町山智浩 トランプ大統領就任式 現地取材を語る

町山智浩 トランプ大統領就任式 現地取材を語る 荻上チキSession22

町山智浩さんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』にゲスト出演。ご自身が実際に現地で取材をしたドナルド・トランプ大統領就任式典の模様を話していました。

(荻上チキ)まず町山さん、今回はどういった取材をしたんでしょうか?

(町山智浩)就任式の周りで行われている、普通のマスコミさんが行かないところを全部回ろうと思いまして……まず最初に行ったのは就任式の最中にマリファナタバコ8400本を無料で配布しようとしている団体のところに行きました。

(荻上チキ)ほう! その団体は何の団体なんですか?

(町山智浩)マリファナを自家栽培している人たちなんですけども。今回、トランプの閣僚(司法長官)に指名されているジェフ・セッションズさんが反マリファナなんですよ。だからアメリカはいま、マリファナ解禁に向っているんですけど、また戻るのかもしれないということで、それに対する抗議運動ということで。8400本をみんなで巻いていました。

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(荻上チキ)みんなで巻いていた?

(町山智浩)すごい勢いで巻いていて。僕も手伝いましたけども(笑)。

(荻上チキ)手伝ったんですか?(笑)。

(町山智浩)僕が巻いた分も配られていると思いますが。それをね、ちょうどトランプが就任演説をする時にワシントンで撒こうということやっているグループのところに行ったり、あとはオルト・ライト(Alt-Right・オルタナ右翼)ですね。ヒラリー候補を攻撃するための嘘ニュースを流していたりした人たち。いわゆるトランプのネットゲリラ部隊の人たちがトランプ大統領の祝賀会をやっていまして。

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(荻上チキ)うん。

(町山智浩)そこに行ったら、そこを黒ずくめの軍団が襲いまして……

(前嶋和弘)「A」の人たちですか?

(町山智浩)アナーキストです。その人たちが襲いまして。彼らはね、すごいんですよ。一撃離脱なんですよ。ウワーッ!って物を投げたり、ウワーッ!って火をつけたりして、サッと逃げるんですよ。僕はそれを撮影しようとしていて。僕もカメラを持っていたんで。やっぱりボケてましたね。警察の催涙ガスを喰らいました(笑)。

(荻上チキ)そうですか。前嶋さん、その団体はどういった団体なんですか?

(前嶋和弘)どう言えばいいですかね? アナーキストですので、要するに騒いで火を付けてっていう……今回、いろいろ日本でも中継がありましたけど、そこばかり大きくなっちゃいましたよね。要するに、何でも反対する人たちですよね。私、町山さんがどう思うかわからないですけど、たぶんあれ、ヒラリーさんが勝っても同じようなことをしたと思うんですよね。

(町山智浩)そうです。大統領選が始まる前から……「No Matter」だから「どっちが勝っても我々にとっては負けなんだ。いまの現行政府のあり方自体、投票という代表民主制そのものが我々としては許せないんだ!」ということで、どっちが勝っても就任式を潰しに行こうっていうのはずっと彼らはキャンペーンしていたんですよ。だから、報道ではほら、「反トランプ派」とかいう形で日本で報道されていたと思うんですけど、別にヒラリーが当選しても同じことをやったと思います。

(荻上チキ)はあ、なるほど。そうしたような喧騒もあったということなんですね。

(町山智浩)そうです。あのね、警察官が巨大な水鉄砲みたいなものを持っているんですよ。タンクもあって。それがね、催涙液が入っているんです。で、それをパッと構えたら、全員慣れたものでアナーキストの人たちはバーッと散っちゃうんです。で、俺だけ立っていてブシャーッ!ってなって……

(荻上チキ)浴びると、どうなるんですか?

(町山智浩)もう咳が止まらないですよ。で、服についているとなかなか、それが揮発してずーっと咳が出続けて。だから結構大変だったんですけど。

(前嶋和弘)いわゆるペッパースプレー?

(町山智浩)ちょっと違うんですね。レモンみたいな香りがするんですよ。最初、洗剤かな? と思ったんですけど。漂白液のキツいような匂いがして。

(荻上チキ)混ぜるな危険っていう感じがしますね。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。

(荻上チキ)それ、洗っていいのかな? みたいなのも心配になりますね。

(町山智浩)ねえ。でも、銃を持っているから。ゴム銃っていうやつですね。ゴム弾を発射するやつを全部持っていたので、かなり警官の武装がすごかったですね。で、翌日、今度はトランプの就任式に行こうと思ったら、ゲートが入れないんですよ。で、4時間ぐらい並んだんですけど。どうしてか、後からわかったんですけど、僕が入ろうとしたゲートの近くのゲートが2つとも、潰されちゃったんですよ。

(荻上チキ)誰にですか?

(町山智浩)デモ隊とアナーキストに。ひとつはデモ隊。ひとつはアナーキストが車に火を付けたじゃないですか。あのへんのゲートが封鎖になっちゃったんで。

(前嶋和弘)リムジンのあれですよね?

(町山智浩)そうです。だから、ゲートの数が減っちゃったんで、1ヶ所に集中しちゃったんですよ。それで入れなくなって、4時間並んで。結局就任演説の時にはそのセキュリティーの荷物チェックの金属探知機のすぐ5メートルぐらい前で就任演説になっちゃったんですよ。

(荻上チキ)じゃあ演説はネットとかラジオとかで聞きながら並んでいたっていう感じですか?

(町山智浩)そうです。みんな、ラジオで聞いて。ただ、会場のギリギリなんで会場の中のアナウンスも聞えるんですけどね。

(荻上チキ)それぐらいの距離ではあるということですね。

(町山智浩)でも最初、すごい人なのかな? と思ったんですよ。そしたら中に入ったらそれほどでもなくて。

(荻上チキ)オバマさんの時よりは、やっぱり少なかったって報じられてましたね。

(町山智浩)オバマさんの時は史上最大ぐらいですよ。

(前嶋和弘)なんか180万とか言ってますよね。で、今回が60だか80だか。ただ、トランプさん陣営によると「史上最大」と。「オルタナティブ・ファクト」らしいですけどね。

(荻上チキ)(笑)

女性たちの反トランプ集会

(町山智浩)ただ翌日の女性たちの反トランプ集会の方は実際に人数が集まったみたいですね。あっちがものすごい数で、最初に予定したよりも数が多すぎて……最初は20万人って言ったんですけど、軽く40、50は行ったらしくて、行進ができないぐらいになっちゃったらしいです。で、世界各地で同時にあったんですけど、どこも人数が多すぎて予定通りの行動ができないぐらい。ロンドンでは解散したのかな? あまりにも多すぎるっていうことで。だから本当に、歴史上最大規模の全世界同時デモという形になったみたいですね。

(荻上チキ)抗議デモということですね。それはやっぱり、明確な半トランプのたとえば女性であったりフェミニストであったり、いろんな人が抗議しているということになるわけですね?

(町山智浩)まあ、トランプだけじゃなくて、トランプの閣僚全員ですね。が、みんな反女性、反ゲイだったり……それで、たとえば具体的には人工中絶に反対するような人たちが閣僚に入っていますんで。

(荻上チキ)うん。いろいろなデモが行われていた。抗議も行われていたということなんですけども、反対派の方と支持者の方、それぞれ双方から町山さんは話を聞いてみたいですね。

(町山智浩)はい。まあ並んでいる時も混じっていますから。だから、そこら中で小競り合いですよ。

(荻上チキ)あちこちで?

(町山智浩)そこら中。支持派と反対派が隣同士に並んでいるわけですから。だからもう、言い争いですよ。「どこから来たんだ?」「なにが気に食わないんだ?」みたいな話で、あっちこっちでやっていましたけども。

(荻上チキ)その言い争いというのも、見た目からして支持派とそうじゃない人でわかるものなんですか? 帽子をかぶっている人と、そうじゃない人みたいな?

(町山智浩)はっきりわかります。それは。

(前嶋和弘)赤い帽子の人たちと、そうじゃない人たち。

(町山智浩)はい。トランプの「Make America Great Again」って書かれた野球帽をかぶっている人はトランプ支持派で、反トランプの方はニットの赤い帽子をかぶっているんですよ。で、角のところがとがっていて、ちょっと猫みたいになるんですね。それをかぶっている人が、同じ赤い帽子かピンクの帽子なんですけども、ニット帽の方が反トランプです。

(荻上チキ)あ、たしかにニット帽の人、結構いて。なんでかな?って思ったんですけど。あれはなんでなんですか?

(町山智浩)あれはね、いろんな理由があるんですけど、僕が聞いたのは「プッシー・ハット」というんですけど。トランプが、テープを録られちゃってね。「私はこんな金持ちで偉いから……」。

(荻上チキ)あっ、そこから先は言わなくていいです!

(町山智浩)「……女の人のおまんたを触ってもOKなんだ」って言ったんで、そのおまんた帽をかぶっているという感じなんですね。

(荻上チキ)「大丈夫」って言ったのにな……。で、それを意味するような抗議のっていうことなんですね。

(町山智浩)はい。「プッシー」っていうのは「猫ちゃん」っていう意味もあるんで。かぶるとほら、猫みたいになるから。おまんたと同時に子猫も表現するという感じです。

(荻上チキ)訳さなくていいですよ。はい、わかりました(笑)。

(神保哲生)あの(トランプの)赤い帽子が中国製だったということもまた……

(町山智浩)ああ、トランプの帽子が。

(神保哲生)あれだけ「アメリカのものしか買わない!」って言っていたトランプのシンボルの帽子が中国製だったっていうのがまたニュースになるということでしたね。

(荻上チキ)その小競り合いの中で気になるやり取りとかフレーズとか、飛び交ってました?

(町山智浩)すごく気になったのは、殴り合いにもなっていたんですけども。

(荻上チキ)殴り合いにも?

(町山智浩)殴り合いもありました。警官がバッと止めに入るんですけど。すごくよかったと思うのは、そこにロバートさんという日本語ができる学校の先生がシアトルから来ていたんですよ。で、日本語で日本の人に向ってちゃんとしゃべってくれたんですけども。「何人ものトランプ支持者と私はここで初めて会話した。この人たちはみんな、一生に一度も会わなかったはずの人だ。だから、クリーブランドに住んでいるブルーカラーの人とシアトルに住んでいるコーヒー屋さんの人は一生に一度も普通だったら会わない。それが、互いの利害が全く違うところでトランプを支持したりしなかったりするので、アメリカはこういう事態になってしまった。ここで初めてみんな会えて、互いの辛いことなどを話し合ったんだ。たしかにクリーブランドの人とかデトロイトの人は仕事がなくなっている。でも、その仕事がなくなっている状況というのはシアトルとかサンフランシスコに住んでいる人はわからないだろう。それが初めてここで会って、初めて同じアメリカ人なのに絶対に一生会わない人たちだったのに会えたっていうことは、この就任式は素晴らしいことだ」という風に言っていましたね。

(荻上チキ)おおーっ!

(前嶋和弘)なんと前向きな。

(荻上チキ)なるほど。ある種の膿を出す作業なんだ、みたいな感覚で受け取っているということですね。でも、本当に様々な方が現場でコミュニケーションをする機会になっているということですけども。コンサートも取材をされたわけですか?

大統領就任記念コンサート

(町山智浩)はい。コンサートも行きました。前夜祭がありました。

(荻上チキ)コンサートはかなり、誰が歌うのか?っていうので結構モメていたみたいですね。

(町山智浩)片っ端からトランプは断られているんですよ(笑)。エルトン・ジョンとか、いろんな人に。

(荻上チキ)エルトン・ジョン、受けないだろうっていうのはわかりそうなものなんですけどね。

(町山智浩)同性婚している人ですからね。同性婚に反対している人が副大統領と司法長官ですから。まあ、出るわけないですよね。

(荻上チキ)ないですよね。

(町山智浩)で、結局トビー・キースという人とリー・グリーンウッドっていう愛国歌ばっかり歌っているカントリー歌手2人が……『Proud to be an American(アメリカ人であることは誇りだ)』とか、「うちの親父は戦争に行って片目を失った立派な兵士だ」とかそういう愛国歌ばっかり歌っているというね。昔の軍歌酒場みたいな感じでしたね。

(荻上チキ)はあ、はあ。

(町山智浩)ひとつだけオルタナティブ系のバンドで3 Doors Downっていうバンドが出ていたんですけど、彼らはパンクっぽい音楽をやっているんですけど、出身がミシシッピとアラバマなんですよ。南部のいちばん人種差別がひどいところから出てきていて、やっぱりトランプ支持の人たちなんですね。だからそういうすごくゴリゴリの愛国歌ばっかり歌っていて。しかも、お客さんも白人しかいないっていう状態でしたね。

(荻上チキ)ええ、ええ。SNSとかネットの反応はどうでした? 

(町山智浩)「ネットの反応」って何が?

(荻上チキ)トランプのコンサートとか、あるいは就任式とか……

(町山智浩)トランプのコンサートはね、若い子たちが来ていて。で、踊っているんですよ。「えっ、トランプ、好きなの?」って思って聞いたら、「ええー、別にぃー」って言うんですよ。「なんで踊ってるの?」って聞いたら、「私たちは3年、4年前から就任式のために積み立てをしてきたんだ」って。高校生なんですよ。高校生とか結構来ていて。「就任式を楽しみにしていて、ずっと何年も積み立てをしていたら、大統領選がトランプさんになっちゃった。それはいいんだけど、このコンサートがダサくて死にそう!」って言ってました(笑)。

(荻上チキ)(笑)

(町山智浩)だから演歌ばっかりみたいな。北島三郎さんとかそういう人ばっかりが出てきている感じなんですよ。細川たかしさんとか。

(荻上チキ)毎回、就任式と言ったら旬な人とか……

(町山智浩)そうそう。オバマさんの時にはそれこそ英米の最高のロックスターが集まって。それで最高の音楽界だったじゃないですか。だからそういうものをたぶん彼女たちは期待していたんですね。そしたら……

(前嶋和弘)U2も来ないし。ブルース・スプリングスティーンも来ないしね。

(町山智浩)U2も来ないし。ブルース・スプリングスティーンも来ないし。だから紅白歌合戦の演歌タイムみたいな感じだったんで。

(荻上チキ)いやいや(笑)。演歌タイムもいいと思いますけども(笑)。

(町山智浩)「でも、しょうがない。せっかく来たんだから、踊るわ」って言って踊ってたんですよ。無理やり(笑)。

(荻上チキ)無理やり踊っていた? なんか、結構ポジティブな受け入れ方をしている人と出会いますね。町山さんは。

(町山智浩)結構ポジティブでしたよ。だから、すごく星条旗を着て踊り狂っているおじいさんがいたんですよ。で、全身服が星条旗なの。で、頭に真っ白いとんがり帽子をかぶっているんですよ。最初、七福神の福禄寿かと思ったんですよ。そしたら、「これは帽子なんだ」って言われて。「なんですか、その帽子は?」って言ったら、「これはコソボの帽子だ。私はコソボ人だ。1968年にコソボから逃げてきたんだ。アメリカが強くて共産主義を潰してくれると思ったから、憎い奴らを全部潰してくれると思ったからアメリカを応援している。毎日、私は星条旗を振っていることでコネチカットでは私を知らない者はいない!」っていうことで、パッとネットを調べたら本当に「Flag man」としてそのジギーさんというおじいさんはコネチカットではものすごい有名人でした。

(荻上チキ)おおーっ!

(町山智浩)で、「トランプをなんで応援しているんですか?」って聞いたら、「トランプは強いから、悪いやつら、独裁者と戦ってくれるんだ! 私の国コソボを守ってくれるんだ!」って言うから、「トランプはプーチンと仲がいいんですよ」って言ったら、「そんなバカな! プーチンはKGBだ! あんな独裁者とトランプが仲がいいはずはない! 私の国コソボはどうなるんだ!?」って言ってましたから。

(荻上チキ)そこで初めて?

(町山智浩)「マスコミが作っているんだ!」って言ってましたね。「フェイクニュースだ!」って言ってましたね。

(荻上チキ)ああー、いろんな方がいるんですね。

(町山智浩)でも、ラストベルト……オハイオとかミシガンとかペンシルバニアに住んでいるトランプを支持した人の多くが東ヨーロッパ出身なんですよ。ポーランド、チェコ、ハンガリー出身の人たちで、反共なんですよ。そういう人たちにとっては強いアメリカっていうのはすごく大事なんですよね。ただトランプがロシアとツルんでしまうと、ポーランドであるとか、ヨーロッパと(ロシアに)挟まれている国。バルト三国とか、ルーマニアの人たちとかみんな、ものすごい不安になると思うんですけど、彼らがトランプに投票したんですよ。まさかそんなことになるとは思わなかったから。

(荻上チキ)はいはい。しかもでも、トランプさんは移民も消極的なスタンスで。特にムスリムが中心ではあるわけですけど。まあメキシコとかも含めて不法移民が不当に雇用を奪っているみたいなことを言ったりするので、そうした意味では立場がちょっと危うくなる……

(町山智浩)いや、移民3世の人たちはいま現在の移民に対して、ものすごく厳しいんです。

(荻上チキ)ああー、移民3世ほど。

ラストベルトの移民3世たち

(町山智浩)移民3世の人たち、おじいさんの世代が移民してきた人たちは、全部自国の言葉を捨てて、英語に変えていったんですよ。自分たちの文化もほとんど捨てて。その(コソボの)変な帽子以外はほとんど捨てて、アメリカに同化していったんですよ。だから、オルト右翼のリーダーの1人であるマイク・セルノビッチっていう人がいて、その人は「ヒラリーはパーキンソン病だ」という嘘ニュースを流した男なんですよ。マイク・セルノビッチっていうのは名前から、ロシア系ですよ。そういうロシア系とかチェコ系の3世とかが不法移民のメキシコ系とかムスリムの人たちに対してものすごく厳しくて排斥的です。「自分たちは苦労してアメリカ人になったんだから、どうしてお前らは完全にアメリカ人になろうとしないんだ?」っていうことですね。

(荻上チキ)なるほど。町山さんの話を聞くと、その人たちなりの合理性というものがあって。まあ、体系立てられているんだなとわかる一方で、たとえばさっきのそのフラッグマン。星条旗をずっと持っているおじいさんみたいに別の情報を与えると認知的不協和というか。「いや、そんなはずはない」っていうことでガラガラと崩れるという。だから、なぜその支持と感情がトランプというところで結びついてしまうのか?っていう余地は、説明されて一旦は腑に落ちるんだけど、それじゃなくてもよかったんじゃないの? とも思いますよね。

(町山智浩)だからもっといい、まともな人でラストベルトの移民3世の人たちの苦しみをわかってくれる人がいたら最高だったんですよね。でも、オバマさんは結構それに近い人だったんですよ。っていうのはオバマ大統領はそのラストベルトで圧倒的な人気で、2回とも圧勝だし、現在もその地域で支持率が50%を超えているんですよ。だから、「オバマ大統領に対する失望でトランプに行った」って言われているんですけど、失望していたらまだ支持率が高いわけはないんですよね。失望はしていないんですよ。

(荻上チキ)オバマ支持とトランプ支持が重なるという?

(町山智浩)重なっています。明らかに。ただ、ヒラリーは支持していないんですよ。ヒラリーがオバマさんを継承するとは、その地域の人たちは思っていないんですね。オバマさんは実際にシカゴを中心にしていたので、その地域の人でもあるんですよ。で、ヒラリーさんも実はシカゴ出身で、お父さんは労働者なんですよ。でも、彼女はそういうのを完全に払拭してしまったんですね。

(荻上チキ)既得権益層というようなイメージがついている感じ。

(町山智浩)イメージがついちゃって。実はあの人は、そのラストベルトの人に最も近い経歴の持ち主なんですよ。貧しかったし。お父さんはたしか軍人ですよね?

(前嶋和弘)厳しいお父さんでしたね。

(町山智浩)それで、もともと共和党なんですよ。ヒラリーのお父さんは。実は、ラストベルトの労働者そのものなんですよ。ヒラリーは。ただ、彼女は自分を変えていってしまったんです。

(前嶋和弘)途中まで、共和党支持者でしたからね。

(町山智浩)大学で卒業の答辞をする時に、「マーティン・ルーサー・キング牧師の遺志を継いで人民のために戦うんだ」という演説をして、共和党と手を切ったんですよ。ヒラリーさんは。そこで彼女は変心しちゃったんですよ。

(荻上チキ)なるほど、なるほど。そうした、いろんなボタンの掛け違いとかヒラリーさん自身の動き方を含めて問われてくるようなところがあったりしたんですね。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/41814

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