松尾潔 ローリン・ヒル『The Miseducation of Lauryn Hill』20周年を語る

松尾潔 ローリン・ヒル『The Miseducation of Lauryn Hill』20周年を語る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でリリースから20年がたったローリン・ヒルの名作アルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』について話していました。

さあ、いま言った人たちっていうのはね、もう何度も言うようですけども、エラ・メイの『Boo’d Up』の成功を受けて追い風に乗ってシーンに登場しやすくなったっていう人たち。ちゃっかり組とも言えるわけなんですが。

松尾潔 Summerella『Do You Miss It』とSummer Walker『Girls Need Love』を語る
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でSummerella『Do You Miss It』とSummer Walker『Girls Need Love』を紹介していました。

まあ本人たちは本意にかどうかわかりませんよ。なんですが、次にご紹介するアーティスト。この人は「エラ・メイ? うーん、失礼ね。H.E.R.世代と言って!」と言いたくなるぐらいの注目度と実力というものがもうすでに評価を受けている人ですね。はい。H.E.R.でございます。

この人はもともとギャビー・ウィルソンというアーティストネームで10代の頃から歌ってた人なんですが。ちょっと匿名性を高めて「H.E.R.」という、正体をあえて曖昧にした形で再デビューしたところ、それが成功したという人でございます。ですが、まあこういった形で世に出てきても、時間が経つとその素性っていうのを明らかにしていくっていうのも、まあこの業界で繰り返されてきたことで。H.E.R.も今年のBETアワードではステージで、サングラスこそかけてましたけども、目の覚めるようなギタープレイをやって。

「ただのアンビエントな歌を歌ってるだけじゃないのよ」っていうところを強くアピールしましたね。もうそれをご覧になった方はお分かりかと思いますけども、プリンスばりのロックギターだったんですよね。びっくりしましたね、僕もね。「ジミヘン」という言葉を使う人がいてもおかしくないような……まあ、世代的には彼女、どう考えてもプリンスへオマージュしてるんですね。ですが、そのH.E.R.。今回のアルバムでは1人のアーティストとしての音楽性ということをよりアピールしてますね。アルバムと言いますかEPのタイトルが『I Used To Know Her: The Prelude』っていう。

この中で彼女がやろうとしていることは、いまから20年前にリリースされたローリン・ヒルの『The Miseducation of Lauryn Hill』という大傑作アルバム。有名なアルバムですね。「歴史に残る」と言ってもいいアルバムでしたが。その20年後のオマージュというのが含まれております。

アルバムは『Lost Souls (feat. DJ Scratch)』という曲で始まるんですが、この『Lost Souls』っていうのはローリン・ヒルのアルバムの中に入っていた『Lost Ones』というアルバムの1曲目へのオマージュですね。


で、EPという形なんで曲数は少ないのですが、その中でもまたデュエット上手なところを見せております。デュエットのパートナーはブライソン・ティラーです。来ました、ブライソン・ティラー。じゃあ、さっそく聞いていただきましょうかね。H.E.R. feat. ブライソン・ティラーで『Could’ve Been』。

H.E.R.『Could’ve Been ft. Bryson Tiller』

Lauryn Hill『Nothing Even Matters feat. D’Angelo』

今月リリースされたばかりのH.E.R.のニューEP『I Used To Know Her: The Prelude』の中からブライソン・ティラーとのデュエットで『Could’ve Been ft. Bryson Tiller』。そして、その作品の中でH.E.R.がリスペクトとオマージュを捧げているローリン・ヒル。とりわけローリン・ヒルのソロ……まあ、フージーズっていうグループのメンバーだったわけなんですけども、そのローリンのソロデビューアルバム。98年の8月にリリースされた『The Miseducation of Lauryn Hill』の中から『Nothing Even Matters』。ディアンジェロとのデュエットでお楽しみいただきました。

実はこの『The Miseducation of Lauryn Hill』。つい日付で言うと一昨日ですかね。8月25日にリリースされて20年。ちょうど20年でございます。1998年の真夏にリリースされたアルバムでした。このアルバムの伝説的な名作ぶりというのはご存知の方も多いかと思います。まあ『メロ夜』世代、アラフィフのリスナーのみなさんにおかれましては、つい一昨日ぐらいの感じだと思われているかもしれませんが(笑)。まあ、若い世代のリスナーの方には「ちゃんと聞いたことないんで、この機会に……」っていう方もいらっしゃるかもしれませんね。この98年に出たローリン・ヒルの、いまのところオリジナルアルバムとしては一作しか出ていないという。

まさか20年後に次のアルバムが出ていないっていうことをいま、僕はマイクの前で言うとは思いませんでしたが。どれぐらい名作だったかっていうのを端的に言いますとね、翌年のグラミー賞で5部門を制覇いたしました。それもね、年間最優秀アルバム、年間最優秀新人賞、あとは女性R&Bボーカル部門、ベストR&Bソング、ベストR&Bアルバム。つまり、女性R&Bアーティストとして獲得できるものは一作で全部かっさらっちゃったっていうね。いま、僕も久々にフルで……今日、マイクに向かう前に聞いてきましたけど、やっぱりいいアルバムですね。

これから20年の間にローリン・ヒルに何があったか? まず、分かりやすく言うとこれは98年にリリースされましたけども、97年に彼女ははじめてのお子さんを出産するんですね。22歳で出産したのかな。ローアン・マーリーっていうボブ・マーリーの息子でフットボール選手の人との間に最初の子供を作って。まあ、結婚もしたわけなんですけれども。それから20年の間にプラス5人、産んでます。そりゃあまあ、なかなか作品をリリースもできないよっていう妙な説得力もありますけど。まあ、その間に自己破産もしてますし。

まあ、そもそも論で言うと、このアルバムを出した時にも一児の母親だったわけですよね。で、話をもっと広げますと、ローリン・ヒルこのデュエットパートナーのディアンジェロと並びまして、エリカ・バドゥなんかもそうですけど、当時ニュークラシックソウル……まあ、後にネオソウルっていう言葉で定着しますけども。そういうムーブメントの中心人物になったんですが、いま一度ね、このネオソウル、ネオソウルって言っているこの種の音楽を好きな私たち――「私たち」って複数でいいましょう――は、ローリン・ヒルやディアンジェロやマックスウェルといった歴史に残る名作ネオソウル・アルバムを出した人たちがその後、長い沈黙を続けなければいけなかったということに関して、いま一度思いを馳せる必要があると思いますよ。

ねえ。やっぱり若くして歴史に残るような名作を作った人の、その人たちだけが浴びることができた強い光。そしてそれに伴う濃い影、苦悩、葛藤、プレッシャー……そういったものっていうのを、それから20年たってみますとね、しみじみと感じますね。「ああ、世の中ままならぬ」と。ですが、いま名前挙げた人たち、みなさん揃って40代になって、特にマックスウェルなんかはね、ここに来てペースを取り戻してます。リリースを活発に続けてますし、エリカ・バドゥのようにコンスタントにずーっとカリスマでい続ける人もいるわけですからね。

じゃあ、そのローリン・ヒルの『The Miseducation of Lauryn Hill』20周年ということで、何かローリン・ヒルの曲を1曲……と、思ったんですが、心の声に正直に申しますと、アルバムの中の曲よりもアルバムに先駆けてリリースされた、彼女のソロデビューシングル。これフージーズのワイクリフと一緒に作ってる曲なんで、まあフージーズと一線を画して作った『The Miseducation of Lauryn Hill』とは流れが違うのですが、歴史には順番があるということで。『The Miseducation of Lauryn Hill』の1年前に出された彼女のソロデビューシングルをここで聞いてみたいと思います。『ラブ・ジョーンズ』という僕の大好きな映画のサウンドトラックに収められていました。ローリン・ヒルで『The Sweetest Thing』。

Lauryn Hill『The Sweetest Thing』

ローリン・ヒル、この人は1975年5月生まれですから、いまは43歳。まだまだ若いですね。1997年にリリースしたソロデビューシングル『The Sweetest Thing』をお届けいたしました。

さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。今夜はね、ローリン・ヒルの『The Miseducation of Lauryn Hill』20周年ということで、その関連曲。アルバムの中でも1、2を争う人気曲ですね。『Ex-Factor』。それを男性シンガー、ジャロッド・ローソンがライブでカバーしたバージョンを聞きながらの別れです。これからお休みになるあなた、どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組は応援しているのは、あなたです。次回は来週、9月3日(月)夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。

Jarrod Lawson『Ex-Factor(Live)』

<書き起こしおわり>

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