町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカなどで大ヒットしているテレビドラマ『ウエストワールド』を紹介していました。
(町山智浩)今回も映画じゃなくてテレビ番組の話なんですけども。最近、テレビドラマがすっごく面白いんで、どうしてもテレビドラマが多くなっちゃうんです。すいません。今回紹介するのはですね、『ウエストワールド』というドラマです。これ、日本ではスターチャンネルでもうすでに放送が始まっています。で、アメリカではテレビドラマに与えられる賞でエミー賞というのがあるんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)毎年、優れたドラマに与えられる賞なんですが、たぶん今年は『ウエストワールド』だと言われています。
(海保知里)そうなんだー。
(町山智浩)ノミネートされていて大本命なんですよ。で、『ウエストワールド』の「ウエスト」っていうのは「ウエスタン」。だから、西部劇ですね。だからウエストワールドというのは「西部劇の世界」という意味なんですけども。このドラマの舞台は遊園地です。巨大な遊園地で、子供は行っちゃいけないアダルトな遊園地なんですけども。
(海保知里)大人の遊園地?
大人の遊園地・ウエストワールド
(町山智浩)あのね、どうして子供が行っちゃいけないかっていうと、このドラマ自体が子供が見れる内容ではないんですよ。
(山里亮太)えっ! 遊園地がテーマなのに?
(町山智浩)あの、大人の遊園地ですよ。『大人の遊艶地』っていうエロ雑誌も昔、ありましたが(笑)。
(山里亮太)あれですよね。「えん」の字が「艶」の方ですよね。
(町山智浩)そう。風俗雑誌ですけども。そういう世界なんですよ。
(山里亮太)そういう世界の話ですか!?
(町山智浩)そういう世界なんですよ。ここは西部劇の街が再現されている巨大な荒野がありまして。そこ全体が荒野まで含めて、遊園地なんですね。で、そこに行くとお客さんは西部劇の格好をして、西部の街に入っていくんですよ。で、そこにいる西部の人たちはみんな、「ホスト」と呼ばれる人間そっくりのロボットなんです。
(山里亮太)ふんふん。
(町山智浩)それも、機械仕掛けのロボットじゃなくて、人工筋肉とか人工皮膚、人工骨格で作られた人間そっくりのロボットなんですね。で、そこの西部のウエストワールドに行ったら、西部の街っていうのは昔、要するに警察権力とか国家権力が届かなかったんで、悪いことをしても逃げちゃえばよかったんですね。だからそこに行ったお客さんは、なんでもしたいことができるんですよ。
(山里亮太)ほう!
(町山智浩)で、『グランド・セフト・オート』っていうゲームをやったこと、あります?
(山里亮太)あります、あります。
(町山智浩)あれをやると、山ちゃんでももうひどいことをするでしょう?
(山里亮太)たしかに、本当に何も悪いことをされていないのに僕、ビルをロケットランチャーで破壊したことありますし。
(町山智浩)(笑)。なにをしてもいいんですね。あのゲームってね。
(山里亮太)そうですね。あれはもう、自由ですから。
(町山智浩)そう。物を盗んでもいいし、誘拐してもいいし、人を殺してもいいし、警官を撃ってもいいんですよ。
(山里亮太)ゲームの中で。はい。
(町山智浩)なにをしても許される世界なんですよ。
(山里亮太)ああ、このウエストワールドも?
(町山智浩)ウエストワールドも。で、それで人を撃つということをすると、そのロボットを撃つことになるんですけど。本当に血が出て、撃たれた人は苦しむんですよ。そういう、恐ろしい遊園地の話なんです。『ウエストワールド』は。
(山里亮太)なるほど。これはそういう意味での大人の遊園地。
(海保知里)遊園地!?
(町山智浩)そう。大人の遊園地なんです。もちろん、エッチなこともできます。
(山里亮太)えっ?
(町山智浩)はい。で、まあ西部が完全に再現されているわけですけども、ただひとつ違うのは、そのロボットたちが人間を撃とうとしても殺せないんですよ。
(山里亮太)あ、ロボットたちは人間を攻撃できないようになっているんですか?
(町山智浩)できないんですよ。だから、お客さんは安全なんですよ。
(山里亮太)なるほど。
ロボットたちは人間を攻撃できない
(町山智浩)銃に仕掛けがしてあるのがひとつと、基本的にロボットをプログラムする時に「人間を殺してはいけない」っていうプログラムが入っていることになっているんですよ。ロボット三原則というのがあって、まずそれを入れないと、ロボットは人を殺してしまうんで。それが入っているんですね。だから、お客さんは自由にロボットを殺して、ロボットからは安全という状態なんですよ。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)これ、もともとこの『ウエストワールド』というのは映画があったんです。
(海保知里)ああ、そうだったんですか?
(町山智浩)はい。1973年に公開された映画でマイケル・クライトンという『ジュラシック・パーク』の原作者の人が作った映画なんですよ。これ、『ジュラシック・パーク』の元なんですよ。
(山里亮太)ああっ、でも、そっか。恐竜……。
(町山智浩)そうそう。あれは恐竜をクローンで作った動物園の話でしたよね。『ジュラシック・パーク』は。それの前に、この人は『ウエストワールド』というロボット遊園地の話を映画にしていたんですよ。マイケル・クライトンは。で、その映画は主人公はそこに入ったお客さんなんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)ところがそのロボットを司るコンピューターにバグかなんかがあって故障が起きて、ロボットたちが人を殺し始めるという話が『ウエストワールド』っていう映画でした。
(山里亮太)なるほど。
(町山智浩)だから最初は「殺されないんだ。絶対に安全だ」って思ってそのロボットたちをバンバン撃っていると、ロボットの方が撃ち返してくるんですよ。人間に。で、パニックを起こすというほとんど『ジュラシック・パーク』と同じ話だったんですよ。
(山里亮太)たしかに。
(町山智浩)その『ウエストワールド』っていう映画はね。ただ、今回のこのドラマ版はそこの部分だけが同じで、全く違う……そのもともとの映画よりもはるかにすごいものになっているんですよ。まず、製作費がすごくて。これ、1シーズン10話のドラマで製作費が1億ドルだから100億円以上ですよ。
(山里亮太)ええーっ! もう映画クラスじゃないですか。
(町山智浩)いや、日本映画よりすごいですよ。日本映画は中堅映画で5億円ですからね。
(山里亮太)うわっ、何十本と撮れるんだ。
(町山智浩)そう。それで、テレビシリーズなんですよ。で、第一話だけで製作費が2500万ドルだから、25億円というとんでもないレベルなんですよ。
(山里亮太)ええっ、すげー!
(海保知里)贅沢!
(町山智浩)もう、すごい。しかもこれ、製作者がJ・J・エイブラムスっていう『スターウォーズ』とか『スタートレック』シリーズを製作している人ですね。で、監督とこの『ウエストワールド』全体の脚本を書いている人はジョナサン・ノーランという人で、この人は『ダンケルク』のクリストファー・ノーランの弟なんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)で、ずっとクリストファー・ノーランとコンビで『インターステラー』とかずっと書いていた人なんですけど、今回は独り立ちしてこの『ウエストワールド』シリーズを1人でやっています。で、これね、アメリカで放送している時はHBOっていうテレビ局で放送をしているんですね。
(海保知里)はいはい。
(町山智浩)HBOってご覧になったこと、あります?
(山里亮太)僕ね、あのロゴをなにかで見たなと思ったんですけど。なにで見たんだろう?っていう。
(海保知里)女性だと『セックス・アンド・ザ・シティ』ですごく有名になりましたね。
規制が甘いテレビ局・HBOの製作
(町山智浩)そう。その通りです。HBOはテレビ局の中で唯一、規制がすごく甘いんですよ。で、『セックス・アンド・ザ・シティ』っていうドラマはセリフの中で「フェラチオ」とか出てくるんですよね。
(海保知里)ああ、たしかに。結構ね。
(町山智浩)それがそのまま放送できるのは、HBOだからなんですよ。で、『ザ・ソプラノズ』っていうギャング物があって、お父さんがマフィアのボスで、すごく家庭とギャングの板挟みになって、子供の教師の面談に行った帰りに人を絞め殺したりしているドラマがありましたけど。ねえ。笑っていいのかなんなのか、よくわからない。あれもHBOだったんですよ。
(山里亮太)ふーん!
(町山智浩)で、そこでやっているんで、『ウエストワールド』はお客さんたちがその遊園地で好き勝手に殺しまくるのを本当にリアルに、もうグチョグチョに見せちゃうんですよ。
(海保知里)規制がないからね、どんどんやっちゃって。
(町山智浩)全くないんですよ。で、それだけじゃなくて、この撃たれたロボットたちが修理を受けるんですね。撃たれた後、ロボットって一体一体がものすごい高いですから。それこそ、億ぐらいの値段なんですね。だから、修理しなきゃいけないんですよ。で、毎回修理に出すんですけど、その修理をする時に、ロボットだから全裸にするんですよ。
(海保知里)ああ、ああ。でも、ロボットですもんね。
(町山智浩)ロボットだから。で、ロボットはひとつ、人間と違って足りないのは、羞恥心なんですよ。だから修理を受ける時に全裸になるんですね。これ、丸出しなんですよ。
(海保知里)あら、また。
(町山智浩)まあ、女の人は立っていても、別におっぱいぐらい見えるぐらいですけど、男の人の場合はチンチンが丸出しなんです。みんな。
(山里亮太)これ、映っちゃっているパターンですか? また。
(町山智浩)そう。人っていうかロボットなんですけどね。
(山里亮太)ああ、そうか。ロボットだから。
(町山智浩)そう。ロボットだからね。だからこれもすごいんですけど。これ、日本でどうなっているか、わからないですけど(笑)。
(海保知里)いや、日本はまたモザイクですよ。
(山里亮太)なんでがっかりしてんの?(笑)。
(町山智浩)モザイクですよね。やっぱりね。まあ、ロボットだからいいんじゃないかと思いますけど。あと、これね、ドラマシリーズなんですけど、キャスティングが完全に映画以上なんですよ。
(山里亮太)えっ?
(町山智浩)これ、まずね、ロボットを作った科学者がフォード博士っていうんですけど。この人、アンソニー・ホプキンスがやっています。
(海保知里)すっごい重鎮が来ましたね。
(町山智浩)そう。『羊たちの沈黙』のレクター博士の。アカデミー賞をとったアンソニー・ホプキンスがいきなりロボット博士で出てきて。で、ヒロインはこれね、エヴァン・レイチェル・ウッドという非常に美しい女優さんなんですけども。この人もロボット役なんで、毎回裸になっていますよ。
#Westworld | "Como mujer a veces sentis que tus alas se recortan en ser representada y con Dolores pude volar", dijo Evan Rachel Wood. pic.twitter.com/9nMKJBtCdc
— OtrosCines/TV (@OtrosCinesTV) 2017年7月22日
(山里・海保)ええーっ!
(町山智浩)はい。
(海保知里)お写真見ても、おきれいですよ。
(町山智浩)だからこれ、すごいなと思ってね。この人ね、すごく清楚な美人なんですけど、私生活ではマリリン・マンソンと結婚したりしていて、結構ワイルドな人なんですよ。でも、見た目はお嬢さんなんで、すごく面白いんですよ。っていうのはこの『ウエストワールド』で彼女が演じるのは農家の、開拓農民の娘さんの役なんですね。で、最初はアメリカの開拓農民だからキリスト教で非常に厳格で真面目で純粋無垢の少女として登場するんですね。ドロレスというヒロインなんですけども。ところがこのウエストワールドの中で何度も何度も殺されたり犯されたりし続けるんですよ。
(海保知里)ええーっ?
(町山智浩)やられてもやられても、修理して次の出番に出されるんですね。で、そのうちに彼女は「これはおかしい」ってことに気づいていくんですよ。ロボットたちは自分たちがロボットだとは思っていないんですよ。ウエストワールドのロボットたちは。それだとリアルじゃないじゃないですか。お客さんにとって。彼らは自分たちは西部に暮らしている普通の人間なんだと思っているんですよ。だから、反応とかがリアルなんですが、やっぱり殺されて記憶を消されて次のシナリオ通りに……これ、ゲームのキャラみたいなもんですよ。彼らは。何度も死んでも、何度も修理されて、また殺されるんですね。それをやっていくうちにそれがトラウマとなって内部に蓄積していくわけですよ。
(山里亮太)ほう。
(町山智浩)で、少しずつ過去のことが蘇ってくるんですね。で、「これはおかしい。私たちはもしかすると人間ではなくて、ゲームの駒なのかもしれない」ということにだんだん気づいてくるという話になっていて。これ、主人公は人間ではなくて、このロボットなんですよ。
(海保知里)ああ、そうなんだ。
(町山智浩)このドロレスの物語なんですよ。そこもすごいんですけど。で、これ、すごいなと思うのは、最初はだから、見ていてすごいなんでもできる……それこそ、ゾンビゲームとかもみんなそうですけども。人間の欲望が解放される世界じゃないですか。やっちゃいけないことが全部許される世界ですよね。ところが、その中で殺されていくその駒の人の気持ちってわからないでしょう? ゲームでガンガン殺していくキャラクターたちに、もし心があったらどうだろう?っていう話なんですよ。
(山里亮太)なるほどなー。
(海保知里)辛いな。うん。そうか。
(町山智浩)で、しかも彼らはAIを組み込まれていて、学習能力があるんですよ。だから、これ35年間やっているということになっているんですね。このウエストワールドは。だからその遊園地をオープンした当初よりもどんどんどんどん演技が上手くなっていっているわけですよ。キャラが立っていっているんです。彼らは。で、1人の人間としての人間性を確立していっているんですよ。ロボットたちが。だから、そしたらもうほとんど人間と変わらないわけですよね。
(山里亮太)はい。
ロボットが人間として目覚める
(町山智浩)だから彼らは人間として目覚め始めるという、非常に哲学的な展開になっているんですよ。で、これを見ていて思い出したっていうか、これすごい話だなと思うんですけど、日本の方がはるかに早いんですよ。
(山里亮太)えっ?
(町山智浩)日本ではね、1970年代のはじめに、これと同じ話をたぶん世界で最初に書いた人がいるんですよ。永井豪さんってご存知ですか?
(山里亮太)ああ、わかります。『デビルマン』。
(町山智浩)『マジンガーZ』『デビルマン』の。彼が1970年代のはじめに、少年ジャンプに書いた短い漫画で『真夜中の戦士(ミッドナイト・ソルジャー)』っていう短編があるんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)それは、ドロレスと同じように主人公がある朝目覚めると、戦場にいるんですよ。で、11人の仲間とともに敵11人と戦えといわれるんですね。で、戦わされるんですけど、そのうちに彼らが「これは我々はゲームの駒なんだ」っていうことに気がつくんですよ。
(山里亮太)うんうん。
(町山智浩)「我々は自分たちが人間だと思っているけど、実はアンドロイド(ロボット)であって、それを操って戦争をさせて楽しんでいるゲーマーがいるんだ」っていうことに気がついていくという話なんですよ。
(山里亮太)はー!
(町山智浩)でも、リアルな悲劇とかリアルな感動をゲームで求めるために、AIを組み込んであるんで。その主人公たちに。自分たちは完全に人間だと信じてるんですよ。で、仲間が殺されたら悲しむし。それ自体が、駒たちが悲しんだりするのが娯楽になっているんですよ。プレイヤーにとっての。
(山里亮太)うーん。
(町山智浩)っていう、恐ろしい話を永井豪さんが1970年代に書いているんですけどね。ところが、マイケル・クライトンっていう作家は、この人『ジュラシック・パーク』とかで非常に有名なんですけど、そういう人間的考察に非常に欠けていた人だったんですよ。だから、ゲームの的となる人たちの気持ちとかは全く考えていなかったんですけども、今回の新しい『ウエストワールド』では彼らの物語を描いていて。いったい人間とはなんなのか?っていう非常に哲学的な問いを見ている人に投げかける、深い深いドラマになっているんですよ。
(山里亮太)ふーん!
(町山智浩)で、ここに来るお客さんたちがじゃあ全員が悪いことをするのか?っていうと、そうじゃないんですね。なにをしてもいいことになっているんですよ。だから、「あなたはここで正義の保安官になることもできますよ」って言われるんですよ。
(山里亮太)はー、なるほど!
(町山智浩)「あなたはなんでもやりたい放題のならず者になることもできます。でも、そういう者を防いで、そういう者と戦う正義のガンマンになることもできます」と言われて、あるいとこ同士のお客さんがそこに来て。で、1人の方はものすごく悪いやつでバンバンに人を殺して。「こんなやつ、ロボットなんだからなにをしてもいいんだ」ってレイプして、もうさんざんやりたい放題のことをするやつがいて。ところが、そのいとこは「こういうことはいけないんだ」と言って。で、このヒロインのドロレスがひどい目にあっているんで、彼女を助けて戦おうとするんですよ。
(海保知里)へー!
(町山智浩)で、人間っていうのは完全になにをしてもいい。なにをしても絶対に罰せられないし、許されるという状態になったらいったいなにをするんだろう? という、非常に、まさに哲学的な問いが投げかけられるんですよ。これ、もうだから本当に襟を正して見たくなるドラマなんですよ。
(山里亮太)たしかにそうだな。
(町山智浩)これはすごいなと思って。さらに、ドロレスはこの中でだんだん、「私はこのゲームの中の駒なんだ」っていうことに気がついて、それと戦おうとし始めるんですよ。で、最初はやられるだけの被害者であった農家の娘だったんですけど、実際に自分で銃を取って。ジーパンに穿き替えて、この悪いシステムと戦おうとするんですね。
Se que llego tarde y recien termine de ver Westworld, pero DOLORES REINA, AMA Y SENORA DE MIS CALZONES Y MI YOR pic.twitter.com/PXt6f5GV2I
— Oso de lentes (@osodelentes) 2017年7月14日
(山里亮太)へー!
(町山智浩)ところが、それに立ちふさがるのは黒ずくめの男(メン・イン・ブラック)という、これエド・ハリスという有名な俳優さんが演じている全身黒ずくめの男が出てくるんですよ。彼だけはこのゲームの中で全く完全にルールを無視してやりたい放題の男で。しかも、撃っても殺されないんですよ。
(海保知里)えっ、不死身?
(町山智浩)弾を撃って当たってもそいつは死なないんです。そのメン・イン・ブラックは。で、このエド・ハリスがもうありとあらゆる悪いことをしていくんですね。で、ドロレスを何回も何回も殺すんですよ。これはいったいなんなのか? このメン・イン・ブラックの正体はいったいなんなのか?っていうのもひとつのミステリーになっているんですけど。これが、『ウエストワールド』がアメリカで非常に大人気になっている理由というのが、やっぱりAIの問題なんですね。
(山里亮太)うん。そうですよね。
(町山智浩)結局『エクス・マキナ』っていう映画もそうでしたけども、AIは自分で自己学習をしていって、感情とかがいまはなくても、人間がプログラムしなくても、自分自身が自分自身を教育することによって、いろんなものができてくるんですよ。感情だったり、複雑な考え方とか。だからAI自体が人間に向かって成長していく形なんですね。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)だから、いったん作ってそれを人間として生かしたら、人間になっちゃうんですよ。
(海保知里)いやー、そう言われちゃうと。うん。
(町山智浩)そうなったら、その人の人権はどうなります?っていうことですよね。で、これは実はすごく先の問題じゃなくて、すぐ近くにもう迫っている問題なんですよね。だから、ホーキング博士が「AIを作ったら人類が滅ぼされるぞ」って言いましたけど。「ホーキング、大丈夫か?」って言われたんですけど。実は、AIがいったん動き出すと、それ自体が成長して進化していくんで、止められなくなるんじゃないか?っていう話があるんですよ。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)で、また怖いのが、このフォードという博士がこの『ウエストワールド』を作ったんですけども、彼が最初に進化していくプログラムを入れている可能性があるんですよ。だから、その部分がいったい彼が本当は何を……『ウエストワールド』っていうこのドラマは最初は遊園地の話なんですけど、もっと大きな人類の物語になっていくんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)これ、見ていてすごいなと思って。で、途中で、ジュリアン・ジェインズという人が書いた『神々の沈黙(意識の誕生と文明の興亡)』という本についての話が出てくるんですね。で、これは人間の右脳と左脳というのが昔は完全に分離していたために、右脳から起こるひらめきを神からの声が聞こえたと思い込んだのが神というものを発明したきっかけだったという話なんですよ。
(山里亮太)ふーん。
(町山智浩)この理論がこの、ものすごく重要なこととして、『ウエストワールド』に出てくるんですよ。だから、本当にデレーッと見ていてももったいないのが『ウエストワールド』なんですよ。で、彼らロボットは苦しむことによって人間よりも人間になろうとしていて。じゃあ、我々人間は本当に自分が人間なのか、なんのために生きてきたのかっていうことを考えていない我々は、本当に人間と言えるのか? というドラマなんですね。自分が生きてきた目的というものを考えているロボットの方が正しい人間なんじゃないか? その自覚がない人間は果たして人間なのか? こんなすごいドラマ、ないですよ。おそらく。
(山里亮太)考えさせられるな。
(海保知里)それはね、エミー賞をこれで取るかもしれないっていうのはね。
(町山智浩)でもね、ドンパチもおっぱいもありますから! そっちもしっかりありますから! チンチンもあります。はい。たくさんあります!
(海保知里)『ウエストワールド』はね、日本ではスターチャンネルで独占放送中。オンデマンドでも順次配信されるということで。町山さん、もっと聞きたいところなんですけども。テレビドラマ『ウエストワールド』についてお話をうかがいました。どうもありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)はい。どうもでした。
<書き起こしおわり>