吉田豪さんが2012年02月にTBSラジオ『小島慶子キラ☆キラ』の中でプロレスラー・ドン荒川さんについて話していました。
(ピエール瀧)そしてまさかの今日ですよ、山田さんにドン荒川をぶつけてくるっていう、この……(笑)。
(山田愛里)はい。
(吉田豪)まず、プロレスはご存知なんですか?
(山田愛里)なんとなくです。
(吉田豪)なんとなく。ルールもよくわかっていない?
(山田愛里)ほとんどわからないです。
(吉田豪)プロレスと格闘技の区別もつかないぐらい?
(山田愛里)すいません。つかないです。
(吉田豪)知っているレスラーはどんな感じですか?
(山田愛里)……ジャガー横田。
(ピエール瀧)フハハハハッ!
(吉田豪)そこ!?(笑)。馬場・猪木じゃないんですね。
(山田愛里)アハハハハッ!
(ピエール瀧)なるほど。ジャガー横田。いいですね。
(吉田豪)ジャガーさん、よかったです。すごいいい選手だったんですよ。「女猪木」と言われた、シャレの通じないプロレスラーで。バラエティー番組に出てもやりすぎちゃうんですよ。かならず相手をケガさせるぐらいまでやっちゃうんで。いまはバラエティー慣れしていますけど、昔は違ったんですよ。唯一知っているのがジャガー横田。そんな人が知るわけがない話を今日はしますよ。
(ピエール瀧)ああ、そうでしょうね。
(吉田豪)ドン荒川さん。荒川真さんという人がいまして。1946年生まれの65才。72年に新日本プロレスでデビューしたんですけど、実は新日本プロレスがゴールデンタイムで放送している頃の選手なんですけど、その頃にこの人の試合が流れることはなかったんですよ。
(ピエール瀧)そうですね。もうテレビ中継では見たことがない。
前座の力道山の異名
(吉田豪)「前座の力道山」って呼ばれたんですけど。前座の試合って当時、テレビで流れなかったんですよ。メインの2、3試合しか流れないんで。だから、知る人ぞ知るというか、そういう存在だったんですが……実はおかしな試合をしていたんですよ。当時の新日本プロレスってアントニオ猪木さんのもとで「ストロングスタイル」という、要は真剣勝負的なプロレスというか、そういうようなものをやっていたんですが、この人だけ例外で。1人でコミカルなプロレスをやっていたんですよ。
(山田愛里)はい。
(吉田豪)カンチョーをやったりとか、目つぶしをやるフリをしたりとか、勝手に金的打たれて痛がったりみたいな、1人で笑いを取ることをやって。猪木さんも苦々しい思いをしながらも注意できないみたいな。特例の存在で。それが受けて、実は『笑っていいとも!』とか『オレたちひょうきん族』とかでも試合をやったりとか。『タモリ倶楽部』で特集をされたりとか。西田敏行さんのドラマ『池中玄太80キロ』のレギュラーになったりとか、不思議なブレイクの仕方もした人なんですね。
(山田愛里)はい。
(吉田豪)そんな人をこの前、『BUBKA』でインタビューしてきたんです。
(ピエール瀧)はいはい。まあよく、ルチャリブレとかああいうメキシコのプロレスに行くと、前半の方でそういうちょっと面白いのをやっていたりとかして。
(吉田豪)オカマキャラの人とかね。
(ピエール瀧)そういう子供に大人気みたいなレスラーがいますけども。日本にもいたと。
(吉田豪)なおかつ、そんないちばんクソ真面目な団体に。ふざけた試合をしていると猪木さんとかそれこそ竹刀とかを持ってきてボコボコにするみたいなことをやっていた団体ですよ。当時は。そこで1人、率先してふざけていた人という(笑)。
(ピエール瀧)治外法権(笑)。
(吉田豪)で、この人がまたプロレス界で珍しい不思議な人脈の持ち主で。本人も言っているんですよ。「人脈でメシを食ってます」っていう。実は、新日本の後でこの人はSWSっていう団体に入ったんですね。それがどういうものか?っていうと、1990年にメガネスーパーがスポンサーになって旗揚げした、日本ではじめての大手企業によるプロレス団体だったんですよ。ところが、いろんなことが上手く行かないで2年後に崩壊して、プロレス業界から完全撤退。で、選手はみんな次の働き口とか探したんですが、荒川さんだけメガネスーパーに社員として残ったんですよ(笑)。
(瀧・山田)フハハハハッ!
不思議な人脈の持ち主
(吉田豪)僕、はじめて取材した時に名刺がメガネスーパーの割引券になっていて(笑)。「なんだ、この人!?」と思って。そしたら、「あの時はメガネスーパーの田中八郎社長に『辞める』って言ったのに『辞めないで。お願いします。何もしなくていい。名前だけでいいから』って言われたから、『じゃあ……』っていうことで残った」っていう。で、社員として残ったから田中社長にミスター(長嶋茂雄さん)を紹介するっていう。
(ピエール瀧)なんでミスターを知っているのか?っていうところが、まずね(笑)。
(吉田豪)いや、本当に猪木さんの絡みとかで微妙な接点があった人に平気でズカズカ入っていっちゃうんですよ。で、気に入られる技術があって。当時、新日本の選手とかが多摩川でマラソンをしているじゃないですか。で、巨人の選手が練習しているのを見ると勝手に入っていっちゃうらしいんですよ。「おお、お疲れ様! お疲れ様!」っつって勝手にそこに入っていってコーラを飲んだりとか。で、どんどん仲良くなるっていう。
(ピエール瀧)はいはいはい。極度に人懐っこい人っていうことですよね。
(吉田豪)そうです。壁がなさすぎる人っていう(笑)。で、さらに中曽根総理が総理時代から交流があったりとかで。でも、周りはみんな冗談だと思って信じてくれないから、そんな時は「じゃあいま、中曽根総理に電話するよ!」とか言って実際に電話したりとか。そういう迷惑な人でもあるという(笑)。
(山田愛里)アハハハハッ!
(吉田豪)僕にもいろんな名刺を見せながら「電話しようか?」とか言われて。「やめてください! たのむから、やめてください!」っていう(笑)。そんな荒川さんにはいろんな伝説がありまして。荒川さんのレスラーとしてのバックボーンは柔道とアマレスなんですけど、アマレスの試合でドロップキックをやって反則負けになったという記録があるんですよ。
(ピエール瀧)ドロップキック!? フハハハハッ!
(吉田豪)そうです。実戦では決まらないと言われている技をやっちゃって。試合には負けたけど、本人いわく「僕の試合の時、会場のみんながワーッと集まってきたんですよ」っていう。その時は(アマレス時代の)長州力とかジャンボ鶴田とかが試合でいた時らしいんですけども。「あいつらの試合とか、(客は)全然見ていないけど、俺の試合にはすごい人が来た」っていう(笑)。そういう人ですね。アマチュア時代からプロとしての試合ができて。それで「国際プロレスに入るか?」って言われたこともあるという。
(ピエール瀧)なるほど。
(吉田豪)で、実は猪木さんはその先輩にあたるわけですけど、プロレス入りする前に猪木さんとスパーリングをやったことがあるらしいんですよ。で、「アマレスと柔道の実績でスパーリングをやってみて、猪木さんはいかがでしたか?」って聞いたら、「うーん……疲れてたんじゃないですか?」みたいな感じで。含みのある発言を。
(ピエール瀧)うん。その言葉の裏側はじゃあ、「俺、勝っちゃったよ」みたいなこと?
(吉田豪)まあ、決められはせず、確実に……っていうことでしょうね。ただ、荒川さんが強かったのは本当らしいんですよ。プロレスの神様、カール・ゴッチが当時、新日本のコーチで……全然わかってないですよね。そういうすごい人がいるんですよ。
(ピエール瀧)カール・ゴッチっていう伝説のレスラーですね。
(山田愛里)ええ。
(吉田豪)すごい裏技とかを知っていて。たとえば、関節技の達人なんですけど、決められない時は尻の穴に指を突っ込んだりとか、ひどいことをやって相手が気を抜いた瞬間に決めるみたいなことを……。
(山田愛里)ひどい! なにそれ? ひどいですね。
(吉田豪)ひどいんですよ。そうです。そういう人がいるんですよ。ところが、その人とスパーリングをやって30分間一度も決められなかった伝説があるんですよ。
(ピエール瀧)あのカール・ゴッチと?
(吉田豪)そうです。で、そのカール・ゴッチが怒って、荒川さんの唇をガーッと引っ張って、「ファックユー!」って言ったんですけど、荒川さんはその言葉の意味がわからなくて、カール・ゴッチに同じことをやり返したっていう(笑)。
(ピエール瀧)フハハハハッ!
(吉田豪)カール・ゴッチにそんなことをやったのは荒川さんがはじめて、猪木さんにゴッチが「いい弟子を持ったな」って言ったっていうね。みたいな話をしていたら、「ファックユー」つながりで荒川さんが思い出したエピソードが、前田日明さんがまだ新人の頃に荒川さんがちょっとしたイタズラを仕掛けたという。で、前田日明さんっていうのもものすごいシャレの通じないというか、恐ろしい人で有名なんですけどね。その前田さんが新弟子の時、タイガー・ジェット・シンというものすごい凶悪なプロレスラーがいるんですよ。この人も全くシャレの通用しない恐ろしい人で。
(ピエール瀧)うん(笑)。
(吉田豪)わかりやすく言うと、アントニオ猪木が奥さんと伊勢丹前で買い物をしているところを襲って警察沙汰になったことでおなじみの人です(笑)。新宿伊勢丹前事件っていうのがあるんですけど。
(山田愛里)ええっ?
(ピエール瀧)まあ、悪役レスラーですよね。
(吉田豪)サーベル片手でね。この人に向かって、「ニコッと笑って『ファックユー』と言え」って言って。前田さんが「どういう意味ですか?」って聞いても、「『おつかれさん』っていう意味だから」って言って、それを実行したら前田さんがタイガー・ジェット・シンにめちゃくちゃに怒られたっていうね。
(山田愛里)アハハハハッ!
(吉田豪)当たり前です!っていうね(笑)。新弟子が突然そんなことを言い出したら……っていうね。まあ、すごくイタズラ好きとして有名なんですよ。この人。「新日本プロレスにはホモの伝統がある」とか嘘をついたりっていうような感じで(笑)。
(山田愛里)アハハハハッ!
新日本プロレスの伝統(嘘)
(吉田豪)で、僕がすごい好きな話があって。どういうことか?っていうと、荒川さんと藤原喜明さん(藤原組長)が仲が良くて。この2人が新日本に入門したばかりの前田さんにやっぱりまたイタズラを仕掛けて。「アントニオ猪木さんとストロング小林さん、この2人がデキてる」って……まあ、ストロング小林さんはそっちの噂がすごい根強い人で、かなりリアリティーのある話なんですけども。「新日本はそうやって体を捧げないとダメな世界だ」っていう嘘を吹き込んで。で、そうなのかと思った時にある日、前田さんが部屋に入ってくるタイミングを見計らって荒川さんが藤原さんと裸で抱き合っていたんですよ。で、「フーちゃん」「マコちゃん」とか言いながら……荒川さんの本名は「荒川真」なので。そうやっていたところに前田さんがガラッと開けて「はあっ!」って驚いたら、藤原さんが「見たな! いま見たことは、言うなよ!」って言って、前田さんが「は、はいっ!」ってダダーッて階段を下りていって。「あれは面白かったー!」とか言っていて(笑)。
(ピエール瀧)フフフ(笑)。
(吉田豪)みたいなことを日常的にやっていた人たちです。
(ピエール瀧)なるほど(笑)。
(吉田豪)当時の新日本って変なんですよ。本当に高校生の修学旅行を毎日やっていたような感じで。ほぼホテルで(お風呂の)のぞきをやっていたとか。のぞきで死にかけたとか。気がついたら崖で落ちて死にそうになったっていう……(笑)。あと、「アメリカ軍の兵士(の霊)が出るホテルがある」って言って、さんざんその噂を言った後で、ジョージ高野っていうハーフのレスラーがいるんですけど。それに軍服を着せて枕元に立たせておいたりとか(笑)。手の込んだイタズラをずっとやっていたんですよ(笑)。
(ピエール瀧)フハハハハッ!
(吉田豪)そういう団体です。
(ピエール瀧)まあ、いいですよね(笑)。
(吉田豪)ただ、そのイタズラが大変なことに発展することも多々あって。実は本人は否定していたんですが、僕は知っているのでどんどん掘り下げたのが、実は橋本真也さんという方。まあ亡くなった方ですが、長州力さんとこの2人が犬猿の仲で有名だったんですど、この2人がモメるきっかけを作ったのもこの荒川さんだったんですよ。新日本プロレスから選手が大量離脱した後に橋本さんとか荒川さんががんばっていたわけですけど。その後、大量離脱で抜けた長州さんが仲間を連れて戻ってきたんですよ。ジャパンプロレスっていう団体の仲間を連れて。
(ピエール瀧)うん。
(吉田豪)荒川さんとしては、まあ否定していたんですけど。「俺はそんなことやらない」って言っていたんですけど、聞いていくとそれが許せなかったという。「出戻りなんてダメ」という。で、そんな時に橋本さんが同じく出戻りのヒロ斉藤さんと試合をすることになって。荒川さんが橋本さんに「好きなようにやれ」と焚き付けたという。橋本さんはピュアな人だから荒川さんの指示通り好きに仕掛けて。蹴りでヒロ斉藤の指を骨折させてしまうというね。プロレスでやっちゃいけないレベルのことをやっちゃって。で、荒川さんはこうやって橋本さんに「好きなようにやれ」って言っておきながら、荒川さんはマラソンが趣味なんですけど。試合を見ないでマラソンをしていたんですよ(笑)。
(ピエール瀧)うん(笑)。
(吉田豪)そんなことを言っておきながら。で、いざ試合が終わって蝶野正洋さんが飛んできて。「荒川さん、大変です! 橋本さんがやられました!」っつったら、「誰に?」っていうね。「マサ斎藤さんと長州さんにです!」っていうね。試合を終えた橋本さんをマサ斎藤さんと長州さんが袋叩きにしていたと。それから橋本さんは長州さんのことを恨むようになったっていう。で、2人ともその怒りをリング上でプロレスとしてちゃんと消化していたんですが、荒川さん曰く「まあ、お客さんがいる前ですからね。殺し合いじゃないんだから。どれだけ『あいつを殺す!』って言っても、殺した試合はないでしょ?」って言いつつも、「橋本は『長州を殺すよ!』って言って包丁を研いでいたけどね」って(笑)。
(山田愛里)(苦笑)
(吉田豪)そうなんですよ。靴下の中にナイフを入れていた時期があるんですよ。「許せない!」って。っていうのを、「あれは面白かったなー。プロレスがいちばん平和ですよ」とか言って(笑)。ひどいっていうね(笑)。
(ピエール瀧)まあ、度が過ぎますよね。
(吉田豪)度が過ぎます(笑)。でも、橋本さんも悪いんですよ。橋本さんはそうやって荒川さんと仲が良かったから。で、長州さんを許せないモードになって。これも本当に高校生みたいなんですけども、長州さんの替え歌とかをしょっちゅう作っていたんですよね。長州さんの入場テーマ『パワーホール』。
長州力『パワーホール』
(ピエール瀧)うん。
(吉田豪)あれに合わせて「長州力~、足が短い♪ 長州力~、腕が短い♪」とか替え歌を作って走っていたりしたのがバレて長州が激怒とか(笑)。くだらないんですよ(笑)。
(ピエール瀧)まあ本当にね、中坊の部室か?っていう話ですよね。やってることはね。
(吉田豪)それを大人になっても続けていたら、それは見ていて面白いですよ。試合も面白くなりますよっていう話なんですけども。そんな若い頃の橋本選手、よく荒川さんと一緒に行動をしていたんですよね。で、荒川さん曰く、「本当に橋本にはすごくお世話になりました。どこに行くにしても彼が運転をしてくれるし。当時ね、酒を飲んでも運転してよかった時代だから」って(笑)。「いや、そんな時代はないですよ!」って言ったんですけど。「あれ? ダメだった? おかしいなー」みたいな感じで。で、荒川さんはさっきの橋本さんの時同様、焚き付けるのが上手いというか。
(ピエール瀧)うん。
(吉田豪)まあ、タチの悪いイタズラをする人で。SWSという団体の時も、元横綱の北尾選手。元双羽黒ですね。と、ジョン・テンタの試合があったんですね。
(ピエール瀧)ヤバかった試合でしょ?(笑)。
(吉田豪)すごいヤバかった試合ですよ! 伝説の、プロレスじゃあなくなった試合というか。ジョン・テンタというのも相撲出身で、琴天山という人なんですけどね。2人は全く噛み合わない試合をやって、試合後に北尾選手がジョン・テンタに突然マイクを持って「この八百長野郎! お前、八百長しかできねえじゃねえか、この野郎!」とか言ってマイクをぶん投げて控室で大暴れして、それでクビになるという。リング上で言ってはいけない発言をしたというね。事件があったっていうね。
(ピエール瀧)そうですよね。北尾が指を2本にしてこう……。
(吉田豪)「目、突くぞ!」っていう(笑)。
北尾光司VSジョン・テンタ
(ピエール瀧)あの試合ですよね?(笑)。
(吉田豪)そうです(笑)。ジョン・テンタが異常に強いんですよ。一切入ラセなくて。そしたら、全然入れないもんだから北尾さんがマイクでそういうことを言っちゃうっていう事件があったんですよね。っていうのにも実はドン荒川さんが仕掛けていたんですよ。
(ピエール瀧)なるほど。それは、どんな感じで?
(吉田豪)「試合前、北尾さんに何か言ったわけですよね?」って聞いても「なにも」って言っていたんですけど。「本当に何も言っていないんですか?」って追求したら、「『あんた、横綱だろ?』って、それだけ! あとは何も言ってない!」とか言っていて。「つまり、言ったんですよね?」って言ったら、「だから、『あんたは天下の横綱でしょう? 向こうは幕下じゃないですか。わかってるんですか、あれ?』って言ったわけ」っていうね(笑)。
(ピエール瀧)フハハハハッ! なるほど。
(吉田豪)要は、「相撲界では横綱で向こうは幕下なのに、プロレスであんた、あいつに負けていいの?……やっちゃいましょうよ!」みたいなことを言ったわけですよ(笑)。
(ピエール瀧)ですよね。「きっちり教えておかない?」みたいなことね(笑)。
(吉田豪)ダハハハハハッ! 無責任っていう(笑)。その結果、暴走しちゃったというね。まあ、こんなことはするんですけど、その一方で面倒見の良さもあるんですよね。後輩にはすごい慕われていたりもしてて。有名な話では、新日本プロレスから選手が大量離脱するという事件があった時。長州さんなど、みんな抜けちゃった時に当時、有望な若手である武藤敬司さんと橋本真也さんとも連絡が取れなくなって。「まさか、武藤と橋本も引き抜かれたか!?」って新日本内部が大騒ぎになった時、この荒川さんが2人をソープランドに連れて行って、橋本さんの童貞を喪失させていたという事件があるんですよね。
(山田愛里)(苦笑)
(吉田豪)で、ものすごい大慌てしていた人が「よかったー!」って落ち着いたというね。で、荒川さん曰く、「僕はそういう騒動があったこと、なにも知らないから。で、2人を連れて帰ったら、えらいことになっていて」って。さらに、この騒動がまた大事になったせいで、嫁にもバレたっていうね(笑)。
(ピエール瀧)なるほど。「あんた、なにやってんの!?」っていう(笑)。
(吉田豪)そう(笑)。
(ピエール瀧)「若い子連れて、なにやってんの、あんた?」って(笑)。
(吉田豪)「それを言い訳に、あんたまで行って!」っていう(笑)。そうやって歴代の選手の童貞をソープで喪失させていたというのもあって。ある若手選手をソープに連れて行って、「どんな子がいい?」って聞いたら、「年下がいい」って言ったんですけど、それは無理な話で。その若手選手は15才だったというね。まあ、船木誠勝選手のそういう事件もあったんですけど。
(ピエール瀧)へー!
(吉田豪)まあ、そんなことを言いながらも。「あれから30年近いのか。早いな。歳を取るはずですよ。もう70だもん」って言っていて。まあ、65なんですけども。まあ、しかしコンディションは異常にいいんですよ。もう肌ツヤもいいし、体もパンパンで。で、本人曰く、「プロレスを40年も50年もやっていたら体はガタガタで当たり前で。だけど、気力があればマラソンもできる」って言っていて。「この歳だとまだ誰も注目してくれないけど、80才になったらみんな注目してくれるんじゃないかと思って。80才でベンチプレス100回やる人はいないから、僕はこれだな! だから早く80才になりたい」っていう(笑)。
(ピエール瀧)「だから早く80才になりたい」ってすごいですよね(笑)。
(吉田豪)異常に元気です。橋本さんの団体ZERO1に上がっていた時も異常なコンディションの良さでしたからね。体パンパンで。まあ、「歳には勝てない」って言いながらも、「まあ私、墓も全部用意していて。死んで1年ぐらい誰にも連絡しないで、『荒川、最近見ないな』『死んだって』っていう風にしたい。1年ぐらいしたら、悲しみもなにもないから。まあ、悲しむ人もいませんけど」とか言いながら。
(ピエール瀧)うん。
(吉田豪)ただ、こんだけ元気なのに実は数年前に交通事故で、歯も入れ歯になって。障害者手帳も持っているっていうことで。全然見えないんですよ。パンパン。
(ピエール瀧)ふーん!
(吉田豪)本当に人脈もどうかしていて。最近、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』っていう本が話題になって。この話をこのコーナーでもちょっとやりましたけども。実は木村政彦の弟子でもあるんですよ。
(ピエール瀧)ああ、そうなんだ。はいはい。
(吉田豪)でも弟子って……また本人も平気で言うんですよ。「僕ね、木村先生の一番弟子だから!」って。一番弟子なわけないんですよ(笑)。どう考えてもっていう。「いやいや、一番弟子みたいなもんだから!」って言い張っているんですけど、正式な弟子でもなんでもないんですよ。木村先生は拓大で教えていたんですけど、この人は拓大生でもなんでもないですからね。要はこの調子で勝手に入っていったんですよ。「勝手に拓大を訪ねたら、みんな『押忍!』って言うから僕も『押忍!』って言って、そのまま知らん顔していたら拓大OBだと思われてだんだん仲良くなって……」っていう(笑)。
(ピエール瀧)なるほど(笑)。まあ、でもこれぞプロレスラーっていう感じはしますよね。ある意味、ど真ん中ですよね(笑)。こういう人。
(吉田豪)で、この人に影響を受けたから、橋本さんもああなっていった部分はあるんですよ。で、木村政彦の本で一番弟子の岩釣兼生さんっていう人が出てきて。その本の中ではものすごい無骨な、無頼な男で。「木村先生に『男は歯を見せて笑うな』って言われたから、一切笑わない」とか本の中に出てくるんですよ。みたいな話をしたら、荒川さんは岩釣さんと仲が良かったんですよね。「いや、そんなことないよ。あの人はひょうきんですよー! どこの歯も見せてましたよ!」って……幻想を台無しにするような話をどんどんしてくるんですよ(笑)。
(ピエール瀧)いいなー(笑)。その感じの人が当時の、それこそいま前田日明をいじるのとか、もう不可能じゃないですか(笑)。
(吉田豪)みんな恐る恐る触りますよね(笑)。
(ピエール瀧)そうでしょう? その感じのやつをみんなこういう人、先輩たちがこうやっていたわけですよ。本当に。街のナンバーワンたちが道場にやってくるわけですよ。バンバン、「俺、超強えから!」みたいな。「なんだ、おっさん?」みたいなテンションで来るのを、基本こういう人たちがまずねじ伏せてから……(笑)。
(吉田豪)また、ナメられそうな人がやっちゃうわけですよ。ヘラヘラした人がやっちゃうみたいな。
(ピエール瀧)っていうので、当時の新入門生はプロレスの奥深さを感じたでしょうね。
(吉田豪)また道場の所属選手同士がよく道場で果し合いをしていたんですよ。
(山田愛里)ええっ? それ、普通だったってことですか?
(吉田豪)普通ですね。「3回やりましたよ、僕」って言ってましたね。最初は「全然やっていない」って言っていたんですけど、聞いたら「3回やって、『まいった』はしないけど、失神KOされたことはある」って言ってましたね。佐山サトルさんのハイキックで1回失神した、みたいな(笑)。「佐山さんの耳をかじった」って言ってましたよ(笑)。
(ピエール瀧)カメラが回ってないところで(笑)。
(吉田豪)回ってないところで(笑)。「もったいない! 回せ!」って話ですよ。
(ピエール瀧)フハハハハッ!
(吉田豪)そんなお話でした。プロレスはそんな怖いもんじゃないですよ。大丈夫ですよ(笑)。
<書き起こしおわり>