町山智浩さんが2020年5月5日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアマゾンプライムビデオで配信中のドラマ『アップロード~デジタルなあの世へようこそ~』を紹介していました。
(町山智浩)それで今回、紹介する映画はもうアマゾンプライムで日本でも日本語で配信されてるんですけど。ドラマシリーズで、これが『アップロード~デジタルなあの世へようこそ~』っていうものなんですが。バーチャルリアリティーの話なんですよ。これね、人が死ぬ直前……ご臨終になる直前に脳のデータを全てバーチャルリアリティーの中にアップロードする会社の話なんですよ。だから死にそうになると脳をスキャンして、脳のデータ……つまり「心」ですね。心を全部、コンピューターの中のバーチャルリアリティーの世界にアップロードして送り込むっていう話なんですよ。で、そうすると、そこにはリゾートホテルみたいなところがあって、そこで蘇るわけですよ。
(山里亮太)うんうん。
(町山智浩)それで意識が継続しているんですよ。という話なんですけど、これは今ね、すごく研究が進んでいて。2045年までに実現するっていう風に言われているんですけども。
(外山惠理)なんかありえそうですよね。
(町山智浩)今ね、脳の中の思考とか記憶とか、そういったもの全部データに移し替える研究が世界各地で……日本もですよ。進んでいるんですね。で、それができると、死ななくても……死んだらダメなんですけども。そのバーチャルリアリティーの中に自分の記憶とか自分の心すべてを送り込んだり、保存したりすることができるというのが一応、2045年を目標に進めてるみたいですけども。これはそれが実現した時の話ってこということで、ただ2033年が舞台なんですね。この『アップロード』というのは。
で、主人公はネイサンっていうね、結構イケメンの28ぐらいの男で。ITビジネスで稼いでたんですけれども、交通事故で死んでしまって。死ぬ直前に恋人、婚約者が大金持ちだったので、自分のことをアップロードしてくれたんですよ。ある会社に……そのバーチャル天国と言われてるところにね。で、これはホライズンという一番高級なアップロード天国の会社のレイクビューというですね、リゾートホテルみたいなあの世にアップロードしてもらうんですよ。
(山里亮太)ああ、そこでもお金で差が出てくるんだ(笑)。
お金で差が出るバーチャルな天国の暮らし
(町山智浩)そう! そうなんです。つまり、これ全部バーチャルリアリティーだから会社が作ってるわけじゃないですか。そしたら利益を出すにはどうするか? 格差をつけるしかないんですよ。だからね、このネイサンという人があの世でホテルみたいなところで体が蘇るんですけども。バーチャルでね。それで何かを飲もうと思って冷蔵庫を開けるわけですよ。すると、ビールとかいろんなものが入っているわけですよ。で、それを取ろうとすると「ププーッ」って鳴るわけですよ。「それ、追加料金が必要です」って言われるんですよ。
(外山惠理)ええーっ! じゃあ、生活ができないじゃないですか?
(町山智浩)だから最低限の部分、ベーシックなものだけなんですよ。その彼の払ってもらっているお金でカバーができる部分というのは。
(山里亮太)そうか! 生きている人がさらに追加をしてグレードアップをしてくれない限り、そのバーチャルの世界で楽しむにも制限があるんだ。
(外山惠理)じゃあこのガールフレンドがお金を……たとえば違うボーイフレンドができちゃって、「もうこの人にはお金を払わなくていい」っていうことになったら、本当に死んじゃうっていうことですよね?
(町山智浩)まあ、死ななくて、データは残っているわけだから、スイッチが切られた状態になるんですよね。
(外山惠理)へー!
(町山智浩)あと、それでもこの人が生かせてあげたいということで、一番最低の金額を払い続けていれば、天国の中の一番最下層のところに入れてもらえるっていうことで。
(山里亮太)不思議な言葉ですよね。「天国の最下層」って。
(町山智浩)それはね、毎月の最大の容量が決まっているので、その容量を超えると止まっちゃうんですよ。そこは2ギガしか動かないんですよ。Wi-Fiとかインターネットをつなぐ時に安いやつだと容量を超えてしまうと動かなくなるじゃないですか。あれと同じ。
(外山惠理)これ、動かなくなるっていうのはただ真っ暗になっているだけなんですか? 自分自身はそこにいるんですか?
(町山智浩)そこにはいるんだけども、全く動かなくなる。アクセスも何もできなくなって。
(外山惠理)「動かない」っていうだけなんだ。
(町山智浩)そうそう。動かなくなる。基本的に人間の心はプログラムと同じなので……っていう話なんですけど。これね、コメディなんですよ(笑)。
(山里亮太)そうですね(笑)。でもちょっと怖いな。
(町山智浩)これはほら、ホテルに泊まる時に冷蔵庫でなんか飲んだら「これ、あとでお金を取られるんじゃないか?」ってビビる時ってあるじゃないですか。ねえ。高級ホテルとか泊まると、アメリカだと水で10ドルとか取られたりするんですけど。だから、主人公はあの世に行ってもビクビクしているの(笑)。
(外山惠理)アハハハハハハハハッ!
(町山智浩)全然楽しくないっていうね。ただね、眠くなったりお腹が空いたりとかするんですよ。これね、最初はしないようにプログラムしてたんですけども、やっぱり意識が人間の時の状態を引きずってるんで。寝なかったり、お腹にその空腹感がなかったりすると、精神状態がおかしくなるので。プログラムしてそういう風になるようにしてあるんですよ。だからお腹もちゃんと空くんで。まあ、そうしないと食欲とかがないから楽しくないですよね。食べてもね。ただ、食べる食事はその最初に振り込まれるお金によって違うわけですよ。
(外山惠理)うわあ……。
老人ホームに近いシステム
(町山智浩)これね、老人ホームがそうですよね。老人ホームって最初にお金をどのくらい持って入れるかでその後の生活が決まっちゃうじゃないですか。だからこれ、「あの世」っていう風になってるんですけど、まあ老人ホームに近いものですよね。だからね、これは本当に実現しそうなんだけど、嫌な世界ですよ、これ。
(山里亮太)本当にそう。死んでもお金にずっと縛られる……。
(町山智浩)縛られて。なんでもマネタイズして、なんでも金儲けに結び付けようとする人がいる限り、それをやられるんですけども。でね、この作品の中で飛行機で移動するシーンがあるんですね。現実の生きてる世界の中で。あ、これね、主人公はさっき言ったネイサンっていう死んだ人と、このホライズンっていう会社のカスタマーサービスのお姉さんも主人公なんですよ。で、彼女はあの世の人たちに「天使」としてですね、いろんなカスタマーサービスをするんですけども……彼女は最低賃金の労働なんですよ。
だって基本的にはコールセンターだから。いっぱいコールセンターに苦情を言う人、いるじゃないですか。あれと同じなんですよ。でね、彼女がね、飛行機で移動するシーンがあるんですけども、その時に彼女が飛行機でお金がないから、「エコノミーマイナス」っていうのに乗るんですよ。最近、飛行機に乗るとエコノミーって何段階にも分かれてるんですよね。昔はエコノミーって全部同じだったんですけども、今はエコノミーって普通のエコノミーに対して「エコノミープラス」があって、さらにその上の「プレミアムエコノミー」っていうのがあったりするんですよ。
(山里亮太)はいはい。
(町山智浩)それでお金をちょっと足すと……1万円とか2万円とか足すと、どんどん席が良くなっていって、食事が良くなっていくんですよ。で、エコノミーの席って今、後ろの方ってすごくシートの間隔が狭くなってるんですよ。エコノミーの中でも分けてるんですよ。あれ、実はエコノミーっていう名前だけどもすごく分かれてるんです。値段で席が。これね、そうやって儲けるんですよ。
つまり、一律にしちゃえばみんな同じ額だけで済むんだけれども、そうじゃなくてそこに値段の差を設けることでみんな、お金を出すようになるというシステムですよね。なんでもそうです。差異を付けているんですけど。そのシーンがあるから、この『アップロード』っていう話は実は天国もそれをやられてるんだってことがわかってくるんですけど。嫌な世の中なんですよ、これ。本当。でも、これは絶対にやると思いますね。あとね、お葬式には本人が出席できるんですよ。だってバーチャルリアリティーの中で生きてるんだもん。
(山里亮太)ああ、そうか。
(町山智浩)これね、死んだ人と生きてる人は電話できるんですよ。
(山里亮太)ええっ?
(町山智浩)ネットで会話できる。だってネット中に入ればいいんだもん。
(山里亮太)ええっ? ああ、そうか。
(外山惠理)あの世なんだけど、そうか。お葬式があるのか。