町山智浩 佐村河内守ドキュメンタリー映画『FAKE』を語る

町山智浩 佐村河内守ドキュメンタリー映画『FAKE』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ゴーストライター疑惑で世間を騒がせた佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー映画『FAKE』を紹介していました。

(赤江珠緒)もしもし、町山さん?

(町山智浩)はい。町山です。はい。いま、竹山さんもいらっしゃるんですよね?

(カンニング竹山)はい、竹山です。お久しぶりです。よろしくお願いします。

(町山智浩)よろしくお願いします。あの、竹山さん物件ですよ、今回。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)竹山さん物件!?

(カンニング竹山)そうなんです。いろいろあるんですよ。はい(笑)。

(町山智浩)新垣さんとお知り合いなんですよね?

(カンニング竹山)そうですね。ピアノをちょっと教えてもらったりした過去がありまして。

(町山智浩)じゃあもう、いい話になると思います。今回はですね、ゴーストライター事件の佐村河内守さんを追ったドキュメンタリー映画『FAKE』を紹介します。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)あ、これが佐村河内守さんと新垣隆さんの合作。『交響曲第一番 HIROSHIMA』ですね。

(カンニング竹山)ああ、そうだ。うん。

(町山智浩)この映画はですね、森達也さんが監督で。自分で撮影もしている映画なんですが。6月4日に公開されるんですけども。いま、業界でこの映画、試写で回っていてですね、大論争を呼んでいるんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(カンニング竹山)見たくてしょうがない。これ。

(町山智浩)はい。で、「この映画、一体どういうこと? ああじゃないか? こうじゃないか?」ってもう、知り合い関係ですけど、いろんな議論が飛び交っている状態です。で、この映画はですね、あの事件があって、記者会見をしましたよね。佐村河内さんが。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)その後から、この森達也さんが佐村河内さんの横浜のマンションに通ってですね、撮影したものなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

記者会見後の佐村河内氏を追ったドキュメンタリー

(町山智浩)で、映画の内容はほとんどその彼の自宅の中だけですね。たまーにしか外出しないんですよ。で、窓がカーテンを閉めきって、真っ暗な部屋の中で。それで奥さんと2人きりで、ほとんど人とも会わないで生活している状態で森さんが入っていってカメラを回すんですけども。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)この「FAKE」っていうのはですね、「偽物・まがい物」っていう意味ですね。「贋作」とかですね。で、この映画でやっぱり見ていてすごく興味があるというか、観客の集中する点は2つの点なんですね。この佐村河内さんはどのぐらい本当に耳が聞こえないのか?っていうことですね。まずひとつは。

(赤江珠緒)まあ、そうですね。うん。

(町山智浩)で、記者会見では非常に難聴なんだけども、音が聞こえてないわけではなくて。曲がって聞こえると。感音性難聴というもので。ただ、聞こえない度合いは障害者手帳を受けるほどではないという精密検査の結果が出ていると。

(赤江珠緒)あの記者会見も、答えてらっしゃいましたもんね。

(町山智浩)一応、手話の通訳の人はいましたね。ただ、通訳を介さないで伝わっている部分があるっていうことで、結構疑惑を呼んだんですね。記者会見では。で、この『FAKE』っていう映画では、ずっと奥さんが手話で通訳をしているんですね。森達也さんの話を。ただ、ベランダでタバコを吸ったりする時があるんですよ。森達也さんと佐村河内さん2人だけで。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)もう、意味なく緊張しますね。通訳する人がいないんですよ。そこでは。

(カンニング竹山)そうか。奥さんが。

(町山智浩)そう。で、チョコチョコと、「実はわかってるんじゃないの? 聞こえてるんじゃないの?」というような瞬間を探す感じで観客は見るというね。で、普通の人は「この野郎!」っていう感じで見るんでしょうけど、ドキドキしちゃいましたね。佐村河内さんの気持ちになって(笑)。

(赤江珠緒)そっちの気持ちに。なるほど。

(町山智浩)そうなんです。で、もうひとつは、佐村河内さんが本当に作曲をする能力があるのかどうか?ってことですね。これに関しては、新垣さんが記者会見とかで、「作曲は実は自分がやっていた。佐村河内さんは譜面が書けないんだ。それと、楽器もあまりできない」という風に言っていましたね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)でも、佐村河内さんはここで完全に対立していて。佐村河内さんは、「曲は自分で録音したものをテープに入れて聞かせて。そこから譜に起こしてもらった」っていう風に言ってるんですね。だから、「作曲はできるんだ。演奏もできるんだ」と言ってるんで。この2つの点なんですよ。「耳が聞こえるのか、聞こえないのか」と、「作曲できるのか、できないのか」っていう。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)ところがこの2つの問題っていうのは、すごく微妙に矛盾するんですね。耳が聞こえないんだったら、作曲できないだろうっていう問題があるんですよ。

(山里亮太)ああー。

(町山智浩)特に、メロディーは書けても、強さとか曲の感じとか、細かいオーケストレーションした後の結果をCDとか演奏で実際に聞いて、これが自分の作品だっていう風に、どのように認識できるのか、確認できるのかっていう点ですよね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)だからこの、耳が聞こえない・作曲はできるっていうのは、非常に微妙に矛盾するんですよ。この2つって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ねえ。だから「細かいことはわからない」って言ってるんだったら、じゃあ、どうして確認ができるんだと。細かい音の響きとか。だからここがすごく難しいところで、ジリジリするところなんですけど。これ、見ていてもね。はい。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)で、そうやって2人きりで閉じこもって暮らしていてもね、いろんな訪問客が来ます。この映画を撮っている間。で、テレビ局が来ます。民放なんですけど、「大晦日の特番に出てください。佐村河内さんの言いたいことを全部言ってくれていいんです」と言うんですけど、その出演者を見て、「これ、おぎやはぎじゃないか」って言うんですね。佐村河内さんが。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)「これ、お笑いだろ? これ、僕を笑いものにしようっていうんじゃないですか? それだったら僕は出たくないです」って言うんですね。すると、テレビ局の方が、「いや、そんなことないです。いじる気持ちは全くありません」って言うんですよ。でもやっぱり断っちゃうんですね。心配だから。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、大晦日にその番組を見ると、佐村河内さんの代わりに新垣さんが出てるんですよ。で、思いっきりいじられまくってるんですよ(笑)。コントをやらされたりしてるんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)大久保さんに壁ドンをやらされたりしてるんですよ。拷問のような。で、「なんだ、嘘つきじゃねえか」ってことですね。テレビ局ね。

(山里亮太)ああー、なるほど!

(町山智浩)これ、だからそれを見るのが複雑な顔をして見るんですよ。佐村河内さんが。

(赤江珠緒)あ、それを見てるんですか。その番組を。

(町山智浩)見てるですよ。見せるんですよ。これを、森監督が意地悪だから。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)するとね、「俺、これ出なくてよかったのか、出た方がよかったのか、よくわかんないんだ」って顔をしてるんですけど(笑)。思いっきり、ゴールデンボンバーかなんかとコントをやらされたりしてましたね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)あとね、「新垣さんにも取材しよう」っていうことで、森達也さんが新垣さんを追っかけるんですよ。いろんなところに。ところが新垣さん、インタビューに答えないんですね。

(赤江珠緒)ええっ、そうなんですか?

(町山智浩)はい。あとね、神山典士さんっていう週刊文春で記事を最初に書いたノンフィクション作家の人にも、この森監督は取材を申し込むんですが。そちらも断られちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これを見ると新垣さんとか神山典士さんの方にも、なんか取材をされたらマズいことがあるのかな?っていう気になっちゃうんですね。見ると。でもこれ、僕ね、神山さん知り合いなんで、直接メールで聞きました。

(カンニング竹山)うんうん。

(町山智浩)「どうして取材を断ったのか?」と聞いたら、佐村河内さんは片腕の少女のバイオリニストのみっくんっていう子がいて。その子のために曲を書いたりとか、あと東日本大地震で被災して、お母さんを亡くした少女の真奈美ちゃんのために曲を書くとか。NHKでドキュメンタリーをやっていましたけども。

(赤江珠緒)ありましたね。

(町山智浩)「そういう形で、少女を騙したじゃないか。世間に対しては別に謝罪をしなくてもいいんだけど、あの少女たちに対して直接謝罪をするべきなんじゃないか」という風に神山さんは言っていて。「それがなされない限り、取材には協力できない」っていう風に僕には言ってくれたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)っていうのは、この映画を見ると、神山さんの言っているのはたしかにその部分があって。2人の少女っていうのは非常に重要だったですよね。その部分は出てこないんですよ。このドキュメンタリーに。だからそこはちょっとね、論争を呼んでいるところなんですよ。

(赤江珠緒)でも、佐村河内さんはどうして今回、ドキュメンタリー映画に出ようって思われたんですか?

(町山智浩)これはやっぱりね、森さんを信じたんですね。で、佐村河内さんの奥さんが途中で、「信じています」と森監督のことを言うんですね。それで、「同じ船に乗っているという気持ちです」っていう風に言うんですよ。やっぱり、こういうのは信頼を得ないと撮影ができないのでね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それでね、見ていくといろんなことがあったわけですけども。この奥さんっていうのが非常に謎の人ですよね。で、一緒に暮らしていて、ああいう事件があって。奥さんはどこまで知っていたのか?ってことがあるんですよね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)いろんな憶測を呼んでいますね。「奥さんが共犯だった」とかね。要するに、手話やっているわけですから。実際に、その場で。で、「一緒に暮らしているんだから、耳が聞こえる・聞こえないはわかるだろう。その中で」って。それで、いろんな憶測を呼んでいるんで。いままで注目されていなかった奥さんにも目が行くんですよ。この作品では。

(カンニング竹山)面白いな。

(町山智浩)あと、これ竹山さんが新垣さんにお聞きになったそうですけど。「新垣さんと佐村河内さんは同性愛の関係だったんじゃないですか?」って、新垣さんに直接聞いてますよね。竹山さん。

(カンニング竹山)聞きました。

(赤江珠緒)へー!

佐村河内さんと新垣さんのBL疑惑

(町山智浩)ねえ。これね、いろいろ言われていたんです。当時から。要するに、「18年間もお金もほとんどもらえない、名前も出ないまま、新垣さんが佐村河内さんのゴーストライターをやっていたのは愛があったからではないのか?」って。で、いわゆる腐った女性の方々はですね、ネットとかでいろいろ妄想していたんですよ。だから「実はガッキー攻めでゴッチ受け」とかね。

(赤江・竹山・山里)(笑)

(町山智浩)「守は実は耳が感じやすいんだな」とかね。なんか、いろんなのが飛び交っていたんですが。

(山里亮太)そんなもんが飛び交って?(笑)。

(町山智浩)でも、聞いたら「違う」っていうことで否定されたんですよね。

(カンニング竹山)そう。言われました。「絶対に違います」って。

(町山智浩)新垣さんは女性がお好きということなんですね。

(カンニング竹山)はい。

(町山智浩)テリー伊藤さんも聞いていて。テリー伊藤さんに聞かれた時に新垣さんは、すごく残念そうに、「佐村河内さんは女性が好きなんですよね」って言ってますね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、この映画を見ると、それは間違いないですね。

(カンニング竹山)ああ、「女性が好きだ」っていうのがね。奥さんもいらっしゃるし。

(町山智浩)そう。佐村河内さんとこの奥さんの間には、本当に見ていると、すごい細かいところで愛が感じられるんですよ。で、そこで泣いているお客さんもいますね。「これは愛の映画なんだ」と言っている人もいます。だから、いろんな見方ができる映画なんですけども。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、問題はね、この映画ね、「ラスト12分は誰にも話さないでください。クライマックスの12分間については、絶対に誰にも話さないでください」っていう風に宣伝されているんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)で、宣伝されているだけじゃなくて、試写を見せてもらう条件がそれなんですよ。

(カンニング竹山)ああ、そういうことか。

ラスト12分は誰にも話さないでください

(町山智浩)絶対に言っちゃいけないんですよ。でもね、それを聞いてね、僕ね、別のドキュメンタリー映画で、タイトルも同じ『フェイク(FAKE)』っていう映画のことを思い出したんですよ。そっちも「ラストは絶対に言わないでください」っていう宣伝文句だったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)その映画はね、『市民ケーン』っていう映画史上最高傑作って言われている映画を監督したオーソン・ウェルズの作品で。1974年に作られた『フェイク』っていうタイトルの映画があるんですよ。全く同じタイトルです。で、その映画はね、まず映画の頭に「これから1時間、この映画で描かれることは全て真実です」っていう字幕が出るんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それからですね、マティスとかモディリアーニとかピカソとかの絵の贋作をしていたエルミアという贋作作家のドキュメンタリーが始まるんですよ。で、そのエルミアが贋作作家でどういう人間だっていうのをルポして取材している、ノンフィクション作家のクリフォード・アーヴィングっていう人も出てくるんですね。その映画に。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)で、その記録映画になっているんですよ。ところが、途中からおかしな話になってくるんですよ。そのクリフォード・アーヴィング自身が、ハワード・ヒューズという世間から隠れていた億万長者がいるんですけど。その人に取材して伝記を書いて出版社に売り込んだら、それが嘘っぱちだったって、有罪になっちゃうんですよ。

(山里亮太)うん?

(町山智浩)つまり、マティスとかの絵を贋作で描いていた画家を取材して、それを暴く本を書いたノンフィクション作家自身が贋作作家だったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(カンニング竹山)すげー!

(町山智浩)っていう展開になるんですよ。その『フェイク』っていう映画は。で、「ええっ?」って思っていると、最後の20分ぐらいね、全く驚くべきような展開になるんですよ。「えっ、本当?」みたいな展開が、さらに待っているんですよ。ところがですね、この映画、トリックがありまして。この映画ね、全体で1時間半ぐらいあるんです。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)いちばん最初の字幕には、何て出たか? 「これから1時間、描かれるのは全て真実です」って出てくるんですよ。要は、映画は1時間半、あるんですよ。

(カンニング竹山)残りの時間だ。

(町山智浩)残り20分ぐらいが、とんでもないものなんですよ。まさにフェイクなんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、しかもこの映画、「オーソン・ウェルズが監督していて、現場で撮影に関わっている」っていうことになっていて。贋作作家とかノンフィクション作家がパーティーをやっていたりするところにオーソン・ウェルズ自身も映ったりしているんですが。これも、インチキなんです。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)この映画は、別のドキュメンタリー作家が撮影したフィルムをもらったオーソン・ウェルズが、自分で編集し直して、自分で撮り足したフィルムを中に紛れ込ませているものなんですよ。

(赤江・竹山・山里)へー!

(町山智浩)つまり、記録した作家、撮影した人がいたんですけど、まとめることができないんで、まとめを全部オーソン・ウェルズに任せたら、オーソン・ウェルズはその素材を使って全く違うストーリーを彼が語っちゃったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからこれは、常に森達也監督はいろんな本で言っていることなんですが。「ドキュメンタリーは嘘をつく」っていうことを何度も森達也監督は言っているんですね。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)つまり、全く同じ映像素材であっても、映画というのは編集によって全く違うストーリーを作ることができるんです。だから、「それはどうしても編集を経る上で、その作った側の主観が入り込むのは防げないんだ。だから、ドキュメンタリーっていうのは一種の嘘なんだ」って言ってるんですよ。森監督は、いつも。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)で、もうひとつは、「カメラを向けて『撮りますよ』っていうことを相手に認識させたら、その段階で彼は絶対に演じるし。カメラ向けのことしか言わないだろう」と。

(山里亮太)たしかに。

(町山智浩)そう。だからこの佐村河内さんも演じているかどうか、わからないわけですよ。もう、カメラを向けた段階で一種のヤラセなんだってことを森監督は言ってるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、この映画。『FAKE』の森達也版のクライマックス。ラスト20分。「絶対に言うな」って言われて、「言わない」ってことを条件に試写を見せてもらったんですけど。ちょっと、言いますよ。

(赤江・山里・竹山)えっ、えっ!?

(カンニング竹山)いや、ダメでしょ?

(町山智浩)スペシャルウィークだし。

(赤江珠緒)おう!

(町山智浩)これね、このラスト20分ね、ヤラセですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)森監督は、佐村河内さんに、あることをやらせるんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)まあこれは、映画をご覧になって。

(カンニング竹山)逆に、謎が謎を……だな。

(町山智浩)謎ですけど。ひとつヒントを言いますと、クライマックスは森監督の靴下を履いた足がもう目に焼きついて離れないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(カンニング竹山)ええっ? なんだ、それ?

(赤江珠緒)靴下?

(町山智浩)こんなにね、靴下を履いた足が目に焼きついたのはね、『グレートハンティング』以来でしたね。『グレートハンティング』でライオンに食い殺される人の、靴下を履いた足が出てきて……

(カンニング竹山)ああー! はいはいはい。

(町山智浩)異常にあの靴下を履いた足が、目に焼きついて離れないじゃないですか。

(山里亮太)それぐらいインパクトのある登場の仕方をするってこと?

(カンニング竹山)じゃあ、なに? どうなるの?

(町山智浩)っていうことですね。まあ、ご覧になってから。6月4日にご覧になっていただきたいっていうことですけども。

(赤江珠緒)ええー!

(カンニング竹山)全くわからなかった。なんだ?

(町山智浩)でもね、これ森監督はなんでこういうのを撮ろうとしたか?っていうと、彼はもともとスプーン曲げの清田くんとか、オウム真理教とか。世間からバッシングされているものを、そっちの内側に入っていって、そっち側について撮るっていうのをやって、世間に対するアンチテーゼというのをし続けている人ですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、みんなが同じ方向に向いて、みんなが一斉にものを叩くっていうのは、これはもうとんでもなく恐ろしいことだっていうことで、その部分で一貫しているんですよ。森監督は。だから、これを見ると、これはひとつのメタファーであって。佐村河内事件だけについて言ってるんじゃなくて。そういうもの全部なんだっていう風に森監督は言っていますね。

(赤江珠緒)へー!

森達也監督が描こうとしたもの

(町山智浩)だから最近、すごいじゃないですか。小保方さんがそうでしょ? ベッキーがそうでしょ? ショーンK(ホラッチョ)がそうでしょ? 乙武くんもそうでしょ?

(赤江・山里・竹山)うん。

(町山智浩)いま、もう一斉に叩いているじゃないですか。もう、みんな。でも、よく考えるとこの人たちってみんな、その前は異常なほど、みんな一斉にチヤホヤ持ち上げていたんですよ。

(カンニング竹山)はいはいはい。

(町山智浩)で、逆にあの時は、彼らを悪く言うことは全く許されない状態だったんですよ。はっきり言って。で、乙武くんなんて、それを不安に思っていて。ずっと前から、「俺は女好きだ、女好きだ」ってずっと言っていたんですよね。

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(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、彼がいくら「女好きだ」って言っても、誰もそれを聞こうとしないんですよ。ねえ。で、「ガッカリした」とか「裏切られた」とか言うんですけど。彼は言っていたのに、あんたたちが聞かなかったんだろ!ってことですよね?

(カンニング竹山)はいはい。

(町山智浩)あと、清原の覚醒剤とかも、みんな「ガッカリした」とか言うじゃないですか。ガッカリしてねえだろ? お前ら、「絶対にやってる」と思っていただろ?

(竹山・山里)(笑)

(町山智浩)期待通りにやってくれたんだから、「ありがとう」って伝えろよ、いきものがかり!って思いましたよ。本当に(笑)。

(赤江珠緒)いやいやいや(笑)。

(山里亮太)いきものがかりの、あの『ありがとう』の歌は絶対に合わないです(笑)。

(町山智浩)ねえ。でも、いまさ、お笑い芸人の人もワイドショーの司会をやるようになっちゃっているじゃない? すると彼ら、良識の側につくんだよね。で、お笑い芸人なのに、乙武くんとかベッキーを叩いてるじゃないですか。「不倫はいけない」とか。

(赤江・山里・竹山)うん。

(町山智浩)あれも恐ろしいですね。お笑いって、お笑いに限らないですけど、芸術とか映画とか文学っていうのは、人間のそのズルくてスケベで酒飲みで嘘つきでダメな、不完全な部分の「業」を愛おしむものですよね。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)それがね、そんな「女遊びはダメだ」とかね、そっち側に立っちゃダメでしょ? お笑いの人が。

(山里亮太)そうなんですよ。本当。

(町山智浩)業を楽しむ吉田豪のようなものじゃないとダメなんですよ。

(山里亮太)そう(笑)。豪さんは楽しむからなー!

(町山智浩)ねえ。だからなんかね、みんなおかしいんですよ。で、みんな「騙された!」って怒る前に、ワイワイワイワイみんなで持ち上げてね。で、自分が騙されたこと自体を反省しないから、それを繰り返すの。延々と。

(カンニング竹山)はいはい。

(町山智浩)で、すぐに忘れちゃうから。流行語とかお笑いのネタと同じで、次から次に感動とかを消費してるだけなんですよね。で、すぐに「信じる」って言うけど、すぐに怒るじゃないか。でも、J-POPの歌詞とかを聞いていると、「信じる心がどうしたこうした」って歌ばっかりですよ。いま、歌詞。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)やたらと軽々しく信じすぎるんですよ。ホイホイ信じて、プンプン怒る。でも、それはやっぱりたぶん、本当は信じていないんですよ。松本さんだけですよ。正しいことを言ったのは。松っちゃんだけですよ。「不祥事を起こした人を世間がなかなか許さないのは、本当は怒っていないからだ」って言っているんですね。彼は。

(山里亮太)そうですね。おっしゃってました。『ワイドナショー』で。

(町山智浩)そう。本当に怒ってなくて、本当に信じてないから、誰でもすぐ信じるし、すぐ怒るし。実際は、佐村河内にしても、誰も何の被害にもあっていないじゃないですか。

(カンニング竹山)そうなんですよ。

(町山智浩)そう。で、「感動をもらいました」「元気をもらいました」「勇気をもらいました」とか、やたらと言うんですよね。で、違ったら、「あの感動を返せ!」とか言うんですけど。タダでもらっておいて、なに言ってんだ、バカ野郎!って思いますね。

(カンニング竹山)わかります。わかります。

(赤江珠緒)なんかどこに向かって、町山さんが。ねえ。あれですけど。吠えてるのか?っていうぐらい。ねえ。アンチテーゼに関して……

(町山智浩)いろんなことを考えさせる映画で。僕と全く違う感想を持つかもしれませんが、それが森達也監督の『FAKE』っていう映画です。

(赤江珠緒)そうか。そこまでいろんなことを考えさせられる映画になっているんですね。

(カンニング竹山)見たい!

(山里亮太)本当にそう。そこはいま、直面しているわ。いろいろ……

(赤江珠緒)うん。ただただ、「この騒動はどうなっていたんだ」みたいな、ちょっと興味本位でしたけれども。そうか。そういうことまで含まれている映画だと。

(山里亮太)そしてラストに、ねえ。町山さんの言っていたあれが何なのか? 靴下。

(町山智浩)ぜひ、ご覧になっていただきたいと思います。

(赤江珠緒)はい。わかりました。今日はゴーストライター騒動の佐村河内氏を追ったドキュメンタリー映画『FAKE』のお話でした。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした!

赤江珠緒さんと町山智浩さんの感想トーク

試写で映画を見た赤江珠緒さんが町山智浩さんと感想トークをしていました。

(赤江珠緒)町山さん、『FAKE』を私も見させていただきました。

(町山智浩)あっ、なんか言われませんでした?

(赤江珠緒)えっ、なにを? 「ラストをしゃべるな」って?

(町山智浩)はいはい(笑)。

(赤江珠緒)言われましたよ。町山さんの放送を聞いてくださっていた映画関係者の方が「めちゃくちゃハラハラしました」って。

(町山智浩)宣伝部の人とかですか?

(赤江珠緒)はいはい。言われましたよ。

(町山智浩)怒ってました?

(赤江珠緒)大丈夫でした、はい(笑)。

(町山智浩)大丈夫でした? ああ、本当に(笑)。よかったです。

(赤江珠緒)いや、でも面白かったですね。なんかね、なんでだろうか。だんだん面白くなってきちゃって。もう佐村河内さんの家で来客が来るたびにケーキが出ること自体が面白くなってきて(笑)。

(町山智浩)(笑)。豆乳を飲んだりね。やたらと。

(赤江珠緒)そうそうそう。なんかやっぱり、不思議な映画で面白い。

(町山智浩)ねえ。あの、靴下もわかったでしょ? 見て。

(赤江珠緒)わかりました。

(山里亮太)ちょちょちょ……町山さん、僕、来週見に行くんです。試写で。

(町山智浩)ああ、そうなんですか?

(山里亮太)危ない危ない。なんかいま、すごいことを聞いてしまいそうで怖い。

(赤江珠緒)いやいや、全然。大丈夫、大丈夫。

(町山智浩)大丈夫ですよ。大丈夫ですよ。

(赤江珠緒)我々、そんな核心をついてないです。

(町山智浩)はい。バラしてません(笑)。

<書き起こしおわり>

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