アメコミライターの光岡三ツ子さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に電話出演。亡くなったマーベルコミックスの原作者、スタン・リーさんを追悼していました。
(宇多丸)で、今日は実はこの時間帯を使って、ニュース的なお話をしたいんですけども。スタン・リーさんという、マーベルというDCと並ぶアメコミの会社があって。そのマーベルの、みなさんがご存知のところで言うと『スパイダーマン』とか『X-MEN』とか『アイアンマン』『ハルク』『ソー』……いま、MCUと言われる映画で非常に人気になっているキャラクターをあらかた……シルバーサーファーとかでもいいんですけど。あらかたを生み出したスタン・リーさんが95歳で亡くなられてしまった。
(宇垣美里)なんか、亡くならない方のフォルダに私が勝手に入れてしまっていて。
(宇多丸)わかる気がします。
(宇垣美里)伝説みたいな感じになっていたんですね。自分の中で。
(宇多丸)だって非常に、いつも映画の中で……毎回MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の作品の中でカメオ出演されていて。非常にお元気そうに毎回出ていたから。ということで、なんかわかりますよ。ずっとそこにいるような感じがしていたというか。
(宇垣美里)そうなんですよ。
(宇多丸)メールもいただいておりまして。ラジオネーム「イッシー」さん。「今朝、スタン・リーさん死去のニュースを聞いて、悲しみが収まりません。『アベンジャーズ4』が最後のカメオ出演というのも寂しいような、(間に合って)うれしいような……。一昨年の東京コミコンで来日されて握手ができなかったことを悔やんでいます。もうレジェンドに会えないなんて……本日の『アトロク』で改めてスタン・リー氏の偉大さについて振り返っていただけたら幸いです」。ということなのでここでアメコミライターの光岡三ツ子さんにお電話がつながっているようなので、改めてスタン・リーさんがどれだけ偉大かというお話をうかがいたいと思います。もしもし、光岡さん?
(光岡三ツ子)はい。光岡です。
(宇多丸)よろしくお願いします。急にお電話してしまいまして。やはりちょっとこれだけのことだと光岡さんにお話をうかがわないとなという感じで。まず、率直に光岡さん、いかがですか? この訃報は?
(光岡三ツ子)やっぱり私もちょっと、朝起きてすぐに訃報を拝見したんですけど。今日1日、ちょっと思い出しては涙ぐむような感じで。まあ95歳ということで。でもやっぱり、先ほどおっしゃっていたように、もうそういう風にお亡くなりにならないような方だというイメージはあったので。でももう、アメリカでは12日早朝に突然倒れて病院に運ばれてそのまま亡くなったということで。日本では昨日の夜ですよね。本当に突然のことだったんですけども。
(宇多丸)なのでもちろん光岡さんの本当に大好きな世界を根本から創造したような方なので。それは本当にショックも大きいでしょうというね。
(光岡三ツ子)そうですね。いま、大丈夫だと思っていたんですけどちょっと……。
(宇多丸)すいませんね。当日、なかなか気持ちの整理がつかれていないところで。改めて、そのスタン・リーさんの偉大さ、どこがそこまですごいのかというのを光岡さんなりに整理されると、どんな感じですかね?
(光岡三ツ子)そうですね。まあ、スタン・リーさん、よくご存知ない方もいらっしゃるかもしれないので申し上げますと、先ほどおっしゃっていたようにマーベル映画によく出ていた、カメオで出ていた常連のおじいちゃんみたいな感じですよね。
(宇多丸)脈絡なく登場するおじいさん。
(宇垣美里)フフフ、「いつもいるな」っていう(笑)。
(光岡三ツ子)ヒゲとメガネがトレードマークでおちゃめな感じのおじいちゃんだったんですけども。この方、10代の時におじさんの会社だったマーベルコミックスに入って、それからいまに至るまでずーっと中心的存在として活躍してきた人なんですけども。60年代に『アベンジャーズ』とか『X-MEN』とか『スパイダーマン』など、いまのマーベルを代表するようなキャラクターを次々に生み出して。マーベルの父とも呼ばれるような人だったんですよね。
(宇多丸)うんうん。そのスタン・リーさんの作ったヒーローっていうのはそれまでのヒーロー像と違うところがあるとしたら、どういうところでしょうか?
(光岡三ツ子)やっぱり非常に共感できて身近な存在だったというところが……それまでもスーパーヒーローというはずっと存在していたんですけど、やっぱり憧れの存在。遠い存在でした。それをスタン・リーさんとマーベルのクリエイターたちが新しい姿の、まるで隣人のような姿のヒーローたちを作り出したというのが非常に新しくて。アメリカン・コミックというものが非常に大きく変貌を遂げた。コミックだけではなくてアメリカのポップカルチャーというものがそこから大きく変わっていったというような功績があったと思います。
(宇多丸)うんうん。非常に人間的な悩みをちゃんと背負っていたりとか。あとはX-MENとかだと善と悪の非常に相対化というか。そういうテーマも大人の観賞に耐えうるようなテーマに発展させていったりとか。そういう面もありますよね。
(光岡三ツ子)そうですね。やはりその当時、子供向けには作っていたんですけども、マーベルの非常に大きなテーマというのはいまに至るまで「アメリカの理想」ですよね。寛容さとか多様性、それから思いやりとか勇気というものを読者に伝えたいということをヒーローに託して伝えていたという部分があったと思います。
(宇多丸)あと、その都度その都度の社会情勢の変化とかもすごくビビッドに取り入れたりとか。その時代にふさわしいメッセージを取り入れたりとか。それもやっぱりスタン・リーさんが……。
(光岡三ツ子)そうですね。それにつながる話なんですけど、スタン・リーさんと他のクリエイターたちが作った60年代の改革が非常に新しかったのは、いままでの架空の物語のスーパーヒーローと違って、みんなニューヨークとか実際のアメリカに住んでいたということなんですよね。で、窓を開ければまるでスパイダーマンが飛んでいるのが見えるような身近さがあった。そこは私たちが住んでいるのと地続きの街なので、悩みとか喜びも私たちと同じものですよね。
(宇多丸)そうか。その身近さというのがリアルなメッセージ性とかテーマ性とつながっていったみたいなことなんですかね。
(光岡三ツ子)はい。あと、もうひとつ。スタン・リーさんのいちばんの功績だと思うんですけども。それと全く同じなんですけど、コミッククリエイターと編集部、そしてファンをつなぐっていうことを初めて非常に意識的にやった編集者でもあるんですね。
クリエイターと編集部とファンをつなぐ
(宇多丸)コミッククリエイターと編集部……要するに送り手とファンをつなぐ?
(光岡三ツ子)そうです。マーベルコミックスの世界というものを、それまでコミックスっていうのはやっぱり安い紙に刷られて何ページとかで完結していて。読み終わったら「楽しかったな」って言って捨てちゃうようなものだった。読み捨てのものだったんでけども。スタン・リーが作ったマーベルコミックスっていうのは実際の街に住んでいる。そして同じ時を共有しているヒーローたちですよね。お互いに。そこに読者も参加するということを非常に意識的にやったわけなんです。
(宇多丸)ふんふん。
(光岡三ツ子)だから、コミックは読むだけのものではなくて、参加するということですね。それこそが楽しいんだというような価値観を作り出したという非常に大きな功績があったと思います。
(宇多丸)たしかに、それがあったからこそ、アメコミファンのものすごい巨大な物語ユニバースというか。それが広がっていて。ファンはその世界同士のつながりを楽しんで……まさにいまのマーベル・シネマティック・ユニバースが映画でやっているようなことというか。そういうようなことを先駆けて構築したということですかね。
(光岡三ツ子)はい。ヒーローの世界を遠いものではなく、非常に近いものにしたという。それによって私たちも非常に慕って読んだというような、大きな考えがあったんじゃないでしょうか。
(宇多丸)ちなみに光岡さんはスタン・リーさんにお会いになったこととかはあるんですか?
(光岡三ツ子)私はだいぶ……10年ぐらい前ですかね? サイン会でちょっとサインをいただいただけなんですけども。インタビューの機会が何回か、持ち上がりそうになったんですけど。何回も流れてしまってという感じで。なんですけど、やっぱり非常に身近な存在ですよね。なぜか。
(宇多丸)なんかね、そうですよね。
(光岡三ツ子)話した時の記憶があるような気がするんですね。
(宇多丸)それは本当にマーベル・シネマティック・ユニバースを普通に楽しんでいる観客にとっても、「ああ、あのおじさんね」って。だからその、やっぱり先ほどからおっしゃっている隣人性というか。すごい近い感じみたいなのをご自身も本当に発散しているような人でしたよね。
(光岡三ツ子)はい。本人だけじゃなくて「スタン・リー」っていうキャラクターがいて。それがマーベル・ユニバースと読者の橋渡しをしているっていうような。そういう役を演じているようなところもあったかと思います。
(宇多丸)ああ、たしかにそうですね。「スタン・リーおじさんが紹介する次のヒーロー」じゃないけどね。
(光岡三ツ子)そうなんです。
(宇多丸)スタン・リーさんのフィギュアもあったりするぐらいですもんね。
(光岡三ツ子)そうですね。いっぱい出てますね(笑)。今日も朝からTwitterを見ていて、あまりにも大勢の方が追悼を述べられているので、ちょっと悲しみが止まらないんですけども。
(宇多丸)本当にね、非常に生々しい時間にお呼びたてして申し訳なかったんですけども。
(光岡三ツ子)いえいえ、とんでもないです。話させていただいてありがとうございました。
(宇多丸)とんでもないです。光岡さんが最後にスタン・リーに関して、言っておきたいこととかありましたら。最後に。
(光岡三ツ子)そうですね。本当に……その先ほど見つけたTwitterの追悼ツイートとかでも本当に有名人から一般の方まで、世界中の若い方からお年寄りの方までみなさん、本当に「スタン・リーがいなければいまのこの人生がなかった」って思われている方はたくさんいると思うんですね。私もその1人だと思います。本当に感謝しかないですね。
(宇多丸)「感謝」っていう言葉を使っている人、本当に多いですよね。
(光岡三ツ子)はい。
(宇多丸)ということで、本当にありがとうございました。ちょっと生々しいこのタイミングで……また改めて、いろんなアメコミの話もそうですし、スタン・リーさんのお話もこの番組でうかがわせていただければと思います。
(光岡三ツ子)ありがとうございます。
(宇多丸)ありがとうございます。光岡三ツ子さんでした。ありがとうございました。
(宇垣美里)ありがとうございました。
(光岡三ツ子)はい。
(宇多丸)はい。ということでちょっとね、光岡さんはとにかく、あんなにアメコミがお好きな方もそんなにいないというぐらい、本当に愛されている方で。その世界の根本を作られた方が亡くなられてしまった。しかも、宇垣さんがおっしゃる通り、なんかずっといてくれるような気がしていたみたいな。
(宇垣美里)そうですね。やっぱり身近な存在ってそういうところにもあったんだと思いますけどね。
(宇多丸)なので、本当にお言葉からもリアルな悲しみが伝わってきて。
(宇垣美里)まだたぶん整理はついてらっしゃらないんでしょうね。
(宇多丸)あとはやっぱり我々的にも……『ヴェノム』にもちらっと出ていましたし。『アベンジャーズ4』(『インフィニティ・ウォー』の続編)にもちらりと出るけど、今後カメオ出演もないのか……って思うのもちょっと寂しいですね。
(宇垣美里)「どこで出てくるんだろう?」って思うのが楽しかったりしましたもんね。
(宇多丸)で、こういう風にアメコミの作者が「ああ、スタン・リーね」ってわかるような存在だっていう、これ自体がもう異例のことですからね。
(宇垣美里)正直、そんなに詳しくない私ですら知っていましたもん。
(宇多丸)そうそう。それがどれだけ特別なことかということですよね。ということでスタン・リーさん、ご冥福をお祈りします。
(宇垣美里)安らかにお眠りください。
<書き起こしおわり>