渡辺志保 ヴァージル・アブローを追悼する

渡辺志保 ヴァージル・アブローを追悼する INSIDE OUT

渡辺志保さんが2021年11月29日放送のblock.fm『INSIDE OUT』の中で亡くなったヴァージル・アブローさんを追悼。その功績について話していました。

(渡辺志保)そして、私からのオープニングトークはちょっと今朝、もうびっくりしたというか。

(DJ YANATAKE)俺、朝、志保のストーリーで知ったんですよ。うどん屋に行くために起きたら。

(渡辺志保)先週もね、INSIDE OUTで……先週はアトランタを拠点にしていらっしゃるAki Ikejiriさんをお招きしてヤング・ドルフが撃たれましたっていうことでお届けしたんですけども。その時も朝の6時半。夫と私の朝イチの会話が「志保、ヤング・ドルフが死んだ……」っていうので始まったんですけども。今朝もなんと、今日月曜日の朝、6時半に夫が起きてきて。「志保、ヴァージルが……」っていうことで。本当に信じられなくて。まあINSIDE OUTを聞いていらっしゃるような方だったら絶対にヴァージル・アブローの名前は聞いたことがあるだろうし、どんな方かもご存知だと思うんですけども。41歳で亡くなったという……私は勝手に44、5歳のイメージがなんとなくあって。41歳は若すぎだろうっていう。で、亡くなった原因としてはガンを患っていらっしゃったっていうことで。

(DJ YANATAKE)2年ぐらい、闘病生活をされていたっていう。その間もバンバン、出していて。いろんなプロジェクトをやっていたから、全然そんなの、みんな気づかなかったよね。たぶんね。

(渡辺志保)どうなんだろうね? だから、まあ約2年間、公表はしていなかったけども、ガンで闘病をされていたという発表がありましたけども。本当に本当にびっくりしたし。で、私はちょうどここ最近、なんというか、年を取った証拠かなとも思うんですけど。ここ10年ぐらいのことをすごい考えちゃっていて。というのは、この間、『LIVE.LOVE.A$AP』っていうエイサップ・ロッキーの最初のミックステープも10年の時を経てSpotifyとかの配信サービスに乗っかったということがあり。あとはトラヴィス・スコットのフェスで何人も亡くなったっていう事故の時。

あの時にもヒップホップのシーンに最初にモッシュを持ち込んだのはオッド・フューチャーたちのカルチャーだったっていう。まあ、別にそれを非難しているわけではなくて、そういうことがあったっていうポッドキャストを聞いていて。「たしかに……」って思って10年前のオッド・フューチャーのこととかエイサップ・モブのことを考えつつ。あの時、「COMME des FUCK DOWN」って書いてあるエイサップ・ロッキーがミュージックビデオでかぶっていたキャップ、みんなかぶっていたよなとか。で、やっぱりあの時から一気にヒップホップとファッションの関係性っていうのもまた一段と進化していったよなとか、すごいぼんやり考えていて。

で、やっぱりヴァージル・アブローがいないといろんなことが成立しなかったんだろうな、みたいなことを本当にぼんやり考えていたんですね。で、そんな最中の訃報ということで。まだ小さいお子さんも2人、いらっしゃって。ご遺族の方の気持ちを思うと本当に胸が痛くなるという感じがしますけども。ご冥福をお祈りします。で、ヴァージル・アブローさん、結構何度も日本にいらしていたということもあって。DJとして来日していたことも何度かありますし。あとはおそらく普通にプライベートな感じで来日されていたこともありますし。

あとは普通にお仕事でいらしていたこともありますし。で、私も非常にラッキーなんですけども、一度インタビューをさせていただいたことがあるんですよね。

(DJ YANATAKE)ああ、そうなんだ。

(渡辺志保)『Ollie Magazine』のWEB版で載っているインタビュー。今も見れるのかな? 『Ollie』のWEB用のインタビューでヴァージルにインタビューをさせてもらって。あとはなんと、渋谷の権八でヴァージルさんの隣りに座ってご飯を一緒に食べたこともあるんですよ。

(DJ YANATAKE)へー。どんな方なんですか? 普段は。

ヴァージル・アブローの印象

(渡辺志保)めちゃくちゃ優しいし……なんか「おっとり」っていう言い方が正しいかどうかはわからないけども。本当にできた方だな、みたいな。私なんか本当に今後、二度と会うかわからないような、日本のよくわからないジャーナリストみたいな感じで来ているけども、それに対してもすごく真摯に質問にも答えてくれるし。全然気取ったところがないというか、鼻高々みたいなところもないですし。一緒にご飯を食べた時も私が……まあ当時、私が仕事をしていたブロマンスレコードというフランスのレーベルっていうかチームがあって。

そこがきっかけでヴァージルさんとそういう風に何度かお会いをする機会があったんですけども。私がステッカーを何枚か持っていたんですよね。「あ、俺もほしい」みたいな感じで言ってくれてそれを何枚か渡して。ちょうど私もカーダシアンカルチャーにハマっていたから。「これ、ケンダルとカイリーにも渡してください」みたいな。「ああ、いいよ、いいよ。今度会ったらケンダルとカイリーにも渡しておくよ」みたいな感じでおっしゃってくれていたりとか。

私、2016年にカニエ・ウェストの『The Life Of Pablo』ツアーを見にわざわざシカゴまで行ったことがあるんですけども。その時に一緒に行った私が「部長」って呼んでいるすごい女性の方がいて。彼女がちょっとヴァージルさんと親交があったので。そのつながりもあって、お話をしたこともあって。シカゴに見に行った時にも会場で本当にたまたまヴァージルさんにお会いしたんですよね。ということを思い出して。まさか亡くなるとは思わなかったし。で、彼がいないと本当にストリートのカルチャーとラグジュアリーブランドのカルチャーとがここまでドラスティックに交差することは絶対に有り得なかったのでは?って思いますし。

(DJ YANATAKE)本当だよね。

(渡辺志保)でね、本当にエイサップ・ロッキーが着てすごい話題になったパイレックスから始まって、オフホワイトができたわけですけども。オフホワイトなんてめっちゃ高いしめっちゃ人気だけど、変な言い方だけど類似品もたくさんあるじゃないですか。パクリ商品みたいな。

(DJ YANATAKE)街に一時、あふれていたよね。

(渡辺志保)そうそう。なんかさ、みんな何もわからずに斜線のデザインをパクってTシャツとか作っているところとかたくさんあったし。そこまでの型っていうんですかね? テンプレートっていうんですか?

(DJ YANATAKE)そうよ。あのオフホワイトのバッテンみたいなのだけじゃなくてさ。たとえばTシャツの文字の配置の仕方だけでもさ、なんか文字の置く場所だけのセンスよ……っていうね。それを本当に作ったというかね。

(渡辺志保)そう! 本当にそうよ。ですし……あとは彼は言わずもがな、カニエ・ウェストのクリエイティブな右腕としてそのキャリアをずっと途中から支えてきたわけですけども。やっぱりあの『Yeezus』のアートワーク。透明なプラスチックのケースにCDがむき出しでポンと置いてあって、赤いラベルが貼ってあるような。ああいうアートワークとかも絶対に普通じゃ考えられないし。普通の、たとえばマーケティングのチームの方とか、レコードレーベルの方とかも「いや、こんなのは売れないから」って絶対に言うと思うんですよね。「どこにタイトルが書いてあるんですか?」みたいな。でも、ああいうことをできちゃうセンスと熱量っていうか。そこもすごいなって。

(DJ YANATAKE)でもさ、『Watch the Throne』みたいなさ、すごいゴージャスなのもできちゃうしさ。

(渡辺志保)そうですよね。あれもジバンシィのリカルド・ティッシがデザインして。その裏にはヴァージルさんがいらしたわけだけども。

(DJ YANATAKE)なんか、なんて言うんだろうな? 引き算というか。すごいできる人だよね。

(渡辺志保)ですよね。私もそれで……だからフランスのパリのブロマンスっていうチームと仕事をしていた時、そこのヴァージルさんと一緒にDJユニットを組んでいた人がいたんですよ。ディオームくんっていうんですけども。で、彼にその時に聞いたのが『Yeezus』を作る前にヴァージルがフラッとそのブロマンスのオフィスにやってきて。「みんな最近、何を聞いているの?」みたいな感じで軽くヒアリングみたいな。世間話みたいなものがあって。で、そこでキャッチしたものを実際にYeezusの中に音として盛り込んでいるんですね。たとえば、当時のそのフレンチエレクトロの騎手だったゲサフェルスタインとかブロディンスキっていうアーティストがいるんですけども。実際にそういう人たちが『Yeezus』には参加していて。だからこそ、ああいうちょっとヒップホップ一辺倒ではない、より立体的なサウンドが出来上がったというところがあると思うんですけども。そういう話を私も実際に聞くことができて。「いやー、すごいわね」って思っていたし。

(DJ YANATAKE)本当にそうですね。

(渡辺志保)そういう、ストリートをすごくすごく大事にしていらして。自分のルーツでもあるし。で、そのままルイ・ヴィトンのディレクターに就任っていうところまで行かれて。

(DJ YANATAKE)最初のランウェイでのカニエとの感動的な抱擁はね。

(渡辺志保)もう全世界が泣いたっていうハグのシーンとかもありましたしね。

ランウェイでのカニエ・ウェストとの抱擁

(DJ YANATAKE)元々、デザインの学校かなんかが一緒だったんだよね?

(渡辺志保)そうそう。それで一緒にフェンディでしたっけね? インターンに行ってらっしゃって。

(DJ YANATAKE)で、カニエも成功したし、黒人初のそういうルイ・ヴィトンのディレクター、デザイナーになって。で、それをお互いが感動してランウェイで最後、抱き合うっていうね。

(渡辺志保)そうよ。で、これはカーダシアン家のリアリティーショーでやっていたんですけども。キムは数年前、パリで強盗事件に遭って。それ以来、パリには行ってなかったんですって。怖いから。なんだけど、そんなキムが数年ぶりに、久しぶりにパリに行ったのがそのヴァージルの初めてのランウェイだったという。そこでカニエが……っていうエピソードもありますしね。

(DJ YANATAKE)本当に今、ヒップホップが巨大なマーケットにどんどんどんどんなっていますけども。やっぱりファッションとかも巻き込んでこそ、みたいな部分は本当にあると思うんですよね。そこに対するヴァージルの力よっていうね。

(渡辺志保)ねえ。だし、そのストリートのエッセンスをラグジュアリーな方向に近づけるって、まさにオオスミさんがSWAGGERで最初にやっていらっしゃったことなのかなとも思いますし。そのお二人を今年1年の、しかも最初と最後って言ったら変ですけども。1月にはオオスミさんが亡くなられて、この年末、年の瀬に入るぞっていう時にヴァージルの訃報を聞くことになるとは……って思ったので。この10年、20年ぐらいのカルチャーが本当に1回、これでピリオドなのかな、みたいなことを感じて。すごいセンチメンタルになってしまいましたね。

(DJ YANATAKE)なんかね、向こうで会ってくれたりしてね。

(渡辺志保)ねえ。またすごいものを作っていらっしゃるかもしれない。

(DJ YANATAKE)そうですね。

(渡辺志保)というわけで、ヴァージルがらみの曲で何にしようか、すごい悩んで。カニエにしようかなとも思ったんだけども。私はヴァージルっていうか、クリエイティブチームのドンダが手掛けた2チェインズのアルバムのジャケットがめっちゃ好きなんですよ。『Based on a T.R.U. Story』っていう。

(渡辺志保)チェーンが2個、並んでいてね。で、フィジカルで買うと中もすごいこだわっていて。なのでそのヴァージルと2チェインズの関係性ってすごい好きなんですよね。なので、ここでかけたいのはヴァージルさんの追悼の気持ちも込めて、昨年2020年に発表された2チェインズとスクーリィがリリースしました『Virgil Discount』という曲がありますので。そちらを皆様に聞いていただきたいなと思います。

2 Chainz & Skooly『Virgil Discount』

(渡辺志保)はい。ただいまお届けしましたのは2 Chainz & Skooly『Virgil Discount』でした。本当にヴァージルさん、たぶんこれからいくつも既に出ているけども。追悼のポッドキャストとか特集記事とかどんどんと出てくると思いますので。ちょっと私もひとつひとつ読んでいきたいと思います。(ツイートを読む)「ヴァージルの訃報、驚きました。ヴィトンのファーストコレクション、今でも鮮明に覚えています」

「天才は早死するというジンクスがまたしても成立してしまいましたね」「お若いのにとても残念です」と。そうね。本当に残念ですねっていうツイートをいただいております。まあ、逆にヴァージル亡き後、次の世代のクリエイターたちがどんな鮮やかな世界を見せてくれるのかっていうことも、期待を込めつつ……という感じがしますけども。なにはともあれ、ヴァージルさん、本当にありがとうございましたという感じですね。

<書き起こしおわり>

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