町山智浩 ウーマン村本『アイアム・ア・コメディアン』を語る

町山智浩 ウーマン村本『アイアム・ア・コメディアン』を語る こねくと

町山智浩さんが2024年6月18日放送のTBSラジオ『こねくと』でウーマンラッシュアワー村本さんに3年間、密着したドキュメンタリー映画『アイアム・ア・コメディアン』を紹介していました。

(町山智浩)それで今日、紹介する映画は日本映画なんですけども。『アイアム・ア・コメディアン』というドキュメンタリーなんですね。でもこれ、ちゃんとアメリカと絡んでるんですけども。これは吉本興業にウーマンラッシュアワーという漫才コンビがいますけど。その村本大輔くんを3年間、追っかけたドキュメンタリーです。これね、副題が『テレビから、消えた男』ってなっているんですね。

で、それはどうしてか?っていうと彼は2017年、2018年、2019年とフジテレビのスペシャル番組の『THE MANZAI』にウーマンラッシュアワーで出ていて。それがすごい大反響になるんですね。ところが、それでテレビから仕事がなくなっちゃうんですよ。

(でか美ちゃん)でも、覚えてます。当時の漫才。めちゃめちゃ面白かったし、めちゃめちゃ炎上もしてたっていうね。

(町山智浩)すごい炎上をしたんですよ。で、どうしてか?っていうと、もう本当に普通の漫才、コメディアンの人たちが扱わない問題ばっかりを村本くんは全部ギャグにしてて。まずは、原発問題ですね。彼の生まれたところには、原発がいっぱいあるんですけど。「夜になると田舎で真っ暗だから、誰も電気を使ってないんだけど……この電気、誰が使ってるんだ!?」とか言ったり。あと、沖縄の基地問題ですね。「米軍基地の70%が沖縄に集中してるんだけど、これはどうなってるんだ?」っていう話とか。あと、LGBTQの問題だと「自民党の杉田水脈議員っていう人が『LGBTQは生産性がない』って言ったけど。その生産性って何なんだ?」とか。日本のそのコメディが触らないところだけを触っていったんですよ。

(でか美ちゃん)で、7年前に本当、ちょうどニュースを賑わせていた話題を全部、詰めた感じでしたもんね。

(町山智浩)詰めていたんですよ。「東北の方では震災からの復興が全然進んでいないのに、東京オリンピックやるとか言って。それは一体どうなってるんだ?」とか。「朝鮮学校へ政府の補助金が全然入らないっていうのは、これは差別なんじゃないのか?」とか。そのへんを……これはテレビで本当にコメディアンの人は話さないことなんで、結構パニックになったんですね。

(でか美ちゃん)でも、漫才して誠実と言ったら偉そうですけど。普通にめちゃめちゃ面白かったですけどね。やっぱりウーマンさんの話術があるから。

(町山智浩)はい。でも、彼はテレビから仕事が一切、なくなっちゃったんです。で、これはどういうことなんだ?っていうドキュメンタリーなんですけど。僕ね、その頃に実はアメリカで彼に会っているんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)僕ね、彼がそういうことをやる前にも何回か仕事をしてて。ABEMAっていうやつで。で、その時は彼はね、あんまり政治とかに興味がなかったんですけど。彼はその後、東北に行って。全然復興が進んでなくて、人々がまだ仮設住宅に住んでるっていうことがわかって。で、その人たちの前で即興でトークをして笑わせたっていう経験があって。そこから彼は自分が知らないものを全部、見に行こうとしたんですね。

で、その当時に『朝生』……『朝まで生テレビ』にも出て、彼はいろんなことを聞いていったんですよね。「なんで尖閣諸島っていうのは必要なんですか?」とか「自衛隊が憲法違反というのは、どういう意味なんですか?」とか。そういうことを聞いていったら、それも炎上したんですよ。「知らねえのか? そんなのも知らないのに、朝生に出るんじゃない!」って。それでもう大変な炎上をして。でもね、彼はその間にどんどん仕事がなくなっていくわけですけど。そういう話をするたびに。それで彼、アメリカにいたのはなんでか?っていうと、アメリカで英語を勉強して彼、アメリカでコメディアンなろうとしてたんですよ。

(でか美ちゃん)SNSとかではちょっと発信されてましたよね。「自分はこういう風になろうかな」みたいなのは。

英語を勉強して、アメリカでコメディアンになろうとする

(町山智浩)そうなんです。というのはどういうことか?っていうと、アメリカでは政治的なギャグが基本なんですよ。コメディアンって。で、スタンダップコメディアンという人たちがいて、1人でしゃべくりをするっていう芸ですね。それはもう基本的に差別の問題、政治の問題、そういったものが中心なんです。それをしないと……たとえばジミー・ファロンというコメディアンがいて。彼はトランプ大統領が出てきた時に全く政治問題から目を背けてテレビをやったんですね。彼はテレビの司会者をやっているコメディアンです。そしたら「なんで政治的な問題をやらないんだ?」ってめちゃくちゃ叩かれて。それで政治的な問題を話し始めたっていう。それがアメリカなんです。

(石山蓮華)日本と真逆なんですね。

(町山智浩)全く真逆なんですよ。で、アメリカのコメディアンっていうのは政治的な問題をやってテレビで話せるだけじゃなくて。たとえばクリス・ロックというコメディアンの人は黒人なんで、差別ネタが多いんですけども。黒人差別についてギャグにしてるんですが。彼、マジソン・スクエア・ガーデンを3日間、満員にしちゃうんですよ。マイク1本で。

(石山蓮華)ええっ? かっこよ!

(でか美ちゃん)カリスマ的な人気が……。

(石山蓮華)あそこ、キャパはどれぐらいあるんですか?

(町山智浩)マジソン・スクエア・ガーデンだから、すごいですよ。プロレスの試合とか、バスケットボールとかをやっていて。キャパは数万人ですけども。それで彼は全米ツアーも全部、ソールドアウトですよ。

(でか美ちゃん)すごい。もう全国で人気なんだ。

(町山智浩)あと、Netflixでよくスタンダップコメディーのライブを配信してるんですけど。あれは1本で契約金が1ミリオンですよ? 1億5000万ぐらいですね。

(石山蓮華)ひゃー!

(町山智浩)トークを90分やるだけです。

(でか美ちゃん)でも、それだけ需要があるということですよね?

(町山智浩)そうなんです。で、村本くんは「日本で政治的なことを言うと仕事がなくなるけど、アメリカでは逆に言わないと仕事がない。しかも、政治的なことを言うとめちゃくちゃ儲かって。ロックスターがやっと満員にできるような会場をマイク1本で満員にできちゃう。それならば、こっちだ! 目指すべきゴールはこっちなんじゃないか?」って思いはじめて。それでアメリカに彼、来ていたんで。僕はちょうど、アメリカにコメディクラブっていうのがあるんですね。寄席みたいなところですけど。そこに彼を連れていって、そのコメディクラブのシステムとかを彼にいろいろ教えてあげたりとかしたんですよ。

アメリカのコメディクラブのシステムって、基本的には飛び入りで。で、夕方の3時ぐらいからオープンするんですけど。そこには誰でも出るんですよ。基本的には。で、面白かったら「4時から来い」って言われるんですよ。「お前、明日の4時に来い」って。それでまた面白かったら「お前、次は5時に来い」って言われて、どんどん勝ち上がっていって。最終的に9時の回に出れたら、トップなんですよ。

(でか美ちゃん)本当に実力主義なんですね。

(町山智浩)もう実力主義です。それを実際に見てもらって。「これでやれるか?」ってことで村本くんはやる気になったんですよね。ただね、コロナになっちゃって、アメリカに来るの遅れて。やっと今年ね、本格的に来て、頑張ってるんですけど。で、やっぱりね、村本くんがすごく叩かれるわけですよ。「政治のことを知らないのに、政治のことをやるなよ」みたいな。でもね、彼が聞いたことって……たとえば僕と番組で会った時に彼がそういう質問して炎上したことがあるんですけど。彼、「なんで黒人で差別されてるんですか?」って言ったんですよ。

そしたらワーッと炎上したんですよ。「知らないのか、バカ!」みたいな。でも「それじゃあ君、答えられるの?」ってことなんですよ。でも、考えれば考えるほど「黒人が差別されているのって、おかしいじゃん」っていう答えしか出てこないんですよね。だから村本くんは原発にしても、自衛隊のことにしても、沖縄の基地のことにしても……「どうして米軍の基地が、日本全体の70%が沖縄に集中してるんですか?」って聞くとみんなは「知らないのか?」って言うけども。でもそれって、はっきり言って意味がわからないんですよ。それも、沖縄に対する差別ですよ。

(でか美ちゃん)そうですよね。

(町山智浩)「なんで東北の人たちは震災からこれだけ経っていてもまだ仮設住宅に住んでるのに、東京オリンピックをやるの?」とか。で、それに対していろいろと説明する人はいるんだけど。でもやっぱりそれ、おかしいんですよ。村本くんはみんな当たり前だと思ってることを「ちょっとそれ、変じゃねえの?」っていう。非常に素直な気持ちで聞いてるだけなんですよ。でもみんな、「そんな当たり前だろう? 知らないのかよ?」って言うんですけど。村本くんはね、そこですごい素直なんですよ。

僕はね、童話の『裸の王様』みたいな。みんなは「王様は裸だけど、でも裸だって言ったら仕事がなくなるから」っていうんで、服を着ているふりをするんだけど。でも村本くんは「えっ、なんで裸なの?」って聞いちゃうんですよ。そういう素直さが彼にはあって、すごく話していて気持ちがいいんですよ。すごく純粋なところがあって。まあ結構いい年ですけど。40過ぎてますけども。

(でか美ちゃん)でも、わかんないことをパッと聞くし。聞いて、叩かれたとしてもその後、村本さんって勉強されているイメージありますね。そこから。

(町山智浩)そうなんです。それで村本くんって、本を読んで勉強するとか、知ったかぶりを絶対しないんです。彼は当事者に片っ端から会いに行くんですよ。

(でか美ちゃん)なんか足を使われてるイメージですね。いつも自分の目で見に行くというか。

とにかく当事者に片っ端から会いに行くスタイル

(町山智浩)そうなんです。「朝鮮学校への補助金が出ない」っていう問題があって。小池百合子さんとか「絶対、補助金を出すな!」とか言っていた人ですけど。彼はその朝鮮学校に行くんですよ。実際に。で、在日朝鮮人の人たちにいっぱい話を聞いて。一体、何が問題で何が起こってるのか?ってことを全部聞いて。それをその場で即興でギャグにして、笑わせてっていうのを繰り返してるんですよ。

で、沖縄の基地問題だって沖縄に本当に行って。どうして基地があって、みんなどういう生活をしているのか?っていうことを聞いて。ちゃんとそこでお笑いを作って、みんなを合わせる。韓国も行ってます。で、今はアメリカに行ってるって感じなんですよ。で、アメリカではやっぱり差別とか人種問題とか民族問題とか、いろんなのがあるんで、それを聞いてはそれをギャグにしてっていうのを繰り返してるんですよ。だからすごく自分の肌で勉強するというタイプなんですよね。

(でか美ちゃん)その村本さんに3年も密着してたら、いろんなところを行く感じですよね?

(町山智浩)いろんなところに行くんですけど、途中でコロナがあるんでちょっとつらいところがあるんですけど。彼は本当はバーン!ってアメリカに行く予定で、それで映画を撮ってたんですけど。それがなくなっちゃったんで今、来てるんですけど。でも後半はね、コロナのおかげでね、彼が自分自身のルーツをたどっていくっていう展開になってくるんですよ。彼、実は子供の頃、ご両親が非常に仲が悪くて。それで悩んで。彼はですね、自殺をしようとしたってことまで告白してくるんですけど。それで自分のその離婚した母親と父親に会って。父親とはかなりもう、喧嘩しながら話をしていくんですけど。そのへんはね、すごいなと思いましたね。

で、彼がやってることに対して、お父さんはちょっと保守的だから。「お前がやってることはおかしいじゃないか」という話になるわけです。「権力に立ち向かって……おかしいだろう?」って話になるんですけど。そこで村本くんが言う言葉がすごく素晴らしくて。「お前、お笑いのくせに、芸人のくせになんでそんな政治のこととかを言うんだ?」っていう風に父親に言われて。で、村本くんはその父親に対して「俺はお笑いっていうのは世界で一番素晴らしい仕事だと思ってるんだ。なぜなら困ってる人、話を聞いてもらえない人。そういった人たちのことを俺は笑わせることができるんだ!」って言うんですよ。こんな志の高いコメディアン、最近いないでしょう? 日本では。

(石山蓮華)まあ皆さん、いろんな思いで仕事されてると思いますけど。でも日本っていう、この日本の芸能の仕組みには到底、収まらない志なんだなっていうのをすごく感じる一言ですね。

(町山智浩)すごいなと思って。で、やっぱり彼、本当に笑わせてるんですよ。沖縄の人とか朝鮮の人とか東北の人たちを、現場で。彼は、それをやりたいんだと。で、彼が言うのは「日本のお笑いのそのゴールって一体、何? 司会者になって自分の番組を持って、ひな壇の芸人たちを回すこと。それでコマーシャルに出たり、NHKに出たりすることがゴールなの? そんなゴールは俺、ほしくないよ。それで上がりなの?」って言うんですよ。彼は全然、そこに興味を見出さないんですよ。

日本のお笑いをゴールを目指すとみんな無難になっていく

(町山智浩)でもみんな、そこばっかりじゃないですか。だからみんな、無難になっていくんですよ。みんな、NHKに出たい、コマーシャルをやりたいから。でね、原発の問題でもめるっていうのは、原発をやっている電力会社っていうのはものすごくテレビにお金を入れていて、広告をやってるから。だから、テレビで原発問題のネタをやったりすると、まずくなっちゃうんですよ。だから彼はそういうところに興味を見出さないんですよ。そこで偉くなってもしょうがないっていうところでやってるんで。

で、吉本興業とか電通もそうですけど、どんどん政府依存になっていって。まあ、日本の経済全体がちっちゃくなったから、政府からお金もらわないとやってけないんでね。吉本も電通も本当に政府に媚を売らないとならなくなってくるわけですよ。政府だとか、大阪府だとかにね。でもその中で、彼は全く逆方向に行くんですよ。だから彼、吉本でも締められそうになっています。

(でか美ちゃん)まだ所属されてますもんね。相方さんとも一緒に解散とかもせず。ウーマンラッシュアワーの村本さんとして活動されてますもんね。

(町山智浩)これは映画の中では出てこないんですけど。僕に彼が話してくれたことで。彼、吉本のトップ芸人に1回、締められそうになってます。「お前、なにを生意気なことばっかり言ってるんだよ?」って。

(石山蓮華)誰ですか?

(町山智浩)それは言えませんけども。ただ、その時に村本くんがそれに対してどう言い返したのか? 「◯◯さんって、大したことないっすよね」って言ったんですって。それで「なんや!」って言われた時に「チャップリンに比べれば」って言い返したんですよ。そうすると言われた方は「はあ?」って感じで。呆れた感じで「なにを言うてんねん。お前、アホちゃうか?」っていうことで、しらけちゃったんですけど。

(でか美ちゃん)だし、「チャップリンと比べてくれたんだ」とかもありますよね。たぶんね。

(町山智浩)それもあるんですよ。チャップリンって、ヒットラーと戦った男ですよ? 史上最大のお笑い芸人ですよ。それと比べるんですよ、村本くんは。彼はそっちを見てるんですよ。

(でか美ちゃん)なんか天性の愛され力みたいなのもある方なのかなって感じがしますよね。

(町山智浩)そう。「お前、なに言ってんの?」って思うんですけど。彼、それは結構ジョークじゃないんですよ。

(石山蓮華)本当に嘘を言わないとか、思ったことを全部、そのまま行動に移す人なんですね。

(町山智浩)そう。純粋なんですよ。

(でか美ちゃん)なんかそういう本当に日本ではなかなかないスタイルの芸人をやっているっていう部分でもめっちゃ気になるし。私、村本さん以前、SNSで「今日、誕生日です」みたいなのを書かれていて。みんなが結構、「おめでとう!」みたいなリプを送ってたんで。今はどうかわかんないけど当時は相互フォローで。私は今でもフォローしてるんですが。村本さんに「誕生日なんですね。おめでとうございます」みたいなリプライをしたんですよ。みんな、していたからね。送ってたから。

そしたら数時間後に「俺の本当の誕生日は◯月※日。本当の誕生日を覚えてくれてる人をあぶり出しました」とか言って。もう完全に騙されて。だから本当に、その村本さんのちょっとひねくれている部分とかもなんか……当時、「かわいらしい人なんだな」って思ったから。その、人間としてすごく興味があるんで。この映画はもうめちゃめちゃ注目ですよね。

(石山蓮華)いや、これはすごい見たくなりますね。

(でか美ちゃん)パラダイスさんは見るのかな? この映画。見なさそうなところもいいですよね(笑)。パラダイスさんって、他人に興味がなさそうだし(笑)。

(町山智浩)これ、7月6日(土)に日本公開なんですけれども。その頃ね、村本くんは日本に帰国するそうなんで。もしよかったら、出してあげてください(笑)。

(でか美ちゃん)ぜひ村本さんさえよければね。

(石山蓮華)来てほしいですよね。

(町山智浩)ということで、すいません友達の話で。

(石山蓮華)そしてお友達といえば水道橋博士さんから「よろしく」ということで。コメントいただきました。

(町山智浩)いつまでたってもZoomのやり方を覚えないんで。この間、とうとうブチキレました(笑)。

(でか美ちゃん)最高でした。BOOKSTAND.TVチームは博士のこと愛を持って常に心配というか、気にかけてるんで。私たちの総意としては「博士は町山さんのような友人を大事にしろ」という総意でいます。最高でした(笑)。

(町山智浩)すいませんです(笑)。

映画『アイアム・ア・コメディアン』予告編

<書き起こしおわり>

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