町山智浩『サスペリア』(リメイク版)を語る

町山智浩『サスペリア』(リメイク版)を語る たまむすび

(町山智浩)魔女って悪いものかいいものか、どっちだと思います?

(赤江珠緒)まあだいたい……いまはいい方の魔女も出てきちゃっていますけども、悪いという感じで。魔女狩りとか、ヨーロッパでは悪い方に、ねえ。

(町山智浩)そうそう。ヨーロッパでは魔女とされている人たちが次々と殺されていったわけですけども。もともと、魔女っていうのは何から始まったかっていうと、キリストよりも前からあったヨーロッパの土着の踊りを踊る人たちだったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)つまり、まだキリスト教が始まる前にはいろんな神様がいたわけですね。畑の神様がいたり、土の神様がいたり、お日様の神様がいたりしたわけじゃないですか。で、それに対して土着の人たちが踊りを踊ったりいろんな儀式をしたりして豊穣を祈ったり豊作を祈っていたわけですよね。

(赤江珠緒)日本の八百万の神様みたいな、そんな感じで。

(町山智浩)そうそう。そうなんですよ。あと、漢方薬が昔はあったんですね。ヨーロッパにも。で、それはいろんな草木とかを煮て作る薬だったんですけど、そういったもの……踊りや漢方薬っていうのはその後、キリスト教によって全面的に禁止されたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)キリスト教は1人の神しか許さないので。おまじないとかいろんな神様とか、いろんなものを信じることは全部禁じられたんですね。でもやっぱり、病気を治したりするお祈りをしたりっていうのは密かに残っていたわけですよ。それをしていた人たちが「魔女」呼ばわりされたんですよ。森に隠れて薬を作ったり、踊りを踊っていたので「魔女なんだ」っていう風に言われて。ただそれは密かに続いていて害がないうちは良かったんですよ。役に立っていたんですね。だってキリスト教って全然薬を作らなかったから。全く治療ってものを行っていなかったので。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)だから、そういったものに頼っていたんですけど、時たまペストとかいろんな病気とか水害とか、いろんな形で災いが起こると「魔女のせいだ!」っていうことでその人たちを殺してスケープゴートにしていたんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。

(町山智浩)それが魔女というものなんだよっていう話が出てくるんですよ。そういう話をクレンペラーっていう人がするんですけども。これは実はカルロ・ギンズブルクという歴史学者の理論なんですね。で、このカルロ・ギンズブルクは「そういったスケープゴートにして魔女を殺していたのが、結果的にユダヤ人の虐殺に結びついていったんだ」っていう理論を出しているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だからここでナチに結びついてくるんですよ。

(赤江珠緒)ああ、結果的に自分たちの中で誰かスケープゴートを作ることで団結したり、そういう高揚感とかを高めたり……。

(町山智浩)そう。だからもともとユダヤ人迫害っていうのは、「ユダヤ人が子供を殺して悪魔の儀式を行っている」っていう噂から始まっているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。

(町山智浩)だから魔女狩りとユダヤ人迫害は結びついているんだっていう話があるんですね。今回の『サスペリア』はそういう映画なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)ものすごい歴史と政治が複雑に絡み合っていく、ものすごい高度なことをやっちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)えっ、じゃあ町山さんが中学の時に見に行って「うわっ、怖かった。ホラーだ、サスペリアだ!」っていう感じで見に行くと、全然本当に違う?

(町山智浩)全然違うんですよ。「これ、ジャンルが違うじゃん!」っていう映画なんですよ。

(外山惠理)じゃあ、それだけ流行ったなら見に行ってびっくりする人は多いでしょうね。

(町山智浩)だから、昔のようなホラー映画を期待して見に行くと、映画が始まって30分ぐらい全く怖くないんで。「なんだ、これ?」っていう人もいると思いますよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。で、町山さん自身はどうなんですか? タランティーノさんは感動して泣いた。オリジナルの監督はダメだって言っているっていうことですが、町山さんは両方ともご覧になって……。

(町山智浩)僕ね、感動したんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)僕は泣きました。

(赤江珠緒)ああ、じゃあこのリメイク版はあり?

(町山智浩)はい。ただ、ホラー映画としてはちょっと違うんですけども(笑)。

(外山惠理)けど、なんかのチラシというか、それに昔のはほら、「決して、ひとりでは見ないでください」って書いてあるけど、今回のにも「決してひとりでは見ないでください」って書いてあるから、怖いのかな?って思っちゃいますよね。

(町山智浩)ああ、血はものすごい出ますね。残虐シーンは凄まじいです。

(赤江珠緒)へー! それでなんか最後に泣く? 感動する?

(町山智浩)だからさっき言ったみたいに元の『サスペリア』とは全く逆っていうか、元の『サスペリア』は「魔女は悪い。人殺しだ!」っていう話だったですけど、今回はいまのした話みたいに魔女は悪くないんですよ。

(赤江珠緒)そうか。勝手に悪役に持っていかれちゃった人たち。

(町山智浩)まあ、そういうちょっと複雑な話になっているんですけど。で、あっと驚く逆転のどんでん返しが最後の方にあるんですけど。ただ、この映画はタランティーノが「泣いた」って言った時に監督が「そりゃそうだ」って言っているんですよ。「だってこの映画はロマンチックなメロドラマだからね」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)「この映画は永遠の愛についての物語なんだ」って。

(外山惠理)そうなんですか。

(町山智浩)そんなものが来るとは思ってないですからね(笑)。

(赤江珠緒)そうですか。じゃあ、『君の名前で僕を呼んで』にも通じるところがあるんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。そっちに振るかね?って思いましたよ。「えっ?」って思って、ちょっと泣いたですよ。で、特に僕は元の『サスペリア』が好きだったので、元の『サスペリア』とは全然逆方向なんですけども、元の『サスペリア』のヒロインだったジェシカ・ハーパーさんがまた今回、出てくるんですよ。

(外山惠理)へー! それはうれしい。

(町山智浩)そこで「うわっ!」っていう感じなんですよ。あの頃の中学生はみんなノラ・ミャオさんっていうブルース・リー映画の相手役の女優さんとジェシカ・ハーパーさんが大好きだったんですよ。あとはソフィー・マルソーとかね、そのへんの人たちなんで。まあアイドル系だったんですね。

(赤江珠緒)その楽しみもあるんですね。

グァダニーノ監督がリメイク版を撮った理由

(町山智浩)で、「うわっ!」って50過ぎのおっさんたちが泣くんですけどね。で、さらに、これはこのグァダニーノ監督が言っているのは、「いまだから、この映画にしたんだ」って言っているんですよ。「なぜ、ベルリンの壁の映画にしたんですか?」って聞かれたインタビューで「それは、ドナルド・トランプが大統領をやっている時代だから」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか!

(外山惠理)その時代を、ねえ。

(赤江珠緒)宗教とか民族の対立とか思想的な……。

(町山智浩)ねえ。「国家予算で壁を作るために国を停止させている男が大統領だから」って言っているんですよ。「この映画を見て、いままでどういうことが歴史の中であったのかっていうのを考えてほしい」っていう風に言っているんですね。これは要するに左右が分裂して、右と左で殺し合いをしていたような状態がベルリンにあって。その分断を象徴するようにベルリンの東西の壁がある時代なんですね。1977年っていうのは。で、それが最終的にまあ、エンドクレジットの後のびっくりするような、なんだかわからない大論争を呼ぶシーンにつながっていくという。

(赤江珠緒)へー!

(外山惠理)気になる!

(町山智浩)そこに全てが集約していくんですよ。いままでも言っていた非常に複雑な政治的状況が。最後の5秒ぐらいのシーンに一瞬で集約していくっていうね。

(赤江珠緒)ああ、そこで回収していくんだ。

(町山智浩)もうね、それを見てなにがなんだかわからないっていう人もいると思います。だから論争が起こると思うんで、1月25日に公開なんですが、僕は1月27日の日曜日にこの映画の上映後の解説会をします。

(赤江珠緒)おっ、町山さんのトークショー付きの上映があるということで。27日(日)TOHOシネマズ日比谷です。1月27日(日)、3時50分の回。この上映終了後にトークショーがあります。

(外山惠理)ああ、嬉しいですね。終了後に解説が聞ける。

(町山智浩)「いま見たのはいったいなんだったのか?」っていうのを。

(赤江珠緒)チケットは明日23日。つまり今日の深夜12時からTOHOシネマズ日比谷のホームページで発売されます。ということで、そうか。町山さん、もともとの大ヒット作にそのルカ・グァダニーノ監督が盛り込みましたね。いろんなものをね。

(町山智浩)もうわけがわかんないですよ。トイレの花子さんを大江健三郎が小説家したみたいな、すごい世界になっていますよ。

(赤江珠緒)じゃあこれはもうその後の町山さんのトークショーで「なるほど!」とか「あそこだったのか!」って気づくことが多いでしょうね。わかりました。

(町山智浩)ということで、今日は永六輔さんみたいに昔話をしてしまいました(笑)。

(外山惠理)いえいえ、ありがとうございます。

(赤江珠緒)フフフ、町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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