松尾潔 秋のブラクストン・ファミリー特集

松尾潔 秋のブラクストン・ファミリー特集 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でブラクストン・ファミリーを特集。テイマー・ブラクストン、トニ・ブラクストン、トレイシー・ブラクストンなどの楽曲を紹介していました。

(松尾潔)まずは新曲をご紹介したいと思います。この番組では超おなじみのテイマー・ブラクストンです。『My Man』という自分の実の両親の不和を描いた、人に言わせると「これは耳で楽しむリアリティーショーだ」と。そこまで言われた私小説的な内容の曲がロングヒットを記録しました。

松尾潔 Tamar Braxton『My Man』を語る
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でテイマー・ブラクストンの『My Man』を紹介していました。 (松尾潔)まず最初にお届けしますのはテイマー・ブラクストンです。ブラクストン姉妹、ブラクストンファミリーの中でもまあいちばんじ...

その後を追うようにして、その好調の波を逃すまいというタイミングでニューアルバムがリリースされました。『Bluebird of Happiness』というのがそのアルバムタイトルです。「幸せの青い鳥」という、本当に多幸感に満ちたタイトルのアルバムを作っても、その奥を深読みさせたくなる、そんな佇まいがテイマー・ブラクストンの魅力でもありますね。この人は本当に歌の向こうに1本ではないいろんな線が絡み合った人間模様みたいなものを描写するのに長けている人かと思います。じゃあ、聞いていただきましょう。リリースされたばかりのアルバム『Bluebird of Happiness』の中からリードトラックです。テイマー・ブラクストンで『Pick Me Up』。

Tamar Braxton『Pick Me Up』

テイマー・ブラクストンのニューシングル『Pick Me Up』をお聞きいただきました。これはテイマーのニューアルバム『Bluebird of Happiness』に収録されております。お聞きになって、「あっ、このネタは……」とニヤリとされた方。『メロ夜』リスナーのみなさんの中には少なくないんじゃないでしょうかね。イヴリン・シャンペン・キングの『Love Come Down』をサンプリングしております。

これ、よりマニアックにお話しますと、この時期の彼女は「シャンペン」というニックネームを外しまして「イヴリン・キング」とシンプルに名乗って大人路線を歩み始めた頃ですが。この『Love Come Down』はこの番組では何度もご紹介しています。惜しくも亡くなりましたカシーフが手がけた曲として、カシーフの追悼特集の時もこの曲についてお話をしました。

松尾潔 カシーフ追悼特集
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で、亡くなったカシーフを追悼。彼の手がけた名作の数々を紹介していました。 (松尾潔)今夜の『メロウな夜』は先週の番組ホームページの僕のコラム『メロウな徒然草』で予告しましたように、先ごろ……...

その時にもお話した記憶があるんですが、m-floがこの『Love Come Down』をサンプリングした曲をヒットさせたことがありました。1999年にリリースされた『Mirrorball Satellite 2012』っていう曲がそれなんですけども。

まあ、さっき指折り数えて計算してみたんですけど、このイヴリン・キングの『Love Come Down』が夜に出たのが1982年。そしてm-floの『Mirrorball Satellite 2012』。この曲が出たのが99年。その間に横たわる歳月は17年ですね。これ、もう簡単な計算ですけども。そして、このm-floの曲が出て、いまテイマー・ブラクストンの『Pick Me Up』が出るまでの期間が18年。なんと、こちらの方が長いんですね。ですからm-floの曲が出たのってそんな前なんだと思うと同時に、せいぜい17年前のネタを使っていただけなんだなということも感じました。これまた簡単な計算ですけども。

じゃあ、このいまテイマー・ブラクストン『Pick Me Up』。ネタに使っているイヴリン・キング『Love Come Down』。何年前のネタを使っているか?っていうと、35年前のグルーヴをいま再生させているということになりますよね。もしかしたら、「82年は私、まだ生まれていません」というリスナーの方もいらっしゃるかもしれませんが。「物事」っていう風に言うと大きな話になっちゃうんですけども、「音楽」とあえて控えめに言っておきますけども。寝かせ時ってありますね。これはやっぱり10年ぐらい前にこの曲を聞くよりも、2017年の現在に聞くとグッと来る感じがあります。

テイマー・ブラクストン、いまホットな存在であると同時に、やっぱりブレーンがしっかりしているなということをいつも感じますね。トレンドを逃さないというよりもトレンドを作り出すという、そういう気概さえ感じました。テイマー・ブラクストン『Pick Me Up』でした。「ブラクストン」と言えば、もうブラクストン・ファミリー。R&Bシーンでは1、2を争うセレブファミリーと言っても差し支えはないでしょう。もちろんこのブラクストン・ファミリーの快進撃というのはトニ・ブラクストンというこの姉妹の中でも最初にスターになった彼女の快進撃があってのことです。長女ですね。トニ・ブラクストン。

本当に歌は申し分ないですし、その美貌でも知られております。トニ・ブラクストンが有名になったのはなんと言ってもLA&ベイビーフェイスのラフェイスレコードからソロデビューを飾った時なんですけども、それ以前にも、姉妹たちと一緒にブラクストンズというファミリー・グループで1回、世に出ておりまして。その後にソロデビューを飾って。その後にテイマーなどがお姉ちゃんに続けとばかりに世に出てきて、その時はあんまりパッとするセールスではなかったんですが、この姉妹のキャラ立ちが面白いということで、そこに注目したテレビ番組が大人気を博しまして。もういまでは姉弟というか家族全員が人気者という面白いヒストリーをたどった、そんなファミリーです。

で、そのトニ・ブラクストン。姉妹の中でも最もスタートしてのキャリアが長いトニなんですけど、彼女もニューアルバムのリリースを控えております。ベイビーフェイスとのデュエットアルバムがグラミー賞を獲得したりして、この3年ぐらいをかけて本格的にカムバックの大成功を収めたというトニなんですけども、ソロシングルの方もトニ・ブラクストン節……日本のファンは愛情を込めて「トニ・ブラ」って言いますけどもね。トニ・ブラ節ですねえ。ご紹介しましょう。トニ・ブラクストンの新曲です。『Deadwood』。

Toni Braxton『Deadwood』

The Braxton Brothers feat. Ledisi & Monet『Better Than Nothing?』

トニ・ブラクストンの新曲『Deadwood』をお聞きいただきました。「Deadwood」というのは読んで字のごとく「枯れ木」とか「枯れた枝」とかそういう意味ですね。これを手がけておりますのはフレッド・ボールというノルウェーのクリエイターですね。これまでにもトニ・ブラクストンはヨーロッパの制作チームと仕事をすることも多かったので決して意外なことではないのですが。ベイビーフェイスが全面バックアップしてアルバムを出すのかな? と思っていた人たちにとってはちょっと意外なセレクションかもしれませんね。

アルバムの方は年内ではなくて来年。年明けにリリースを予定しているという風に聞いております。アルバムのタイトルは『Sex & Cigarettes』。大人ですなあという、まあそういう感想ですね。期待できますね。そして、続いてご紹介しましたのはザ・ブラクストン・ブラザーズ feat. レディシ&モネーで『Better Than Nothing?』という曲でございました。これは2002年の作品。いま、テイマー・ブラクストン、トニ・ブラクストン、そしてブラクストン・ブラザーズとご紹介して、「ああ、ブラクストン家というのは姉妹だけじゃなくて男兄弟もいるのか」と思われた方も中にはいらっしゃるかもしれませんけども、これは僕のシャレでございまして。特に彼女たちのお兄ちゃんとか弟とか、そういうわけじゃないんです。「ブラクストン」っていう姓なんですね。

で、これはスムース・ジャズの世界ではまあ割と知られている名前の2人組でして。割とご面相もよく似ているブラクストン兄弟。1人が打ち込みとか弦楽器とか鍵盤とか。もう1人はサックスを担当したり。分業制で曲も作ったりとかするわけですけども。で、自分たちの歌声を聞かせている曲もいくつかあるのかな? でも、アルバムの聞かせどころっていうか、ラジオプレイを狙うような曲っていうのはシンガーをゲストに迎えるんですよ。で、そこでフィーチャーされていたのがレディシですね。レディシというのはいろんなところの客演が多かった人で。特に21世紀に入って頭の数年間はスムース・ジャズと呼ばれる世界でたくさん客演を残しております。

で、レディシ本人がメジャーとの契約を結んで自分名義のアルバムをたくさんリリースして。しかも、それがヒットしていくようになると、いまでもゲストとして歌う仕事も多いんですが、自分の作品の中にゲストを呼び込むことも増えてまいりました。シンガー同士でね、デュエットをするとか、そういうことも増えてまいりました。いま、女性の中ではそうですね。たとえばアンジー・ストーンとか。男性で言いますと、アンソニー・ハミルトンとか。そういった人たちと並んで最も客演の要請が多いメジャーのシンガーの1人じゃないかと思います。

で、男性の中には最近、やたらとデュエットをしている人にBJ・ザ・シカゴキッドという人がいることを忘れてはなりませんね。この間もゴアペレとのデュエットをご紹介したばかりですが。まさにそのBJとレディシのデュエットも今度のレディシのニューアルバムの中で実現しております。これは客演で売れっ子同士の2人、どんな仕上がりになっているんでしょうか? 聞いてください。レディシのニューアルバム『Let Love Rule』の中からレディシ feat. BJ・ザ・シカゴキッドで『Us 4ever』。

Ledisi『Us 4ever ft. BJ The Chicago Kid』

Jhene Aiko『Ascension ft. Brandy』

新曲を2曲続けてご紹介しました。まずはニューアルバム『Let Love Rule』をリリースしたばかりのレディシ。そのアルバムの中から売れっ子ですね。BJ・ザ・シカゴキッドをフィーチャーした『Us 4ever』。これ、人気者同士のデュエットですが、期待以上の仕上がりという風に申し上げましょう。レディシにはリクエストをいただいております。東京都にお住まいのもうおなじみのリスナー「ラムトニック」さんですね。レディシ feat. BJ・ザ・シカゴキッド『Us 4ever』にリクエストをいただきました。この方以外にも、レディシの曲は違うんですが、徳島県にお住まいの男性リスナー「ティアドロップ」さんからは『High』という曲を。「ニューアルバムの収録曲、いくつか聞いたんですが、どの曲もよくてリクエストをどれにしようか迷ってしまいました」っていう。本当にそうなんですよね。

もう一方、レディシのまた別の曲にリクエストをいただいたんですね。おなじみの「ボーイズ・トゥー・ボーズ」さん。福岡にお住まいの52才の男性リスナー。この方はレディシの『Here』。「うーん、これはなかなかクラシカル感がグッと来ましたので、ここは年間トップ20に入れるためにリクエストをお願いします」ということでしたが、今日は『Us 4ever』をご紹介しました。

ジェネイ・アイコのニューアルバムもドロップされました。アルバム・タイトル『Trip』。その中にも組み合わせだけで大きな興味を抱いてしまう、そんなデュエットが収められていました。ブランディーをフィーチャーした『Ascension』という曲ですね。「Ascension」といえばマックスウェルの同名曲を思い出しますが。

というか、まるっきり趣向が違いましてね。うーん、ジェネイ節ですね。「意外にも」と言わせてもらいますか、ブランディーがこういうサウンドの中でハマりますね。同性の組み合わせとしてジェネイ・アイコとブランディー、考えもしなかったんですが。これは面白い試みではないでしょうか。まあ、この時期ね、年末に向かいまして、大物と呼んで差し支えがない、そんな人気シンガーたちのニューアルバムが次々とリリースされております。レディシのアルバムはよかったなー。いいなー。他にもいい曲がたくさんございますんでね、『メロウな夜』の中でまたご紹介する機会があるかと思います。

(中略)

さて、デバージ『I Like It』の話をしました。デバージというのもモータウンという名門に所属をしていたファミリー・グループでございますね。モータウンのファミリー・グループといえば、なんと言ってもジャクソン5、ジャクソン家が有名なのですが、その次に知名度、人気が高かったのがこのデバージ家ですね。いちばん人気があったのはエル・デバージ(エルドラ・デバージ)なんですが、それ以外にも兄弟のソロ作をたくさんリリースしております。兄弟の中には、まさにそのジャクソン家のジャネットと結婚をしたジェームズ・デバージという人もいましたね。つまり、一時ジャクソン家とデバージ家っていうのは親戚だったんですよね。まあ、それは短い結婚生活で終わったのですが。

ジャネット・ジャクソン、そういえば最近また、そのプライベートの方でゴシップニュースの対象になっていますね。50代にして出産をしたおめでたいニュースの後に、またシングルに戻りましたという風に報道がされていますが。実際のところ、どういう感じなのかは僕はわかりませんけども。ねえ。やっぱり子供の頃から「あのスターの妹」みたいな感じで歩んできたジャネット・ジャクソン。ずーっとプライバシーがないと言いますか、プライバシーもまた彼女のショウビズに生きる上でひとつのみんなの注目をする理由になっているという現実があろうかと思いますが。まさにそういう大きな渦巻きといいますか、その中に飛び込んで行ったのがブラクストン・ファミリーなんだなと。今日の番組前半の話題に戻りますが(笑)。

で、そのブラクストンという姉妹の中でいまソロ作を出すだけの準備がある人っていうのは、テイマーとトニだけではございません。もう1人、トレイシーという女性がいます。このトレイシーこそが実は、僕がブラクストン家の中で一押しの存在でして。トニの次の次女なんですね。なんですが、この人は控えめな性格で知られていまして。ソロ活動を精力的に展開するイメージでもないんですが、その歌声というのは僕は大きな芝居をするお姉さんとかディーヴァ体質のテイマーとはまたちょっと違った、静かな情熱みたいなものをいちばん感じさせてくれるのは、僕にとってはこの人なんですね。

トレイシー・ブラクストン。彼女も来年、久々の2枚目のアルバムをリリースすると聞いています。2014年にリリースした、ずいぶんと遅かったデビュー・アルバムの中から今日、1曲ご紹介したいと思います。2014年のアルバム『Crash & Burn』の中に収められていたメロウ・チューンです。「必殺メロウ・チューン」と言っておきましょう。トレイシー・ブラクストンで『Passion』。

Traci Braxton『Passion』

テイマー・ブラクストンに始まりまして、そのお姉さんのトニ・ブラクストン。そして寄り道でブラクストン・ブラザーズ。最後はトレイシー・ブラクストンにたどり着きました。ブラクストン尽くしの今週の『メロウな夜』。トレイシー・ブラクストンで『Passion』をお届けしました。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました