高橋芳朗さんが2023年11月29日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でJung Kook『Standing Next to You』についてトーク。マイケル・ジャクソン楽曲へのオマージュを捧げたこの曲の魅力を他のアーティストのマイケルオマージュ曲と比較しながら紹介していました。
(宇多丸)ということでヨシくん、今回はジョングクさんの新曲……アルバムが出て。アルバムの話もいいけど、ちょっとその新曲の中からマイケル・ジャクソンの系譜をという。
(高橋芳朗)そうですね。アルバムの収録曲を何曲か、もうこのコーナーで取り上げてることもあって。ちょっとここにグッと焦点をしぼろうかなと思いまして。ジョングクが11月3日に初ソロアルバム『Golden』をリリースして、現在ヒット中の最新シングル『Standing Next to You』を切り口にして、そのキング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンのオマージュソングの系譜をざっと紹介していきたいという、そういう企画でございますけども。ではまず、マイケルの曲を聞いちゃいましょうかね。1979年の名が『Off The Wall』のオープニングナンバーです。マイケル・ジャクソンで『Don’t Stop ‘Til You Get Enough』です。
Michael Jackson『Don’t Stop ‘Til You Get Enough』
(高橋芳朗)はい。マイケル・ジャクソン『Don’t Stop ‘Til You Get Enough』を聞いていただいております。
(宇多丸)はい。『Off The Wall』。名盤からの1曲です。
(高橋芳朗)ここからマイケル・ジャクソン伝説がスタートしたみたいな感じですかね。
(宇多丸)そうだね。もちろんその前からグループとしてはやっていたけども。ちなみにもう1回、ちょっと重複になっちゃうけど。ゆっきゅんさんはマイケル・ジャクソンそのものはリアルタイムでなにか聞いてるとか、そういうことでもなく?
(ゆっきゅん)そんなにですね。うんうん。
(宇多丸)世代的にね。どっちかというとこの後やる、まさにマイケル・ジャクソンの影響を受けた2010年代以降のアーティストの曲を聞いているっていう感じだと思うんですけども。
(ゆっきゅん)亡くなってからかもしれないですね。
(高橋芳朗)だから「ああ、このへんの曲がマイケルの影響を受けてるのか」っていうのを今日、お伝えできればと思いますけどね。で、ここ10年ぐらいの傾向としてR&Bシンガーとか、もしくはR&Bをバックボーンに持つシンガーが「ここぞ!」っていう局面でマイケル・ジャクソンのオマージュソングを歌うことがちょっと定例化してるようなところがあるというか。マイケルのオマージュがスーパースターへの通過儀礼みたいになってるようなところがあるんですね。で、この動きっていうのは2009年にマイケル・ジャクソンが亡くなったことが大きく影響してると思うんですけども。その直後、2013年を契機とするそのディスコミュージックのリバイバルによって完全に確立された印象があると思います。
(宇多丸)まあ、ブギーというかね。たしかに!
(高橋芳朗)で、マイケルが他界した喪失感の中でそのディスクミュージック再評価の機運の高まりによって、マイケルのエッセンス……特に今聞いてもらった『Off The Wall』の時代のマイケルのエッセンスが強く求められるという。
(宇多丸)マイケル、いろんな面があるけど、今聞いてるようなこの感じの面ですね。
(高橋芳朗)それで、現代のシンガーにとってマイケルがちょっとしたロールモデルみたいな存在になっていったっていう感じですかね。で、今回そのBTSのエース的存在のジョングクがソロデビューにあたってマイケル・ジャクソンのオマージュに取り組んだのは、まあこうした流れをくむものと考えていいと思うんですけど。このジョングクのプロジェクトの目的とするところは、やっぱり彼をアジアのジャスティン・ビーバーだったりアジアのジャスティン・ティンバーレイクみたいに仕立てることだと思うんですよ。そういう中で、マイケルのオマージュっていうのはある種の規定演技みたいなところがあると思うんですよね。ここはもう避けて通れない道なんですよ。
(ゆっきゅん)課題曲みたいな。
(高橋芳朗)そうそう。まさにそういうことです。じゃあ、そんなわけで今日は現代を代表するシンガーたちによるマイケル・ジャクソンの素晴らしいオマージュソングを聞きくらべて行きたいと思いますが。まずはやはりジョングクから始めたいと思います。全米チャートで最高5位を記録した彼の最新シングルですね。ジョングクで『Standing Next to You』です。
Jung Kook『Standing Next to You』
(高橋芳朗)はい。ジョングクの現在ヒット中『Standing Next to You』、聞いていただいております。
(ゆっきゅん)かっこいい!
(宇多丸)BTSはね、もちろんこういう80’s的なディスコ的なもののリバイバルって、もう『Dynamite』を始めとして第一人者でもあるから。でもあるけど、同時に歌い出しからみなぎるMJ感というか。マイケル感。
(高橋芳朗)ねえ。マイケルオマージュが香り立っていますよね。
(宇多丸)なんだろうね? 華がありますね。あと、すごい手数の多いフィルとかが、なんていうの? ちょっとドラマチックなさ、スポットがババババッ!ってなる感じとか。
(高橋芳朗)マイケルはちょっとロック的なダイナミズムみたいなのも絶対にあるから。
(宇多丸)そうそう。スタジアムライブ映えする感じ?
(高橋芳朗)そういうところもきっちり押さえてるかなっていう感じがします。じゃあ、この流れでガンガン行ってみましょう。続いてはですね、現行シーンきってのスーパースターと言っていてます、ザ・ウィークエンドですね。彼は音楽的には現代最高のMJイズム、マイケル・ジャクソンイズムの体現者と言っていいと思うんですけど。そんなザ・ウィークエンドの出世作となったのが『Can’t Feel My Face』ですね。2015年の全米No.1ヒットで。
さっき言ったように『Off The Wall』期のマイケルのスムーズな魅力に加えて、ロックに寄った『Thriller』とか『Bad』期のサウンドもうまくブレンドしてるんですよ。で、その『Off The Wall』とか『Thriller』とか『Bad』をプロデュースした御大、クインシー・ジョーンズ直々にこれ、お褒めの言葉をいただいたそうです。実際、完成度はめちゃくちゃ高い。で、ジョングクの今聞いてもらった『Standing Next to You』はこのウィークエンドを通過したマイケルオマージュっていう感じもあるかもしれません。
(ゆっきゅん)ああ、なるほど。マイケルオマージュの系譜っていうか。
(高橋芳朗)そうですね。じゃあ、ちょっと聞いてみてください。ザ・ウィークエンドで『Can’t Feel My Face』です。
The Weeknd『Can’t Feel My Face』
(高橋芳朗)はい。マイケル・ジャクソンのオマージュソングとしてザ・ウィークエンド『Can’t Feel My Face』。2015年の曲を聞いていただいております。
(宇多丸)2015かー。なんか今もこういう感じのトレンドが続いてるから、全く古く聞こえないし。あとさっきのジョングクさんの感じと繋げるならば、ちょっとディープな音像っていうか。ちょっとダークな、ちょっと酩酊感っていうか。
(高橋芳朗)ちょっとウィークエンドはゴス感というか、退廃さがあるんですよね。
(宇多丸)その感じが入っているのが、ジョングクさんも受け継いでいるところかもしれないですね。
(高橋芳朗)そうですね。じゃ、あこの流れでガンガン行きますね。次はですね、ジョングクも敬愛しているジャスティン・ティンバーレイクですね。彼は1990年代後半にボーイバンドのイン・シンクの一員としてデビューするんですけど。当時、実際にマイケルと交流があったんですよね。そういう経緯から2014年にマイケル未発表音源の『Love Never Felt So Good』がシングル化された時には擬似コラボとしてマイケルのデュエットパートナーを務めていました。
(宇多丸)なんかすごい、一番受け継いでいるというか。すぐにイメージするのはジャスティン・ティンバーレイクっていう感じ、しますね。
(高橋芳朗)そんなジャスティンによるマイケルオマージュの決定版といえるのが、2013年リリースの『Take Back the Night』ですね。これはストレートに『Off The Wall』期のマイケルを踏襲した、いわばさっき冒頭で聞いてもらった『Don’t Stop ‘Til You Get Enough』はアップデート版っていう感じだと思います。じゃあ、聞いてください。ジャスティン・ティンバーレイクで『Take Back the Night』です。
Justin Timberlake『Take Back the Night』
(高橋芳朗)はい。ジャスティン・ティンバーレイクで『Take Back the Night』。2013年の曲を聞いていただいております。
(宇多丸)かっこいいよー! かっこいいし、その規定演技としての「それは好きだよ! そりゃ好きよ!」みたいな感じも含めて。
(高橋芳朗)まあ、これはストレートですね。かなりね。
(宇多丸)でもやっぱり、この2013年なりの、その時代のフレーバーというかね。それが入っていて。さすがですね。完璧です。
(高橋芳朗)次はですね、現代のキングオブR&B的な存在ですね。クリス・ブラウンです。彼はダンススキルの高さもあって、2005年に16歳でデビューした当時からネクスト・マイケル・ジャクソンみたいに呼ばれてたんですよね。でも作品上でマイケルにあからさまなオマージュを捧げるようなことはなかったんですよ。そんなクリスがですね、満を持して本格的なマイケルオマージュに挑んだのが、これも2013年にリリースした『Fine China』ということです。この曲も『Rock With You』とかに代表される『Off The Wall』期のマイケル作品にインスパイアされたサウンドで。クリス自身もインタビューで「『Off The Wall』の頃のマイケルのようなノスタルジックなサウンドを提供したかった」と話しています。この曲もね、ジョングクの『Standing Next to You』に微妙に影響を与えているんじゃないかなという気もしますね。はい。じゃあ、クリス・ブラウンで『Fine China』です。
Chris Brown『Fine China』
(高橋芳朗)はい。クリス・ブラウンで『Fine China』を聞いていただいております。
(宇多丸)かっこいい! さっきの間に入ったストリングスとか、もう気絶だね! かっこよすぎて。
(高橋芳朗)アハハハハハハハハッ! やっぱりみんな、気合が入るんでしょうね。マイケル・ジャクソンをやろうってなるとね。じゃあ、次に行きましょう。次はですね、来年1月に東京ドーム5回公演を控えていますブルーノ・マーズですね。彼は現在に至るまで度々、ディスコサウンドを取り入れてますけど。初めて本格的なディスコソングに挑んだのが2012年リリースの『Treasure』なんですね。これがやっぱり『Off The Wall』のマイケルのオマージュなんですよ。ミュージックビデオもあからさまに『Rock With You』を意識した作りになってます。
ブルーノ・マーズ、これまで紹介してきた割と正統派のマイケルフォロワーとはちょっとスタンスが異なっていて。ブルーノ・マーズって、それこそエルヴィス・プレスリーのロックンロールからボビー・ブラウンのニュー・ジャック・スウィングまで、もう何でもこなせるポップミュージックの総合百貨店みたいな人だったりするんで。このマイケルオマージュも数ある引き出しのうちのひとつだったりするんですよね。それでも、まあいろいろあるマイケルオマージュの中でもかなり上位にくる完成度の高い曲だと思います。聞いてください。ブルーノ・マーズ『Treasure』です。
Bruno Mars『Treasure』
(高橋芳朗)ブルーノ・マーズで『Treasure』聞いていただいております。
(宇多丸)かっこいい! やっぱりでも、ボーカルのたぶん中性み感みたいなところがブルーノ・マーズはもうちょっと男っぽい感じもあるから。そのバランス感でしょうね。完コピっていうよりは、やっぱりブルーノ・マーズが「これもできます」みたいな。でも子供の時からね、マイケル・ジャクソンのものまねショーで稼いでいたわけで。
(高橋芳朗)ホノルルでね、ものまねタレントショーみたいなのをやっていたわけで。
(宇多丸)そりゃあ筋金入りよ。
(高橋芳朗)さすがでございます。じゃあ、最後にもう1曲だけ。こちらもですね、ジャスティン・ティンバーレイクとともにジョングクが影響を公言しているジャスティン・ビーバーですね。彼もクリス・ブラウンと同じように2010年のデビュー当時から最大の影響源としてマイケル・ジャクソンの名前を挙げたんですけども。ステージとかは別として、作品としてはストレートのオマージュ作品ってなかったんですよ。そんな彼がようやくマイケルの影響を強烈に打ち出したのが、2021年リリースの『Die For You』という曲です。
(宇多丸)かなり最近になってから。
(高橋芳朗)これが非常に興味深い内容で。今までは聞いてもらった通り、マイケルのオマージュは基本的に『Off The Wall』期の彼の作品に着目したスムーズなディスコナンバーという風に相場が決まってたんですけど。ジャスティン・ビーバーはきっと差別化を図りたかったんでしょうね。『Thriller』収録の『Beat It』のオマージュなんです。だから80年代サウンドのリバイバルもあったから、それも踏まえたアプローチなのかもしれません。
(宇多丸)あと、なんていうの? ディスコティックな方向じゃない80’s。だからデュア・リパ以降の。俺たちが最初はうっかり笑ってしまった、あの感じ。それもありになったから。
(高橋芳朗)そういう感じもあるかもしれません。じゃあ、聞いてください。ジャスティン・ビーバーで『Die For You』です。
Justin Bieber『Die For You』
(高橋芳朗)ジョングクはですね、年内に兵役義務を履行することが決定したんですよ。それで2025年にメンバー全員が揃ってBTSがカムバックする時、ジョングクがこういうマイケル・ジャクソンのオマージュに挑んで素晴らしい成果を上げたことが結構、大きな意味を帯びてくることになるんじゃないですかね。より彼がバシッと真ん中に立った時に「おおっ!」っていう箔がつくというかね。
(宇多丸)たしかにね。これ、ゆっきゅんさん、どうですか? 規定演技としてのマイケル?
(ゆっきゅん)普通にめちゃくちゃやりたくなりました(笑)。
(宇多丸)アハハハハハハハハッ! だってさ、ボーカルの中性的なところも、もちろんそこも一番得意とするところだし。たぶんね、元々ゆっきゅん世代にはもう血となり肉となって入っているんだよね。遺伝子に。ぜひぜひちょっと今日の特集を……。
(ゆっきゅん)マイケル・ジャクソンリファレンスのゆっきゅん曲を……(笑)。
(高橋芳朗)期待しています!
(宇多丸)いろんな方向があるからね。『Beat It』方向もあれば。「そっち?」みたいなのもね(笑)。
<書き起こしおわり>