宇多丸「怖い絵」展を語る

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宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の中で上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展に行った際の模様について話していました。

(宇多丸)ちょっと私もいろいろと仕事とか詰まっているんだけど、フッと時間ができた時に「これは行かなきゃいけない!」っていう……たとえば美術展とか。美術館ってなんであんな閉まるの、早いんですか? ねえ。5時に閉まるとか、普通に働いていたら無理じゃないですか。いつも「チッ!」とか思っているんですけど、前から行きたかった「怖い絵」展っていうのに……「怖い絵」って、中野京子さんがずっと出されている西洋絵画のバックストーリーというか。ちゃんと文脈を知って見ると面白いよというような、そういう絵の見方の提示っていうか。人気シリーズがありますよね。それの実際の美術展版、「怖い絵」展っていうのが上野の森美術館でやっていて。それに前から行きたいなと思っていて。で、開館時間が8時まで延びたんですよ。「最初からしろ!」って言いたいんですけどね。まあ、大人気みたいで。めちゃめちゃ混んでいたんですけど、それにパッと行ってきたりして。

で、やっぱりね、俺とか「混んでいるし、いいかな……」って一瞬思いかけちゃったんですけど、行ったら行ったでよかったですよね。たとえば、いちばんわかりやすいところだと今回の目玉になっている「ジェーン・グレイの処刑」でしたっけ? 女の人、ジェーン・グレイさんが目隠しされて、これからまさに首を切られようという絵なんですけども。

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「ジェーン・グレイの処刑」

これとかやっぱり、夏目漱石の『倫敦塔』に出てきて。夏目漱石がイギリスに行った時のこの絵を見てその衝撃が『倫敦塔』に詳しく書かれているんですけど。それね、やっぱり実物を見ると……っていうか、実物を見ないとわからないっていうのは、この絵がめっちゃ大きいんですよ。とにかく、最初に中野さんがこの展覧会を開くにあたっての苦労話で、最初に開く美術館は他に決まっていたんだけど、この絵がその美術館に入らなくて。で、急遽ダメになっちゃって、上野の森になって……とか、二転三転していて。でも、この「ジェーン・グレイの処刑」を借りれないんだったら今回の展覧会は開かない!って中野さんが言い張ったぐらいキモなやつなんですね。

で、とにかくデカいわけ。なんて言えばいいのかな? 何メートル? とにかくめっちゃデカいんですよ。で、要は絵の真ん前に立って近づいて見ると、あれは当時のIMAXですね。IMAX 3Dです。だから、後ろは結構暗めで手前にジェーン・グレイさんが1人だけ白い服でフッと暗闇の中から浮かび上がるような構図になっていて。さらにその手前に斬首台。首を切られてコロンと行くような斬首台が置かれていて。要は奥の暗がりのところと、その手前の周りの人物。そして中心のジェーン・グレイ。そしてそのさらに手前の斬首台っていう感じで、非常にそもそも立体感がある構図になっていて。それが超巨大で、しかも絵がすごく精細なリアリズムのあるやつなんで、もうそこの空間に入っちゃったような感じになるわけですよ。

だからこれをね、さぞかしロンドン留学中の夏目漱石も呑まれたに違いない。完全に呑まれた。スペクタクル的に呑まれたに違いないみたいなね、それが本当に体感できて。これは見に行かなかったら絶対にわからなかったことですし。それとか、あとずっと見ていて、これ、僕が実物を見たいなと思っていた切り裂きジャック。僕、アラン・ムーアの『フロム・ヘル』っていうグラフィックノベル、あるじゃないですか。あれを読んだ結果、切り裂きジャックの事件にすごい興味を持っていろいろと本を読んで。それで切り裂きジャックのいろいろな容疑者がいる中で、結構いま最有力容疑者の1人と言われている画家の(ウォルター・)シッカートさんという人がいて。そのシッカートさんが描いた切り裂きジャックが住んでいた部屋の絵っていう(笑)。もうこれのなんて言うか、ただの空っぽのがらんどうの部屋の絵なんですけど、その禍々しさ感とか。

「切り裂きジャックの寝室」

あと、僕は全然絵画のこととか不勉強なんで。吉田羊さんの音声解説を聞きながら見ていたんですけど。全然わかっていなかったけど、すごく好きになっちゃった画家さんでチャールズ・シムズさんの一連の作品が僕、すごい好きですね。チャールズ・シムズさんは第一次世界大戦で息子さんを亡くされて。ご自身も第一次世界大戦のトラウマで、いまで言う戦争PTSDで精神を病まれて、最終的には自殺されてしまうという画家さんなんだけど。なので、一見牧歌的な風景……要するに、解説がなかったら、ただ絵が飾ってあって流れ作業的に見ていたら、僕みたいに絵を見る教養も素養もない人間だと見逃しちゃっているんだけど。すごい牧歌的な風景の絵に見えるんだけど、その書かれた経緯と、よく見ると「えっ?」って。実はすごい禍々しい何か……。

たとえば、この「クリオと子供たち」っていう子供たちが草原の上で女神の話を聞いていますという。ねえ。青空の下で、『サウンド・オブ・ミュージック』っていうか……『サウンド・オブ・ミュージック』自体もちょっと怖い映画でもありますけど。そんな感じの絵面じゃないですか。で、ここで女神なんだけど女神のこのポーズもあれだし。女神が読んでいる巻物に、あとから血が書き足されている。それによって、もう絵全体が禍々しい!っていう感じになっていたりとか。

「クリオと子供たち」

このチャールズ・シムズさん。他の絵もすごく気に入りました。とかで、大変勉強になった感じでございます。「ジェーン・グレイの処刑」は縦2.5メートル、横3メートル。ああ、そう? でもね、もっとデカく感じた。すげー、たぶんすごく黒い空間に……ちょっと吸い込まれちゃうような。いちばん最後のところに展示してあるんですけどね。めちゃめちゃ人手があって、僕も30分ぐらい並びましたけども。実際に行ってよかったなという感じですのでぜひ。12月17日まで上野の森美術館で「怖い絵」展やっておりますので、ぜひぜひ行ってみてはいかがでしょうか?

<書き起こしおわり>

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