松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1971年から73年のR&Bチャートを振り返り。それぞれの年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。
(松尾潔)さて、今週はいまでも聞きたいナンバーワン。その拡大版をお届けしたいと思います。『メロウな夜』スペシャル放送ですね。レギュラープログラム、メロウな風まかせはお休みでございます。それでは、この口上、まいりましょう。続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。
2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には『そもそもR&Bって何だろう?』という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明してまいりました。わかりやすかったでしょうか? 今回、その第33回目。最終回でございます。最終回 拡大版ということでお届けしたいと思います。1971年、72年、73年。この3年間を今日は一挙にお届けしたいと思います。この3年間のR&Bナンバーワンヒット。その時の時代性をはらんだ曲ももちろんございます。
では、まず71年のナンバーワンヒットから。まずはテンプテーションズ(The Temptations)の『Just My Imagination』をご紹介したいと思います。なぜ、この曲を1曲目に選んだかと申しますと、この『Just My Imagination』という僕の大好きなノーマン・ウィットフィールド(Norman Whitfield)という天才クリエイターが手がけたこの曲。アルバム『Sky’s the Limit』に収められております。そうなんですよ。さっきご紹介しましたSky’s the Limitっていう名前のボーカルグループ。まあ、僕がつけた名前なんですけども、そのグループの命名の由来のひとつはここにありました。
全てのボーカルグループの頂点に立つザ・テンプテーションズの1971年のナンバーワンヒット『Just My Imagination (Running Away with Me)』。
The Temptations『Just My Imagination (Running Away With Me)』
Marvin Gaye『What’s Going On』
『松尾潔のメロウな夜』の、あえて申しましょう。二大名物企画。そのうちのひとつ、いまでも聞きたいナンバーワン。今回が最終回となります。いまでも聞きたいナンバーワン 最終回拡大版をお届けしています。1971年、72年、73年。この70年代のはじめの3年間のナンバーワンヒットを一気にご紹介する今夜、まず最初にお聞きいただきましたのはザ・テンプテーションズで『Just My Imagination』。これは『(Running Away With Me)』というサブタイトルがついています。これは1971年の3月6日から20日まで3週連続でナンバーワンを記録いたしました。この頃はね、R&Bチャートはソウルチャートって言っていたんですけどね。本当に文字通り、ソウルミュージックの豊穣なる時代ですね。収録アルバムは『Sky’s the Limit』。先ほど申し上げた通りです。
そしてその翌週、3月27日から4週連続でナンバーワンを独走しましたのがマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の『What’s Going On』。『愛のゆくえ』ですよ。『What’s Going On』。今日は特別にシングルのね、モノのバージョンをお届けしました。はじめてこの音の感覚に触れたというかたも、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。収録アルバムはもちろん『What’s Going On』。この年、マーヴィン・ゲイはね、『What’s Going On』という金字塔のようなアルバムの中から『What’s Going On』。そして『Inner City Blues』もヒットさせていますね。
1971年。このソウルチャートナンバーワンに輝いた曲は合計で21曲ございます。キング・フロイド(King Floyd)の『Groove Me』で始まってスライ・アンド・ザ・ファミリーストーン(Sly & the Family Stone)の『Family Affair』で終わるという、オセロで言いますと最初と最後だけ取ってみるとファンクな1年っていう感じなんですけども。
実際にはマーヴィン・ゲイ大活躍の1年。『What’s Going On』、『Mercy Mercy Me』、『Inner City Blues』と3曲もナンバーワンヒットが出ていますが。1年間を通していちばんヒットした曲は少女シンガー、ジーン・ナイト(Jean Knight)の『Mr. Big Stuff』でございました。
これも面白いですね。後にクラシックとして重要度が語られるのはもちろんマーヴィン・ゲイだったり、もちろんジェームズ・ブラウン(James Brown)・JBだったりするんですが。その時の時代の趨勢っていうのかな? やっぱり流行音楽ですからね、その時にいろんな追い風を受けたのがジーン・ナイトだったんでしょうね。もちろん『Mr. Big Stuff』も後にいろんなヒップホップアーティストがサンプリングしたことでも知られているように、面白いリズムのかわいらしい曲でございます。
まあ全体的にモータウン勢強しという印象も強い71年。あと2曲、ご紹介しましょう。この71年にご紹介する曲はモータウン勢でまとめてみました。ザ・ジャクソン5(The Jackson 5)『Never Can Say Goodbye(さよならは言わないで)』。そしてグラディス・ナイト&ザ・ピップス(Gladys Knight & the Pips)『If I Were Your Woman』。2曲続けてどうぞ。
The Jackson 5『Never Can Say Goodbye』
Gladys Knight & the Pips『If I Were Your Woman』
1971年のナンバーワンヒットを2曲続けてお届けいたしました。ザ・ジャクソン5で『Never Can Say Goodbye』。そしてグラディス・ナイト&ザ・ピップスで『If I Were Your Woman』でした。グラディスの声はこれから45年たったいまでも基本的にあんまり変わっていないんですよね。本当に若い時から成熟した魅力を持っていました。温かい声の主ですね。
さて、チャートを72年へと移ります。72年のナンバーワンを一言で言いますと、「ハイサウンドとフィリーの72年」ということですね。ハイ・レコード (Hi Records) というレーベルがございまして。ウィリー・ミッチェル(Willie Mitchell)というプロデューサーを中心に、いまの表現で言いますとちょっとほっこりとしたリズムを売りにしているような、全体的に手作り感の高いそんなサウンドが全国的に人気を博しました。その中でも代表的なスター歌手だったのが、アル・グリーン(Al Green)でございます。このアル・グリーンという人はね、全盛期には大変なセックスシンボルぶりでございまして。まあ女性とのトラブルっていうのが派手なスキャンダルになったこともございましたけども。
その後はもう、あまりの人気稼業ぶりに疲れたのでしょうか? いったん神の道へ行きまして。で、いまはゴスペルと世俗音楽をいいバランスで歌っているんですけども、そんなアル・グリーンが広く知られるようになったのはこの72年でございました。アル・グリーンの『Let’s Stay Together』という曲。この曲が72年の1月8日から3月8日までのなんと9週連続のナンバーワン。もう文句なしの年間最高ヒットを記録しました。まずはそちらから聞いていただきましょう。アル・グリーン『Let’s Stay Together』。
Al Green『Lets Stay Together』
Luther Ingram『If lovin you is wrong i don’t wanna be right』
1972年のナンバーワンヒットを2曲、お聞きいただきました。アル・グリーン『Let’s Stay Together』。この年、最大最高のヒットでしたね。9週連続ナンバーワン。文句なしの大ヒット。で、この『Let’s Stay Together』以外にもアル・グリーンは『I’m Still in Love With You』という曲をこの年、ナンバーワンヒットにしております。
まあ、誰も異論の余地はないです。72年の顔はアル・グリーン。そして続けて聞いていただきましたのはルーサー・イングラム(Luther Ingram)の『(If Loving You Is Wrong) I Don’t Want to Be Right』。まあいわゆる不倫ソングでございますね。「あなたを愛することが間違っていようとも、自分は正しくあろうと思わない。間違っているんだったら、それも結構!」というようなね、不倫に臨む気概のような……まあ、悲壮な決意と言ってもいいかもしれませんけどもね。いまの時代の日本にこそ当てはまる、いろいろ意味深い曲ですね。ルーサー・イングラム。
まあ、これは僕の持論ですけどもね、この曲の子供と言える曲がホール・アンド・オーツ(Hall & Oates)の『Sara Smile』じゃないかなという風に思っておりますね。
まあ、販売力以上にその影響力で語ることができる。そんな曲じゃないでしょうか。1972年、ロバータ・フラック(Roberta Flack)とダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)に代表されるニューソウルのアーティストも勢いを増してきましたけども、なんと言ってもね、その前年71年に設立されましたフィラデルフィア・インターナショナル・レコード(Philadelphia International Records)。ここからフィリーソウルの名曲というのが量産されました。
アーティスト名で申しますと、具体的に言うと、ハロルド・メルヴィン&ブルーノーツ(Harold Melvin & the Blue Notes)の『If You Don’t Know Me by Now』。
後にね、ここから独立するのがテディー・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)ですが。まあ、オージェイズ(The O’Jays)『Back Stabbers』なんていうのもこの年に出たヒットですし。
このフィラデルフィアから狼煙を上げたフィラデルフィア・インターナショナル・レコードが仮想敵としていたのがデトロイトのモータウンだったことは明らかでございまして。71年はモータウン強し!っていう曲だったんですが、72年もまあ強かったは強かったんですけど、まあ71年、72年を通してジェームズ・ブラウンがやっぱりずーっとチャートでかならずナンバーワンを取っているということにこそ、いま僕は感心してしまいますね。
で、あとやっぱりチャートを見ていますと72年のナンバーワンヒットに輝いた人たち、かなりもういま、亡くなっているなということに胸を痛めてもおります。もう40年以上前のことですからね、仕方ないとは言え。じゃあ、続いてご紹介する2組。お二方とも惜しくも、割と最近亡くなったソウルマンです。ボビー・ウーマック(Bobby Womack)とビリー・ポール(Billy Paul)。ボビー・ウーマックは『Woman’s Gotta Have It』。これは6月17日にナンバーワン。そしてビリー・ポールの『Me and Mrs. Jones』。こちらは12月9日から30日まで、本当に年末の人肌恋しくなる時期にヒットしたフィラデルフィア発信の、これも不倫ソングの古典でございます。それでは、2曲続けてどうぞ。ボビー・ウーマックとビリー・ポール。
Bobby Womack『Woman’s Gotta Have It』
Billy Paul『Me and Mrs. Jones』
1972年のナンバーワンヒットを2曲続けてお届けいたしました。ボビー・ウーマックで『Woman’s Gotta Have It』。そしてビリー・ポールで『Me and Mrs. Jones』。まあどちらもソウルマンという呼び名が相応しい、そんな風情の2人でございました。
さて、73年のナンバーワンヒットに話を進めたいと思います。1973年、この年最高のヒットはマーヴィン・ゲイ『Let’s Get It On』でございました。
で、1月にスティービー・ワンダー(Stevie Wonder)の『Superstition(迷信)』で始まって……
そして、同じくスティービー・ワンダーの『Living for the City』で終わるという、まあ72年勢いがあったフィラデルフィア・インターナショナルに対して王者の風格を見せつけたという。
まあ、本当にこの2者がね、この頃は鍔迫り合いっていうんですか? そういう名曲合戦みたいな。名曲アフター名曲のような、そんな時代で。なにを聞いても楽しいですし、もっと言いますとナンバーワンヒット、それ以外の曲にも名曲はゴマンとあるんですが、あくまでもそのナンバーワンヒットの中から今日は名曲を厳選してご紹介しております。じゃあ2曲、聞いていただきましょう。元テンプテーションズのリードシンガーだったエディー・ケンドリックス(Eddie Kendricks)。まあ、エディーっていうのはファルセットシンガーですね。そのファルセットを上手く生かすソロナンバーっていうのは、厳しい言い方になりますけども決して多くはないんですが、これは見事にハマりました。73年10月6日から13日付けまで2週連続のナンバーワンを記録したのはこちら。エディー・ケンドリックスで『Keep on Truckin’ Part 1』。
Eddie Kendricks『Keep On Truckin’ (Part 1) 』
Ohio Players『Funky Worm』
1973年のナンバーワンヒット。エディー・ケンドリックスで『Keep On Truckin’』。こちら、10月6日から13日まで2週連続のナンバーワン。順序で言うと前後しますけど、5月にナンバーワンになりましたオハイオ・プレイヤーズ(The Ohio Players)の『Funky Worm』と続けてみました。「Worm」っていうのはミミズとか、要は細長くてクネクネした虫の総称ですけども。人の蔑称でもあるんですね。ですが、ファンキーであると。うーん。サウンドの方もね、当時出始めのアナログシンセサイザーの音色でクネクネしておりました。スペイシーと言ってもいいですね。ミミズのような、小さい微力な生物にファンキーっていう形容を与えて、そこに宇宙にもつながるような音楽を作るっていう、これはファンクですよね。もう本当に、堂本剛さんあたりだったらこれにうなずいてくれるんじゃないかと思いますが(笑)。いびつな形をしているが、点数で言うと100点!っていう曲ですね。
1973年、いろんなヒットがございましたが、ちょっと渋いところをご紹介しますと、インディペンデンツ(The Independents)というボーカルグループをご存知でしょうか? 1973年の5月19日にナンバーワンに輝きました『Leaving Me』という曲。これはインディペンデンツという男女混声ボーカルグループの1曲でございました。インディペンデンツ自体は知らないという人でも、ナタリー・コール(Natalie cole)のことはご存知かもしれませんが。ナタリー・コールの夫でありましたマーヴィン・ヤンシー(Marvin Yancy)というソングライターかつプロデューサーだった人。この人がこのインディペンデンツのメンバーでした。マーヴィン・ヤンシーと音楽的パートナーでありますチャック・ジャクソン(Chuck Jackson)の手による外部仕事でナタリー・コールなんかがあることを付け加えておきますが。そのインディペンデンツの代表的ヒット『Leaving Me』を今日はご紹介したいと思います。
そしてもう1曲。これはね、この番組ではあまり触れることはないんですが、スウィートなソウルが好きな人の間では聖典化しております。4月29日から5月5日にかけて2週連続のナンバーワンに輝きましたのはシルヴィア(Sylvia)。シルヴィア・ロビンソン(Sylvia Robinson)ですね。『Pillow Talk』。これは聞いていただくしかありません。では2曲続けてどうぞ。ジ・インディペンデンツ、そしてシルヴィア。
The Independents『Leaving Me』
Sylvia『Pillow Talk』
今夜の『松尾潔のメロウな夜』はいまでも聞きたいナンバーワン最終回拡大編と題しまして、1971年、72年、73年。この黄金の3年間のナンバーワンヒットをまとめて、駆け足でご紹介いたしました。最後にお聞きいただきました2曲はジ・インディペンデンツの『Leaving Me』。そしてシルヴィアの『Pillow Talk』でした。
(中略)
さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで、今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。今夜は、これも1973年のナンバーワンヒット。アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)の『Angel』を聞きながらのお別れです。プロデューサーのクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)、時に40才の作品です。これからお休みになるあなた。どうか、メロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのはあなたです。次回は来月、8月1日(月)、夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、お休みなさい。
Aretha Franklin『Angel』
<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32657