宇多丸とクリストファー・マッカリー『ミッション・インポッシブル フォールアウト』を語る

宇多丸とクリストファー・マッカリー『ミッション・インポッシブル フォールアウト』を語る アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で宇多丸さんが『ミッション:インポッシブル フォールアウト』のクリストファー・マッカリー監督にインタビューした際の模様がオンエアー。映画の見せ場やストーリー、トム・クルーズとの仕事などについてたっぷりと話していました。

(日比麻音子)今夜はいよいよ今週末に公開されます『ミッション:インポッシブル フォールアウト』のクリストファー・マッカリー監督に宇多丸さんがインタビューしてきました。

(宇多丸)ということで日比さんがレッドカーペットでトム・クルーズ、マッカリー監督、そしてサイモン・ペッグにインタビューした翌日、7月19日(木)に六本木のザ・リッツ・カールトン東京50階。東京が一望できるものすごい立派なお部屋の中でお話を伺ってまいりました。とにかく私、クリストファー・マッカリー監督は特にトム・クルーズとのコンビ作、ジャック・リーチャーの第一作『アウトロー』や『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』。二作とも大好きでして。大ファンでもあるということでね、いろいろとぶつけております。

(日比麻音子)うんうん。

(宇多丸)途中、とある昔の映画について、私は緊張してその映画のタイトルをインタビュー中に出すのを忘れてしまいましたけど、ジョン・フリン監督の1973年の『組織』という映画。原題は『The Outfit』という映画です。こちら、ロバード・デュヴァルが主演なんですけど、こちらの作品について、まあ「70年代のこういう犯罪映画……特にこの作品なんかお好きで、それで『アウトロー』にロバード・デュヴァルをキャスティングしたんじゃないですか?」って、これは『組織』という映画でございます。私が出し忘れておりますので、先に補足をさせていただいております。

(日比麻音子)フフフ(笑)。

(宇多丸)あと、中で出てくるクロード・ルルーシュ監督の『ランデヴー』という作品などについては後ほど、私が補足をさせていただきます。それでは、クリストファー・マッカリー監督インタビューをお聞きください。どうぞ!

<インタビュー音源スタート>

(宇多丸)Nice to meet you.

(マッカリー)Nice to meet you.

(宇多丸)ラジオ番組なんですけど。僕は本業はラッパーなんですけども。でも毎週、映画の批評を番組の中でやっていてそれが人気という、ちょっと不思議な立場ですが。

(マッカリー)Excellent!

(宇多丸)そして、なにしろクリストファー・マッカリー監督の作品がどれも大好きで。

(マッカリー)Thank you. Thank you very much.

(宇多丸)今日は本当にお会いするのを楽しみにしていました。では、今回の『ミッション:インポッシブル フォールアウト』のお話を伺いたいんですけども。前の『ローグ・ネイション』と今回の『フォールアウト』、監督が手がけられる『ミッション:インポッシブル』は共通して元のテレビシリーズの精神に回帰しているというか、それがあると思うんですね。というのは、要するに悪者を周到に罠にかけるという、元のテレビシリーズのオチにあたる部分をこれまでのシリーズはあんまりちゃんとやっていなかったのをクリストファー・マッカリー監督の作品になってからこの二作、それをちゃんとやっているのがすごい印象的なんですが。そこは意識的にやられたんでしょうか?

(マッカリー)非常に面白い指摘だね。『ローグ・ネイション』の時は『ミッション:インポッシブル』のルールに従って、イーサンと敵を死ぬまで戦わせる必要があると思っていたんです。でもどうしてもエンディングに満足がいかなかったんです。実はソロモン・レーン役のショーン・ハリスはフランチャイズの映画にあまり出たくないという理由で出演を躊躇していたんです。なので、「映画の中でかならず殺される」という契約で出演してもらいました。

(宇多丸)今回はね、戻ってきてしまいましたけども(笑)。

(マッカリー)だけど『ローグ・ネイション』は最終章が納得がいかなかったので、イーサンが敵を殺さないで捕まえるというエンディングの方が自然だと気づいたんです。撮影の最中にそれをトムに提案しました。映画の最初にイーサンがガラスの箱に捕らえられますが、最後にそれを敵にやり返すというのがとてもふさわしくて自然な流れだと思ったんです。今回の『フォールアウト』では映画の真ん中、第二章に苦労しました。今回は真ん中にイーサンが深い闇の中に入っていくというシーンがほしかったんですが、そのシーンを真ん中に上手く入れる流れが思いつかなかったんです。そうしたら、トムが足を骨折した。それで第二章についてじっくり考える時間ができたので「敵に罠を仕掛ける」という展開を思いついたんです。だから、どうすべきかは僕ではなくて映画が教えてくれたんです。

(宇多丸)いや、でもどちらも見事な展開というか。僕が待ち望んでいた『ミッション:インポッシブル』で。それぞれの見せ場とかはストーリーにどう組み込んでいくんですか? 見せ場……こういうアクションができるから、こういう場面を作ろうって考えるのか、それともストーリーの流れの中でこういうスタントアクションができると考えるのか?

アクションをストーリーにどう組み込むのか?

(マッカリー)両方です。第三章のクライマックスは「ヘリコプターチェイスを入れる」というところから物語を展開させました。ヘリチェイスはトムがどうしてもやりたかったシーンなんです。でも、それができるのはニュージーランドしかなかった。ニュージーランドは政治的な緊張感もないので、派手なアクションが撮りやすかったんです。そこで「ニュージーランドに似ている国」ということで「カシミールが舞台」ということになりました。今度はジュリアがなぜカシミールにいるのかの理由、そしてイーサンがヘリチェイスをしている間に他のチームメンバーが何をしているのかを考えていきました。ですから、クライマックスでなにが起きるかが固まった時に、そこに至る展開も自然と決まっていったんです。HALOジャンプと呼ばれるスカイダイビングはグラン・パレにどうやって降りたら面白いかを考えた時に思いついたものです。パリのカーチェイスは『ランデヴー』というクロード・ルルーシュ監督の映画からヒントを得ました。それらをトムに提案したんです。こうやって映画ができていきました。

(宇多丸)それでも全体の整合性があれだけ見事に取れているのはすごい。驚くべきことですね。

(マッカリー)僕も驚いてますよ。

(宇多丸)実は昨日、レッドカーペットで僕らの番組がトム・クルーズさんに一瞬だけお話を伺うことができて。そこでクリストファー・マッカリー監督との特別な相性というか。それはなにゆえか?っていう話を聞いた時に、やはり「同じ映画が好きで、同じ映画史の知識も共有していて……」というようなことを言っていて。そうやってやっぱり過去の作品をお互いに参照しあって、「こういうシーンを発展させよう」とか、そういうことはよくやられているんですか?

(マッカリー)いちばん好きな映画を出し合って、その作品のどこがいいのかという議論をしょっちゅうしているし、計算されたショットではなく偶然撮れたショットがいちばんよかったりするということもわかっている。さらにトムはマーティン・スコセッシ、スタンリー・キューブリック、スティーブン・スピルバーグ、フランシス・フォード・コッポラ、フランコ・ゼフィレッリ、ポール・トーマス・アンダーソン、リドリー・スコットにトニー・スコットなど優秀な監督から演出についても学んでいるんです。我々は過去の経験から映画に大切なのは化学反応だと学びました。トムには「自分の映画はこうあるべきだ」という決まったプロセスはないんです。ただ唯一のルールは映画に関わる人から感情を引き出すことなんです。

(宇多丸)なるほど。そのトムさんとクリストファー・マッカリーさん、僕はたぶんテイストが合うんだろうなと思うのは、ある意味いまどきの映画の流行りとか流れにむしろ逆行するようなアナログな手触りとか、クラシカルな映画のあり方、作り方みたいなものをすごく大事にされていると……これはたとえば監督一作目の『The Way of the Gun(邦題:誘拐犯)』であるとか、僕はこのジャック・リーチャー一作目『アウトロー』を見た時もものすごく、時代にあえて逆らうようなアナログ感がとっても素晴らしいと思って。それがたぶんトムさんの映画観と合うのかなと思うんですが。

(マッカリー)『ローグ・ネイション』ではレコードプレイヤー、『フォールアウト』ではカセットテープが登場したりと、トムはアナログなものが好きなんです。私とトムはフィルムも好きだし、アナログな音も好きなんです。トムは自宅に大きなリールテープの機械を持っているほどなんです。ただ、それらはいまはもうなくなりかけています。私とトムはフィルムのようになくなりかけているものを復活させたいという気持ちがあります。それが私の映画が時代に逆らっているように見える理由だと思います。

(宇多丸)もうまさにその『ジャック・リーチャー』、僕は見た時に「この人は絶対に、僕の好きな映画『The Outfit(邦題:組織)』、これが好きな方が作ったに違いない!」って思ったんですが。

(マッカリー)アハハハハハッ! 『組織』は大好きです。

(宇多丸)ロバード・デュヴァルさんをキャスティングされたのもここからのインスパイアなのかな?って……。

(マッカリー)いいえ。実は別の俳優が降りてしまったんです(笑)。はじめは会ったことがない俳優に決まっていたんですが、撮影2週間前になってその俳優が降板してしまったんです。

(宇多丸)でも、最初は予期しなかった部分が映画の長所になっていくみたいなのは、一貫した監督の映画づくりのマジックの部分っていうのかな? それがなんかある気がしますね。

(マッカリー)トムとの仕事では、常にオープンなスタンスでいること、あらゆることを受け入れることが必要です。トムが足を骨折した時は、さすがに大変でしたけどね。でも、問題が起きた時こそチャンスなんです。クリエイティブな仕事ではトラブルは付き物だから、それにどう対処するかが腕の見せ所ですよ。だからトムの骨折もプラスに利用しようと思ったんです。トムにも「根拠はないけど、絶対にいい方向に行くよ」って言いました。実際にそのおかげで脚本を仕上げることができたんです。

(宇多丸)素晴らしいですね。でもとはいえ、監督としては主演男優が映画史上でもトップクラスの危険なスタントに常に挑戦し続ける人であるというのは、正直やっぱり困ったなっていう部分はあったりしませんか?

(マッカリー)困ります。特に彼のスタントに私がついていく時が困ります。トムのことよりも自分のことが心配です。『ローグ・ネイション』のモロッコでのバイクチェイスシーンでは私もトムのすぐ後ろをカメラを載せたバンに乗って追いかけていきました。縁石も低いカーブの連続で非常に危険な撮影でした。実はトムも私も崖から落ちそうな時が1回ありました。『フォールアウト』のヘリコプターチェイスでは私も別のヘリで追いかけましたが、これも大変でした。渓谷で停空飛行するシーンでは私もかなり危ない目にあいました。トムは非常に集中していたし、自分が操縦しているので心配はしていませんでしたが、私はそうじゃなかったので怖かったよ。

(宇多丸)でも、おかげで見たこともないような……今回の『フォールアウト』はもう口が開きっぱなしでしたね。

(マッカリー)そう言ってもらえてとてもうれしいよ。撮影中の方がハラハラしっぱなしだったので、映画の完成版を見てもそこまでハラハラできず、退屈だったんだ。

(宇多丸)なるほど(笑)。

トム・クルーズ「ヘリのシーンにがっかりした」

(マッカリー)トムもそう思っていたみたいで、ヘリのシーンを見た後に私に電話をしてきて「すごくがっかりした」って言ったんです。

(宇多丸)ええーっ!?

(マッカリー)私たちはヘリのシーンがうまくいかなかったので、正直心配でした。

(宇多丸)いやー、とんでもないことですね、それは。

(マッカリー)4回ほど試写をしたんですが、「ヘリのシーンが長すぎる」「アクションが多すぎる」という声が多かったんです。我々は自信がなかったので、クライマックスに関するレビューを読んで「素晴らしい」という声が多かったので驚きました。

(宇多丸)それはもう、麻痺してますね(笑)。

(マッカリー)そうかもね! いまだに信じられないよ。

(宇多丸)僕が見事だなと思ったのは、やっぱりそのヘリコプターシークエンスが始まる前にエルサに「これは何をしようとしているの?」って言ったらベンジーがエルサに「見ない方がいい」って言うじゃないですか。あれが観客の気持ちの代弁……そこから起こることの代弁だからで、あれを入れたことでとってもさらにシーンが締まったというか。

(マッカリー)そう。あれはトムがその場で提案したんです。

(宇多丸)いやー、つくづくその場で取り入れられたところが本当に映画のマジックだしチャームになっている感じですね。

(マッカリー)この映画は当日や数日前に決まったシーンがとても多いんですよ。地下の銃撃戦もその日の朝に考えたんです。

(宇多丸)へー! 今回、その場面もそうですけど、いままで以上に……クリストファー・マッカリーさんの『ローグ・ネイション』とこの二作は特にチームプレーがすごく強調されていると思うんですね。他のキャラクター、特にベンジーとかが本当にキャラクターがどんどん魅力的になっていっていて。そのあたりも現場でどんどん取り入れていく要素が多いからですかね?

(マッカリー)実はベンジーは『ローグ・ネイション』の方が出番が多かった。でも、『フォールアウト』を見た人の感想ではベンジーの評判が上がっていたんです。サイモン自身は出番が減っているので自分のキャラクターの行く末を心配していたんです。そこでサイモンに「最初はオフィスにいたベンジーがイーサンと一緒に行動するようになったんだから、ベンジーは成長しているじゃないか」と話したんです。今度はビング・レイムスの番ですね。彼はこれまでバンの中で座りっぱなしでしたからね。今回はバランスを取ることを常に意識しつつ、キャラクターの成長も描きたかった。『フォールアウト』の上映時間が長いのは、アクションだけじゃなくキャラクターをちゃんと描きたかったからなんです。それぞれに見せ場がありますよ。

(宇多丸)全くおっしゃる通りで掘り下げも素晴らしいですし。アクションも素晴らしいですし。本当に全ては杞憂でした。素晴らしい傑作だと思います。

(マッカリー)Wow, Thank you! アリガト!

<インタビュー音源おわり>

(宇多丸・日比)やったー!

(宇多丸)ということで、クリストファー・マッカリーさんのお声は小笠原亘さんに吹き替えていただきました。そして翻訳・監修は日比麻音子さんです。ありがとうございます。

(日比麻音子)ありがとうございます。おそれ多いです。

(宇多丸)ということで、後ほど時間がある時に中で出てきたクロード・ルルーシュ監督の『ランデヴー』がどんな作品かとか、補足解説を私、付け加わせていただきますが。とにかくトム・クルーズ主演、クリストファー・マッカリー監督の『ミッション:インポッシブル フォールアウト』、今週金曜日、8月3日公開です。ムービーウォッチメン、ガチャ当てないわけにはいかないよ! 本当に、本当にヤベえ!

(日比麻音子)ヤベえ! 本当にヤバい。しかもこのインタビューを聞いた後、ぜひ見るとまた全然違うと思いますね。

(宇多丸)さらにね。「ヘリコプターのところが自信ない」とか、なに言ってんだ、あんた?っていう。本当にすごいですから!

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