松尾潔 R&B定番曲解説 Roberta Flack『The Closer I Get To You』

松尾潔 R&B定番曲解説 Roberta Flack『The Closer I Get To You』 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、Roberta Flack with Donny Hathaway『The Closer I Get To You』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。

(松尾潔)続いては、いまなら間に合うスタンダードのコーナーです。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。さて、R&Bの世界でも、ジャズやロックと同じように、スタンダードと呼びうる、時代を越えて歌い継がれてきた名曲は少なくありません。そこでこのコーナーでは、R&Bがソウル・ミュージックと呼ばれていた時代から現在に至るまでのタイムレスな名曲を厳選し、様々なバージョンを聞き比べながら、スタンダードナンバーが形成された過程を僕がわかりやすくご説明します。

第22回目となる今回は、ロバータ・フラック(Roberta Flack)、そしてダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)。この2人のシンガー、デュオですね。ロバータ・フラック with ダニー・ハサウェイによる1977年の大ヒットナンバー、『The Closer I Get To You』について探ってみます。これはまあ、多くの音楽ファン、マニア、評論家といった人たちが……もちろん音楽アーティスト、シンガーもそうですけども。そういった人たちが史上最も優れたR&B男女デュエットの1つに挙げる大名曲でございます。あんまり「名曲」っていう言葉を安々と使うものではないと僕は普段から思っているんですけども、これに関してはいささかのためらいもなく、その形容を与えたいと思いますね。名曲です。

ではまず、お届けしましょう。まずはオリジナル・バージョンから。ロバータ・フラック with ダニー・ハサウェイで『The Closer I Get To You』。そして21世紀に入ってリリースされたバージョンとしては、この曲が最も有名でしょう。ルーサー・ヴァンドロス(Luther Vandross)とビヨンセ(Beyonce)のバージョンで『The Closer I Get To You』。2曲続けてどうぞ。

Roberta Flack ft. Donny Hathaway『The Closer I Get To You』

Luther Vandross & Beyonce Knowles『The Closer I Get To You』

いまなら間に合うスタンダード、『The Closer I Get To You』。ロバータ・フラックとダニー・ハサウェイのデュエットナンバーをご紹介しています。以前にこのコーナーでダニー・ハサウェイを取り上げております。ダニー・ハサウェイの『This Christmas』をご紹介いたしました。

松尾潔 R&B定番曲解説 Donny Hathaway『This Christmas』
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、 Donny Hathaway『This Christmas』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。 (松尾潔)続いては、いまなら間に合う

ダニーといえばロバータ、ロバータは何をご紹介しようかな? と思って以前から、どこかのタイミングで……という風に思っておりました。まあ、ロバータ・フラックはヒット曲が多い人です。『Killing Me Softly With His Song』。『やさしく歌って』という邦題で知られる曲をご紹介してもよかったんですけどもね。

まあ、あれはロバータのオリジナルでもないし。まあ、ダニーは2回目になっちゃうけど、ロバータってデュエットで非常に魅力を出すし、引き出すことにも長けている人なんで。そういう彼女の得がたい資質をご紹介する上でもいいかな? と思ってこの曲にいたしました。曲の方は文句なしの大ヒットなんですよね。1978年にシングルカットされまして、当時のR&B……ソウルチャートって言っている頃ですけども。文句なしの一位。そしてHOT100でも堂々の二位と。ロバータ・フラックのキャリアの中でも有数のヒットになっていますね。

ロバータ・フラックとダニー・ハサウェイ、デュエットはこれが初めてではございません。むしろ2人はデュエットすることで互いの価値を高め合ってきたということは言えますし。これ以前にデュエットアルバムも出していますが、本当にご注意いただきたいんですけども、デュエットアルバムの方にはこちら、入っておりません。なんてアルバムに収められているか?っていうと、ロバータのソロアルバム『Blue Lights in the Basement』に入っています。

曲を書いたのはレジー・ルーカス(Reggie Lucas)とジェームズ・エムトゥーメ(James Mtume)というソングライターチームでございまして。この2人はもともとマイルス・デイヴィス(Miles Davis)のバックでやっていたミュージシャンですね。レジー・ルーカスはギタリスト、ジェームズ・エムトゥーメはパーカッション奏者。で、2人を中心とする双頭ユニットっていうんでしょうか? エムトゥーメイ (Mtume) というファンクバンドがございました。で、エムトゥーメイもこの『The Closer I Get To You』をカバーしています。

ロバータとダニーの曲がヒットした翌年ですかね。やっていますね。そこでは、ジェームズ・エムトゥーメ本人とタワサ・エイジー(Tawatha Agee)という女性がデュエットを聞かせているんですが、悪くはないですけども、まあジェームズ・エムトゥーメっていうのはシンガーとして特別な能力があった人ではないので。で、むしろサウンドプロデューサー、サウンドデザイナーとして才に長けていた人なので。たとえば、彼らの大ヒット曲である『Juicy Fruit』のような、彼らじゃなければ! というようなサウンドにはなっていませんね。

まあ、歌声は永遠ですね。僕はダニー・ハサウェイの存在を意識するようになったのはダニーが亡くなった後のことですからね。80年代に入ってから、後追いの形で聞いたので。78年に、こんな大ヒットを出した翌年に自ら命を絶つって、それは当時のファンの人たちにとってはたまらなかっただろうなと思いますし。本人の、その光が強ければ強いほど、闇も深かったんだなっていうようなことを考えると本当に胸が苦しくなるんですけども。時として、そういう時なのにというか、そういう時だから、こんな美しい形の曲ができるのかなというひとつの例にもなりましょうか。

そして、ロバータに寵愛を受けた1人。かつてはロバータ・フラックのツアーのコーラス隊長だったルーサー・ヴァンドロスが2003年に当時うら若きビヨンセとデュエットしたのが『The Closer I Get To You』ですね。これはシングルカットされがのは2004年。そしてまたね、2005年にルーサーが亡くなるんですよね。うーん……という、まあこの曲が引き寄せたなんていうことを言うつもりはございませんけども。『The Closer I Get To You』という曲をめぐる2つの悲劇。なにしろ、ルーサー・ヴァンドロスっていう人はね、ソロデビューの時にダニー・ハサウェイと比較されることも多々あった人ですから。そういうことを考えるとね、まあいろんな思いをめぐらせてしまうわけですよ。

で、そんな中でね、これはあまり語られることがないんで面白いなと思ってお話するんですけど。この曲が出て間もなくですね、ロバータ・フラックのバージョンがヒットして翌年にトム・ブラウン(Tom Browne)っていうトランペットプレイヤーがこの曲『The Closer I Get To You』をカバーしております。基本的にはトランペットのインストゥルメンタルをフィーチャーしたバージョンなんですが。そこで当時のセッションシンガーとして大変に売れっ子でしたパティ・オースティン(Patti Austin)がフィーチャリングでボーカルを取っているんですけども。

パティ・オースティンはその後、90年代になってもう一度、この曲を歌うんですね。まあフュージョン系、スムースジャズ系のリー・リトナー(Lee Ritenour)をはじめとするスーパーミュージシャンたちのスーパーバンド、フォープレイ(Fourplay)というバンドがありましたけども。そのフォープレイバージョンの『The Closer I Get To You』でもパティ・オースティンは歌っております。

自分の名前では1回も出していないんだけどフィーチャリングで2回、この曲を歌っているっていう、かなり奇妙なめぐり合わせを持っております。そして、そのフォープレイの『The Closer I Get To You』でパティ・オースティンはデュエットを披露しているんですが、そのデュエットパートナーだったのがダニー・ハサウェイの後のロバータ・フラックの相方として知られますピーボ・ブライソン(Peabo Bryson)なんですね。はい。名前がたくさん出て来ましたけども。いま一度、整理していただければと思います。

ロバータ・フラック、ダニー・ハサウェイ、ルーサー・ヴァンドロス、ビヨンセ、パティ・オースティン、ピーボ・ブライソン。みな、名シンガーの称号を得た人たちですね。一度は通った『The Closer I Get To You』。この曲の魅力を称えているのはアフリカン・アメリカンだけではありません。最後に聞いていただきますのは、フィリピンのスーパーシンガー、ニーナ(Nina)のライブバージョンですね。これ、フィリピンでは2005年にリリースされて大ヒットしたアルバム、その名も『Live』なんですが。ニーナのボーカルは僕、味わいがあって好きなんですが。優しい感じなんですけども。ちょっと乗っている時のフレディ・ジャクソン(Freddie Jackson)を彷彿とさせる男性シンガー、ソー(Thor)。このソーという男性のボーカルも聞き物です。聞いてください。ニーナ feat. ソーで『The Closer I Get To You』。

NINA『The Closer I Get To You ( Feat. Thor )』

僕、正しい発音を知らないんですけどね。ニーナ・ジラード(Nina Girado)っていんですかね? まあ、ニーナっていうファーストネームで愛されていますフィリピンを代表する女性シンガーが2005年にリリースしたライブアルバム。そこでソーという男性。この方はソー・デュライ(Thor Dulay)っていうのがフルネームですね。21世紀に入って最初にアルバムを出しているんですけども、しばらくちょっと低迷されていたみたいですけども。最近はテレビのオーディション番組なんかで再起をかけて、見事成功して。またいいリードアルバムを出していますね。このソーという男性シンガー。いずれ劣らぬ歌の上手い2人ですけども、なかなか素晴らしいデュエットではないでしょうか。ニーナ feat. ソーで『The Closer I Get To You』。ライブバージョンでお届けいたしました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32677

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