松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でクインシー・ジョーンズのNetflixドキュメンタリー『クインシーのすべて(Quincy)』についてトーク。その中で披露されていたクインシー・ジョーンズがマーク・ロンソンと製作した楽曲『Keep Reachin’』を紹介していました。
(松尾潔)バックで聞こえてまいりましたのはクインシー・ジョーンズの『The Dude』。御年85歳のクインシー・ジョーンズの代表作のひとつですね。日本では『愛のコリーダ』というアルバムタイトルがついておりましたけども、原題ですと『The Dude』。
「Dude」っていうのは「いなせな男」みたいなニュアンスですけどもね。クインシー・ジョーンズ自身が「あいつはカッコつけだから」なんてことをよく言われることが多かったみたいで、ちょっとそういう自虐も入ってたりするっていう。まあ、モテ男のやりそうなことですが。
そんなクインシー・ジョーンズ、このほどネットフリックスでドキュメンタリー『Quincy』というのが世界公開されました。日本で『クインシーのすべて』というタイトルで公開されて。僕も早速見ました。
なににしろ、クインシー・ジョーンズね、勝手に「メンター」と仰いでいます。
これは面白いドキュメンタリーでした。30年近く前に『Listen Up』という、やはり彼の評伝的な内容のドキュメンタリーがありましたし、その時の『Listen Up』からの模様もかなり引用されてるんですけども、新たに撮りおろした……つまり彼にとって60代以降の七転八倒ぶりがつぶさに描かれております。それもそのはず、監督の1人に名を連ねますのはクインシー・ジョーンズの愛娘、ラシダ・ジョーンズでございまして。娘が自らカメラを回したりしてるところもあって、本当に普段のクインシーの姿を見ることができます。
まあ今更ながらクインシー・ジョーンズの功績をお話すると、世界で最も売れたレコード。マイケル・ジャクソンの『Thriller』をプロデュースした男であり、『We Are The World』のプロデュース……なんてことはだいたい語られるんですけども、それ以前からの彼のジャズの世界における功績なんていうのもね、こういう映画を見て改めて感じるのもいいんじゃないでしょうかね。あの酒場っぽい話で言うと、1960年代にね、アポロが月面着陸した時に初めて月に向かって鳴らした音楽っていうのがフランク・シナトラの『Fly Me To The Moon』だったんですけども。それのアレンジを手掛けていたのもクインシー・ジョーンズだったんですね。
つまり地球を離れて初めて鳴った音っていうのはクインシーのアレンジだった。これはもう、2人目以降とは全然違う重みのある、文字通りの第一人者ということなんですが。その映画の中でエンディングで1曲だけ新曲が流れます。クインシー・ジョーンズ&マーク・ロンソン。うーん。まあ、現代のクインシー的な立ち位置、いろいろと異論はあるでしょう。「ドクター・ドレーがそうじゃないか?」とか、「いやいや、ファレルじゃないか?」とか。まあ、いろんな意見もあるでしょうけど、マーク・ロンソンもクインシーの後継者の1人であることは間違いないです。
なにしろさっきお話したラシダ・ジョーンズと一時は婚約していたぐらいですからね。で、クインシーとマーク・ロンソン、結局親子になることなかったんですが、その2人は共同名義でチャカ・カーンをフィーチャーしてこんなイカした新曲を作ってくれました。聞いてください。クインシー・ジョーンズ&マーク・ロンソン feat. チャカ・カーンで『Keep Reachin’』。
Quincy Jones & Mark Ronson『Keep Reachin’ feat. Chaka Khan』
クインシー・ジョーンズとマーク・ロンソンの共同名義で出しております、feat. チャカ・カーンで『Keep Reachin’』。ドキュメンタリー『Quincy(クインシーのすべて)』、そちらのサウンドトラックの中からお聞きいただきました。この番組で以前一度、お話ししました久保田利伸さんと6月の終わりにクインシーの85歳バースデーコンサートというものに行ってまいりました。ロンドンのO2アリーナっていうところで行われたんですが、その時にクインシーが「実はネットフリックスでドキュメンタリーを作っていて、その中で1曲、新曲をやるんだよね」と言ってマーク・ロンソンを紹介して、ステージで披露したのがこの曲でした。
ですが、その時はチャカ・カーンはステージに立ってなかったので、僕も映画を見て初めてチャカが歌ってるのを知ってびっくり。しかもこれ、いい曲ですね! まあもちろんマーク・ロンソンはこういったブギーはね、『Uptown Funk』を持ち出すまでもなく、もう得意としてるわけですよ。それがね、もう本当にその生き神のようなクインシーと組んで、別にクインシーに臆するわけでもなく、ちゃんとマーク・ロンソンの良さも出てますね。で、チャカ・カーンの良さも出てるし。で、クインシーのサウンドのトレードマークのひとつとも言えますこの派手派手なホーンセクション。これはクインシーのサウンドに欠かせないジェリー・ヘイっていうホーンアレンジメントの大家がこの曲でもペンを取ってましたよね。
あとはやっぱり今年、サラッと言ってしまいますけどチャカ・カーンはいい曲を出しますね。この間の『Like Sugar』っていう曲も最高でしたけど。
改めてこの人の声っていうののタイムレスな感じっていうのが証明された1年でもあったような気がします。男性におけるチャーリー・ウィルソンと同じで、60代の年齢になってもその声をまだみんなが必要としているという。そしてそのフォロワーはたくさん出るけど、代わりになる人は現れていない。そういった不変の輝きがあるように思います。チャカ・カーンをフィーチャーしたクインシー・ジョーンズ&マーク・ロンソンで『Keep Reachin’』でした。
<書き起こしおわり>