千葉商科大学専任講師で働き方評論家の常見陽平さんがTBSラジオ『久米宏ラジオなんですけど』に電話出演。久米宏さんと「働き方改革」の問題点について話していました。
(久米宏)この放送業界、ドンと残業が減ったと言われているのは本当なんですかね? 昔は徹夜自慢とか、放送局に住んでいるような、主みたいなのがいっぱい……男女を含めていっぱいいたんだけど、減っています?
(堀井美香)そうですね。若手とかADさんを先に帰して、50代とかの中間管理職が遅くまで働いているという状況になっています。いま。
(久米宏)まあ、きっかけはもちろんよくご存知の通り、電通とかNHKで痛ましい事件が起きたのがきっかけで。急に政府が「働き方改革」などと言い始めて。泥縄っていえば泥縄なんですけども。本当のところはどうなのか、専門家にお話をおうかがいしたいと思います。千葉商科大学の専任講師で働き方評論家の常見陽平さんと電話がつながっています。もしもし?
(常見陽平)どうも、こんにちは。常見でございます。
(久米宏)久米でございます。よろしくお願いします。
(常見陽平)よろしくお願いします。
(久米宏)あの、肩書は働き方評論家なんですか?
(常見陽平)そうですね。千葉商科大学というところで教員をしていて、それが正式な肩書といえば肩書なんですけども。
(久米宏)いま、ちょっとお話をしていたんですけども。電通とかNHKで事件が起きて、突然政府が言い出して。「働き方改革」なんていう言葉をひねり出して始めたようなんですけども。実際のところ、TBSでは減らしているということは事実らしいんですけどね。全国的に見て、どうなもんなんでしょうかね?
(常見陽平)まず、労働時間が減っているかどうかで言えば、減っているし。その分、残業手当も減っているんですよね。ただし、日本の労働ってもともとサービス残業がとても多いということが明らかになっていまして。今後、政府の方でも長時間労働の規制を入れるというのが来年、国会にもかけられるわけなんですけども。その労働時間を規制するということが逆にサービス残業を誘発しているという風にいま、見ていますね。
労働時間規制がサービス残業を誘発
(久米宏)一応、確認のために。「サービス残業」っていうのは残業はするんだけど、それは労働者からのサービスということで、残業をしたという風に申告をしないということですね?
(常見陽平)その通りです。要は、本当は働いているんだけど、申告をしない。あるいは、上から圧力をかけられて申告をしていないという状態ですね。
(久米宏)メールにも、「残業に入る前にタイムカードを押せと言われる会社がある」って(笑)。ひどい会社のが来ているんですよ。
(常見陽平)そもそも論で言うと、今日もリスナーの方にはたとえば飲食店でアルバイトをしている方っていると思うんですけど、仕事を始める前に、和服居酒屋なら和服に着替える。その(着替えの)時間も本当は労働時間ですからね。そういうのが、「着替えてからタイムカードを押せ」みたいな居酒屋があったりするんですけど。
(久米宏)なるほど。で、いま全国的に見ると、いまだ掛け声だけということですか?
(常見陽平)その通りで、いま非常に戸惑っているというのが率直なところで。「労働時間を減らせ」って言われたら納得せざるを得ないし、言ってみれば労働組合などにとっても労働時間を減らすというのはもともとの夢だったんですけども。だけども、突然上から言われて、一方では「仕事の量は減らすな」とも言われているわけですね。「仕事の量は減らす」とか「仕事の受け方を変える。無理な仕事を受けるのは避ける」というならいいんですけど、そうじゃなくて、「時間だけ減らせ」と言われ、しかもそれは労働者を守るためというよりも、(世間から)叩かれたくないためという風な動機から経営者が言っているというのが問題だと思いますね。
(久米宏)いまも手元にあるんですけど、法令違反した会社を厚労省が公表したんですよね。こういう、つまりこれは罰ですよね。「どうだ? 違反すると公表するぞ」と。これはつまり、罰があるから経営者はこれに載りたくないから、形だけでもそういうことはしないということで、なんとか隠しおおせようということですかね?
(常見陽平)逆にごまかすように促されたらいけないなと思いますし、結局仕事の量を減らすとか、ITを強化したりして効率化を図らずに、労働者に「早く帰れ、早く帰れ」とだけ言う会社は罪だと思いますし。その、明らかにされた社名というのもまだまだごく一部だと思うんですよね。一部の企業だけが叩かれているという印象があってですね、非常に見せしめ感がありますね。
(久米宏)で、この政府の言っている働き方改革ではもうちょっと踏み込んだ話もしていて。「非正規と正社員の格差是正」というのを挙げていて。いくつかの会社では非正規雇用を全員、正規社員に格上げするという企業も出てきてはいるんですが。この「”非正規”という言葉を一掃する」と安倍さんは言っているんですけども。
(常見陽平)そこはね、前から安倍さんは「”非正規”という言葉を一掃」っていうんだけど、言葉だけ変えてもしょうがないだろ?っていうことで。
(久米宏)アハハハハッ!
(常見陽平)結局、忙しい働き方とか不安定な働き方を変えていかないとしょうがないだろっていうことで。僕、昔、参議院会館で実際に自民党の議員に言われましたもん。「非正規雇用をなくしたい」っていうのをよくよく聞くと、「非正規雇用っていう名前をどう変えればみんな、やる気が出るだろうか?」って話で脱力したことがありましたけどね。
(久米宏)「名前を変えれば、働く気が起きるんじゃないか?」という。
(常見陽平)それはよくないですよ。でも、一時大阪府だか大阪市が「ニート、フリーター」のことを「ブレイブ」と呼ぼうという動きがあって、全く定着しなかったというのがあるんですけども。
(久米宏)たしかに安倍総理はね、「非正規という言葉を一掃する」と言っているんですよね。
(常見陽平)それでも結局、「じゃあちゃんと格差是正するんですか?」とか、逆に言うと、「いままでの正社員の値段が単に下がるだけじゃないか?」みたいな批判を産んだら良くないと思うんですよね。はい。
(久米宏)ちょっと根本的な話になりますが、日本人は働き者だとか勤勉だとか、昔から言われていたんですが……いろいろな国際指標を見ると、日本の労働生産性。これは決して高くない。かなり低いっていうことがわかって。この問題はどうなんでしょうね?
労働生産性の低さの意味
(常見陽平)そこね、久米さん。それは誤解しちゃいけなくて。労働生産性って勤勉かどうかだけの指標じゃないんですね。要するに、アウトプットとインプットの関係で、儲かることをやっていて、それを短時間で少ない人数でやっていると生産性が上がるという話で。
(久米宏)そうです。
(常見陽平)そこで、日本ってまず儲かる産業がないということなんで。「生産性が高い」とされている国って人口が少なかったりとか、あるいは金融センターがあったり、石油が取れたりということなんですよね。
(久米宏)たとえば、ノルウェーなんかを例に挙げてらっしゃいますけども。ノルウェーの1人あたりの労働生産性が高いということは原油が出るからだという。
(常見陽平)そう。石油が出るからなんですよ。石油が出る国と、掘っても温泉しか出ない国の違いなんですよ。ということなんで、ぜひね、「生産性革命」だとか言っているけども、じゃあちゃんと儲かる産業を作れっていうことなんですよね。儲かることをやらないから、結局生産性が低いわけであって。もっと言うと、労働経済学的には、生産性を上げる時には、人々に「がんばれ!」と言うよりも、儲かる産業を作るか、もうひとつはITだとかを含めて設備投資した方が正しいんですよね。
(久米宏)最近、よく例に出されるのが日本を代表する自動車メーカーと、たとえばGoogleの1人あたりの労働生産性って全く違うわけですよね。
(常見陽平)うん。それはだってGoogleは儲かることをやっていますもん。まあ、トヨタだって儲かっている会社なので。トヨタはそれでも儲かっている方なんですけども。
(久米宏)うん。いま僕、自動車会社の名前は出さなかったんですけどね(笑)。
(常見陽平)えっ、「トヨタ」って言わなかったですか? すいません。大変失礼しました。
(久米宏)まあ、いいんですけど(笑)。儲かっている方なんだけど、Googleなんかに比べると、1人あたりの労働生産性は比べ物にならないと。
(常見陽平)結局ね、そうなんですよ。あまり陰謀論とか言いたくないんですけど、儲かる産業は全部アメリカに取られているんですよ。ということで、日本に儲かる産業がないというのがそもそもの問題で。GDPが600兆円とか言っているんだけど、どうやって儲けるのか? ということをもっと政府が示してほしいですし、我々も考えるべきですね。
(久米宏)本当は政府がやるべきことはそれなんですよね。
(常見陽平)結局ね、「働き方改革」って国民に言うな!っていうことなんですよ。ということで、やっぱりそこで儲かることをやるということと……生産性革命では一部、正しいことを言っていて。「人の手間がかからなくても効率が上がるようにITに投資しましょう」っていうのは、すごく正しいし。そのための助成をするのは正しいと思うんですよね。
(久米宏)うん。まあ、ITに助成すると詐欺に引っかかったりなんかもしますからね。最近ね(笑)。
(常見陽平)ああ、いろいろとありましたね。そうですよね。
(久米宏)つまり、「国民に対して働き方改革などと言う前に、日本の経済構造そのものを変えることこそが政府の責任なんだ」と?
(常見陽平)全くその通りですよ。だって「経済構造を変える」って何年言っているんだよ?っていうことで。ずっとそこで豊かさを実感できないこの社会っておかしいと思いませんか? ということだと思うんですよ。少子化対策だってそうです。何年言っているんだよ?って。もう27年ぐらい政府は言っているんですよ。
(久米宏)言っていますね。
(常見陽平)だって、さっきちょっとうちの娘が泣いていましたけども。娘だって保育園に入れるかどうかわからないわけですよ。「保育園を無償化する」という前に、まず保育園を増やせよっていうのを市民として言いたいんですけども。ということですよね。
(久米宏)まあ、政府が言っている働き方改革っていうのは口だけっていうことなのかな?
(常見陽平)うーん……そうやって国民を手懐けて、憲法を変えたいんですよ。要するに、少しずつ。
(久米宏)あ、そこまで行きますか?(笑)。
(常見陽平)ごめんなさい。そこまで言うとあれですけども。働き方改革と言いつつ結局エールだけで……働き方改革が怖いのは、長時間労働規制というのはたしかに労働組合にとっても長年の夢なんですけど、それとセットで定額使い放題の高度プロフェッショナル制度。つまり、年収1075万円以上の一部の職種の人は労働時間にかかわらず給料が出るぞってことですとか、裁量労働制を広げようとしているんですよね。恐ろしいことにこれ、来週久米さんがゲスト出演する『Session-22』でも触れられてましたけど、自民党の公約にはいろいろと書いてあるんだけど、その高度プロフェッショナル制度だとか裁量労働制のことってほぼ書いてないんですよね。
(久米宏)ええ。
働き方改革の本丸
(常見陽平)だから本丸はそれなんじゃないか?っていうことで、人の定額使い放題の国にしようとしているんじゃないかということで。これのどこが働き方改革なのか?っていうのが非常に疑問ですよね。
(久米宏)かなり問題だということがよくわかってきました。ありがとうございました。
(常見陽平)すいません。早口ですいませんでした。Twitterでも「早口だ」という批判がありましたんで。すいません。お詫びします。
(久米宏)それは誰から批判されたんですか? 生徒からですか?
(常見陽平)いや、Twitterのタイムラインで「#kume954」で「常見さんはいいこと言っているんだけど、早口だから何を言っているかわからない」っていう方がいまして。
(久米宏)ああ、リアルタイムでありましたか(笑)。ありがとうございました。僕は全部聞き取れましたから大丈夫ですよ。
(常見陽平)どうもありがとうございます。久米さん、社会を変えていきましょうよ。
(久米宏)はい(笑)。がんばりまーす。
(常見陽平)はい。よろしくお願いいたします。すいません。
<書き起こしおわり>