町山智浩 アメリカ大統領選挙・バイデン氏の勝利とトランプ氏の窮状を語る

町山智浩 アメリカ大統領選挙・バイデン氏の勝利とトランプ氏の窮状を語る ABCラジオ

町山智浩さんが2020年11月9日放送のABCラジオ『おはようパーソナリティ道上洋三です』に電話出演。バイデン氏がほぼ勝利が確定したと報じられている2020年アメリカ大統領選挙について話していました。

(道上洋三)アメリカ大統領選挙でようやく当選確実の報道が出ました。バイデン前副大統領が勝利宣言をしています。果たして、このまま終わるのかどうか。どうも訴訟をトランプ大統領が起こすんじゃないか。あるいは、もう起しているっていう話がありまして。現地に聞いてみます。コラムニストの町山智浩さんに今週もお話を伺います。町山さん、おはようございます。

(町山智浩)町山です。おはようございます。

(道上洋三)今、どちらにいらっしゃるんですか?

(町山智浩)今、カリフォルニアの自宅の方に戻りました。

(道上洋三)だいぶ、ニューヨークやワシントンの方にいらっしゃった?

(町山智浩)そうです。首都ワシントンに1週間ぐらいいました。

(道上洋三)そうですか。これ、報道で……バイデンさんに決定ということでいいんでしょうか?

(町山智浩)はい。一応、アメリカの全てのメディア、テレビ、新聞はバイデンさんの勝利という風に報道しました。ただ、それは法的なものではないです。法的にはですね、バイデンさんの大統領を承認するというか、それが法的に決まるのは12月8日にですね、各州がその最終的な勝者を決定する時。まあ法的にはそこで決まります。

(道上洋三)なるほど。それで決まれば、決まりなんですか? それとも、まだ裁判を起こしてるので伸びるんですか?

(町山智浩)トランプ大統領はすでに裁判を起こしています。訴訟を起こしていますが、それぞれ自分が負けた州がありまして。際どい差で負けているところに対して、票を数える、集計をすることを中止させようとしたり。逆に票の集計をやり直しさせようとしたりして。次々と各州に対して裁判を起こしてます。ですが全て、却下されている状態です。

(道上洋三)今、それは却下されてるんですか?

(町山智浩)却下されています。だから集計が続いています。

(道上洋三)なるほど。で、バイデン前副大統領の勝利演説を町山さんはどういう風に受け止められましたか?

(町山智浩)バイデンさんは最初から、大統領選の予備選というのに出て。民主党内で戦ってる時から彼がずっと主張していたのは、分断がここまで進んで、どうしようもなく互いに憎み合ってる状態で。トランプ的な人たちと反トランプ的な人たちの間で憎み合って、いろんな揉め事がそこらじゅうで起こっているので、これを解消するという。

「とにかく、みんなアメリカ人なんだから。敵味方じゃないんだから。仲良くやりましょう」っていう。で、特にバイデンさんが言ってたのは「自分に投票しなかった人。自分に敵対してトランプに投票した人たちに対しても私は大統領として敵ではなく、仲間としてこれから大統領の仕事をします」という風に言ったことが非常に強調されていて、印象的でしたね。

(町山智浩)これはトランプ大統領がたとえばこういう風に言ったんですよ。「カリフォルニアが自分に投票をしてくれないから、カリフォルニアは地獄に行け」ってTwitterでツイートしたんですよ。で、ニューヨークに対しても「ニューヨークは自分に投票してくれないから、もう地獄に行ったんだ」ということを言っていて。「自分に投票しない人はみんな敵で地獄に行けばいい」って言ってる大統領だったんで。バイデンさんは「そういうことはもうやめようね」という感じで、非常に明確にトランプ大統領との差を出してました。

(道上洋三)なるほど。こうやっていろいろお話を伺って、マスコミの報道の仕方とか、あるいはバイデンさんの取材。あるいはバイデンさんの発言などか、もう決まったんじゃないかっていう風に思う向きも多いんですけど。トランプ大統領は落選すると破産するっていう報道もあるんですが。本人、あるいはその支持者たちは諦めていないんでしょうか?

(町山智浩)まあトランプ大統領自身が敗北宣言をすればそこで支持者たちは諦めると思いますけれども。それで通常、大統領選挙というのは「これで勝ち目がない」と思った側の候補者がその相手の勝ったと思われる候補者に電話をかけてその勝ちを譲るというか、敗北を認める形で大統領選というものはかならず終結するんですよ。ところがトランプ大統領はもう最初の段階から……つまり選挙が始まる前から、「今度の選挙で私が負けたとしたならば、それは選挙に不正があったからだ」と言っていて。まだ投票する前から言ってましたから。それで「裁判で最後まで戦う。絶対に諦めない」って言っていたので、まあその通りに進んでいる感じですね。

(道上洋三)そうですか。

(町山智浩)で、今のところのトランプ大統領の支持者の人たちがペンシルバニアとかネバダとか、そういった州。僅差で負けたところの集計所、開票所の周りに集結して、反対運動を繰り返していますね。アリゾナの方では銃を持った人も出てきてるらしいですけれども。だからこれがどこまで続くかというと、でも泣いても笑っても12月8日には各州が終わらせないとならないで。まあ、わからないですけども。

で、先ほどの「トランプ大統領がお金がない」という件なんですが、これはすでにニューヨークタイムズがトランプ大統領の納税報告書を手に入れて。それによると、現在一応4億ドル(約450億円)の負債を抱えているという。さらにそれだけじゃなくて、今回の選挙で500億円というお金を使ったらしいんですけれども、トランプ大統領は途中からお金がなくなりまして。それでかなり借金をしています。

その借金は秘密にしていなくて、「今回の法廷闘争に関して6000万ドル(約62億円)が必要だ」という風に公式のサイトの方で宣言しまして。「その62億円を寄付してくれ」と言っているんですけども。その寄付を募集しているサイトをよく見ると「今回の法廷闘争のための寄付金の半分はこれまでの選挙に使ったお金の借金、負債の返済に充てられます」って書いてあるんですよ。大変なことになってるようです。

資金的に苦しいトランプ氏

(道上洋三)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)はい。だから法廷闘争したくてもお金がないという現実らしくて。特にトランプ大統領の今回の選挙資金は半分以上は小口の寄付で集めているんですよ。要するに熱心なトランプ支持者の人たちの草の根のお金を集めてずっと選挙で活動してきたので、トランプ支持者たちはこれまでの半年ぐらいの選挙期間中にものすごい額を寄付しまくってるんですよ。ただ、トランプ大統領の支持の人たちの中にはそんなに豊かな人は多くないので。おそらく寄付は限界に達してると思います。

(道上洋三)そうですか。これ、新聞の解説なんかによると今年の12月8日。さっき仰った各州の結果確定期限だから、ここで決まるんじゃないか。それがダメなら12月14日。各州の選挙人による投票が行われるという。この投票っていうのは何なんですか?

(町山智浩)これはね、形だけの投票なんですよ。昔はアメリカってすごく広いのに、まだ馬しかなかった時代は大統領と会うことはできないんですね。見たりすることもできない。テレビもラジオもなかったので、選挙人という人たちに委託して。当時は字が読めない人も多かったんでね。その人に首都ワシントンに行ってもらって大統領の演説とかを聞いて。その人が自分の地元の人たちの代わりに投票するっていう形だったんですよ。それを「選挙人」って呼んだんですが、今もその制度が続いていて。ただ、現在は各州で投票をして、多数決で勝った方に従って選挙人が投票するという。現在では「選挙には自分の意思を持たない」という形になっています。

(道上洋三)なるほど。それで投票して、どちらも270人を獲得できなければ負けっていうことになるんですか?

(町山智浩)どちらも確定しなければ、決選投票というものが下院議会で行われます。下院議会で12月23日に決選投票することになるのですが、その際は「各州ごとに1票」という形で投票するので。それだと今回、民主党が下院で議席を失ってますので、その場合は共和党……つまりトランプ大統領が勝つということになります。決選投票になれば。ただ、それでも決まらない場合というのがあって。その場合には1月20日まで持ちこされて。1月20日になると現在の大統領の任期が自動的に終わるので。そうすると自動的に下院議長である民主党のナンシー・ペロシさんが大統領代行になります。だから、どっちになるか分からない感じなんですよ。どっちで決まるかで。

(道上洋三)なるほど。そのトランプさんが言う「選挙に不正があったんじゃないか」『選挙は中止だ」「郵便で不正が行われてるからそれはダメだ」とか。いろいろ言っていらっしゃるんですけれど、その証拠になるようなものが出てるんですかね?

(町山智浩)全く一切出ていません。だから裁判所の方も受理をしてないというか、拒否をしているわけです。受け付けていないんですが。今、お話したように今回の選挙では下院と上院の選挙も同時に行われたんですね。大統領選挙と同じ投票用紙を使って。で、トランプ大統領が主張するように「民主党が不正を行なってバイデンを勝たせた」というならば、ではなぜ民主党が下院と上院で負けているのか? その説明がつかないんですよ。

(道上洋三)そうですね。それで決まりなんじゃないですか?

(町山智浩)だから、トランプ大統領の主張はとんちんかんなんですよ。不正があったならば、上院や下院でも民主党は勝っているはずなんですよ。でも、今回は勝っていない。

(道上洋三)じゃあ、裁判をするまでもないわけですね?

(町山智浩)するまでもないにと、あとは証拠がない。さらに裁判をするお金もないんですよ。だからこれは無理だろうという。

(道上洋三)じゃあ、やっぱり破産の方が?

(町山智浩)破産だけではないと思います。トランプさんは現在、大統領なんで不逮捕特権があります。大統領は起訴をされないんですね。弾劾をされるだけなのですが、その弾劾は切り抜けたんですね。でも彼はこの負債だけではなくて脱税疑惑もありまして。それは1億ドルの脱税疑惑があって。さらにはレイプとかセクハラでも20件ぐらいの裁判を抱えています。それが大統領を辞めると一気に来ます。だから彼としては大統領を続ける以外に方法がないんですよ。辞めた途端にものすごい裁判を抱えることになります。

(道上洋三)なるほど。そちらのニュースはあんまり出てませんね。

大統領の不逮捕特権がなくなる

(町山智浩)出てないんですが、アメリカではそのレイプに関する裁判について、司法長官が「トランプ大統領のレイプに関する裁判を代わりに引き受ける」って言ってたんですよ。そうしたら、それは最高裁から却下されたんですよ。「なぜ国費で司法省と司法長官が大統領のレイプ裁判を代行するのか?」っていう。それは国のお金でやることになるわけですよね? 「それはあり得ないよ」っていうことで蹴られちゃったりしてるんですけど。そういう、かなり異常な事態にはなっていますね。

(道上洋三)なるほど。ということは、裁判が行われるまでもなく、人も離れていくし。息子さんの1人は「もう負けたって言った方がいいよ」とか言ってるというニュースは伝わっているんですけれども。

(町山智浩)家族はね、「もうこれは負けた方がいい」って言ってるみたいだし。あと共和党の方もトランプ大統領に負けを認めるよう促し始めてますね。何人もの議員さんがそういう発言をしていますけれども。ただ、トランプ大統領の追い詰められてる状態っていうものを考えると、これは負けを認められないだろうなという気も逆にしますね。

(道上洋三)なるほど。それで頑張ったとして、トランプさんは勝てるんですか?

(町山智浩)いや、これは勝てないので今、言われてるのは「ロシアから北朝鮮に亡命した方がいいんじゃないか?」っていう話もあります。プーチンさんとか金正恩さんとかと仲がいいので。そこまで言われているような状態に現在、なってますけど。あとフィリピンとかブラジルとか引き受けてくれるところはあると思います。もしかしたら日本もね、自民党や政権取ってる限り、引き受けてくれるかもしれません。

(道上洋三)ははー。そういう、つまりと自分が負けたっていうことになると、ものすごい借金と、国にいられなくなるかもしれないっていう事情があるほど切実なんですね。

(町山智浩)切実ですね。これは。まあ、今までもずっと裁判は続いていたんですけれども。特にレイプとかセクハラに関して、全然決着が付いてないものが20件ぐらいあるんですよ。それが一気に来るということになると思います。とにかく裁判しようとしても、たとえばその票差がある部分……その負けた部分の票差って8万票ぐらいなんですよ。

で、「その8万票の全てが実際の投票した人のものではない」っていうことを証明しなければならないので、これは不可能に近いんですよ。アメリカの投票は日本の投票と違って、各票が「誰が投票したか?」っていうことがわかる。投票者たちは先に投票人登録をするんですよね。で、その登録の際のサインと投票の際のサインが一致をしないと投票として集計されないというシステムになってますんで。無署名投票と有署名投票の間みたいな形にアメリカの投票はなっているんですよ。だから、投票にインチキがあったとして、その部分を無効にするには、それが本当に無効な票なのかどうかを確認できなければいけない。

そうしないと、実際にその投票をした人々の投票権を奪ってしまうことになってしまうからです。だから「1万票の投票がインチキだ」というのであれば、そのインチキである1万票分の投票を確定しなければいけないんですよ。だから、これはもう不可能に近いんですよね。

(道上洋三)ということは、もうトランプさんは4年1期で大統領を退かざるをえないという?

(町山智浩)はい。そういう事態になっています。

(道上洋三)なるほど。

(町山智浩)で、バイデンさんがこれからアメリカをどういう国にしていくかというと、そんなに大きな改革はありません。

(道上洋三)どういうことになりますか? 経済運営とか外交とかっていうのはどうなりそうですか?

昔ながらの形に戻るバイデン政権の政策

(町山智浩)全部、昔ながらのものに戻るだけですね。特に日米関係とか外交についてはトランプ以前のアメリカに戻るだけです。トランプ大統領は今までの日米関係と日韓米の関係であるとか、あとはNATOですね。ヨーロッパとの関係とかを全部、破壊するような……たとえばロシアと仲良くしたり。北朝鮮と仲良くしたりしてたわけですけれども。「そういったことはもうしない」とはっきりバイデンさんは言ってますので。「絶対に独裁者と仲良くはしない」という風に言ってるんで。だから前の形に戻ることになると思います。

で、「前のように戻すんだ」という風にはっきりとバイデンさんは言っていますんで。それで経済とかに関してはトランプ大統領はものすごく金持ちとか大企業に減税していたんで、それについては増税をする。バイデンさんは具体的には「年収4000万円以上の富裕層にだけ増税する」という風に言ってますんで。それでコロナによる経済的なダメージ、景気の悪さを立て直すというのがバイデンさんがこれからやる一番大きなことになると思いますけれども。

(道上洋三)国内的にはこの格差とか段差とか分断とかって言われてるんですが。それでまとまりそうなんですか?

(町山智浩)それが大変なことになると思います。4年間に渡って徹底的にトランプ大統領がアメリカ人を「敵と味方」に分けたので。「あいつは敵だ!」っていう風な形で自分の支持者を固めていくという政策をずっと取ってきたので。それを前のように一丸となった、「多少考え方は違っても我々は同じ国の仲間なんだ」という気持ちにも元に戻らないとならないので。それは大変な作業だと思います。

(道上洋三)なるほどね。それと、中国や北朝鮮との関係を見ても、貿易に制限があるとか、関税を上げるとかなんとかって言っても、アメリカと中国の関係っていうのは仰った通り、そう冷血でもないし。北朝鮮ともわりあい上手く行ってきたものを、じゃあバイデンさんが「元に戻すよ」っていうのは、それは対外的には危険なことじゃないんですか?

(町山智浩)だからよく言われているのが、「トランプ政権の間、大きな戦争がなかった」っていうことですよね。「それは独裁者とかと仲良くしちゃったからだ」と言われるわけですけども。今後はそうではなくなるので、やっぱり北朝鮮とアメリカとの関係はまた緊張していくと思います。ロシアとの関係も以前のように、まあ半敵国状態に戻るんだと思いますね。だからバイデン政権になると、今まで……オバマさんの時もそうですけど。今までのアメリカのように、独裁政権だったり軍事政権だったり。そういったところとの軍事的な衝突というのは起こるであろうと言われています。

(道上洋三)いずれにしても、トランプさんの裁判が全部行われて、長引いて……っていう、今までの大方の見方のようには今回はならないんじゃないかということですね?

(町山智浩)そうですね。期限が決まっているので。どんなにトランプさんが頑張っても、12月8日までには決めなきゃならないので、難しいですね。

(道上洋三)なるほどね。ということになると、トランプさんは大変ですね。

(町山智浩)大変だと思います。いろんな身近な人たちが進言してるようですけれどもね。「ここは引いた方がいいよ」と。だからどこで折れるか?っていう。でも、トランプさんは人に折れたことがない人なので。負けたことがない人……負けを認めたことがない人なので。果たしてそれができるか?っていう。だから僕は非常にナポレオンに近いと思いますよ。ナポレオンはワーテルローの戦いで負けた後もなかなか降参しなかった。

それで、もう下手したらヨーロッパ中……フランスも滅びちゃうかもしれないっていう時があったんですけども。その時にナポレオンの昔の婚約者だったデジレさんがナポレオンに会って。「あなたがここで降参しないと、ものすごい人が死ぬから。降参してください」と説得したという例があったんですが。そういうことをしてくれる人がトランプさんの周りにいるのかなと思いますけどね。

(道上洋三)奥さんじゃダメですか?

(町山智浩)どうなんでしょうね? 奥さんか娘さんかがそういう仕事をしないと大変なことになると思いますけど。まあ、江戸城開城とかそういった事態は世界史の中でいっぱいありますよね。頑張り過ぎると大変な被害になるっていうね。

(道上洋三)そうですか。まだそれでは、どうなったかっていうのはもう1回、もう2回ぐらい伺うかもしれませんが。よろしくお願いします。ありがとうございました。

(町山智浩)よろしくお願いします。

<書き起こしおわり>

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