町山智浩さんがTBSラジオ『荻上チキSession22』に電話出演。2016年アメリカ大統領選挙のニューハンプシャー州での予備選挙の結果について話していました。
(荻上チキ)それではここで、TBSラジオ『たまむすび』でお馴染みです。アメリカ在住の映画評論家、町山智浩さんに伺います。町山さん、よろしくお願いします。
(町山智浩)はい。町山です。よろしくお願いします。
(荻上チキ)ご無沙汰しております。よろしくお願いします。
(南部広美)よろしくお願いします。
(町山智浩)どうも、ご無沙汰しております。はい。
(荻上チキ)さて、まず今回のニューハンプシャーでの予備選挙なんですけども。この結果、町山さんはどうご覧になっていますか?
大変な事態になっている
(町山智浩)もういま、大変な事態にアメリカはなっていると思いますね。日本では、ほとんど報道されてないですが、いちばんの問題は共和党でトップを取った、今回大統領候補になりそうなドナルド・トランプは共和党の人ではないし、民主党でヒラリーを抑えて民主党の大統領候補になりそうなバーニー・サンダースさんは民主党の人ではないんですね。
(荻上チキ)ほう。それぞれ違うんですか?
(町山智浩)サンダースさんはもともと無所属でずっと議員をやってられた方なんですよ。で、いつも民主党の推薦で出ているという、民主党を議会とかでは一応支持してはいるんですが、彼自身は民主党に所属していなかたんです。ずっと。
(荻上チキ)はい。
(町山智浩)彼自身は完全な一匹狼で。『自分自身は社会主義者である』と言ってました。
(荻上チキ)そんな人が勝っちゃうということになるわけですね。勢いがついているということになっちゃうわけですよね。
(町山智浩)勝っちゃったわけですね。で、ドナルド・トランプさんは今回、大統領選に出るために、初めて共和党に登録した人で。それまでは、特に90年代までは民主党支持で。ビル・クリントンのすごく大口の寄付者でしたね。
(荻上チキ)あの、町山さんが解説する『たまむすび』を聞いてましたけども。トランプさんはもともと共和党の政治的なスタンスとは随分違うような動きをしていたみたいですね?
(町山智浩)あ、もともと共和党の政治的なスタンスだといちばん大きいのは銃に関することと、人工中絶なんですね。銃に対しては全ての規制を撤廃すると。で、人工中絶に関しては、完全に違法化すると。いま現在は合法なんですが、それを犯罪とするというのが共和党の目標だったんですけど。それに対して、90年代ずっとドナルド・トランプは反対してたんですよ。つまり、民主党と同じ立場を取っていたんですよ。
(荻上チキ)はいはい。
(町山智浩)それが急にコロッと変わっているわけですよ。今回。選挙に出る時に。
(荻上チキ)不思議ですね。そんなトランプさんがいま人気ということで。今回のトランプさんの勝利というのは予想通りということになるんですか?
(町山智浩)ええと、ニューハンプシャーでは予想通りなんですね。ずっと支持率がニューハンプシャーではダントツだったんですよ。ずっと。で、特に今回、ニューハンプシャーで出口調査みたいなのが行われたんですが。そのイスラム系の移民に対して、特にシリアから入ってくるかもしれないっていうことなんですね。シリア難民が。
(荻上チキ)はい。
(町山智浩)そういったものに対して反対するか?受け入れないか?というアンケートを取ったら、ドナルド・トランプに入れたっていうわけじゃなくて、共和党の今回の予備選に参加した人の60%以上が『移民を受け入れない』という方を選んでるぐらい、今回結構過激な人が共和党の方に投票してますね。
(荻上チキ)うーん。なるほど。そうしたような声をトランプ氏が一定数集めたんじゃないか?ということが予想できるわけですよね。
(町山智浩)はい。そうですね。あと、ただニューハンプシャーで2番目に票を集めているジョン・ケーシックっていう人が泡沫候補なんですね。もう本当に、全くお金も集まっていない人なんですけど。この人が二位につけて、他の共和党の候補たちと全く差がない状態っていうのは、これはかなり共和党の内部の人たちは危惧してますね。状況を。
(荻上チキ)ほう。危惧?
(町山智浩)というのは、トランプ以外、ほとんど泡沫状態ってことですよ。現在。
(荻上チキ)横並びで泡沫ってことですよね?
(町山智浩)横並びになっちゃっているってことですね。だから相当、これはヤバいぞ!ってことになっていますね。共和党の内部では。
(荻上チキ)共和党としてはトランプさんに勝たれちゃうと困るということになるわけですか?
(町山智浩)いや、もちろん。だって党の内部の人ではないですから。要するに、社員じゃない人が社長になろうとしてるんですよ。
(荻上チキ)はいはい(笑)。わかりやすいですね。
(町山智浩)もう、要するにこれは具体的にアメリカでよく言われているのは『敵対的買収に近い』と。
(荻上チキ)ほう!
(町山智浩)で、敵対的買収っていうのは株を買い占めるわけですけど。株じゃなくて買い占めてるのは共和党内の右派の票を買い占めてる形なんだと。金じゃなくて、人気でね。で、内部から乗っ取られると。
(荻上チキ)うん。でも勝ったらどうなるかわからなぞっていうことですよね?
(町山智浩)わからないわけですよね。だって、共和党内部のいろんな政治家の言うことは全く聞かないわけですよね。彼がもし政権を取った場合には。
(荻上チキ)うん、うん。
(町山智浩)だから、トランプ政権になった場合は、共和党からトランプが政権を取っても、共和党の政権ではないわけですよ。それは。
(荻上チキ)うん。『トランプの』としか言いようがない政権になる。
(町山智浩)トランプ政権であるけども、共和党政権ではなくなるわけなんで。共和党としては非常に困るということで、何が何でも潰す!ってことでもって、1年間やってきたんですけど。潰せていない状態ですね。
(荻上チキ)うん。やっぱりその過激な発言によって民意が煽られるのも怖いですけども。実際に通ったとして、どんな大統領になるのか?というのは読めないですよね。
(町山智浩)全くわからないですね。彼のその非常に保守的な過激な、はっきり言うとすごく右寄りの主張っていうのも、本気で言ってるのかどうかが非常に怪しいんですよ。
(荻上チキ)はあ、はあ。
(町山智浩)要するに、いままで言ってなかったことですからね。特に人工中絶とか銃に関しては。特に銃なんかに関しては、トランプは自分の持っている不動産・・・彼は不動産王ですから、いろんなリゾート施設やホテルとか、いろんなものを持っているわけですけど。そこは完全に銃の持ち込み禁止なんですよ。
(荻上チキ)ほう!
(町山智浩)はい。ずーっとそうしてきたのに、急に『銃はいいぞ!』って言ったりして、もう非常に怪しいんですよ。言ってることが。
(荻上チキ)ちなみに、持っている不動産では持ち込みOKになったりしたんですか?
(町山智浩)まだなっていないですね。
(荻上チキ)あ、なってないですか?
(町山智浩)ならないですよ。だって、彼の不動産っていうのはものすごい高級な不動産なんですよ。コンドミニアムでもホテルでも、何でもそうだけど。ものすごく高いんですね。金ピカで。そこに『銃を持っていい』っていう風になったら、そこに住みたいと思う人、いないですよ。
(荻上チキ)ああ、資産価値が下がりますよね。
(町山智浩)資産価値が下がっちゃいますよ。だから、言ってることは非常に怪しいんですよね。
(荻上チキ)本音がわからないということですね。このニューハンプシャーの予備選挙なんですけども。メディアの報道では、どういう風に取り上げられていますか?
驚きのニューハンプシャー州予備選の結果
(町山智浩)メディアの報道では、ニューハンプシャーっていう州はですね、なぜ、この予備選挙の州に選ばれているか?っていうと、非常にどっちかの党に偏っていないって言われていたんですよ。で、インディペンデント(独立)っていうか、無党派の州で。どっちかにいつも票が集まる州っていうのが、たとえば共和党に票が集まる州は『赤い州』。民主党に票が集まる州は『青い州』っていう風に言われていたんですけど。
(荻上チキ)Red StateとBlue State。はい。
(町山智浩)それがなくて、いつも中間で揺れ動いていると言われていたんですけども。今回は、真っ二つに分かれて、ものすごい右寄りのトランプと、ものすごい左寄りのサンダースに集まったんで、どうしたんだ!?っていう風にちょっと驚いてますね。みんな。
(荻上チキ)うん。これはニューハンプシャーならではの結果ということになるんでしょうか?
(町山智浩)ニューハンプシャーだったら中道が勝つわけですよ。真ん中辺にいたわけですから。いままで。だから、ヒラリーに票が集まるだろうと思われたわけですね。だから今回、テッド・クルーズというすごいキリスト教福音派の、キリスト教原理主義の右派の共和党の候補がアイオワで勝った時は、みんなそれほど驚かなかったんですね。
(荻上チキ)はいはい。
(町山智浩)アイオワは非常の保守的で、キリスト教福音派が多いところなんですよ。で、だから彼は負けてトランプが勝つだろうと言われてたんですけど、ヒラリーがすごくひどい負け方をしたので。ヒラリーは中道ですから。ニューハンプシャーでは票を集めると思われていたんで、結構みんなびっくりしているという状態ですね。
(荻上チキ)はい。となると今後の戦いに対する影響というのは読めないということになるのでしょうか?
(町山智浩)今後の戦いに対する影響はすごく大きいと思います。それぐらい、アメリカが真っ二つに分かれているってことがこれでかなりはっきりわかったわけですよ。
(荻上チキ)はいはい。
(町山智浩)それは具体的には格差の問題がひどくて。トランプに票を入れている人たちはやはりあの、低所得の人なんですね。低所得で低学歴で、非常にいま、アメリカで苦しんでいる。職を中国とかアメリカ以外の国に奪われている人たちですね。ブルーカラーの人たちです。
(荻上チキ)うん。
(町山智浩)で、彼らの不満が非常にあるんで、トランプに票が集まっているわけですけども。高学歴で低所得の人っていうのがいるわけですよ。現在は。昔はいなかったんですよ。
(荻上チキ)ええ、ええ。
高学歴なのに低所得な人々
(町山智浩)高学歴で低所得の人たちっていうのは、『ミレニアル(Millennials)』って言われている若い人たちですよ。30才以下の人たちです。
(荻上チキ)はいはいはい。
(町山智浩)彼らは2008年の金融危機から、すごく就職に苦しんでいるんですよ。で、いまは就職は良くなったんですけど。オバマさんは失業率を就任してからずーっと減らしていますから。ただ、彼らはものすごい借金を抱えているんですよ。
(荻上チキ)うーん。なるほど。
(町山智浩)大学の学資が異常に高くなって、平均で350万円ぐらい。400万円ぐらいの借金ですね。彼ら。学費をローンしてるんで。
(荻上チキ)日本の奨学金みたい。
(町山智浩)で、いい大学に行った人たちは1千万近い借金を抱えているんですよ。
(荻上チキ)1千万!?
(南部広美)そんなにですか!?うわー・・・
(町山智浩)いい大学に行った人たちはね。で、どうしようもないし、家族を2人、大学に行かせられないんですよ。この学費の高さだと。サンダースが支持を得ている最大の理由は、『学費をタダにする』って言ったことですよ。
(荻上・南部)ああー!
(町山智浩)『公立大学の学費をタダにする』って言ったんで、学生が殺到してるんですよ。で、僕もサンダースさんの演説に行ったんですけど。とにかく若い人が多くて。もう熱狂的でしたね。それで、ずっとかかっている音楽がトレイシー・チャップマンの『Talkin’ bout a Revolution(革命について話そうよ)』っていう歌がガンガンにかかっているんですよ。
(荻上チキ)ほー!じゃあ、『いまから変えて行こうよ!』っていうような、そうした気概が若い高学歴の低所得者層を中心に響いているということになるわけですね?
(町山智浩)響いていますね。学生たちに。それで、まあヒラリーは現状維持派なんですよ。で、あとヒラリーと共和党のトランプ以外の候補の共通点は、ほとんど全員がウォール街とか石油会社からお金をもらっているということなんですよ。
(荻上チキ)うーん!ふんふん。
(町山智浩)で、それをしないっていうのがトランプとサンダースなんですよ。
(荻上チキ)あ、既得権益打破っていうことにつながっていくわけですか?
(町山智浩)はっきり言ってそうです。『エスタブリッシュメント(Establishment)』って言うんですけど。既得権益者であるということを徹底的に攻撃してるんですよ。2人は。
(荻上チキ)まあでもトランプさん、金持ちですからね(笑)。
(町山智浩)トランプは自分で金出してますから。
(荻上チキ)ああ、なるほど。ちなみに町山さん。もっともっとお話を聞きたいんですけども。お時間が来てしまいましたが、来週水曜日のスペシャルウィークに町山さん、ご出演をまたいただきますので。その時に、残りの話も含めてたっぷりと伺わせてください。
(南部広美)よろしくお願いします。
(町山智浩)はい。わかりました。
(荻上チキ)よろしくお願いします。ありがとうございました。
(町山智浩)はい。どもでした。
(荻上チキ)アメリカ在住の映画評論家、町山智浩さんにお話を伺いました。町山さんには来週水曜日のスペシャルウィーク。アメリカ大統領選挙がテーマの日に、国際ジャーナリストの小西克哉さんと一緒にご出演いただきますので。より深い分析、長く聞きたいと思います。
<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/36388