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渡辺志保 2PACの生涯と映画『オール・アイズ・オン・ミー』を語る

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渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中で2PACの生涯を描いた映画『オール・アイズ・オン・ミー』について話していました。


(渡辺志保)まあ、いまからこの映画の話もしながら、私の個人的な2パックへの愛情も込めながら、どんなラッパーだったのか? どんな映画作品なのか? というところをお話していきたいと思います。で、2パック、みなさん知っている方はもちろん多いと思うんですけど、死後21年たつんですね。で、もう平成生まれのヘッズは2パックを生きていた頃を知らないということになるんじゃないかなと思いまして。

(DJ YANATAKE)そうか!

(渡辺志保)私たちは普通に2パックが……まあ、私もあんまりリアルタイムでは……。

(DJ YANATAKE)志保はどのぐらいなの?

(渡辺志保)私は「撃たれた」っていうニュースをたしかNHK BSかなんかの深夜の音楽番組で知って。「アメリカの音楽業界ってバリ怖いんじゃのう」みたいなのを。だから2パックとビギーが亡くなった時は私は小学校6年生だったので。若干、そのニュースは聞いているけど、じゃあ彼がファーストアルバムを出した時からとか、デス・ロウに入った時からっていうのをリアルタイムで追っているわけではないんですよね。多分私と同世代のアメリカにいるヒップホップリスナーというか若者の方は普通にリアルタイムで知っているとは思うけど。なので日本にいると、結構私よりも年下の子だと、なかなかリアルタイムに2パックを知らないのではないか? と思っていて。

なので、なぜ彼がここまで神格化されているのか? とか、そういうのもちょっとずつお話していきたいと思うし。2パックが印刷されているTシャツとかを持っている方は多いかもしれないけど、改めて。曲をはじめて聞きますっていう方もいるかもしれないので、ぜひぜひこの『INSIDE OUT』があなたと2パックの扉の仲立ちとなるような放送になるといいなと思っています。で、もともと2パックって1971年、ニューヨーク生まれなんですよ。で、2パックっていうとどうしてもアメリカの西海岸……ロサンゼルス、LAのイメージが強いと思うんですけど、もともとはニューヨークの出身だった。

で、幼少期からの彼の人格を形成するのに非常に重要だった人物がおりまして、それが実のお母さんなんですね。アフェニ・シャクールという名前のお母さんがいまして。このアフェニさん、2パックが亡くなった後も財団を設立したりとか。あと、2パックの音源を全部管理するような団体を作ったりなんかもしましたし。かつ、メディアに出ることも多かったので知っている方も多いかと思うんですけども。

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母 アフェニ・シャクール


この映画の『オール・アイズ・オン・ミー』の中でも結構ヴィヴィッドに描かれているんですけど、このアフェニ・シャクールさんというのが「ブラックパンサー」という団体の女ボスというか重要人物だったんですよ。で、このブラックパンサーってなんぞや?っていうところなんですけど、ひとつの政治団体ですね。「ブラックナショナリズム寄り」とかって言われていたんですけども。昔の日本だと「黒豹党」とも言われていたんですが、もともとヒューイ・P・ニュートンという方とボビー・シールという方の2人によってオークランドで結成された政党です。

みなさん、マルコムXとキング牧師って名前は聞いたことがあると思うんですけども。60年代の公民権運動で活躍した2人ですが、マルコムXとキング牧師って一緒に語られることも多いかと思うんですが、2人の思想っていうのは結構真逆だったんですよ。


キング牧師というのは非暴力的な思想で、「どんなに肉体的にひどいことをされたとしても、絶対に俺たちが拳で殴り返すようなことをしてはダメだ。絶対に暴力はいけないものである。僕たちの夢、自由を勝ち取っていこうじゃないか」という主張だったのがキング牧師。かたやマルコムXというのは「By Any Means Necessary」という。「いかなる手段を持ってしても――たとえそれが武力や拳だったりするかもしれないけど――いかなる方法をもってしても、自分たちの自由と尊厳を白人から奪い取るべきなんだ!」っていう考えを持っていたのがマルコムXの方だったんですね。なので、いわば過激派っていう感じだったんですが、このブラックパンサーはそのマルコムX寄りの思想でもあったんですよ。なので、ちょっと過激な一面もあって。

その2パックのお母さんでもあったアフェニ・シャクールは政治犯として1960年代から70年代にかけて逮捕されてしまうんですよ。で、もっとすごいのは逮捕された時にすでに2パックをお腹に身ごもっていて、あわやこのままだとアフェニは獄中出産。檻の中にいながら子供を出産してしまうんじゃないか? とも言われていたんですが、そこは彼女がそれまでの功績が讃えられたというか、自由を勝ち取ったというか。本当に生まれる直前で裁判に勝って釈放されて、無事に2パックを出産するということになるんですけども。結構映画でもそのへんのことが鮮明に描かれていて、強いお母さんであるアフェニ・シャクール。主張をしっかりと持った1人の女性としてアフェニ・シャクールは描かれているので、なんか私としてはそこもすごくいいところだなという風に思っていました。

で、映画の中でもこういう1シーンがあって。ちっちゃい時からアフェニが2パックと妹に対して、「あんた、今日ちゃんと新聞を読んだのかい?」っていうようなシーンがありまして。で、2パックが「うんうん、読んだ読んだ。いま、こういうことが世間では起こっているんだよね」って言うシーンがあって。だから本当にね、ちっちゃい時からアフェニ・シャクールの思想的にも、生活行動的にも、彼女の教育というのは本当に2パックに刷り込まれてきているんだなと思いましたし。

なのでその分、2パック自身も使命感を持ってラップをしていたんじゃないかな?っていう風に感じるところではありましたね。そんな風に小さい頃からブラックパンサー的な教えを身をもって体得してきた2パックではあるんですが、同時に彼が傾倒していたのはシェイクスピアなんですね。これも若かりし、高校生だった頃の2パックがシェイクスピアの劇に参加するようなシーンもあるんですけど、彼がブラックパンサー的な教えとシェイクスピアの文学的なところに触れていくということが映画でもちゃんと描かれていて。なので、そういうバックボーンを持ったMCであるか?っていうのは、そういうところでも感じるところがあるんじゃないかと思います。

映画でもすごく長い尺を取って描かれているのが、もともと2パックが最初にMCとして参加していたデジタル・アンダーグラウンドっていうグループがあるんですけど。ショック・Gとマネー・Bっていう……。

(DJ YANATAKE)うん、大好き!

(渡辺志保)はい(笑)。デジタル・アンダーグラウンドって別に政治的なことをラップしているわけでもないし、ゴリゴリのハードコアグループというわけでもないじゃないですか。そこに2パックも参加していたわけなんですけど。映画の中でもさ、彼らの代表曲の『The Humpty Dance』をライブでパフォーマンスする様子が描かれているんですけど、めっちゃ尺が長いんだよね。



(DJ YANATAKE)ちょっと意外だったよね。

(渡辺志保)そう。めっちゃ尺が長いと思ったら、メンバーのマネー・Bが本人役で出ていたというところもありまして。それも、ヤナタケさん世代の方だったら「おっ?」ってなるところなんですかね。

(DJ YANATAKE)っていうかまあ、マネー・Bとかショック・Gには「おっ?」ってなるんだけど、僕はデジタル・アンダーグラウンド、来日公演を川崎クラブチッタに行っているんですけど。やっぱりその頃、2パックなんか全然知らないし。とりあえずショック・Gとか、よくてマネー・Bとかぐらいだったんで。そんな人がいたのかっていうぐらい、全然記憶にないぐらい。

(渡辺志保)まあ別にそこで2パックがメインでMCをしている側ではなかったというところなんですけど。そんな経験も経て、ようやく1991年に『2Pacalypse Now』というアルバムでソロMCとしてデビューするんですけども。結構、ちゃんと……私も2パックっていうと自分の入りが96年ぐらいだったから、ゴリゴリのGファンクサウンドかと思いきや、初期の2パックのサウンドって全然そんなことなくて。正統派のニューヨークのサウンドプロダクションが作っているということもあって。サウンド的にはどちらかと言うと東寄りっていう風に言っていいんですかね。

かつ、顕著なのは当時ではジャングル・ブラザーズとかブギー・ダウン・プロダクションズ(KRSワン)とかがすごく意識が高いラップをしていましたけど、2パックも同じような路線とは言いませんけども、ゲットーのリアルな様子とか、いかにアフリカン・アメリカンがアメリカの社会の中で虐げられているかっていうことを結構写実的にラップにしていて。私はその、昔から新聞とかをよく読んでいたという影響もあるのかわからないですが結構ジャーナリズムを感じるようなラップだなという風に今回、対訳もさせてもらったんですけど、思いました。

結構細かいところまで写実的に、赤裸々に自分たちが置かれている環境っていうのをデビューの時から歌っていたっていうのが2パックの才能なのかなっていう風に思っています。まずここでみなさんにも1曲、聞いてもらいたいんですけども。ラッパーとしてのジャーナリズムみたいなものが顕著に出ている曲がありまして。それが『Brenda’s Got A Baby』という曲なんですけども。

それこそ歌詞の対訳を見ていただければすぐにわかるんですが、なにを歌っているかというと10代のまだ若い女の子が望まぬ形で妊娠をしてしまった。その相手もボーイフレンドという風に歌詞には載っているし、どういう関係かというのは歌詞の中にあるんですが、自分の従兄弟なんですよね。つまり近親者の男性に妊娠させられてしまい、結局産もうか産むまいか悩んで産むんだけど、けどそのブレンダが直面した結末というのはすごく悲しい結末になっていて。それをすごく写実的にラップしているのがこの『Brenda’s Got A Baby』という曲になります。ぜひぜひここで聞いてみてください。2パックのデビュー・アルバム『2Pacalypse Now』から『Brenda’s Got A Baby』。

2Pac『Brenda’s Got A Baby』



(渡辺志保)はい。いまお聞きいただいておりますのは2パックで『Brenda’s Got A Baby』。聞いているだけだとすごくフックがソウルフルでロマンチックな雰囲気さえするかもしれないですけど、実際は12才の女の子が望まぬ形で妊娠をしてしまった。しかも2パックは「これはただの他人事じゃなくて、俺たちのコミュニティーにいかに影響をすることなのか?」っていう風に説きながらラップをしている。当時においてもすごく新しかったんじゃないかなという風に思っています。というのが91年の『2Pacalypse Now』からの曲でしたけども。その後、映画『Juice』に出演とかもありまして、順調にソロにキャリアを積んでいきます。

で、その後、93年に『Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z…』というアルバムがありまして。ここでも結局、『2Pacalypse Now』と同じような写実的な、社会に訴えかけるようなラップを色濃く歌っていたのですが、この『Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z…』からも1曲、かけさせていただきたいんですけども。これも映画の中でライブのシーンとして出てくるんですけど、『Keep Ya Head Up』という曲がありまして。でね、この1ライン目が結構リマーカブルな感じなんですけども。「Some say the blacker the berry, the sweeter the juice I say the darker the flesh, then the deeper the roots」っていうリリックで始まるんですが。

「果実の色が濃ければ濃いほど、その中の果汁は甘い。肉体の色が濃ければ濃いほど、そのルーツは根深い」ということで、これは何に関して歌っているのか?っていうと、アメリカ社会でストラグルしてサバイヴしているアフリカン・アメリカンの女性に向けた曲なんですよ。なので、女性を鼓舞する、ちょっとフェミニストっぽい感じの歌なんですけども。「当時、そういうことをそういう視点で歌うラッパーはいなかったから、俺はこの曲を作ったんだ」というのは、2パックも生前のインタビューで語っていまして。最初のこの「the blacker the berry」っていうフレーズなんですけど、もしかしたら聞き覚えある方もいらっしゃるかもしれません。

もともとこれは1929年にハーレム・ルネッサンスっていう、当時ハーレムで盛り上がった文化的交流があって。ラングストン・ヒューズとかそういった小説家もいるんですが。その中で活動していたウォレス・サーマンっていう小説家・劇の脚本家がいらっしゃるんだけど。そのウォレス・サーマンが1929年に発表した小説のタイトルが「The Blacker The Berry」っていうものなんですよ。これを引用しているのは、他にもジャングル・ブラザーズとかがいて、2パックがいて。かつ、ケンドリック・ラマーも『To Pimp A Butterfly』を出した時に、その中にまさしくこの『The Blacker The Berry』というタイトルの曲を入れておりまして。



なので結構、このフレーズってコンシャスなラッパーの間では語り継がれるフレーズっていうか、そういう役目も果たしているということなですよね。で、この『Keep Ya Head Up』があって、より女性からの支持も集めているということになりますので。ちょっとこのリマーカブルなラインをみなさんにも聞いていただきたいので、ここでオンエアーさせていただきます。『Keep Ya Head Up』。

2Pac『Keep Ya Head Up』



(渡辺志保)はい。いま聞いていただいておりますのは2パックのセカンドアルバムからのシングル『Keep Ya Head Up』でした。聞き覚えのある方も多いんじゃないかと思いますけども。で、順調にソロMCとしてのキャリアを積んでいく2パックなんですけども、成功をしていくと『Mo Money Mo Problems』という曲をビギーも歌っておりますが。



やっぱり成功をするにつれて厄介事が増えていくというのはラップスターに限らず、映画スターとかもそうだと思うんですけども。だんだん、2パックもちょっと身辺がザワザワっとしてしまうのがこの後ぐらいからですね。有名な事件として映画の中でも描かれていますけども、1994年にニューヨークのマンハッタンで2パックがレコーディングをしていたんですけど。そこで、2パックが何者かによって襲撃をされてしまって。その時に5発撃たれてしまうんですよ。その時は命をとりとめているんだけど、その時に襲撃した犯人というのが実はビギー(ノトーリアス・B.I.G.)とパフ・ダディの差し金なんじゃないかとか。

その時に同じ場所にその2人がいたから、何かしらを仕向けて2パックを攻撃したんじゃないかとか、そういう話が出てきたり。ということは、西と東の……LAを中心とした西海岸のヒップホップシーンと、ニューヨークを中心とした東海岸のヒップホップシーンとの対立というのもだんだんこの頃から溝が深くなってきて。ちょっとおだやかじゃないな、みたいな感じになってきた頃ですね。94、5年ってヤナタケさんはどういう感じでした?

(DJ YANATAKE)レコード屋でバリバリ働いていて。だからインターネット前夜なので。そういう事件があったとかも、たぶんもっとすごく遅かったと思うんだよね。

(渡辺志保)ああ、知るのがね。

(DJ YANATAKE)そう。噂で誰かがお店に言いに来たりとか。ニューヨークの(CISCOの)オフィスに電話で確認したり、新聞をFAXしてもらったり。そうやって情報を集めて、何日後かに「ああ、本当に亡くなったんだ」とか。で、お店でHACちゃん。さんぴんキャンプでおなじみのHACちゃんが2パックの時もビギーの時もそうだったけど、お店で追悼コーナーを一生懸命作ってくれて。



(渡辺志保)なるほど。そうか。そういう時代ですよね。それが94、5、6年ぐらいの流れだったかと思うんですけども。94年に1回、2パックは撃たれていて、その後に嫌なことが重なるっていう感じなんだけど、ファンの女性に騙されたのかどうなのかはわからないですけど、レイプ容疑をかけられて。無理やりセックスを強要されたというのを女の子に訴えられて。それで実刑判決を受けてしまうんですよね。最長4年半の刑を受けて服役することになるんですけども。で、またすごくアメリカのヒップホップっぽいなと思うんですが、その服役中に出たアルバムが彼の3枚目の『Me Against the World』っていうアルバムでして。

結構これを2パックの生涯ベストアルバムと評している人もすごく多いし。ローリングストーン誌かどこかでも、2パックの数あるアルバムの中でもこれがいちばんリリシストである2パックを映し出しているという風に言われていまして。振り返って聞くと、やっぱりこのアルバムがいちばんヒリヒリした生々しさというか。当時、彼も私生活が荒み始めたとか、あとは社会に対する怒り、自分のフラストレーションとか、ちょっとパラノイアックなところもあるし。生々しい表現がかなり多いのがこの『Me Against the World』かなと思います。

で、やっぱりゾッとするという言い方が正しいかわからないですけど、死を意識しているような表現っていうのがすごく多くて。『Me Against the World』だけじゃないんですけども、特にこのアルバムに関しては『If I Die 2 Nite』っていう曲が入っていたり、『Death Around the Corner』って……「死がもうすぐそこまで迫っている」とかね、そういう曲なんかもありますので。やっぱり、自分の未来を予言していたとまでは言わないですけども、やっぱりアメリカで当時……いまも変わらないのかもしれないですけど、アフリカン・アメリカンの青年として生きていくということはどれだけ死が身近なのかっていうところは、彼の楽曲を聞いてさらに考えさせられることではあるなと思いました。

なのでこの彼の生涯ベストアルバムとも評されるような『Me Against the World』から1曲、聞いていただきたいんですけども。さっきもタイトルを言いましたが『If I Die 2 Nite』を聞いていただきたいと思います。

2PAC『If I Die 2 Nite』



(渡辺志保)はい。いま聞いていただきたいておりますのは2パックのサード・アルバム『Me Against the World』から『If I Die 2 Nite』でした。でも22、3の若者がさ、「俺、今夜死んだらどうしよう」とか。さっき聞いていただいた、最初に引用しているのもシェイクスピアの一文なんだけど。「臆病者は何度でも死ぬけど、勇者は一度しか死なない」とか。本当に……こういうことを言うとジョー・バドゥンみたいになっちゃうけどさ、本当にみんな、ラップするトピックはいっぱいあるよ!っていうのはね、言いたくなる気もするけど。でもね、『Gucci Gang』でもいいんだよっていうっていう感じで(笑)。ヒップホップシーンは楽しいなっていう感じでお送りしたいと思うんですけども。



まあそんな感じで2パックがニューヨークの刑務所に入ってしまうわけです。映画でも1個軸になって描かれているんですが、この服役中にあるジャーナリストのインタビューを2パックが受けるんですよ。それって雑誌で『VIBE』っていうのがありますけど、その『VIBE』のインタビューを獄中から受けたというのが本当にリアルにあったストーリーなんですね。そこでいろいろと話を聞き出して、それが映画の軸にもなっていくんだけども。なので、服役中にいろんなムショの中のあれこれを見たり。かつ、自分のディープなことを語るインタビューを受けたりというところで、2パックはたぶんラッパーとしても、1人の青年としても次の段階に進んでいった時期なんじゃないかと思うんですけども。

ただ、4年半も服役してられないっていうことで、ここで救いの手を差し伸べたのがあのシュグ・ナイト。ザ・ノトーリアス・シュグ・ナイトっていう感じがしますが、当時シュグ・ナイトはデス・ロウ・レコードを立ち上げて、ドクター・ドレーを引き入れてバンバンとヒットアルバムを出していました。スヌープ・ドッグも傘下に入れて、みんなでギャング・バングじゃないけど。もう、金ならいくらでもあるぜ!っていう感じのところだったんですが。そのシュグ・ナイトと、いまドクター・ドレーと一緒にビーツ、ひいてはアップルの重役にもなっておりますジミー・アイヴォンが手を組んで、多額の2パックの保釈金を払ってあげたんですよ。

で、アメリカは……日本もそうか。保釈金さえ払えば、出れるんですよね。それがまたすごいところだけど。で、シュグ・ナイトがパーンと金を払って2パックを刑務所から出した。でも、タダで出させたわけじゃないですからね。「こんだけ払ってんだからお前、わかってんだろうな? 俺のところでアルバム作れよ」っていう。それが(アルバム)3枚の契約だったんですよ。なので、出所とともにデス・ロウに所属し、かつ「アルバム3枚を出します」という契約書にサインをしたというのが2パックのラッパーとしての次のフェイズなんですけど。

これがね、やっぱりシュグ・ナイトさんが絡むとあれやこれや、おだやかじゃないですから。映画の中でもさ、ヤナタケさんもご覧になったかと思うんですけど。2パックといろんなラッパーたちがシュグ・ナイトと一緒にすげー高そうなレストランでディナーするシーンがあって。そこでシュグ・ナイトがいきなり手下をシメるんすよね。「お前みたいな強欲なやつは、おい! ステーキもエビも食えや!」みたいな感じで口の中にギュウギュウに、高級ステーキとかバッシャーッて手で鷲掴みにして詰め込む、すげーリンチなシーンがあって「怖え!」みたいな。

で、同じようなシーンを描いているといえば、『ストレイト・アウタ・コンプトン』でもやっぱりいきなり男性を丸裸にしてリンチにするみたいなシーンもあったし。やっぱりどこに行ってもシュグ・ナイトは怖えなっていうのが感想なんですけども。実際に怖い人なんですけどね。で、そんな感じで出所した2パック、『Me Against the World』を出した直後の2パックはデス・ロウ傘下で新しいアルバムを作る。そこでリリースしたのがかの『All Eyez on Me』という、ヒップホップシーンにおいて史上初の2枚組アルバム。

で、このアルバムのタイトルがそのまま今回、日本でも公開される伝記的映画のタイトルにもなっているということで。本当に2パックにとっても、これで彼のキャリアが終わってしまったことはもちろんたしかではあるんですけど、本当にリマーカブルなアルバムだったということですよね。ちなみに、『All Eyez on Me』は2枚組アルバムだから、もともとの契約の内容の「アルバムを3枚出す」っていううちの2枚はこれでクリアしているんですよ。で、あともう1枚は、その直後にこれはもう2パックの死後になってしまうんですけども、マキャベリという変名を使って出したアルバムがあって。

まあ、2パックが死ぬ前にはもうマキャベリ名義のアルバムもできていたから、映画の中でも描かれているんだけど、2パックがシュグ・ナイトに向かって、「これでアルバム3枚はコンプリート下から、俺はもうここから独立してもいいよね?」みたいなシーンもあるんですけど。それにシュグ・ナイトがどう応えたか?っていうのは映画を見て、みなさんもその目で確認をしていただきたいところなんですけども。まあシュグ・ナイトはさすがの策士。ただでは手放さんぞという感じがするんですけども。

まあ、そんな感じで名作『All Eyez on Me』を完成させました。で、『All Eyez on Me』はそういうヴァイブスで作っている作品だから、やっぱり前3作とはモードが違うんですよ。もう完全にバチバチのハスラーモードでレコーディングしているんですよ。で、実際にダズ・デリンジャーとスヌープ・ドッグが「こんな感じで本当にレコーディングしてんのかな?」って思うんだけど、まあバッチリ一緒にレコーディングして、そこに2パックもバースを入れに行く。で、もちろん隣にはシュグ・ナイトがいる、みたいなシーンもあるんですけど。もうアルバムの1曲目からしてバチバチのハスラーモードだから私、この間ちょっとMARIAちゃんともこの映画をトピックにしたトークショーをやらせてもらったんですけど。私、はじめて買ったヒップホップアルバムがこの『All Eyez on Me』なんですよ。

(DJ YANATAKE)おおっ、あの引き出しに隠していた?

(渡辺志保)そうです、そうです。97年ぐらいにブックオフで買ったんだけど、なんせこれ、ジャケットも黒バックでさ、2パックがさ……。

(DJ YANATAKE)「ザ・デス・ロウ」みたいなね。

(渡辺志保)腕のタトゥーをバチコーン!って見せて。「はぁ?」みたいな顔でジャケットに写っていて。「なんて怖いCDなんだろう!」って思って買ってみたら、もう1曲目のイントロからして怖い! みたいな。で、前にAwichちゃんにインタビューさせてもらった時、Awichちゃんもこれが人生ではじめて出会ったヒップホップアルバムらしいんですよ。で、「1曲目のあの『Ambitionz Az A Ridah』のイントロの『ターン、タン、タン、タン♪』がヤバかったすよねー!」みたいな話をしたので。私も沸いた。で、勝手にネームドロップしちゃったけども、Awichちゃんも沸いた。それでヒップホップ魂に火をつけられてしまったその1曲を今日、みなさんに聞いていただきたいと思います。というわけで2パックのアルバム『All Eyez on Me』から『Ambitionz Az A Ridah』。

2PAC『Ambitionz Az A Ridah』



(渡辺志保)はい。いまお聞きいただいておりますのは2パックのアルバム『All Eyez on Me』から『Ambitionz Az A Ridah』。悪そう! 怖そう! みたいな(笑)。

(DJ YANATAKE)これ、あとレコード屋的にはさ、2CDだったでしょう? アナログは4枚組だからさ!

(渡辺志保)うわっ、重い!

(DJ YANATAKE)しかも、高い! 値段が高い。でもやっぱりこれをグワーッと買いに来た人はもう「出た―っ!」みたいな感じで買いにきていたのを覚えていますよ。

(渡辺志保)当時もね。なるほど、なるほど。というわけで、この『All Eyez on Me』は個人的にもすごい思い入れのあるアルバムだし、全曲大好きですというアルバムなんだけども。でもやっぱり、改めてこの映画の『オール・アイズ・オン・ミー』を見ると、たとえばここでシュグ・ナイトの保釈金を蹴ってデス・ロウに入らなければ2パックはどうなっていたんだろう? とかね、いろいろとやっぱり考えてしまうことが多いですね。

なので、誰もが知っているけど、この後に2パックはほどなくして何者かに撃たれて命を落としてしまうんですけども。果たして本当にその死が持つ意味というか、2パックの運命って改めて何だったんだろう?って映画を見てすごい考えさせられましたし。冒頭でも話しましたけど、ブラックパンサーにいたアフェニ・シャクールの描写なんかもあると、やっぱり彼がどれだけ使命感を持って、ラッパーになるべくしてなったラッパーなのかっていうのもすごく感じるところではありましたので。私とかヤナタケさんとかの世代……言っておくけど、私とヤナタケは別世代ですよ?

(DJ YANATAKE)フハハハハッ!

(渡辺志保)そういう世代の方にも見てほしいけど、やっぱりたとえば2パックに関してあまり知らないとか、名前は知ってるけど曲はわからないみたいな、そういう若い世代の方により見ていただきたい作品かなと思いますので。12月29日から全国で公開されるので、ぜひぜひみなさん劇場で『オール・アイズ・オン・ミー』をご覧になってもらいたいなと思います。

(DJ YANATAKE)まだまだしゃべり足りないと思いますけども(笑)。

(渡辺志保)本当にしゃべり足りないっすね。ヤバいっすね。もっと上手いことやればよかった(笑)。

(DJ YANATAKE)でも、やっぱりヒップホップの映画って結構やるようになったけど。1年に2本ぐらいやるじゃないですか。これ、本当に見た方がよくて。たとえば、名前だけ知っているとか、1、2曲だけ知っているぐらいの人でも興味があるっていう。映画になるのはみんな、有名な人だったりするし。で、1回見ると、アルバムを聞いて解説を読んでも、さらに深く行く分にはいいんだけど、ライトに見てみると、たった2時間とか2時間半ぐらいで、だいたいのことが本当にわかるから。

(渡辺志保)ざっとね。

(DJ YANATAKE)時系列とかも含めてすごい整理できるし。『ストレイト・アウタ・コンプトン』とかをみんな見たと思うけど、それと重なる部分。ここの裏側では、こうなっていたんだとか。そういう楽しみ方もできるんだけど。映画でヒップホップを見るというのは本当におすすめです。

(渡辺志保)ねえ。本当にそう。なかなかない機会かもしれないですし、ぜひぜひ見ていただきたいなと。

<書き起こしおわり>

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