松尾潔 Xscape再結成と新曲『Dream Killa』を語る

松尾潔 Xscape再結成と新曲『Dream Killa』を語る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でアトランタの女性ボーカルグループXscapeの再結成と、その最新曲『Dream Killa』を紹介していました。

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(松尾潔)さて、いま「再始動」っていう言葉を使いましたけど、「再始動」ですとか「再結成」ですとか「復活」とか、いろんな言葉を音楽シーンで使いますね。よく聞くことがあります。ですが、本人たちにとってはそれがたとえば再始動なのか、再結成なのか……このあたりね、外野からすると一緒くたにしてしまいがちなんですけど、やっぱり大きな違いがあるんだなっていうことを僕も今年、CHEMISTRYの再始動をプロデュースして思いました。なぜならだって、2人は1回も解散したことがないからっていう非常にシンプルな理由があるからですよ。

次にご紹介するグループ、これは文字通り再結成なんですよね。90年代にアトランタを代表するというか、アメリカのR&Bシーンを代表する女性ボーカルグループとして一時代を築いたエクスケイプ。今年はオリジナルメンバーの4人が全員集って、再結成のステージを披露したり。まあ、テレビの番組に出て、変わらぬ歌声、ハーモニーを聞かせてくれたりしました。背景には『Who Can I Run To』という……いまとなっては彼女たちのヒット曲の最たるものと言ってもいいのかな? それが長らく若手女性ボーカルグループにカバーされているという、そういう事情を見逃してはなりません。

Xscape『Who Can I Run To』

たとえばアリシア・キーズの『If I Ain’t Got You』という曲が世界中のボーカルオーディションで女性ソロシンガーがチャレンジするということをこの番組でもいつかお話したことがあるような気がしますが。

ボーカルグループがそういうオーディションであるとか、いわゆる腕試しみたいな時によく歌う1曲がこのエクスケイプの『Who Can I Run To』なんですよね。まあ、これはR&Bファンの方であれば、「もともとエクスケイプがカバーだったじゃん?」っていう突っ込みを入れられるかもしれません。そうなんですよ。これはもともとザ・ジョーンズ・ガールズのバージョンがオリジナルなんですが。

エクスケイプがそれを90年代に、オリジナル以上のヒットにしてしまったという。もう本当にカバーの好例として語られることが多いのですが。そのエクスケイプバージョンを踏まえた、いろんな再カバーというのがいま、動画サイトなどにあふれかえっておりますが。そういった、途切れることのないリスペクトを受けての再結成でしたエクスケイプなんですが。それに気を良くしたのでしょう。元からその計画ありきだったのか、再結成。そして新曲リリースという流れになっております。これからご紹介する曲『Dream Killa』という曲なんですが。まずは聞いていただきましょうか。エクスケイプでリリースされたばかりの新曲『Dream Killa』。

Xscape『Dream Killa』

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お届けしましたのはエクスケイプで18年ぶりですか。新曲を出すんですね。新曲『Dream Killa』でした。『Dream Killa』ともう1曲『Wifed Up』という曲も同じタイミングでリリースしております。新曲を2曲、用意しての再スタートなんですが。先ほど、「まずは聞いていただきましょうか」という風に言いました。「エクスケイプ、なるほど。うんうん、僕も昔好きだったよ」という方、たくさんいらっしゃると思いますが、どこか違いを感じませんでしたか? そうなんですよ。さっき、「オリジナルメンバー4人で再結成した」と言ったんですけど、ステージは4人で立ったんですが、このレコーディング作品は4人のうち3人しか参加していないんですね。これ、いろんな人間模様が垣間見えますよ。

参加していない人の声、どの声が足りなかったか、お気づきでしょうか? キャンディですよ。キャンディ、これは嫌らしい話ですけどもね、4人の中でソロとして唯一大ヒットを飛ばしたキャンディが参加していないんですね。まあ、キャンディの音楽的才能の豊かさっていうのはみんなが知っていることで。もっと言うと、音楽ビジネスの才能の豊かさはよく知られているところです。この人、自分でもソロとしてキャリアを構築しただけではなくて、ソングライター、そしてプロデューサーとしてもね、たとえばTLCの『No Scrubs』。

デスティニーズ・チャイルドの『Bills, Bills, Bills』。

もう本当に「超」のつく特大ヒットを飛ばしております。そういう意味ではソングライターとしてもすでに一流と名乗れるだけの実績があります。で、シンガーとしても『Don’t Think I’m Not』という大ヒットがあります。

2000年ですか。これがヒットした時に「ああ、もうこういう曲が出せるから、エクスケイプっていうグループは少なくともキャンディにとっては必要なかったんだな」って思った方は多いんじゃないでしょうか。僕はこのエクスケイプ、彼女たちがまだ10代の頃からアトランタに行くたびに会っていましたし見ていましたけど、まあ1人だけ違いましたよ。キャンディさんは。ええ。他の3人が「チキン、デリバリーする? それともポテトもつけちゃう?」みたいな話をしている時に、1人だけ横で黙って本を読んでいるような人でした。ですから僕は、そういう意味で「なるほどな」と納得はしても驚きはしないんだけども。

今回のその再結成の時にステージには立つ。BETというアメリカのR&B、ヒップホップ好きには避けて通れない放送局がありますけども、そこのアワードで4人がステージに立って「おおっ!」って思って、この後に新曲を出すよっていう時にキャンディがいないのは、ねえ。どうしたもんかな? とも思いますけども。それぞれの事情があるんでしょうけど、ちょっと寂しい気はしますね。

ただ、いまとなってみると、伏線となるような出来事がありまして。さっき、デスティニーズ・チャイルドの『Bills, Bills, Bills』もキャンディが書いた曲だという話をしましたけども。まあ、キャンディと当時のボーイフレンドのシェイクスピアという人と一緒に作った曲ですが。

ええとね、去年あたりからキャンディが手掛けている3人組の女性グループがいましてね。これ、プロデューサーとして手掛けている。もっと言うと、レーベルオーナーとして手掛けているグラマーっていう3人組がいるんですよ。で、このグラマーが本格的なデビューに先駆けて、エクスケイプではなくデスティニーズ・チャイルドに捧げるアルバムというのを、ミックステープをリリースしていまして。その中で、キャンディは自分がプロデュースした『Bills, Bills, Bills』なんかをさらにカバーさせたりしているわけです。いま、バックに流れておりますね。

しかも、同じアトランタのご当地ものでありますシアラの曲とちょっとマッシュアップするみたいなね。で、そのキャンディはいま、ソロシンガーとして、そしてプロデューサーとしての仕事が充実していることはそれだけでも十分にわかるので、いまさら自分がボーカルグループの一員に戻るよりは、プロデューサーとして若い子たちを世に送り出したいっていう気持ちが強いんだろうなという風に、まあ邪推かもしれませんけど、そういう風に思っちゃうわけです。妙な説得力もあったりするんですね。で、ちょっと残酷かもしれませんが、これは音で判断してもらいたいと思って。

いま、その3人組状態になっているエクスケイプの『Dream Killa』っていうのをさっき聞いていただきましたけども。奇しくもなのか、「3」という数字がいいと思っているのかはわかりませんが、キャンディがいま、プロデューサーとして手掛けている女性ボーカルグループトリオ。若いですよ。歳はグッと20才ぐらい若いですよ。グラマーの今年リリースしたシングルというのを聞いていただきたいと思います。古巣のグループがよいのか、それともこれから世に出していくグループがよいのかっていう聞き比べなんですが。まあ、好みは分かれると思いますけども、僕はこれは名曲だと思います。聞いてください。グラマーで『Bae』。

Glomour『Bae』

Levi Johnson『So Fly』

2曲続けてフレッシュな女性ボーカルトリオの曲をお聞きいただきました。まずは元エクスケイプ……「元」なのかな? うーん、まあとにかくエクスケイプのキャンディがプロデュースを手がけるグラマー。アトランタのグループ、グラマーの『Bae』という曲でした。『Bae』はまあ、「Baby」ぐらいの意味ですね。まあ、いかにもいまの気分で歌っております、グラマー。これはエクスケイプとは持ち味は違いますけども、ボーカルのあり方というか、アカペラで入ってきて、割と厳かな感じで始まって、曲がジワッと盛り上がるあたりとか、これはやっぱりエクスケイプからの流儀はそこかしこに見ることはできます。技あり! キャンディのプロデュースでございました。

で、続けてご紹介しましたのは、リーバイ・ジョンソンという、男性の名前のようですが、そういう名前の女性グループの『So Fly』という曲。これはもう、イントロからお分かりでしょう。SWVの『I’m So Into You』という、これも90年代を代表する女性ボーカルトリオの代表曲のひとつですが、そこにオマージュを捧げた曲ですね。

原曲では「So Fine」って言っていたのかな。そこを「So Fly」っていう風にライミング、韻を踏んでオマージュカバーをしておりました、リーバイ・ジョンソン。こういった90年代オマージュのグループはたくさん出てきますけども、グループはね、本当にこれ、エクスケイプとの競争みたいになると面白いなとも言えるけども、ちょっと、ねえ。「仲良くしようよ」っていう感じもありますね。いま、TLCとかSWVとかの名前を出しましたけども、そういったグループとエクスケイプが違ったのは、エクスケイプはずっと4人でやってきたっていうことなんですよ。3人っていうのはシュプリームスの時代から女性って多いんですよね。だけど、4人でやるということで重層的なハーモニーを武器にしていたんですけども、やっぱりその武器というのは凶器にもなりうるということだなと思います。

<書き起こしおわり>

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