町山智浩『デッドプール2』を語る

町山智浩『デッドプール2』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『デッドプール2』を紹介していました。

(赤江珠緒)今週こそは……ですね。町山さん。ねえ。あれからね、ずっと日本では会見続きでね。

(山里亮太)ずっとまだやっていますね。

(町山智浩)まだやっている? 監督がすぐに「とんでもないことをやってしまってすいませんでした!」って謝って、自分で自分を処分すればそれで終わったことなのにね。まだやっているのか……本当に腐っているなー。

(赤江珠緒)ねえ。

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(山里亮太)でも今日は『デッドプール2』で楽しい話を聞いて、そこらへんは1回ちょっと忘れましょう。

(町山智浩)せっかく楽しい話をしようと思ったけど。ねえ。一部の人には楽しくないと思いますが。はい。で、『デッドプール』という映画を紹介したかったんですけどね。日本では6月1日公開で。アメリカでは信じられないほどヒットしているんですけども。これはなぜ、みんながびっくりしているかっていうと、R指定なんですよ。で、子供が見れないっていう話を前回したのかな? どこまで話したのか、覚えてないな(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)で、これデッドプールっていったい何者か?っていうと、「デッドプール」っていう言葉自体は「これから死ぬやつリスト」っていう意味なんですよ。だからこのデッドプールに狙われたら必ず死ぬという……まあ、殺し屋ですね。で、見た目は真っ赤な忍者なんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)忍者って目立たないために黒い服を着ているので、真っ赤だと全然意味がないんですけどね(笑)。この間、そういえば『忍びの国』っていう映画を見たら忍者が真っ昼間からみんな黒い装束で戦ってるんですけど。「それ、忍者じゃねえよ!」って思いましたけども(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)「忍者が普通の戦闘してどうする?」って思ってびっくりしましたが。まあ、それは置いておいてですね。で、このデッドプールっていうのはね、日本刀の二刀流とマグナム拳銃でバンバン人を殺していく真っ赤な忍者でね。

(赤江珠緒)忍者っていうか本当、町山さんがおっしゃったように変態仮面の赤いバーッジョンっていう感じもしますね。

不死身のデッドプール

(町山智浩)そうそう。パンツをかぶっているみたいに見えるんですけどね。はい(笑)。鈴木亮平さんみたいなんですけども。その彼がすごいのは、生体実験をされてしまってその後遺症で死なない人間になっちゃっているんですよ。デッドプールは。で、チンコを切られてもね、またチンコが生えてくるんですよ。

(赤江珠緒)あ、生えてくるんだ!

(町山智浩)この話をしたかったんですよ、俺は!

(赤江珠緒)生えてくるんだ。そうかそうか(笑)。

(町山智浩)俺を邪魔しやがって。あの日大の監督、許せねえな!(笑)。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(山里亮太)それ、言っていましたもんね。「チンコの情報もあるよ!」って先週言っていましたけども。

(町山智浩)チンコを切られると、かわいいかわいい赤ちゃんみたいなチンコが生えてくるんですよ。デッドプールは。

(赤江珠緒)はー。ヒコバエみたいな?

(町山智浩)えっ?

(赤江珠緒)ヒコバエみたいなね。

(山里亮太)なにを言ってるんすか、赤江さん?

(町山智浩)何を言っているんだ、この人は(笑)。

(赤江珠緒)ぼかしているんじゃないですか、町山さんのシモを!

(町山智浩)ああ、すいませんね。まあ、大人でもそういう人はいますが。まあ、それは置いておいて……。

(山里亮太)フハハハハハハッ!

(町山智浩)まあ、そういうチンコが生えてくる映画なんだ、これは! もうなに言ってるかわからないと思いますが(笑)。

(赤江珠緒)要約しすぎて……(笑)。

(町山智浩)まあ、そういう腕を切られても何をしてもどんどん生えてくるんで、この人は全然ビビんないんですよ。だから敵に腕を掴まれたりすると、自分で腕を切り落として逃げちゃうんですよ。

(山里亮太)トカゲ的な。

(町山智浩)だからトカゲの尻尾のような……どこかの政権のようなものですね。はい。末端をどんどん切り落としていくというね。「あいつは嘘をついている」ってね。

(赤江珠緒)なるほど(笑)。

(町山智浩)デッドプールの手足みたいなもんですけども。で、このデッドプールがですね、またこれが聞いていても分かる通り、コメディーなんですよ。ただジョークをずっと言い続けるんですけど、そのジョークというのは普通のジョークじゃないんですよ。たとえば、デッドプールっていうのはX-MENというシリーズがあるんですけど。20世紀フォックスのマーベルコミックスの同じシリーズで。それと絡んでいるんですけど、「X-MENに入れ」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)「お前も死なないという特殊能力を持っているんだから、X-MENに入って正義の味方になれ」って言われるんですよ。で、そう言われるとデッドプールはこう言うんですよ。「あのな、X-MENというのは1960年代にアメリカで起こった反人種差別運動のメタファーなんだよね?」って言うんですよ。 それはその漫画の背景であって、これはその漫画の世界の中なんだから言ったらおかしいじゃないですか。

(赤江珠緒)ああ、うんうん。

(町山智浩)だから『あしたのジョー』とかの中で「これは梶原一騎さんがね……」とか言ったりするようなことを言っちゃうんですよ。だからこれはメタギャグっていうんですけども。「これは映画なんですよ」っていうことを言っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)あと、観客に向かってやたらと話しかけるんですよね。だから「これはコミック映画としてははじめてのR指定映画なんだけども、そのあとに『LOGAN/ローガン』っていうウルヴァリンのシリーズがR指定でやりやがって、あっちの方が評価されて。おかしいじゃねえか!」とか言ったりするんですよ。そういう内輪の話みたいなのを画面で観客に向かって話しかけていくんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)これは昔、山城新伍さんが映画の中でよくやっていたんですよね。『不良番長』シリーズとかでお客さんに向かって「あ、こんちは。お正月なのに見に来てくれてありがとう!」とか言ったりしていたんですけども。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)っていうことをデッドプールもやっているんで。結構「アメリカの山城新伍」って言われて……ません。はい。

(赤江珠緒)そりゃそうでしょうね、はい(笑)。

(町山智浩)あと、話の展開でやっぱり漫画映画だからどうしてもご都合主義になったりするじゃないですか。そうすると、「あ、いまの展開はちょっとご都合主義の展開だったね」とか言うんですよ。「いまのところ、ここからかっこいいシーンだからカメラ、スローモーションでお願いします」とか言ったりするんですよ。

(赤江珠緒)はー! えらい客観的な。うん。

(町山智浩)だからやっちゃいけないことを全部やっているというのがデッドプールで。だからそういう点で掟破りのキャラクターなんですけどね。で、今回はもっと掟破りが起こっていて。今回は敵が未来からやってきたサイボーグでケーブルというのが来るんですね。ところが、そいつが非常に暗いわけですよ。だから「あんた、なんかキャラが暗いね!」とか言うんですよ。「あんた、もしかしてDCユニバースの人じゃない?」って言うんですよ。

(山里亮太)フフフ(笑)。

(町山智浩)で、DCユニバースっていうのはバットマンとかスーパーマンをやっている方で。まあDCコミックスのシリーズなんですけど、暗くて全然ヒットしないんですよ。『ワンダーウーマン』以外。そういうのをいじるんですよ。だからテレビとかだったら他局の話をするみたいな感じですよね。で、この間『コンフィデンスマンJP』っていうドラマを見ていたら、東出くんが長澤まさみと結婚するっていうシーンで「あーあ。ガッキーの方がよかったな」って言っていて、面白いなと思いましたけども。そういうのをやっているのがデッドプールです。はい。

(赤江珠緒)ああ、なるほど。

(町山智浩)で、またこのケーブルという敵をジョシュ・ブローリンという俳優が演じているんですね。で、この人は『アベンジャーズ』というマーベルコミックスの方の、いまちょうど公開中の『インフィニティ・ウォー』という映画で敵の役なんですね。だからジョシュ・ブローリンが出てくると時々、デッドプールは「ケーブル」という役名なのに間違えて「サノス!」って呼んじゃったりするんですよ。

ケーブル=サノス

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)それ、違うんで。だから『西郷どん』とかを見ていて鈴木亮平さんが出てきた時に「変態仮面!」って呼んだりするようなものなので。

(赤江・山里)フハハハハハハッ!

(町山智浩)こういうギャグをずーっとやっているという。これ、映画を見ていないとわからないっていうのが多いところですけどね。

(山里亮太)でも僕、ちょうど『アベンジャーズ』を見てきて。その時に始まる前に『デッドプール2』の予告があった時、さっきの「DCユニバースかよ?」っていうシーンで普通に劇場でバーン!って笑いが起きていましたよ。

(町山智浩)ああ、もうみんなだんだんわかってくるようになっていいですね! で、悪役が同じ人だったでしょう?

(山里亮太)それ、いま言われて「ああ、そうだったんだ!」ってなったぐらいです。

(町山智浩)同じ人なんです。ジョシュ・ブローリンという人で。この人は昔ね、お父さんがバーブラ・ストライサンドっていう歌手と結婚をしていたことがあるんですよ。で、ジョシュ・ブローリンのお母さんがバーブラ・ストライサンドっていう有名な女優で歌手の人なんですけど。それをこの『デッドプール2』の中でもいじっていて。バーブラ・ストライサンドが歌ったりするシーンをわざと入れたりして。「お前のお母さんだったよな」とかいうね。それ、俳優のお母さんであって役のお母さんじゃないのに、そういうギャグをしつこく入れてきていましたけどね。

(赤江珠緒)アハハハハハッ! へー!

(町山智浩)で、このデッドプールというのがすごいのは、このデッドプールを演じる俳優さん、ライアン・レイノルズさんの復讐の企画なんですよ。これは。この人、なんとこの『デッドプール』の製作、主演、脚本を1人でやっているんですよ。

(赤江珠緒)ライアン・レイノルズさんが。

(町山智浩)たった1人でやっているんですよ。この映画を1人で作っているんですけど、どうしてこの人がそういうことをしているのか?っていうと、すごい苦難の歴史があったんですよ。この人、10年前はもう1人のライアンと言われているライアン・ゴズリングと並ぶカナダ出身のナンバーワンセクシースターだったんですよ。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、これからはこの2人のライアンがセクシーの座を争うだろうと言われていたんですよ。本当に。で、ライアン・ゴズリングの方はどんどんどんどんスターになって、『ラ・ラ・ランド』とか『ドライヴ』とかで大スターになっていったんですけど。このレイノルズの方のライアンさんは大失敗して、映画の選択に失敗してつまずいちゃうんですよ。そのつまずきがデッドプールだったんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)この人は2009年にX-MENのウルヴァリンのシリーズで『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』っていう映画に出ているんですけど、その中でデッドプールの役をすでにやっているんですよ。

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(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ところがそれはね、キャラをいじりすぎちゃってデッドプールというキャラクターのデザインを全部変えて、しかも顔はパンツをかぶっているみたいになっていて、口がふさがれているじゃないですか。それを生物学的に口をふさいじゃったんですよ。そのキャラクターを。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そうすると、しゃべれなくなっちゃうんですよ。

(山里亮太)えっ、いちばん売りのおしゃべりが?

(町山智浩)そう。デッドプールっていうのはとにかくずーっとしゃべり続けてギャグを言い続けているキャラクターなのに、無口なキャラクターになって大失敗してるんですよ。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、それがライアン・レイノルズのデッドプールの1回目の失敗なんですね。で、その後にでもライアン・レイノルズはもうひとつ、チャンスを掴むんですよ。2011年に『グリーン・ランタン』というDCコミックスのスーパーヒーローに抜擢されるんですよ。ところがそっちもコケちゃうんですよ。

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(赤江珠緒)あらら……。

(山里亮太)それ、知らない。

(町山智浩)そう。大コケしているから結構みんな知らないんですよ。『テッド』っていうクマさんの映画でクマのテッドからずっと「グリーン・ランタンくん! グリーン・ランタンくん!」ってグリーン・ランタン呼ばわりされて馬鹿にされていたんですよ。ライアン・レイノルズは。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、しかもその時に結婚していたスカーレット・ヨハンソンにも捨てられちゃったりして、結構大変だったんですけど。ただ、普通このアメコミで2回失敗したら、ちょっとそこからは離れようと思うじゃないですか。

(赤江珠緒)そうですね。

失敗続きのライアン・レイノルズの起死回生の作品

(町山智浩)しかも、デッドプールで彼は失敗しているわけですよ。ところが、彼は起死回生の策として自分でお金を出してデッドプールの再映画化をしたんですよ。2016年に。で、今度は原作通りのおしゃべりキャラにして、原作通りに血まみれコメディーにして大当たりしたんです。

(赤江珠緒)ああ、よかった! これ、勇気いりますもんね。「またデッドプールでやるのか!」っていうね。

(町山智浩)そう。あんなに失敗したのに、それを自分でやって大成功したんです。しかも、全部自分でギャグを書いて。シナリオを書いて。だからすごいんですよ。これ、どん底からの再起がデッドプールのテーマなんですね。で、今回の『デッドプール2』、続編でもいきなり冒頭で大変に大切なものをデッドプールが失うんですよ。言えないんですけども。で、そこの部分が『007 スカイフォール』のパロディーになっていて本当にどん底に落ちるんですけども。で、まずどん底に落ちて何をやるか?っていうと、腹いっぱいコカインを吸いましたね!

(赤江珠緒)フフフ……ほう!

(町山智浩)そこでどうしようもない不良なんですけども。デッドプールっていうのは。で、まあコカイン吸っても立ち直れなくて悩んでいると正義の超能力者集団のX-MENからスカウトが来るんですよ。で、「まあ正義の味方としてやり直しなさい」ということでX-MENの見習いをやるんですよ。X-MENのボーヤをやるんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)っていう、どうしようもない不良のアンチヒーローのデッドプールが正義の味方になろうとする話でしたよ。寅さんが毎回いい兄貴になろうとするみたいな話でしたよ(笑)。

(山里亮太)わかりやすい(笑)。

(町山智浩)だからね、どういう風にいい人になろうとするかっていうと、ここがすごくて。いまのアメリカでいい人になるっていうことはどういうことか?っていうことなんですよ。

(赤江珠緒)どういうことだ?

(町山智浩)デッドプールは「X-MENは女性差別だ!」って言うんですよ。「女性もいるじゃないか! ”メン”じゃないだろ!」って。だから「X-MENは辞め!」って言って「Xフォース」っていう新しいチームを結成するんですよ。自分で。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)いまのいちばんの正義は――アメリカは「#MeToo」ムーブメントですから――いまの正義は差別と戦うことなんですよ。だから今回のデッドプールで彼の戦いは差別との戦いなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

差別と戦うデッドプール

(町山智浩)いままでいちばんひどい人間だったのに(笑)。だからたとえばね、インド系の友達がいるんですね。タクシーの運転手なんですけど、親友なんですよ。で、インドの音楽を流しているんですよ。すると、一緒に乗っていたやつが「そのわけのわかんねー音楽、やめろよ!」って言うんですよ。するとデッドプールは「民族差別するな! 許さん!」とかって言ってボコボコにしたりするんですね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)だから今回、差別との戦いなんですよ。新しいですよ。スーパーヒーロー物としては。珍しいですよ。で、今回は『家政婦のミタ』とかに出ていた日本人の女の子で忽那汐里ちゃんっていう女優さんがいるじゃないですか。彼女が出てくるんですよ。

(山里亮太)すごいですよね。

(町山智浩)彼女、英語ができるんですよ。オーストラリアかなんか出身なんですよね。で、今回彼女がやる役はX-MENの1人、すごい長い名前の女の子でネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドっていう女の子がいるんですね。その子は自分自身が核爆発するのが超能力なんですけども。その子の恋人役で出てきますよ。忽那汐里ちゃんは。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)「ふーん」じゃなくて、だから女性同士ですよ。女の子同士なんです。これ、ものすごく画期的なことですよ。

(山里亮太)画期的?

(町山智浩)スーパーヒーロー物ってずっとね、マッチョの塊みたいなものだったじゃないですか。みんな筋肉モリモリで、スーパーマンとかバットマンとか。ねえ。すごく「男」っていう感じだったじゃないですか。筋肉モリモリで。だからすごく同性愛とは相性が悪かったんですよ。ただ、X-MENシリーズだけは最初に同性愛の人たちのキャラクターを出していったんですね。原作の方だけは。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも漫画版ではできても、映画ではなかなか難しかったんですよ。なぜなら、マーベルはディズニーが作っているからなんですよ。このマーベル・シリーズはディズニーが作っているからやっぱり同性愛を出せないんですよ。

(赤江珠緒)そうなんだ。うん。

(町山智浩)で、『マイティ・ソー』というシリーズのソーっていますよね? アベンジャーズの雷様のヒーローの。で、『ラグナロク(マイティ・ソー/バトルロイヤル)』ではヴァルキリーという女神が出てきて。まあ、女闘士なんですけども。

(山里亮太)めちゃくちゃ強かったやつだ。

(町山智浩)まあ、アフリカ系の人ですけどね。酔っぱらいの役で出てきましたけども。彼女は当初はギリギリまでレズビアンっていう設定で行っていたんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、やっぱりダメだってストップしているんですよ。ディズニー!っていう感じで。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)で、次は『ブラックパンサー』っていうこの間公開された映画でものすごく強い女軍団が出てきたじゃないですか。で、オコエさんっていう女戦士がいたじゃないですか。あれも企画段階ではかなりずっとレズビアンで行っていたんですよ。でも、やっぱりそれだとディズニーでは子供向けに公開をできないということで、断念して途中でやめているんですよ。

(赤江珠緒)そうかー。アメリカはそういうのを許さないっていう主張の方も多いですもんね。

(町山智浩)まだね、アメリカ全体の30%ぐらいはキリスト教で厳しくて「同性愛とかは絶対に地獄に落ちる」って言っている人がいるんで。その30%を敵に回すというのは大々的に公開するご家族向け映画ではすごくリスクが大きくなっちゃうんですよ。もうひとつのリスクは中国なんですよ。中国で公開する際、中国は同性愛を禁じていますから公開ができなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうか。いま中国は大きな市場ですからね。

(町山智浩)そう。ただ、この『デッドプール』はディズニーじゃなくて20世紀フォックスっていう会社が作っているんですね。それとR指定だから行っちゃえ!っていうことで今回、行っちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、忽那汐里ちゃんがレズビアンの役で出てくるんですよ。これはすごくて、アメコミのいま言ったような流れの中ではかなり画期的な掟破りをやっちゃったっていうところなんですよ。

(赤江珠緒)いろいろと画期的なことが実は盛り込まれているコメディーなんですね。

(町山智浩)そうなんです。すごい画期的なんですよ。だからいま言ったみたいにデッドプールっていちばん悪い不良の、まあはっきり言うと優等生じゃないキャラクターだったのに……でも、だから自由なんですよ。なんでもできるわけですよ。いい人じゃないから。

(赤江珠緒)いきなりコカインをお腹いっぱいにっていうことですもんね。

(町山智浩)クラスでもいちばん外れものだから。俺みたいに(笑)。

(山里亮太)町山さんも感情移入できるんですね(笑)。

(町山智浩)学級委員とかになれない人ですから。学級委員じゃないから、何をしてもいいんですよ。で、今回もっとすごいのはこのデップーっていう人は原作ではそうなんですけども、実は「パンセクシャル」っていう裏設定があるんですよ。

(赤江珠緒)ん?

(山里亮太)パンセクシャル?

デッドプールの裏設定・パンセクシャル

(町山智浩)パンセクシャルっていうのは「全性愛」と言われているもので、バイセクシャルよりももっと人の性別にこだわらず誰でも愛する人のことを言います。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)「ふーん」っていう感じで反応が薄いですが。はい。

(山里亮太)いや、すごい世界だなっていう……。

(町山智浩)いまはもう、そっちに行っているんです。「男も好き、女も好き」って言うと「それは古いね。男とか女とか、もうこだわらないから」っていう世界なんですよ。いまは。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、実はデップーはそうなんですよ。

(赤江珠緒)あ、デップー自身が?

(町山智浩)デップー自身がそうなんです。原作では結構男でも女でも関係ないんですけども。スパイダーマンのことを異常に愛して追っかけていたりするんですけど。原作では。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)今回はコロッサスという名前の鋼鉄の巨人のX-MENが出てくるんですね。ところが、その鋼鉄の巨人のお尻を触ったりとか、そんなことばっかりしているんですよ。デップーちゃん。

(赤江珠緒)うん(笑)。

(町山智浩)で、とうとう奥さんからも「あんたさあ、コロッサスと浮気しないでよ!」って釘を刺されたりするんですよ。今回。

(赤江珠緒)あ、デップーは奥さんがいるんだ。

(町山智浩)いるんですけどね。はい。これ、すごいのはね、デップーの奥さんはいわゆるコールガールというか、セックスワーカーの人なんですよ。セックスワーカーの人なんだけど、それを全く否定しないで、セックスワーカーをやめさせるわけでもなくデップーは普通に愛しているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)それも新しいでしょう?

(赤江珠緒)もういろんな意味で枠を取っ払った映画ですね!

(町山智浩)彼は全く自由なんですよ。いままでのスーパーヒーローがマッチョイズムにしばられていたのに比べると彼は本当に自由でなんでも愛す男になっているんですよ。そこもすごいんですよ。

(赤江珠緒)へー! ちょっとそれは面白そうですな。俄然興味が出てきました。

(町山智浩)面白いんですよ。途中でX-MENを矯正する、X-MENを治そうとする施設が出てくるんですけど、それはアメリカに実際にあるゲイの人を治療しようとするキリスト教団体のパロディーになっていたりね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ただこのね、デッドプールは言っておきますけども最後のギャグ。クライマックスがすごいんですよ。1985年にドリフターズが『8時だョ!全員集合』でやっていたコントをそのままやります!

(赤江珠緒)ええーっ? なんだろう?

(山里亮太)っていうことは、ちょっとドカーン!って?

(町山智浩)製作費110億円のハリウッド大作で30年前にドリフがやったコントを見せられるとは思っていませんでした。本当にびっくりしました。

(赤江珠緒)アハハハハハッ!

(町山智浩)あと、ゲストでヒュー・ジャックマンとマット・デイモンとブラッド・ピットが出てきます。でも、見せ場はドリフのコントです。はい。びっくりしました。

(赤江珠緒)いやー、盛りだくさんすぎて。そうですか。

(町山智浩)という、言えば言うほどわからなくなる映画『デッドプール2』。

(山里亮太)たしかに(笑)。劇場で見よう。確認しよう。

(町山智浩)もう見るしかないです! 6月1日、日本公開です。

(赤江珠緒)はい。ありがとうございます。そうか、デッドプールってそんなにいろんな意味も込められていて。

(町山智浩)『8時だョ!全員集合』とかいろんな意味が込められています!

(赤江珠緒)『8時だョ!全員集合』はどういう風にたどり着くのか……。

(山里亮太)「デップー、うしろ!」とかあるのかな?

(赤江珠緒)「うしろ、うしろ!」って(笑)。そうですか。わかりました。ありがとうございます。楽しみにします。『デッドプール2』は6月1日に日本公開でございます。町山さん、ありがとうございました!

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)どもでした!

山里亮太『デッドプール2』感想トーク

翌週の放送で映画を見た山里亮太さんと町山智浩さんが映画の感想トークを繰り広げていました。

(山里亮太)町山さん、『デッドプール2』、見てきましたよ。

(町山智浩)どうでした?

(山里亮太)いや、面白かった! 町山さんの話を聞いていてよかったです。いろんな出てくるワードとかが「ああ、これはこのことを言っているんだ」って思って、おかげでめちゃくちゃ笑えました。

(町山智浩)そうなんですよ。もう公開しているから言っていいと思うんですが……ライアン・レイノルズという俳優さんがいままで失敗した過去があるわけですよね。それを最後にですね、まあ言えないんですが(笑)。自分の過去に復讐するんですよ。

(山里亮太)あれはね、1個1個それが出てくるたびに劇場がドーン!って受けてましたもん。

(町山智浩)じゃあもうみんな、知っているんですね。

(山里亮太)ちゃんと予習して来ているんですよ。

(町山智浩)素晴らしいお客さんですね!

(山里亮太)あと、町山さんが言っていた以上にチンコが出てきました(笑)。

(町山智浩)でも、かわいいチンコだったでしょう?

(赤江珠緒)そうですか。結構おっしゃってましたけども。

(山里亮太)あのね、めちゃくちゃかわいいいチンコっていうボケがめっちゃ受けるところが来るの。

(町山智浩)赤ちゃんのチンコなんですけどね。はい。僕、ライアン・レイノルズ。主役、デッドプール役の人にインタビューしましたよ。僕はなぜかアメリカで彼が東京にいる時にスカイプでやったんですけども(笑)。

(山里亮太)最近、来てましたもんね。

(町山智浩)場所交換して……「何やってんだ?」って言ってましたけども(笑)。でも、すっごく喜んでいて。「日本のファンがものすごく詳しくて、みんなデッドプールのコスプレをして集まってくれてね。みんなXフォースの腕をクロスにする挨拶をしてくれて……」って言ってましたけども。まあ、あれはパクリですけどね。他の映画の(笑)。

(山里亮太)そうですね(笑)。

(町山智浩)ひどいですけども(笑)。ただ、彼がすごく言っていたのは自分はやっぱりハリウッドで失敗してスターの座から引きずり降ろされたりした経験がデッドプールという落ちこぼれヒーローの役を演じるのにすごく役立ったという。1回落ちてみないとわからないっていうことですよね。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)で、デッドプールっていうのはとにかく落ちこぼれっていうか不良っていうか、劣等生みたいなもんですね。スーパーヒーローの中では。みんな正義の味方とかばっかりだけど、デッドプールはそれこそチンコネタの人ですから。で、人をバンバン殺しちゃうしね。ただ、彼がその落ちこぼれを集めていくじゃないですか。そこにすごく重要なテーマがあって。ライアン・レイノルズが言うにはデッドプールのテーマはInclusivityだ」って言っているんですよ。「inclusivity」は「内包する、包括する、包容する」っていう……包容力の包容ですね。包み込むっていう意味で。「世の中は『あの人は私と違う』って弾いて、排除・排他することと『みんな仲間なんだ』って取り込んでいく力と逆の力があるんだけどデッドプールは落ちこぼれではぐれ者だからみんなを取り込んでいくことができるんだ」って言っていましたよ。

(赤江珠緒)はー! そういう深いメッセージがね!

(山里亮太)それはね、わかる。見ていたら本当に「そういうテーマだから、あそこはそうなったんだ」っていうシーンがいっぱいある。

(町山智浩)そう。「ファミリー映画なんだ」って言っていましたよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか!

(町山智浩)そう。だからもうね、ファミリーで、ご家族で、みなさんで! 子供は入れないですけども、子供はコートの下に隠して……。

(山里亮太)町山さん、ダメです!(笑)。その裏ワザはダメです(笑)。

(町山智浩)いいかと思いますよ(笑)。家族そろってチンコで笑うというね(笑)。いや、それがいいなと思いますけどね。

(山里亮太)あのチンコジョークはね、絶対にみんな笑う!

(赤江珠緒)ああ、そう(笑)。

(町山智浩)チンコがかわいいの(笑)。で、デッドプールって顔がグチャグチャでしょう?

(山里亮太)はい。

(町山智浩)あれもすごく重要なんですって。つまり、顔にヤケドとか障害があったりする人なんですよ。デッドプールっていうのは。だから障害を持つ人もセックスワーカーもゲイやレズビアンも、はっきり言って完全に無能な人が途中で出てきますけども(笑)。ピーターっていう。もうみんな仲間なんだ!っていうことらしいんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからね、これはすごいですよ。劣等生だからできる、優等生のスーパーヒーローにはできない映画なんだなっていうね。

(赤江珠緒)ねえ。でもこれがアメリカでちゃんと受け入れられて大ヒットしているというところはいいですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからね、やっぱり彼自身の人生と絡んでいるんですね。という、いい話をちょっとしましたよ、はい! じゃあもうチンコは無し! 仕切り直し、ここから!

(赤江・山里)フフフ(笑)。

<書き起こしおわり>

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