渡辺志保さんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』に出演。2018年注目の女性ラッパーを荻上チキさんと南部広美さんに紹介する中で、シカゴの女性ラッパーNonameについて話していました。
(南部広美)渡辺さんには2018年注目の女性ヒップホップアーティストを紹介していただいています。
(荻上チキ)というわけで、今夜の選曲は?
(渡辺志保)今夜はですね、イリノイ州シカゴで活動する女性ラッパーを紹介したいと思うんですけれども。ノーネームという名前の女性アーティストがおります。
(荻上チキ)ノーネームという名前なんですか?
(渡辺志保)そうです。「名前がない」という「ノーネーム(Noname)」。
(荻上チキ)「名無しさん」ってことですね。
(渡辺志保)「名無しさん、名無しちゃん」なんですけども。彼女はシカゴ出身で、いまもシカゴを拠点にしているんですけども。オバマ前大統領ももともとイリノイ州シカゴを中心に活動していたこともありまして、結構近年、シカゴに注目が集まることが多いんです。シカゴの音楽シーンも非常にいま、盛り上がっておりまして。今年のサマーソニックにも来るんですが、チャンス・ザ・ラッパーという若い、すごい社会活動なんかも盛んにしている若いラッパーの男の子がいるんですけども。
このノーネームもそのチャンス・ザ・ラッパーとと一緒に活動している女性アーティストなんですね。彼女はもともとラッパーではなくて詩人だったんですよ。で、アメリカではポエトリー・リーディングとかスポークン・ワードっていう風に言うんですけれども、詩の朗読会っていうのがイベントで、普通にバーとかで行われてるんですね。そういったところから出てきた女の子で、ラップを始め、サウンド・オケの部分に関しても、結構生楽器を多様するような、言ったらちょっとオーガニックというか、有機的なサウンドを自分の色にしている、そういった女性アーティストですね。歌詞の響き方も自分でも「私のラップは何を言ってるかわからなくてもいいの。捉え方が幾通りもあるから」っていう。なので、すごく散文詩的な詞の作り方なんですね。なので、そういった耳障りなんかも意識してぜひ聞いていただきたいなと思います。
(荻上チキ)それでは、曲紹介をお願いします。
(渡辺志保)ノーネームで『Casket Pretty』。
Noname『Casket Pretty』
(南部広美)ノーネームで『Casket Pretty』。
(渡辺志保)このタイトル『Casket Pretty』、「Casket」って「棺」を表す単語なんですね。亡くなった時に遺体を入れる棺。で、「Pretty」って「かわいい」っていう言葉ですけども。普通の英語の語法であれば「Pretty Casket」っていう風に言うんですけど、彼女はあえて逆にしていて。しかも、「棺・棺桶」と「Pretty」ってなかなか結びつかないワードでもあると思うんですけど、なぜ棺がかわいいのか? それは小さいからなんですよ。ということは、子供が亡くなった棺に関して彼女はここではラップをしてるんですね。
(荻上チキ)うん
(渡辺志保)なので、リリックの中にも「テディベアがあそこに落ちてる(teddy bear outside)」っていう描写があったりして。それだけで、1から10まで説明せずとも、そのテディベアを抱えていたような小さい子が、何かしらの形で亡くなってしまって、小さな棺に納められてるのかな?っていうところをリスナーとしては想起することができるんですね。冒頭に彼女はシカゴを中心に活動してるという風に言ったんですけれども、シカゴを表す言葉で、ひとつ「Chiraq(シャイラック)」っていう言葉があるんですね。「Cih」っていうのは「Chicago(シカゴ)」。「Chi-Town(シャイタウン)」っていう風に、シカゴのことを「Ch」って呼ぶ人がかなり多いんですけども。
(荻上チキ)ええ。
(渡辺志保)そのシカゴの「Chi」とイラク(Iraq)の「Raq」を組み合わせて「Chiraq」って風に言ってるんですね。なぜ、イラクが出てきたと言うと、本当に戦争が行われているイラクと同じぐらい、シカゴの町では毎日多くの人が銃で命を落としている。それぐらい犯罪が絶えないエリアなんだということを表す言葉で「Chiraq」という言葉があるんですけれども。
戦場のようなシカゴを表す言葉「Chiraq」
なので、ノーネームとしても、その小さな子供までが銃で命を奪われてしまう。そういった風景を、先ほど聞いていただいたような、ちょっと散文詩的な、かつ耳障りのいいような音楽でラップをしているという。そこがちょっと特徴的なアーティストですね。
(南部広美)街を映すんですね。すごい。ヒップホップって見えているものを描写するから、その土地その土地というのが、地域性みたいなのがすごい浮き上がる音楽だなっていう風にいま、改めて思いました。
(渡辺志保)そうなんです。地域性っていうのは本当にヒップホップにおいてもかなり重要なファクターですし、ニューヨーク……東海岸と西海岸では全然サウンドの内容も違ってきますし。南部には南部のスタイルもありますし。なので本当に地域ごとに区切って聞いていくっていうのもひとつ、面白い楽しみ方かなと思いますね。
(荻上チキ)やっぱりリプリゼント(Represent)っていう、何を代表し、何を表現するか?っていうのが自覚的じゃないと、足元を他のアーティストにすくわれるような、そういったようなステージでもありますからね。
(渡辺志保)そうですね。それはもう言い得て妙というか。その通りだと思います。
<書き起こしおわり>
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