないんですよ。それで大論争を呼んでいる映画なんですね。この『サスペリア』という映画は。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、まずどういう風に違うかって言うと、もうジャンルが違う(笑)。

(赤江珠緒)ジャンルが違う?

(町山智浩)もともとは見世物ホラー映画だったわけですよ。美しい女の人が残酷に死ぬのを見せて楽しむという非常に悪趣味なね。ところが、今回ははっきり言って非常に思想的な芸術映画になっちゃっているんですよ。方向がまずぜんぜん違うんですよ。

(赤江珠緒)そんなに変われます?

(町山智浩)だからね、『地獄先生ぬ~べ~』をドストエフスキーが漫画にしたみたいな……。

(赤江珠緒)いやいや、めちゃくちゃだな! 『地獄先生ぬ~べ~』を?

(町山智浩)そう。それぐらい違う。大江健三郎が四谷怪談を書いたみたいな世界ですよ。で、舞台は全く同じで1977年のドイツのダンス学校なんですけども、ただこの映画は1977年にドイツでなにがあったのか?っていうのを見せていくんですよ。その当時は、ドイツ赤軍というテロリスト集団が次々と誘拐とか殺人とかハイジャックとか爆弾事件を起こしていた時なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その騒然たる状況から映画が始まるんですね。そこらじゅうでサイレンが鳴っていて、デモがあって、爆弾がバーン!って爆発している。テレビを見ると「ハイジャックです」とか言っている、凄まじい状況から始まるんですよ。この『サスペリア』は。で、なぜそういうことがあったのか?っていうと、ナチスの時代から時間が経っていたんですけど、いまだにドイツの政財界は元ナチスの人たちが支配をしていたんですよ。その時期に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、それに怒った学生たちがそういう人たちを誘拐したり、テロを繰り返していったという時代があって。で、それに対してドイツの警察はテロリストを片っ端から捕まえて獄中にブチ込むんだけど、獄中でそのテロリストたちは全員謎の自殺をするという、非常に不可解な状況があって。しかも、そのテロの恐怖のためにドイツの人々は「もっと国家権力や警察権力を強くすべきだ!」っていう右派が台頭していくという、非常に左右の分断が起きて騒然としていた時だったんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)で、しかもまだベルリンは壁で東西に分断されているんですよ。この映画『サスペリア』のダンス学校はベルリンの壁のすぐ脇に建っているんですよ。という、ものすごく政治的な状況から始まるんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)で、グァダニーノ監督は「元の『サスペリア』は1977年のドイツなのに全く政治的状況が描かれていない。だから私は全部描いた」って言っているんですよ。もうその段階でオリジナルに対する、はっきり言ってチャレンジをしちゃっているわけですよ。

(赤江珠緒)そうか。でもその政治的なものを盛り込んでホラー映画に……えっ、バレエ学校の話ですよね?

(町山智浩)バレエ学校の話です。それでバレエ学校の話になるんですけど、元の話はクラシックバレエなんですね。だから非常に痩せた女の子たちがつま先立ちでたおやかに美しく儚げに踊っているわけですよ。女性的美しさを全面に出していって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、今回はダンスが暗黒舞踏なんですよ。

(赤江・外山)暗黒舞踏?

(町山智浩)暗黒舞踏というのはたぶんもうご存知ではないと思いますけども、1980年代に世界的に大人気になった、非常におどろおどろしいグロテスクな踊りで。日本の暗黒舞踏が世界一人気あったんですよ。

(赤江珠緒)へえ。実際にその踊りがあるんですね?

(町山智浩)白塗りで裸で踊るんですけど、知りませんか?

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)大森南朋さんっていう俳優さんがいますよね。あのお父さんが……。

(外山惠理)麿赤兒さんだ。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)そう。麿赤兒さんは暗黒舞踏の人ですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからもう、それぐらい知らないんですね。で、その暗黒舞踏っていうのは実はもともとドイツから出てきたんですよ。ナチス以前のドイツでマリー・ウィグマンというダンス研究家・舞踏家の人がいまして。その人が始めたのが「ノイエ・タンツ」、ニューダンスと言われているその暗黒舞踏なんですね。暗黒舞踏っていうのは日本でつけた名前ですけども。どう違うか?っていうと、それまでのバレエっていうのは非常に美しくはかなげなものだったんですよ。

(赤江珠緒)トウシューズで立って。

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バレエではなく、暗黒舞踏

(町山智浩)そうそう。女性のバレリーナが女性の美しくさとか、まあはっきり言って女性らしさみたいなものを全面に出していったわけですね。ところが、これは逆で。女性の強さを出していくものなんですよ。ニューダンスは。だから、弱々しく踊らないで「ダン、ダン!」と足でなんというか四股を踏みながら踊ったりとかして。

(赤江珠緒)そんなドスドスした感じの踊りなんですね。

(町山智浩)ドスドスした。重力を感じさせて踊るっていうのが大事だったんですね。で、そのもともとの『サスペリア』という映画は連続殺人の裏にあるのが……これはもうネタを割っちゃっていいと思うんですけど、バレエ学校を魔女たちが経営していて。で、その魔女たちが生贄のために女の子たちを殺していたっていうことがわかるという映画だったんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、ところがそのマリー・ウィグマンっていう実在のノイエ・タンツの人はいちばん有名な踊りが「魔女のダンス」っていう踊りなんですね。で、グロテスクなグロテスクな踊りをやって、そこから世界のダンスが変わっていったんですけども。それをこの映画の中ではやっていて。ティルダ・スウィントンさんという女優さんがこのマリー・ウィグマンさんをモデルにしたダンスの先生をやっているんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これがすごく重要なのは、そのマリー・ウィグマンのダンスっていうのはグロテスクだからナチスに弾圧されて潰されているんですよ。

(外山惠理)ええーっ、うんうん。

(町山智浩)そこでまたナチスが出てくるんですけど。で、さらにこのティルダ・スウィントンさんという女優さんがもう一役演じていて、その人が70過ぎの男性の老人なんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)写真があるんですけど、すごい二役をやっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、このおじいさんをティルダ・スウィントンさんっていう女優さんがやっているんですけど。このおじいさんが出てくるんですけど、これはリメイク版にしか出てこないおじいさんなんですけど。この人がまた非常に重要な人物で、クレンペラーっていう名前なんですけども。この人はね、ビクター・クレンペラーという実在の人物をモデルにしているんですね。で、このクレンペラーっていうおじいさんはユダヤ系なんですけども、ナチスの弾圧下を生き延びた男なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)実在の方の人もそうで。この人は日本語で翻訳本がいくつも出ていますけども、とにかくナチスの弾圧を目撃した目撃者として本を出した人なんですね。

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(町山智浩)で、この人が自分が愛した奥さんがナチスの弾圧の中で離れ離れになってしまって、生きているのか死んでいるのかわからないんでいまも想い続けているっていうおじいさんなんです。このクレンペラーっていう人が。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)で、この非常に政治的な話が続いていく中、クレンペラー博士が……この人、精神分析の博士なんですけども。こういう話をするんですよ。「魔女っていうのはいったいなんだと思う? 悪いものだと思っているのか?」っていう話をするんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

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