町山智浩『ブレードランナー2049』を語る

町山智浩『ブレードランナー2049』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で『ブレードランナー』の35年ぶりの続編、『ブレードランナー2049』を紹介していました。

(町山智浩)でも、これ以上はこの話をするなと言われてますからね(笑)。今回、告知をしてあるんで、『ブレードランナー2049』について話をしろと言われていますんで。このへんで終わりにします。

(海保知里)スカッとする映画をお願いします。

(町山智浩)はい。音楽をどうぞ!

(町山智浩)かっこいいですね! これ、『ブレードランナー』のテーマなんですけども。『ブレードランナー』っていう映画の続編が35年ぶりに今度、日本でも27日から公開されるんですね。これ、カルトムービーの中のカルトムービーと言われているんですけども。まあ、「カルトムービー」の「カルト」っていうのは宗教ですよね。だから、世間一般でみんながワーッて、「好きだ!」とかいう大ヒットっていうのとは違って、ものすごく熱烈なファンを持っているのをカルトムービーっていうんですけども。『ブレードランナー』っていうのはそういう映画なんですよ。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)で、ご覧になったことはありますか?

(山里亮太)いや、ないです。

カルトムービーの中のカルトムービー

(海保知里)山ちゃん、ないですか? 私は昔見て、たしかに「あ、これってカルトだな」っていうか。最初はわからなくて、もう1回見て、「ああっ!」と理解するという感じですね。

(町山智浩)そうなんですよ。

(海保知里)ただ、みんなが絶賛をするので。そこで見たっていう感じですね。

(町山智浩)ああ、もうすでにカルトムービーになってから知ったという感じですね。

(海保知里)リアルタイムじゃないので。そうなんですよね。ええ。

(町山智浩)はいはい。この『ブレードランナー』は1982年に公開されまして。僕、ハタチだったんですけども。当時、全世界で大コケしました。

(海保知里)そうだったんだ。

(町山智浩)全くお客さんが入らなかったんですよ。どうしてか?っていうと、やっぱり内容がわかりやすいアクション映画とかじゃないんですよね。非常に渋いハードボイルド物なんで。それとやっぱり、非常に難解な映画なんですよ。1回見ただけじゃわからないんですけど、何回も何回も何回も見ているうちに、ジワジワジワジワと染みてくる映画なんですね。で、その35年間でどんどんファンを増やしていって……という映画なんですけども。この映画はまず、なにが画期的だったか? というと、この『ブレードランナー』が出てから、映画の中における未来の都市とか未来の世界の風景っていうのが全く変っちゃったんですよ。

(海保知里)ああー。

(町山智浩)それまでの未来っていうのは2種類しかなかったんですね。ひとつはピカピカの超高層ビルが立っている輝ける未来ですね。それともうひとつは核戦争で滅んじゃっている未来ですよ。

(山里亮太)『マッドマックス』みたいな。

(町山智浩)『マッドマックス』みたいな。そう。この『ブレードランナー』はその中間なんですよ。ボロボロなんだけども、まだ都市が続いていて。でも、ピカピカじゃなくて、すごく汚いんですけど。まあ、これはわかりやすいのは、ニューヨークに行ってもそうだし、日本に行ってもそうですけど、古いビルっていちいち全部壊してないから、新宿なんかそうですけど、古い汚いビルと新しいピカピカのビルが隣り合わせに立っているじゃないですか。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)歌舞伎町なんかね。で、古いビルの外側に新しくしようとしていっぱい飾り付けしてたり、空調の室外機がいっぱいついていたりして、ゴテゴテといろいろつけられてグチャグチャなグロテスクなものになるじゃないですか。古いビルが。

(海保知里)ええ。

(町山智浩)そういう感じ。その将来の都市というのは歌舞伎町みたいな感じだろうと。つまり、きれいに全部取り壊して建て直さなければ、ピカピカのビルばかりにはならないわけですよね。で、この『ブレードランナー』はそういう、2019年に想定されるような、このまま延長していったらこの都市はどうなるだろう?っていうので作られた都市なんですよ。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、それがほとんど歌舞伎町なんですけどね(笑)。ネオンがそこらじゅうにあって。それで、すごく大きいビジョンがありまして。ビルの一面が全部テレビになっていて、そこにコマーシャルが流れているっていう映像があるんですね。で、それはいま渋谷だと普通じゃないですか。

(山里亮太)そうですね。

(町山智浩)この映画を真似したんですよ。みんな、一生懸命。

(海保知里)そうなんだ!

物語の未来感を大きく変えた

(町山智浩)はじめて、その世界っていうのをみんな見たんですよ。僕がハタチの頃に。ああいうものを実践しようとして作ったんですよ。いまの街っていうのはみんな。渋谷とか新宿っていうのは。だから、こういうのを実際に物があってそれを真似するんじゃなくて、「未来っていうのはこうなるだろう」っていう想定で作ったものを、現実が真似していくっていう逆転現象みたいなものが起こったんですよ。『ブレードランナー』から。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)で、特に映画とか漫画、アニメは『ブレードランナー』後は全くみんな『ブレードランナー』になっちゃったんですよ。だから『AKIRA』なんかもそうですし、『攻殻機動隊』っていう漫画とアニメもそうですね。あと、『マトリックス』とか、そういったものに出てくる未来感っていうものはみんな『ブレードランナー』ではじめて作られたものを、みんなが35年間真似しているんで。いま、『ブレードランナー』以後に育った人が『ブレードランナー』を見ると、「これ、みんな知っているよ」と思うかもしれないけど、「そうじゃねえから。これが最初だから!」っていうことなんですよ。

(海保知里)うんうん。

(山里亮太)そう考えると、すごいな。

(町山智浩)「これ、アニメで見たよ」とか「日本のアニメみたいだな」っていう人がいると思うんですよね。82年の『ブレードランナー』をはじめて見ると。そうじゃなくて、これが最初だから(笑)。

(山里亮太)日本のアニメがこれを参考にしたんだ。

(町山智浩)そう。それまではなかったからねっていうことなんですよ。で、ここから出てきたんですよ。あと、これが作られたのはインターネットがない時代なんですけど、すでにインターネット的な描写があったりとか、すごく未来を先取りしているんですよね。で、それで特に80年代の後半は……昔ね、「カフェバー」っていうものがあったんですけど、ご存知ないですよね?

(海保知里)なんですか? カフェバー?

(町山智浩)カフェバーっていうのはね、うーん、すごく説明が難しいんですけど。いま、クラブとかおしゃれなお店があるじゃないですか。そこで、ダンスをしないような店なんですよ。だから、ただおしゃれなところでカクテルを飲んだりするだけの店っていうのが昔、あったんですよ。カフェバーっていうものが。で、六本木とか渋谷とか……まあ、六本木にいっぱいあって。そこに行っておしゃれな会話をするっていう文化があった時代があるんですよ。86、7、8年の頃。もう全然みんな、わからないですね。カフェバーって。

(海保知里)はい。

(町山智浩)まあいいや。カフェバーっていうのはみんな、『ブレードランナー』みたいなインテリアにしてあったんですよ。

(海保知里)そうなんだ(笑)。

(町山智浩)真似をして。で、その頃のカフェバーにはモニターがいっぱいあって。そのモニターでは、大抵『ブレードランナー』が流しっぱなしなんですよ。そのぐらい、もうおしゃれっていうか最先端のものが『ブレードランナー』だったんですね。で、それはスタイル的な問題なんですけども、ストーリーの話をしますと『ブレードランナー』っていうのは2019年の地球のロサンゼルスが舞台なんですが、ブレードランナーというのは主人公の職業のことです。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)ブレードランナーっていうのは人間狩りみたいな仕事なんですけど、人間じゃなくて人間そっくりの「レプリカント」という人造人間を見つけて処刑する仕事なんですよ。それをやっているのが、ハリソン・フォードですね。『スター・ウォーズ』のハン・ソロの。で、この頃、レプリカントという人造人間が肉体労働とか、あと売春とかをさせられているんですけども。で、彼らが自分たちの人権と自由に目覚めて、反逆を起こし始めるんです。ただ、彼らは人間と全く見た目が同じなので、見つけることがものすごく難しいんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)人間に混じっているんで。それを見つけて殺していく仕事がブレードランナーの仕事なんですよ。で、人間とレプリカントの違いは「共感性」というもので。人間は自分とは関係のない、たとえば犬とかがいじめられたりしていても、自分が辛い気持ちになったりするという共感性というものがあるんですけど、レプリカントは人造人間だからそれがないっていうことになっているんですね。だから、その「かわいそう」と思う気持ちがないから、それを心理テストで、「こいつは人間だ、こいつはレプリカント」だって判定するっていうことになっているんですよ。

(山里亮太)ふんふんふん。

(町山智浩)だから、いまここにかわいそうな泣いている犬かなんかの画を見せて、「どう思いますか?」とかやったりして。それで心臓の鼓動とか脈拍とか血圧が上がったりするのをチェックするというのでしか判定ができないんですよ。

(海保知里)ふーん。

(町山智浩)で、そうやって見つけていく話なんですけども……ただ、これはすごく変な話なのは、「俺たちは人造人間だけども、俺たちの自由のために戦うぞ」っていう、すでにその段階で心があるじゃないですか。反逆する人たちは。自分の自由を求めているわけですから。だから、すでにレプリカントの中に心が芽生え始めていて、人間との差がだんだんなくなってくるっていう話なんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)レプリカントか人間かの違いは、心があるかないかだったんですけどね。で、その中でレイチェルという女性の非常に美しいレプリカントがいるんですが。彼女は自分を人間だと思わされていて、人間としての記憶を完全に植え付けられているから、「絶対に自分は人間だ」と思っているんですよ。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)で、子供の頃の記憶とかも全部プログラミングされているんですよ。で、その彼女とブレードランナー、レプリカントを狩る側が恋に落ちるという物語なんですね。だからこれ、すごく深い話なんですよ。何度も見なければわからないっていうのは、そこの部分なんですね。たとえ人工的に作られていたとしても、人間よりも心があればそれは人間じゃないのか?っていうことと、レプリカントを狩っているブレードランナーは全く心がない男なんですよ。

(海保知里)うんうん。

(山里亮太)じゃあ、逆にレプリカントなんじゃないのか?っていう。

(町山智浩)そう。だからそっちの方が本当は人間じゃないんじゃないか?っていうことになってくるんですね。心がないっていうのは、たとえば女のレプリカントを殺す時に平気で後ろから撃ったりするわけですよ。もう、人間としてどうなのか?っていう問題になってくるわけですけども、じゃあいったい人間とは何なのか? 作られているか、プログラムされているか、それもと人間から生まれてきたのかっていうことではなくて、その生き方なんじゃないのか?っていうことに踏み込んでいる話なんですね。

(海保知里)うん。

(町山智浩)で、『ブレードランナー』はすごくその点で最先端だったのは、いま現在、人工知能とかAIは心を作る段階に入っているわけですよ。それをもうすごく先取りしていたんですね。で、さっき風景とかで映画の中にある風景を現実が模倣するっていう話もあったんですけど、これなんかはレプリカントの方が人間らしくなっちゃうっていう、やっぱり現実と模倣の逆転現象が起きるという、非常に深い話なんですよ。

(海保知里)はい。

(町山智浩)で、今回、35年ぶりに続編が作られたんですけど、監督はドゥニ・ヴィルヌーヴという監督で、この人は『たまむすび』でもご紹介した『メッセージ』という映画の監督なんですね。

『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ

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(山里亮太)ああ、はいはい。

(海保知里)ばかうけのあれですよね。

(町山智浩)そうですね、はい(笑)。宇宙の彼方から過去も現在も未来もない、時間感覚が全く違う異星人が来て、それと人間が接触するという話だったんですけども。あれは非常に深い、時間とはなにか? 人生とはなにか?っていう哲学的な問題に踏み込んでいる映画だったんですね。『メッセージ』っていうのは。

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(海保知里)そうですね。ええ。

(町山智浩)だからその監督が今回、続編を引き受けているんで。やはりね、非常に深い話になっているんですよ。

(海保知里)ふーん!

(町山智浩)で、今回主人公はライアン・ゴズリング。『ラ・ラ・ランド』の彼が演じるKという名前のやはりブレードランナーなんですね。で、彼はやっぱりレプリカント狩りをやっているんですけども。この話は35年後の話になっているので、レプリカントはもうすでに心を持っているんですよ。

(海保知里)そういう設定なんだ。

(町山智浩)で、本当に人間との差がなくなっているという形になっていて。で、彼と戦うのが殺人レプリカントが出てくるんですね。それがね、ラヴという名前の女性なんですけど。美しい女性なんですが、素手でバンバンに人間を殺すんですよ。でも、彼女の名前は「ラヴ(Love)」なんですね。「愛」なんですよ。で、実は彼女はレプリカントをその時代に制作している社長を愛していて。で、彼への愛のために殺人を続けているんですね。で、これなんかもその愛というのはプログラムされているわけすよね。実際には。彼女はレプリカントだから。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)でも、プログラムされたからと言って、その愛は愛じゃないのか? とかね、そういったことをすごく考えさせるんですよ。で、またその彼女はめちゃめちゃ強いんですけど。それで、35年後で、実は前作『ブレードランナー』で最後に……まあ、これはネタバレっていうか、言わないと話が通じないんで。ハリソン・フォードとレイチェルは逃げるんですね。それで、彼らがその後どうなったか?っていう話に今回の『ブレードランナー2049』はつながっていくんですよ。

(海保知里)はー。

(町山智浩)35年後に彼らがどうなったか?っていうことなんですね。で、これは前作の『ブレードランナー』を見ている人だとね、本当に涙が止まらないシーンがあるんですよ。ものすごい泣かせるシーンがあるんで、これはぜひ、今回の『2049』を見る前に、『ブレードランナー』の一作目は絶対に見ておいてください。

(海保知里)やっぱり見ないとちょっと理解は難しい?

(町山智浩)理解じゃなくて、心の問題です。泣けるんですよ。見ていると。というね、今回すごく泣ける話になっているんですけど。詳しいことは、実は僕、『ブレードランナー』の本を出しまして。ずいぶん昔に出したんですけど、映画の公開と同時に文庫化されます。それを読んでもらうと難解な『ブレードランナー』一作目もよくわかりますので。リスナーの方、5名様にプレゼントいたします。『〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』という、新潮文庫から27日の公開と同時に出る本です。はい。

(プレゼント情報略)

(町山智浩)今回の『ブレードランナー2049』はものすごい美少女の人工知能が出てくるんですよ。それがKのガールフレンドなんですけども。これがめちゃくちゃ泣かせますんで。もうこれ以上は言えないんですが、はい(笑)。

(山里亮太)なるほど。前作を見てから今作を見るといいんだ。

(町山智浩)前作は見ないとね! すごいシーンがありますんで。「あっ!」っと驚きました。僕は。

(海保知里)『ブレードランナー2049』は10月27日公開です。町山さん、どうもありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました!

(町山智浩)はい。どもでした!

<書き起こしおわり>

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